家畜
家畜とは飼いならされた動物のことで、英語ではdomestic animal あるいはdomesticated animalといいます。人の管理下で繁殖が行なわれます。哺乳類ではヒツジ、ヤギ、ウシ、スイギュウ、トナカイ、ラクダ、ラマ、アルパカ、ブタ、ウマ、ロバ、イヌ、ネコなど、鳥類ではニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウなどが家畜として飼育されています。昆虫のミツバチやカイコを家畜に含める場合もあります。家畜を繁殖・飼育し、肉やミルク、卵、皮、毛・羽毛、蜂蜜などを得る産業を畜産といいます。ウシやブタなどのように主として畜産物を得るために飼われる家畜は産業動物、イヌやネコなどのようにペットとして飼われる家畜は伴侶動物(コンパニオンアニマル)とよばれています。
食の巻の最後では、各種家畜の分類や家畜化の歴史などについて触れながら、畜産物などについては化学的な視点から説明を加えてみたいと思います。
ウシ科動物の家畜化
家畜のヒツジとヤギはウシやスイギュウと同じウシ科の反芻動物ですが、それぞれ属が異なります。ヒツジはヒツジ属、ヤギはヤギ属、ウシはウシ属、スイギュウはアジアスイギュウ属に属しています。
最終氷期が終わりを迎えた紀元前9,000年頃、トルコや北イラクで小麦を栽培する農耕が始まりました。ヒツジとヤギの家畜化は、それよりやや遅れて紀元前8,700〜8,500年頃に、南東アナトリア(トルコ)のタウルス山脈南麓で始まり、その後、紀元前7,000年頃には西アジアの広い地域に広まったと推測されています。西アジアとその周辺地域の遺跡から出土した陶器に付着していた脂肪酸の安定同位体分析の結果から、ミルクの利用は紀元前7千年紀(紀元前7,000年〜6,001年のミレニアムすなわち1,000年の期間のことです)に行なわれていたと報告されています。ウシの家畜化はヒツジやヤギより遅く、紀元前6,400年頃に西南アジアにおいて始まったといわれています。
ヒツジ
ヒツジは野生種ムフロン(アジアムフロン、ヨーロッパムフロン、ウリアルが含まれます)やアルガリが家畜化されたものと考えられています。家畜化の初期は主に食肉用に利用されていたと思われます。紀元前2,000年頃メソポタミア南部で、カルディア人が刈り取った羊毛で初めて毛織物を作ったといわれています。古代ローマ時代になると、男女とも羊毛で作られたトーガという衣類を着用するようになったことはよく知られています。羊乳はヨーグルトやチーズなどの原料に用いられますが、生乳を飲料用に利用することはほとんどありません。多くの品種のヒツジが作り出されており、毛用種、肉用種、毛肉兼用種、毛皮種に分かれます。毛用種ではスパニッシュ・メリノ種やランブイエ・メリノ種、オーストラリアン・メリノ種など、肉用種ではサウスダウン種やサフォーク種、チェビオット種など、毛肉兼用種ではコリデール種など、毛皮種ではロマノフ種などが代表的な品種です。世界で約12億頭(2014年)のヒツジが飼育されています。
羊肉はヒツジの年齢により名称が異なり、1歳未満をラム、1歳から2歳までをホゲット、2歳以上をマトンとよびます。ラムはマトンと比べてヒツジ独特の臭みが少なく、肉質も柔らかいので癖がないのが特徴です。マトンはヒツジ独特の風味が強く、肉の味を楽しむにはこちらがお勧めです。日本ではホゲットはマトンに含まれています。北海道ではジンギスカン鍋料理で羊肉が楽しまれています。羊肉には脂肪酸を細胞内のミトコンドリアという細胞小器官で酸化して燃焼する際に必要なカルニチンという物質が、牛肉や豚肉などより数倍多く含まれていますので、ジンギスカンダイエットという言葉が生まれたほどです。しかしながら羊肉には脂肪分が多く含まれていますので、食べ過ぎには気を付けましょう。
羊毛にはウールワックスがたくさん付着しています。これは皮脂腺から分泌されるロウで、体毛に防水性をもたせています。羊毛から抽出されるロウはラノリンとよばれます。ラノリンlanolinはラテン語のlana(羊毛のことです)とoleum(油のことです)に由来するそうです。「クジラ」のところで説明したように、ロウは長鎖脂肪酸と長鎖アルコールのエステルのことです。ラノリンを構成する長鎖脂肪酸はラノリン酸とよばれ200種類ほどあり、長鎖アルコールはラノリンアルコールとよばれ100種類ほどあります。従って、8,000〜20,000種類くらいのラノリンエステルが存在すると推定されています。ラノリンは化粧品やスキンケア製品などの原料として利用されています。
ヤギ
ヤギは野生種パサン(別名ベゾアール)を家畜化したものと考えられています。家畜化の当初の目的は食料としての肉を獲得することでしたが、後にミルクも利用されるようになりました。ヤギは人類が最初に搾乳を行なった動物と考えられており、チーズやバターなどの乳製品も山羊乳から発明されたといわれています。南東アナトリアのチャヨニュ遺跡から紀元前6千年紀後半期にチーズ製造に用いられたと考えられる土器が出土しています。ヤギには多くの品種があり、乳用種、肉用種、毛用種、兼用種に分かれます。乳用種ではザーネン種やトッゲンブルグ種、アルパイン種など、肉用種ではボア種など、毛用種ではカシミヤ種やアンゴラ種など、兼用種ではブラック・ベンガル種などがよく知られています。特に毛用種のカシミヤ種とアンゴラ種は、それぞれカシミヤ織とモヘア織の原料に使われる高級な毛を産出することで有名です。世界で約10億頭(2014年)のヤギが飼育されています。
ウシ族
ウシの仲間はウシ族とよばれ、これにはウシ属やアジアスイギュウ属、アフリカスイギュウ属、バイソン属が含まれます。
いわゆるウシはオーロックスという野生種から家畜化されました。かつてオーロックスはヨーロッパや北アフリカ、アジアに広く生息していましたが、1627年に絶滅したといわれています。ウシは世界で約15億頭(2014年)が飼育されており、人類にとって肉およびミルクという非常に重要な食料供給源となっています。多様な品種が作られており、黒毛和種や褐毛和種、ヘレフォード種、アバディーン・アンガス種などは肉用種、ホルスタイン種やジャージー種、ガーンジー種、エアシャー種などは乳用種です。
家畜のウシと同じウシ属にはヤクやガウル(別名インドヤギュウ)、バンテンが含まれます。ヤクはインド北西部や中国チベット自治区、パキスタン北東部などの標高3,000〜5,000 mの高山地帯に野生種が生息しています。長い体毛(50〜60 cm)が特徴です。紀元前3,000年頃にチベット高原で家畜化されたといわれています。世界の飼育頭数は約1,400万頭と推定され、そのうち1,300万頭が中国で飼育されています。野生の個体数は激減しており、中国では法律で保護されています。ヤクは荷物運搬用や人の乗用に利用されるほか、ミルク(乳脂肪分は6〜8%と高い)や毛、肉が畜産物として利用されます。
ガウルはインドからインドシナ半島・マレー半島にかけて、海抜2,000 m以下の丘陵地帯の森林や草原に生息する大型の野生牛であり、バンテンはインドシナ半島、マレー半島、ジャワ島、ボルネオ島(カリマンタン島)の開けた乾燥林に生息する野生牛です。ガヤルはガウルを、バリ牛はバンテンをそれぞれ家畜化したものといわれています。
スイギュウにはアジアスイギュウ(アジアスイギュウ属)とアフリカスイギュウ(アフリカスイギュウ属)がいますが、アジアスイギュウだけが家畜化されました。アジアスイギュウには沼沢型と河川型の2つのタイプがあり、沼沢型は紀元前5,000年頃中国で、河川型は紀元前3,000年頃インドでそれぞれ家畜化されたと考えられています。現在、沼沢型は主に中国や東南アジア諸国に、河川型は主にインドやパキスタン、エジプトに分布し、沼沢型と河川型を合わせて世界で約2億頭(2014年)が飼育されています。日本では唯一沖縄県で1930年代に台湾から導入されたスイギュウが飼育されています。スイギュウは農耕や物資の運搬などに利用されるほか、肉やミルク(乳脂肪分は約8%と高い)、皮、角などの畜産物が利用されています。
バイソンにはアメリカバイソンとヨーロッパバイソンがいます。かつて北アメリカ大陸には6千万頭のアメリカバイソンが生息していたと推定されていますが、ヨーロッパからの移民による乱獲により19世紀末には1,000頭以下に激減し、絶滅の危機に瀕していました。その後保護活動が始まり、現在は約50万頭に回復しています。個人の牧場で飼育されているアメリカバイソンの肉が販売されています。ヨーロッパバイソンは20世紀はじめまでに狩猟により激減し、野生のものは1927年に絶滅してしまいましたが、動物園に飼育されていた50頭程度がかろうじて生き残りました。1951年以降ヨーロッパバイソンを野生に再導入する活動が始まり、現在ヨーロッパ各国で約5,000頭が生息するまでになっています。
反芻動物
ここで反芻動物について簡単に説明したいと思います。反芻動物とは鯨偶蹄目に属するウシ科、シカ科、キリン科、ラクダ科などの草食動物で、胃が3つあるいは4つあります。ウシ科、シカ科、キリン科は4つの胃をもちますが、ラクダ科の胃は3つです。ウシ、シカ、キリンなどの第一胃(ルーメンともいいます)から第三胃(ラクダでは第一胃と第二胃)は食道が変化したもので、第四胃(ラクダでは第三胃)が本来の胃に相当します。草や木の葉などを咀嚼(ソシャク)・嚥下(エンカ)して、第一胃に一旦貯蔵した後、それを再び口に戻して咀嚼し直すことを反芻といいます。教育の現場でも、学校で学んだことを家などでおさらいするときに、「家で反芻してね」などということがあります。
第一胃は複数の胃全体の80%以上の容積を占め、発酵タンクとしての役割を担っています。第一胃には細菌や原虫など様々な微生物がたくさん生息しており、植物繊維のセルロースなどの多糖は、まず微生物が産生するセルラーゼやセロビアーゼなどの酵素により分解されてグルコースなどの単糖になり、さらに微生物により発酵(これを「ルーメン発酵」とよびます)されて酢酸やプロピオン酸、酪酸という揮発性脂肪酸とメタンガスになります。反芻動物はこの揮発性脂肪酸を第一胃から吸収して、エネルギー源として用いたり、脂質や糖質などの生合成に用いたりします。発酵が終了した食物残渣や微生物の死骸(反芻動物の良質なタンパク質源になります)などは第四胃・小腸に送られ、消化吸収されます。
偶蹄類の全てが反芻動物というわけではなく、イノシシ科(イノシシやブタなど)の動物は胃袋が1つであり、反芻はしません。鯨偶蹄目に属するクジラやカバは複数の胃をもちますが、反芻はしません。
家畜と地球温暖化
反芻動物はルーメン発酵でメタンを産生する話をしましたが、メタンは地球温暖化に関与する温室効果ガスの1つです。そこで、あまり知られていない家畜と地球温暖化の関係について紹介します。
温室効果ガスには二酸化炭素CO2やメタンCH4、一酸化二窒素(別名亜酸化窒素)N2Oなどがあります。気象庁で公表されている温室効果ガスの2015年の世界の平均濃度は、二酸化炭素400.0 ppm、メタン1,845 ppb(1.845 ppm)、一酸化二窒素328.0 ppb(0.3280 ppm)となっています(ppmはparts per millionの略で、体積比で100万分の1、ppbはparts per billionの略で10億分の1を表します)。これらの数値を直接比べると、メタンや一酸化二窒素の濃度は二酸化炭素よりかなり低いのですが、環境省総合環境政策局の「温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン Ver.1.0」によると、メタンは二酸化炭素の25倍、一酸化二窒素は298倍も強い温室効果があるといわれていることから、メタンや一酸化二窒素の地球温暖化への寄与率はかなり高いことが分かります。温室効果ガスは一般に負のイメージのみでとらえられていますが、実は現在の地球の人が過ごしやすい温暖な気候は温室効果ガスによりもたらされているのです。もし地球に温室効果ガスが存在しないと地表の平均気温は−19℃くらいとなり、地球は極寒の環境になってしまいますが、温室効果ガスのおかげで地表の平均気温は14℃程度に保たれています。しかしながら、人間の様々な活動により温室効果ガスは急激な上昇を続けており、昨今の世界各地における集中豪雨や異常干ばつなどの異常気象は地球温暖化に第一義的原因があると考えられています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(2014年)によると、世界の平均気温は1880年から2012年の間に0.85℃上昇しています。また、地球温暖化により陸氷(氷床や氷河)が溶けて海に流れ込んだり、海水温の上昇で海水が膨張したりして、世界平均の海面水位は1901年から2010年の間に19 cm上昇したと見積もられています。海面上昇は、実は最終氷期後の地球温暖化で過去にも起こっています。日本では縄文海進とよばれており、紀元前4,000年頃の縄文時代前期に、日本の海水面は現在より5〜10 mほど高かったといわれています(水の巻「縄文海進」を参照してください)。旧約聖書の「ノアの箱舟」は、この時代の海面上昇による大洪水の伝承といわれています。
IPCCの第5次評価報告書では、2010年における温室効果ガスの総排出量に占める割合は、二酸化炭素換算量で表すと、二酸化炭素が約76%、メタンが約16%、一酸化二窒素が約6%となっています。二酸化炭素の発生は化石燃料の燃焼(自動車や飛行機、船舶、列車、火力発電、家庭生活など)、森林破壊や砂漠化による二酸化炭素の吸収源の減少などによります。メタンは湿地(永久凍土、沼地、低湿地など)や水田、天然ガスなどから排出されていますが、毎年発生するメタンの総量の15〜18%が反芻動物のルーメン発酵から発生すると見積もられています。また、家畜の糞尿からは、かなりの量のメタンと一酸化二窒素が発生しています。したがって、畜産業も地球温暖化に大きく関与しているのです。
トナカイ
トナカイはシカ科トナカイ属に属し、アメリカ合衆国アラスカ州、カナダ、グリーンランド(デンマーク王国)、ノルウェー、フィンランド、ロシアなどの北極圏周辺に生息し、北アメリカやグリーンランドではカリブーとよばれています。シカの仲間は雄にだけ角が生えますが、トナカイは雌にも雄よりは小さい角が生えます。ウシ科の動物の角は生涯伸び続けますが、シカ科の動物の角は毎年抜け落ち、生え変わります。余談ですが、日本に生息する特別天然記念物のニホンカモシカはシカという名がついていますが、シカの仲間ではなく、ヤギやヒツジと同じウシ科ヤギ族の仲間で、雌雄共に生涯伸び続ける角があります。
トナカイはユーラシア大陸北部で紀元前1,000年頃に家畜化されましたが、北アメリカ大陸のカリブーは近年まで家畜化されることはありませんでした。世界で約250万頭のトナカイが家畜として飼育されていると推計されています。また、北アメリカには3,000万頭以上のカリブーが生息していると推計されています。トナカイは肉やミルク、毛皮などが利用されるほか、人の乗用や荷物の運搬用にも利用されています。トナカイのミルクの脂肪分は22.5%、タンパク質は10.3%であり、シカのミルク(脂肪分:19.7%、タンパク質:10.4%)と同レベルですが、ウシのミルク(脂肪分:3.7%、タンパク質:3.4%)に比べると非常に高いことが知られています。
ラクダ科動物の進化と家畜化
現存するラクダ科にはラクダ属、ヴィクーニャ属ならびにラマ属がいます。ラクダ科の祖先は約4,500万年前に北アメリカ大陸に現れたと考えられています。その後、北アメリカ大陸で進化・分化し、200〜300万年前にベーリング地峡を通り、ユーラシア大陸に移動したものからラクダ属のヒトコブラクダとフタコブラクダが現れ、約300万年前にパナマ地峡を通り、南アメリカ大陸に移動したものからヴィクーニャ属のヴィクーニャならびにラマ属のグアナコが現れました。北アメリカ大陸に留まったラクダ科の動物は、最終氷期(水の巻「氷期」を参照)が終わる頃に絶滅しました。
ラクダ属のヒトコブラクダとフタコブラクダは異なる種であり、背中にある瘤(コブ)の数も名前のとおり異なります。ヒトコブラクダの野生種はかつて西アジアと東アフリカに生息していたといわれています。ヒトコブラクダの家畜化は紀元前4,000年頃西アジアで行なわれ、その後野生種は絶滅したと考えられています。フタコブラクダは中央アジアに生息していた野生種が紀元前2,500年頃家畜化されたと推測されています。野生のフタコブラクダの個体数は激減し、絶滅危惧種に指定されています。ラクダはインドやパキスタン、西アジア(イラン、サウジアラビアなど)、アフリカ諸国(ソマリア、ケニア、エチオピア、スーダン、チャド、ニジェール、マリ、モーリタニアなど)で主に飼育されており、世界の飼育頭数は1961年に約1,300万頭だったものが2008年には約2,500万頭に増加したと報告されています。ヒトコブラクダとフタコブラクダの割合は約9:1といわれています。ラクダは人の騎乗や物資の運搬などのほか、肉やミルク、毛皮などの畜産物を得るために利用されています。ラクダの背中の瘤には脂肪が入っており、ラクダにとってはエネルギー源としてだけでなく、砂漠地帯で直射日光を防ぐ断熱材としても役立っています。また、脂肪は代謝されて水(代謝水)を生じるので、水の供給源としても役立ちます。ウシと同じようにラクダも反芻動物ですが、ウシと異なり胃袋は3つであり、第三胃が単胃動物の胃に相当します。
ヴィクーニャやグアナコはペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチンにかけて分布していますが、ヴィクーニャの生息域はアンデス山脈の標高約3,500〜4,800 mの高地の草原であり、一方、グアナコは海岸付近から標高5,600 m付近まで移動できるという違いがあります。グアナコはヴィクーニャより体が大きく、体重はグアナコが100 kg前後でヴィクーニャ(50 kg前後)の2倍ほどあります。紀元前4,000〜3,500年頃にペルーの中央アンデス付近で、ラマはグアナコを、アルパカはヴィクーニャをそれぞれ家畜化したものと推定されています。海岸から高原までの高低差を移動できるグアナコの能力を引き継ぐラマは、主に荷物の運搬用に利用されています。一方、アルパカの毛は非常に細く、直径は0.02〜0.03 mm程度で非常に柔らかいため衣料用に利用されています。アルパカの毛色は全部で25色もあるといわれています。ラマやアルパカは肉やミルクなどの食料用に利用されることは少ないようです。ラクダ属と異なりヴィクーニャ属とラマ属には背中に脂肪の瘤がありませんが、胃の数はラクダと同じで3つです。
ブタ
ブタはイノシシから家畜化されました。イノシシは多産性(1回の出産で4〜5頭産む)であり、かつ雑食性であることから家畜化に適していたわけです。イノシシはユーラシア大陸の北部を除くほぼ全域、アフリカ大陸北部、日本、スマトラ島、ジャワ島、ニューギニア島などに広範囲に生息しており、家畜化は紀元前8,000年〜7,000年頃に中国や西南アジアで多元的に始まったといわれています。現在も、地域により野生イノシシを捕獲して飼育・繁殖したり、イノシシとブタを交雑させたりしているところがあり、家畜化はまだ継続中と考えることができます。イノシシとブタを交配させて作る雑種第一代はイノブタとよばれています。
現在までに様々な品種(400種類ほど)のブタが作られ、全世界で約10億頭(2014年)が主として食肉用に飼育されています。ブタは妊娠期間が114日と比較的短く、1回の出産で10数頭の子を産み、生後6〜7ヶ月で食肉にすることができるので、食肉生産としては経済性に優れています。肉牛の場合は妊娠期間が285日であり、生まれてから食肉になるまで21〜30ヶ月ほどかかります(黒毛和種: 28〜30ヶ月、乳用種の雄: 21ヶ月、交雑種: 26ヶ月)。また、体重を1 kg増やすのに必要な穀物飼料は、ブタが3〜4 kgであるのに対して、肉牛では10〜11 kgもかかります。
ウマ科動物の進化と家畜化
ウマの祖先のヒラコテリウム(別名エオヒップス)は5,000万年以上前に北米大陸に出現し、走りに特化した進化が始まりました。進化の過程で前肢・後肢とも第三指が発達し、残りの指は退化しました。現在のウマ科はウマ属のみからなり、ウマ、ロバならびにシマウマが含まれます。ゲノム塩基配列の解析から、現存するウマ属の共通祖先は400〜450万年前に存在していたと推定されています。北米大陸で進化して誕生したこの共通祖先が、陸続きだったベーリング地峡を渡ってユーラシア大陸に移動し、ウマ、ロバ、シマウマへと分岐したと考えられます。一方、北米の全てのウマ科の動物は、前述したラクダ科の動物と同じように最終氷期が終わる頃に絶滅したといわれています。現在、北米にはマスタングとよばれる野生馬がいますが、これはスペイン人によりヨーロッパから持込まれたアンダルシアンなどが野生化したものです。
現存するウマには家畜ウマとモウコノウマの2種、ロバにはアフリカノロバ、アジアノロバ、チベットノロバの3種、シマウマにはヤマシマウマ、サバンナシマウマ、グレビーシマウマの3種がいます。
家畜ウマの原種(タルパンとよばれ、すでに絶滅しています)とモウコノウマは3.8〜7.2万年前に分岐したと推定されています。モウコノウマは1879年にロシアの探検家ニコライ・プルツェワルスキーによりモンゴルで発見され、学名Equus przewalskii に発見者の名前が採用されています。野生種は一度絶滅したと見られていますが、世界各地の動物園で多数飼育されており、再野生化も行なわれています。
フランスのショーヴェ洞窟(約32,000年前)やラスコー洞窟(約15,000年前)あるいはスペインのアルタミラ洞窟(約18,000年前)などの壁画には、タルパンと思われるウマが描かれています。また、約25,000年前のフランスのソリュートレ遺跡からは5万〜10万頭のウマの骨が出土しています。これらの遺跡から、ウマを家畜化する遥か前から人はウマを食料として利用していたことが窺えます。
ウマの家畜化は紀元前3,500年頃ウクライナで始まり、騎乗も行なわれるようになったといわれています。家畜ウマは軽種(アラブやカマルグ、サラブレッドなど)、重種(ペルシュロンやシャイヤ、ブルトンなど)、ポニー(アイリッシュ・ポニーやシェトランド・ポニー、ウェルシュ・ポニーなど)などに分類されます。ウマは当初、農耕や運搬、あるいは食糧として利用されていましたが、やがて軽種馬は走る能力の高さから軍事用に利用されるようになりました。アレキサンダー大王の愛馬ブケパロスやフランス皇帝ナポレオンの愛馬マレンゴ(純血のアラブです)などは歴史上に名を残す名馬ですね。マレンゴの骨格標本はイギリスの国立陸軍博物館に収められています。第二次世界大戦以降ウマの利用価値は一変し、娯楽(乗馬クラブや競馬)や医療(ホースセラピー)などのために利用されています(写真2-2)。2012年の世界のウマの飼育頭数は5,890万頭と報告されています。
ウマは反芻動物ではなく、胃袋は1つしかありません。ウマにおいて、反芻動物の反芻胃に相当する機能を担っている消化器官は非常に発達した盲腸と結腸であり、そこでは微生物による植物繊維の分解と発酵が行われ、揮発性脂肪酸が産生・吸収されています。揮発性脂肪酸は反芻動物と同じように、エネルギー源として用いられたり、脂質や糖質などの生合成に用いられたりします。
日本では、馬肉は牛肉や豚肉などに比べて脂が少なくヘルシーなお肉として人気があり、馬刺しや鍋料理(桜鍋と称されます)などとして食べられています。
家畜ロバは紀元前3,000年頃にアフリカノロバを家畜化したものです。ロバはウマよりも強健で粗食に耐えることができ、また、管理がしやすいといわれています。2012年に世界中で飼育されたロバの頭数は約4,400万頭であり、そのうちアフリカが約45%を占めています。ロバは乗用や使役用、食肉用に利用されています。
シマウマは名前にウマがついていますが、ウマよりロバに近縁で、家畜化には成功していません。
サラブレッド
競馬に主に用いられているサラブレッドは、17世紀後半から18世紀前半にかけてイギリスで開発されました。現存するサラブレッドの父方祖先を遡ると3頭の種牡馬ダーレーアラビアン、ゴドルフィンアラビアン、バイアリータークに辿り着くことができます。これらを三大始祖あるいは三大基礎種牡馬といいます。日本競馬で活躍したサラブレッドの父系を遡ると、クライムカイザーはゴドルフィンアラビアンに、オルフェーブルやディープインパクトはダーレーアラビアンに、そしてシンボリルドルフはバイアリータークにそれぞれ辿り着きます。
サラブレッドの大きな特徴に脾臓が大きいことが挙げられます。体重がサラブレッドの2倍ほどあるペルシュロンやブルトンなどの重種馬の脾臓重量が約1 kgであるのに対して、サラブレッドの脾臓は約2 kgもあります。これは体内の総赤血球数の約4分の1から3分の1が脾臓に貯蔵されていることによります。運動時には脾臓から大量の赤血球が末梢血に動員され、安静時のヘマトクリット値(血液に占める赤血球体積の割合のことです)は40〜50%ですが、激しい運動時には60%以上に上昇することが知られています。その結果、運動時の血液の酸素運搬能が格段に上がり、速く持続的な走行が可能になるわけです。
イヌとネコ
イヌはタイリクオオカミ(ハイイロオオカミともいいます)から家畜化されたのは間違いないようですが、家畜化の時期と場所については未だ定説がありません。東アジア起源説(15,000年前)や中東起源説、ヨーロッパ起源説(19,000〜32,000年前)あるいは南シベリアアルタイ起源説(33,000年前)など様々な説が提唱されており、イヌの起源に関する研究は現在も続けられています。
ネコはリビアヤマネコから家畜化されたというのが定説になっています。従来、紀元前3,000年頃に古代エジプトでイエネコとして固定化されたといわれてきましたが、2004年にキプロス島のシロウロカンボス遺跡で紀元前7,500年頃のネコの完全骨格が発見されたことから、家畜化の時期はかなり遡りそうです。
イヌとネコはヒトに癒しや安らぎを与え、また、ヒトの生きる支えになってくれる伴侶動物として役立つほか、動物介在活動や動物介在療法などにも利用されています。イヌに関しては、麻薬探知犬や検疫探知犬、警察犬などの探知犬、盲導犬や聴導犬、介助犬などの身体障害者補助犬、猟犬、牧羊犬、ソリ犬、軍用犬などとしても役立っています。イヌの品種は約340種類、ネコでは約50種類あるといわれています。この理由は、イヌは多くの利用目的のために品種改良が盛んに行なわれましたが、ネコはネズミの駆除が主たる利用目的であったので、イヌのようには品種改良がなされなかったためであると考えられます。
イヌやネコを食用にすることはほとんどありませんが、東アジアや東南アジアなどには犬食文化や猫食文化といってイヌやネコを食用に飼育し、その肉を食べる習慣が今でもあるようです。
ミルク(乳汁)の成分
哺乳類は地球上に約4,500種存在しているといわれており、その大きな特徴は子どもが母乳で育てられることです。ミルクは脂質、タンパク質、糖質、ビタミンおよびミネラルの五大栄養素を含み、残りは水分です。水分以外を乳固形分といい、乳脂肪分と無脂乳固形分(タンパク質、糖質、ミネラルなど)に分けられます。哺乳類の種によりミルクの成分含量は大きく異なります。例えば、乳固形分はクジラ類やホッキョクグマで41〜60%、イヌで24%、ブタやヒツジで約19%、ウシやヤギ、ヒトで約13%であり、乳脂肪分はクジラ類やホッキョクグマで27〜53%、イヌで13%、ブタやヒツジで約7%、ウシやヤギ、ヒトで約4%であると報告されています。
ミルクに含まれる糖質としては、グルコースとガラクトースから構成される二糖の乳糖(ラクトース)が一般的に知られています。乳糖は同じ二糖のショ糖と比べると甘みが弱く、ショ糖の甘味度を1.00とすると乳糖は0.15〜0.40であるといわれています(ちなみに、単糖のフルクトースが1.20〜1.50、グルコースが0.60〜0.70、ガラクトースが0.63です)。ミルクには、乳糖以外に「ミルクオリゴ糖」とよばれる多くの種類のオリゴ糖が存在しています。牛乳の糖質の大部分は乳糖が占め(約45 g/l)、ミルクオリゴ糖はごく少量(0.06〜0.46 g/l)しか含まれていません。人乳の乳糖含量は55〜70 g/l、ミルクオリゴ糖は12〜13 g/lと報告されており、人乳にはかなりの量のミルクオリゴ糖が含まれていることが分かります。ヒトミルクオリゴ糖には乳児腸管内でのビフィズス菌の増殖・定着促進作用や病原菌に対する腸管付着阻害作用などの機能性が認められています。ホッキョクグマのミルクには乳糖は少量しか含まれておらず、ミルクオリゴ糖が糖質の大部分を占めることが知られています。
世界では様々な哺乳動物のミルクが人々に利用されています。例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ロバ、スイギュウ、ラクダ、トナカイ、ヤクなどです。このうちウシのミルクが最も多く生産されているので牛乳の脂肪とタンパク質について以下に説明します。
搾ったばかりの牛乳中の脂肪は直径0.1〜10μmの「脂肪球」として存在しています。脂肪球はトリグリセリドを内側に、リン脂質やコレステロール、脂溶性ビタミン等を表面にもち、その周りを、タンパク質を主成分とする膜が包んだ構造をしています。搾りたての牛乳を加工しないで静置すると、やがて脂肪球は液面に浮かんでクリームとして分離します。しかしながら、市販の牛乳は脂肪球の直径が2μm以下に均質化されているので、脂肪がクリームとして分離することはありません。
牛乳タンパク質の約80%を占めるカゼインにはαs1-、αs2-、β-およびκ-カゼインの4種類があります。いずれもリン酸化されたセリンというアミノ酸残基をもっており、このリン酸基にカルシウムイオンCa2+が結合しています。Ca2+を結合したこれらのカゼインは「カゼインミセル」として存在しています。ミルクが白色不透明に見えるのはカゼインミセルおよび脂肪球が光を乱反射するためです。
チーズを作る際にカゼインの固形物から分離する液体、あるいはヨーグルトを静置しておくと上部に溜まる液体を乳清(またはホエイ)とよびます。乳清はミルクから脂肪およびカゼインを除いた後の液体のことです。乳清に含まれるカゼイン以外の水溶性タンパク質は乳清タンパク質とよばれ、αラクトアルブミン、βラクトグロブリン、免疫グロブリン(抗体のことです)、血清アルブミン、ラクトフェリン、トランスフェリンなどが含まれています。
乳糖不耐症
乳糖は乳児期の主な糖質栄養分であり、小腸粘膜の上皮細胞に存在するラクターゼという酵素によりグルコースとガラクトースに分解されて吸収されます。離乳によりミルクを飲まなくなると、この酵素の活性は出生時の5〜10%ほどに低下します。そのような状況で乳糖を摂取すると、小腸に蓄積して腸内細菌により利用されるようになり、その結果、水素ガスやメタンガス、有機酸が生成され、鼓腸や下痢などの消化障害を引き起こします。これを乳糖不耐症といい、人でもほかの哺乳動物でも見られます。授乳期を過ぎても牛乳などを継続して飲み続ければ、ラクターゼ活性の低下が抑えられ、乳糖耐性を維持できる場合があります。しかしながら、成人して牛乳を飲まなくなると多くの人は乳糖不耐症になり、その発生頻度はアジアでは95%以上に上るといわれています。一方、成人しても牛乳を飲み続ける習慣のある北ヨーロッパの人々には乳糖耐性の人が多いことが知られています。
先天的にラクターゼの欠損した乳児は一次性乳糖不耐症になります。また、乳児がウイルスや細菌による腸炎に罹ると、腸粘膜が傷害されてラクターゼ活性が低下し二次性乳糖不耐症になります。これらの乳糖不耐症の乳児には母乳とともに乳糖分解酵素製剤を経口投与したり、母乳の代わりに乳糖不耐症乳児向けの特殊なミルクを与えたりして対処されます。成人して乳糖不耐症になった場合には、生乳を飲まないようにするか、あるいは飲む量を少なくしたり、ヨーグルトやチーズなど乳糖が微生物で分解された乳製品を摂取したりすれば消化障害を回避できます。
バター
バターはマーガリンと並んで家庭でもよく利用される油脂食品です。マーガリンは植物油から作られるのに対して、バターは牛乳の脂肪から作られます。バター100 gを得るには原料の生乳が4.8 リットル必要であるといわれています。バターは脂溶性のビタミンAが豊富です。バターには様々な種類の脂肪酸が含まれていますが、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸の4種で総脂肪酸の約75%を占めています。融点の高い脂肪酸が多く含まれているので冷蔵庫で冷やせば非常に固くなります(「表2-2 主な脂肪酸の性状」を参照)。
バターの製造方法は比較的簡単です。まず均質化されていない牛乳からクリームを分離します。市販のほとんどの牛乳は脂肪球が均質化されているので、クリームを分離することはできません。家庭では市販の無添加「生クリーム」(乳化剤や安定化剤を含まないもの)を入手すればバターを作ることができます。得られたクリームを撹拌機に入れて撹拌し(ペットボトルなどに入れて5〜10分間シェイクするだけです)、脂肪同士をくっつけて塊を作ります。これをよく練って水分を除き、食塩を2%程度になるように加えればできあがりです(これは「有塩バター」とよばれます)。塩を加えない無塩バター(正式には「食塩不使用バター」というようです)もあり、これはお菓子やケーキを作るのによく使われます。原料乳を乳酸発酵させてから作る「発酵バター」は日本ではほとんど流通していないようですが、ヨーロッパでは主流のようです。
ヨーグルト
ヨーグルトはウシやスイギュウ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ラクダなどのミルクを乳酸菌で「乳酸発酵」させて作る発酵乳のことです。乳酸菌は代謝により乳酸を生成する多くの属・種の細菌の総称で、ラクトバチルス属やビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属などの細菌を含みます。国際規格では「ヨーグルトは加熱殺菌したミルクにブルガリア菌(ラクトバチルス・ブルガリカス)とサーモフィラス菌(ストレプトコッカス・サーモフィラス)という2種類の乳酸菌をスターターとして加えて発酵させて作る」と定められていますが、実際には、これら2種類だけでなく、ビフィズス菌(これはビフィドバクテリウム属の細菌の総称です)やガセリ菌(ラクトバチルス・ガセリ)など他の乳酸菌が用いられたり、ブルガリア菌のみが用いられたりしており、ヨーグルトの製造方法は一様ではありません。
ヨーグルトの歴史は人類が西南アジアにおいてヤギやヒツジ、ウシなどを家畜化したことに端を発しています。つまり、これらの家畜が出産し、得られたミルクを容器に入れて放置しておいたら空気中の乳酸菌が混入してミルク中の乳糖から乳酸が産生され、その結果、ミルクが凝固したことが起源といわれています。ミルクタンパク質のカゼインは、乳酸によりミルクのpHが低下して酸性になるとゲル化するという性質があり、これがヨーグルトの実体です。英語のヨーグルトyogurtの語源はトルコ語のヨウルトに由来するといわれています。
プロバイオティクスとプレバイオティクス
動物の腸内には非常に多くの種類の細菌が多数住みついて腸内細菌叢(腸内フローラともいいます)を形成しています。上述したヨーグルト作りに使用されているビフィズス菌とガセリ菌は、通常それぞれヒトの大腸と小腸に主に生息している善玉菌であり、プロバイオティクスとよばれています。プロバイオティクスとは「腸内フローラのバランスを改善することによりヒトに有益な作用をもたらす微生物」と定義され、その微生物を含む食品(ヨーグルトや乳酸菌飲料)をプロバイオティクスとよぶこともあります。乳酸菌飲料にはラクトバチルス・カゼイ・シロタ株を含むヤクルトなどがあります。日本の糠漬けや韓国のキムチ、ドイツのザワークラウトなどの漬物に含まれている乳酸菌もプロバイオティクスとして利用されています。
先に「機能性オリゴ糖」のところで述べた大豆オリゴ糖やフラクトオリゴ糖、ならびに「ミルク(乳汁)の成分」のところで説明したミルクオリゴ糖などはプレバイオティクスとよばれています。プレバイオティクスは「①消化管上部で分解・吸収されない、②大腸に共生する有益な細菌の選択的な栄養源となり、それらの増殖を促進する、③大腸の腸内フローラ構成を健康的なバランスに改善し維持する、④ヒトの健康の増進維持に役立つ、という4つの条件を満たす食品成分」を指します。
チーズ
チーズもヨーグルトと同じようにウシやスイギュウ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ラクダなどのミルクから作られます。先に「ヤギ」のところで述べたように、南東アナトリアの遺跡から紀元前6千年紀後半期にチーズ製造に用いられたと考えられる土器が出土しています。また、考古学的研究により紀元前6千年紀にポーランドでチーズ作りが行なわれていたという証拠が素焼き土器片から発見されています。
チーズはミルクタンパク質のカゼインが凝固したものです。製造工程において乳酸菌を用いる点はヨーグルトと共通していますが、異なる点は「レンネット」とよばれる凝乳酵素(実体はタンパク質分解酵素です)を加えることです。ウシやヤギ、ヒツジの哺乳期間中の第四胃に存在するキモシン(レンニンともよばれます)が従来レンネットとして用いられてきましたが、最近では微生物レンネットや遺伝子組換えレンネット(牛キモシンを微生物に作らせたもの)が利用されています。
カゼインミセルの表面には糖鎖をもつκ-カゼインが局在し、その負電荷を帯びた親水性部分が露出しているためミセル同士は電気的に反発して水によく分散しています。レンネットがκ-カゼインを特異的に分解すると親水性部分が遊離します。その結果、カゼインミセル間の反発力が弱まり、カゼインが脂肪球とともに凝集して「カード」とよばれる凝固物ができます。
出来上がったカードがチーズの原形となり、その後熟成工程を経て様々な種類のチーズが作られます。熟成させない場合はモッツァレラチーズなどのフレッシュチーズになります。カードは型枠に入れて固め、塩をすり込んだり、塩水に漬けたりして加塩した後、冷暗所において熟成させます。チーズによっては表面に白カビを植えつけたり(カマンベールチーズ)、内部に青カビを植えつけたり(ブルーチーズ)して熟成させるものもあります。ヨーロッパの国々では古くからチーズ作りは家庭の主婦の重要な仕事の1つと考えられていたようです。チーズの女王ともよばれるフランスのカマンベールチーズは、ノルマンディー地方のカマンベール村の農婦マリー・アレルにより1791年頃作られたと伝えられています。
チーズにはナチュラルチーズとプロセスチーズの2種類があり、前者は加熱処理されていないもの、後者は加熱・溶解させることで発酵を止め長期保存に適した状態にしたものです。
先にポーランドで紀元前6千年紀のチーズ作りの証拠が発見されたと書きましたが、これはヤギのミルクを原料としたものです。ポーランドでは現在でも多くの種類の山羊乳チーズ(シェーブルチーズとよばれています)が作られています。
家禽
家畜化されたニワトリやウズラ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウなどの鳥類は家禽とよばれます。ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウはキジ目キジ科に属し、ニワトリはヤケイ属、ウズラはウズラ属、シチメンチョウはシチメンチョウ属に分類されます。アヒルとガチョウはカモ目カモ科の水鳥(水禽ともよばれます)で、水かきがあります。アヒルはマガモ属、ガチョウはマガン属に分類されます。
ニワトリは紀元前7,000年頃インドシナ半島でセキショクヤケイという原種から家畜化されたと考えられています。採卵鶏の代表品種は白色レグホーン種で、世界中で最も多く飼育されています。この品種はイタリアの原産で、名前はこのニワトリの輸出港リボルノLivornoの英語名レグホーンLeghornに由来するそうです。孵化後150日くらいから産卵を始め、400日ほどの産卵期間に300〜320個の卵を産むという産卵能力の非常に高い品種です。日本各地で多くの品種の地鶏が食肉用に飼われており、農林水産省の「地鶏肉の日本農林規格」に記載されている地鶏は、比内鶏や声良鶏、会津地鶏、軍鶏(シャモ)、薩摩鶏、コーチン、沖縄ひげ地鶏など全部で38品種に上ります。肉用鶏としてよく知られているブロイラーはニワトリの品種ではなく、7〜8週という短い期間で出荷できるように育種改良された品種間雑種です。白色プリマスロック種のメスと白色コーニッシュ種のオスを交配した一代雑種が世界のブロイラー生産の主力となっています。孵化後50日ほどで食肉となるブロイラーの体重を1 kg増やすのに必要な穀物飼料は2.2〜2.3 kgといわれており、前述したブタより少なくて済むので、食肉生産の経済性が最も優れた家畜といえます。卵および肉というタンパク質の供給源として優れたニワトリの全世界における飼養羽数は、2014年の統計で約213億羽となっています。
野生ウズラ(英名はJapanese quailです)は、シベリア南部からモンゴル、中国、朝鮮半島、日本、東南アジアにかけて広く生息しています。ウズラの体長は20 cmほどです。ウズラは日本で室町時代に武士の手により家畜化されたといわれており、世界の家畜の中で唯一日本において家畜化された動物と考えられています。孵化後2ヶ月弱で性成熟し、1年間に5〜6世代の世代交代をします。オスは食肉用に、メスは採卵用(年間250個ほど産卵します)に利用されます。また、実験動物としても用いられています。
野生のシチメンチョウは北アメリカ大陸に広く分布しており、西暦元年頃にメキシコ中北部で家畜化されたと推定されています。ヨーロッパには家畜化されたシチメンチョウが16世紀初頭にスペイン人により持ち込まれ、飼育されるようになりました。アメリカ合衆国やカナダなどではシチメンチョウの丸焼きが感謝祭やクリスマスの御馳走となっています。
アヒルは野生のマガモを原種として、中国では紀元前1,000年頃、ヨーロッパや西アジアでは西暦元年頃に家畜化されたといわれています。
ガチョウは野生のガン(カリともいいます)を家畜化したもので、セイヨウガチョウとシナガチョウの2種に大別されます。両者の違いはシナガチョウには頭部前端に瘤状隆起があることと、シナガチョウの方がセイヨウガチョウより首が長いことです。セイヨウガチョウは古代エジプトにおいて紀元前2,800年頃ハイイロガンを原種として家畜化されたといわれています。ハイイロガンには嘴が短く黄色をしているキバシハイイロガンと嘴がやや長くピンク色をしているハイイロガンの2つの亜種がいますが、家畜化されたのはキバシハイイロガンの方です。シナガチョウは中国において紀元前2,000年頃サカツラガンを原種として家畜化されたといわれています。
アヒルとガチョウの肉と卵は食用に利用されています。鴨(カモ)肉と称して流通しているものの多くはアヒルの肉です。北京ダックは300年以上の歴史のある世界的に有名なアヒルの品種です。中国の食品として有名なピータン(皮蛋)は、アヒルの卵を強いアルカリ性条件下で熟成して作られます。
フォアグラ
フォアグラは世界三大珍味の1つであり(他の2つはキャビアとトリュフです)、ガチョウやアヒルに沢山の餌を強制給与し、肝臓を肥大化させて作られます。肝臓の脂肪含量は50%を超え、ビタミンAとB12が豊富に含まれています。フォアグラの生産量と消費量が最も多い国はフランスです。フランスで開発されたセイヨウガチョウの一品種であるツールーズ種は、フォアグラを生産するガチョウとして有名です。近年、強制給餌は動物虐待に当たるとして、フォアグラの生産や提供を禁止する動きがあります。
羽毛
羽毛あるいは羽根にはフェザーとダウンの2種類があります。フェザーには湾曲した羽軸があり弾力性があるため、枕やクッションなどに使われます。ダウンは水鳥の胸に生えているタンポポの綿毛のようにふわふわと芯がない羽毛であり、ニワトリやウズラなどの陸鳥にはありません。ダウンは透湿性ならびに保温性に優れているので、ガチョウやアヒルのダウンは羽毛布団やダウンジャケット、ダウンコートなどに利用されます。
水鳥にとって重要な羽づくろいに、尾羽の付け根にある脂腺(尾腺あるいは尾脂腺といいます)から分泌される脂を羽毛に塗り付ける行動があります。この脂質には2,4,6,8-テトラメチルデカン酸や2,4,6,8-テトラメチルウンデカン酸という多分枝脂肪酸と直鎖の長鎖アルコールとのロウエステルが含まれているので、水鳥の羽毛が水に濡れるのを防ぐことができます。ここでテトラは4、デカは10、ウンデカは11を表す数の接頭辞です(表2-1を参照)。
鶏卵
上述したように家禽の特徴は肉のみならず卵が食用に利用されることです。ここでは特に世界中で飼育されているニワトリの卵に的を絞って説明したいと思います。採卵鶏は、ほぼ毎日産卵するように育種改良されているので、雌鳥にとっては大変な重労働です。
鶏卵の重さは、およそ40〜76 gくらいの幅があり、表2-7に示すように重さによりSSサイズからLLサイズまで6つに区分されています。
卵は卵黄、卵白ならびに卵殻からできています。卵殻の内側には微生物を通さないフィルターとしての役割をもつ二層の卵殻膜が存在し、卵殻にはガス交換のできる気孔が無数に開いています。卵重に占める卵黄の割合はおよそ30%、卵白は60%、卵殻は10%となっています。
卵黄のおよその成分割合は、水分48 %、タンパク質15 %、脂質34 %です。卵黄の黄色は、飼料のトウモロコシに含まれているカロテノイド系の黄色い色素ルテインとゼアキサンチン(色の巻「表1-3 植物の四大色素」を参照)に起因します。ルテインとゼアキサンチンの目の健康への有効性については、色の巻「植物色素の機能性」のところに記載しましたので参照してください。国立(クニタチ)ファームという会社で、トウモロコシの代わりに米を含む飼料を用いて生産されている鶏卵(「ホワイトたまご」とよばれています)の卵黄は、白っぽい色をしています。トウモロコシを含む飼料に赤いパプリカの粉末などを混ぜると卵黄がオレンジ色になるなど、卵黄の色は飼料に含まれる色素により色々変えることができるようです。また、飼料にビタミンEやヨウ素、ω3脂肪酸、カロテノイドなどを添加して、栄養機能を強化した鶏卵も開発されています。
卵白にはタンパク質が約11%含まれており、その他はほとんどが水分です(約88%)。卵白タンパク質にはオボアルブミンやオボトランスフェリン、リゾチームなどがあります。オボアルブミンは卵白タンパク質の約54%を占めています。オボトランスフェリンは鉄イオンを強く結合する働きがあり、微生物の増殖に必要な鉄の利用をブロックします。リゾチームには細菌の細胞壁を分解し、溶菌する作用があります。従って卵の内部には微生物の侵入を防ぐフィルター機能を有する卵殻膜、静菌作用のあるオボトランスフェリン、殺菌作用のあるリゾチームが存在し、卵が微生物で汚染されるのを防いでいます。
卵殻は殆どが炭酸カルシウムCaCO3でできており、その40%がカルシウムであることから、60 gの卵を毎日産むには2.4 gのカルシウムが必要です。体重2 kgほどの産卵期のニワトリは、カルシウム含量3%の飼料を一日当たり100 g、すなわち3 gのカルシウムを摂取して産卵という人から課せられたハードな仕事を全うしているのです。ちなみに日本人の一日当たりのカルシウム必要量は700 mgとされています。卵を1個食べる毎に、ぜひニワトリのハードワークに思いを馳せてやってください。
ゼラチンと煮凝り
「ビタミンCと壊血病」のところで述べたように、動物には非常に多くの割合でコラーゲンというタンパク質が存在しています。コラーゲンは水に不溶性で皮膚や腱、骨などに含まれ、体を頑強にしています。皮膚や骨を水で煮詰めるとコラーゲンは熱変性して可溶化され、抽出されます。これがゼラチンとよばれるもので、ゼリーの材料になります。市販のゼラチン粉末に水を加えて加熱すると溶けますが、冷やすとゲル化します。このような性質はコラーゲンに特有なもので、普通の水溶性タンパク質は加熱すると熱変性して水に不溶性になります。例えば、ゆで卵をつくると、白身は白く固まってしまいます。
豚足や鶏の手羽先、魚などの煮物を作ると、ゼラチンを含む煮汁が冷えてゼリー状になります。これが「煮凝り」とよばれる料理です。私たちは知らず知らずのうちにコラーゲンのもつ不思議な性質を利用して、料理を作っているのです。
ミツバチ
ミツバチは農林水産省で定められた家畜の仲間です。養蜂の歴史は古く、紀元前2,500年頃にはエジプトで行なわれていたといわれています。ミツバチは蜂蜜やローヤルゼリー、蜜ロウなどの畜産物を生産するだけでなく、果物や果実的野菜(イチゴ、メロン、スイカなど)の生産における花粉媒介者(ポリネーター pollinator)としての重要な役割を担っています。ミツバチの罹る病気に「腐蛆病(フソビョウ)」がありますが、これは家畜伝染病予防法に定められた家畜伝染病(法定伝染病)の1つです。蛆とは幼虫のことであり、蜂児が腐蛆病菌に感染すると発症して死んでしまいます。
ミツバチは社会性昆虫であり、コロニー(群れ)をなして生活しています。コロニーは巣(後述する蜜ロウでできています)を作り、巣には1匹の女王蜂と数万匹の働き蜂(全て雌です)、ならびに数百匹から千匹程度の雄蜂がいます。女王蜂は体重が250 mg前後であり、100 mg前後の働き蜂よりかなり大きい体をしています。雄蜂は働き蜂より一回り体が大きく、また、目が大きいのが特徴です。
ミツバチの巣には巣房とよばれる部屋が非常にたくさんあります。巣房は一端が閉じた管状構造をしており、また、断面が六角形で互いに密着して二次元的に広がった巣板を作っています。巣の中には巣板が幾重にも並んでいます。ミツバチの美しい六角模様の巣板を作る建築能力が遺伝的に刷り込まれていることに非常に驚かされます。
女王蜂は一日に数千個の卵を生み、働き蜂が育てます。女王蜂と働き蜂は受精卵から生まれる二倍体(32本の染色体をもっています)で、後述するローヤルゼリーを食べた雌の幼虫だけが女王蜂になります。雄蜂は4月〜6月の繁殖期に未受精卵から生まれる半数体(16本の染色体をもっています)で、巣の中では働き蜂から餌をもらう以外何もしませんので、ドローン(怠け者)とよばれます。1つのコロニーが大きくなり巣を分ける必要があるとき(これを分蜂あるいは分封といいます)、あるいは女王蜂が年老いて交代させる必要があるときなどには、10個ほどの円錐形の女王蜂育成用巣房(王台とよばれます)が作られます。新しい女王蜂が誕生する前に、旧女王蜂は半数前後の働き蜂を連れて巣を出て行き、新たに巣を作ります。最初の女王蜂が誕生すると、他の王台の中にいる女王蜂の蛹(サナギ)は殺されてしまいます。新女王蜂は多くのコロニーから集まる数百匹の雄蜂の群れの中に飛び込んでいき、空中交尾を行ないます。交尾を果たした雄蜂は生殖器官が引きちぎられるため死んでしまいます。新女王蜂は多数の雄蜂と交尾し、遺伝的に多様な精子を受精嚢に数百万個蓄えることができるそうです。交尾を終えた女王蜂は、旧女王蜂が出て行った巣を継承してコロニーを存続させます。女王蜂の交尾行動は生涯を通して1回のみであるといわれ、女王蜂が生きている間精子は機能を維持したまま保存されます。女王蜂の寿命は2〜3年ですが、働き蜂は1ヶ月(越冬期は4〜5ヶ月)程度です。雄蜂は成虫になってから12日ほどで性成熟し、交尾により寿命を全うします。交尾不成立の雄蜂は巣に戻りますが、秋になると巣を追い出されて餓死してしまいます。冬になると女王蜂は産卵をやめ、秋に生まれ育った働き蜂(数は夏の最盛期の3分の1以下に減っています)と体を寄せ合って越冬生活を送ります。春になると女王蜂は産卵を始め、コロニーを大きくしていきます。ミツバチのこのような越冬方法はスズメバチとは大きく異なります。スズメバチは女王蜂だけが朽木などで冬眠します。翌春目覚めた女王蜂は単独で営巣し、働き蜂を育ててコロニーを形成していきます。
蜂蜜
蜂蜜はアカシア、トチ、レンゲ、リンゴ、ソバなどの花の蜜から取られます。花蜜に含まれる主な糖質はショ糖であり、糖度は植物の種類により10〜60%程度と幅があります(アカシア: 約56%、レンゲ: 約50%、ライチ: 約30%、サルビア: 約23%、ウメ: 約10%など)。花蜜はミツバチにより採集され、巣に蜂蜜として貯蔵される段階でミツバチの扇風機のような羽ばたきにより水分が蒸発し、糖分は80%程度になります。また、ミツバチの唾液に含まれているインベルターゼという酵素によりショ糖の大部分はグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)に分解されています。ほぼ1種類の花から集められた蜂蜜は単花蜜、様々な花から集められた蜂蜜は百花蜜とよばれています。
蜂蜜には芽胞を形成して活動休止状態になったボツリヌス菌が含まれている場合があります。この菌はボツリヌス毒素という食中毒を引き起こす猛毒(最強の天然毒でテトロドトキシンの1,000倍以上の毒力を有します)を産生することが知られていますが、通常は摂取しても前述した腸内細菌叢があるため、活動休止状態のまま体外に排出され、毒素は産生されないので問題ありません。しかしながら、芽胞の発芽を妨げる腸内細菌叢がまだ備わっていない乳児が摂取すると、腸管内で発芽して毒素が産生され、中毒症状(乳児ボツリヌス症)を引き起こし死亡することがあります。そのため、日本国内の蜂蜜商品には「1歳未満の乳児には与えないようにしてください」という注意書きが貼られています。
ローヤルゼリー
ローヤルゼリーは、働き蜂が分泌する乳白色の液体で、女王蜂や女王蜂となる幼虫に与えられます。成分は水分約65%、タンパク質・アミノ酸約13%、糖質15%、脂質約3%、その他(ビタミンやミネラルなど)約4%と測定されています。ローヤルゼリーには特有成分として脂肪酸の一種である10-ヒドロキシ-2-デセン酸が含まれています。このデセン酸のもつ女性ホルモンに似た作用や皮脂分泌抑制作用、血糖値・血中コレステロール値低下作用などの各種生理作用が注目されています。2011年に日本の農学者鎌倉昌樹は、ローヤルゼリーに含まれているロイヤラクチンという分子量57,000のタンパク質が幼虫の女王蜂への分化を誘導することを明らかにしました。
蜜ロウ
蜜ロウはミツバチの巣を構成するロウ(ワックス)であり、主成分はパルミチン酸ミリシルとセロチン酸ミリシルなどのエステルです。働き蜂の腹部のロウ腺から分泌されます。「クジラ」のところで説明したように、ロウは長鎖脂肪酸と長鎖アルコールのエステルのことです。パルミチン酸ミリシルはパルミチン酸とミリシルアルコール(炭素数30の直鎖飽和一価アルコールで、トリアコンタノールともいいます: 表2-1を参照)のエステル、セロチン酸ミリシルはセロチン酸(炭素数26の直鎖飽和脂肪酸)とミリシルアルコールのエステルです。蜜ロウはロウソクやハンドクリーム、リップクリーム、木材保護用ワックス、クレヨンなどの材料として利用されます。
プロポリス
プロポリスはセイヨウミツバチやアフリカナイズドミツバチ(セイヨウミツバチとアフリカミツバチの交配種)が樹木の樹脂などを原料にして作り、巣の出入り口や隙間に塗り付けたものです。ニホンミツバチを含むトウヨウミツバチはプロポリスを作りません。プロポリスpropolisはギリシャ語のpro (プロ=前)とpolis(ポリス=都市)に由来し、ミツバチの巣(すなわち都市)を出入り口(すなわち前面)で守るという意味があります。プロポリスは健康食品として注目されています。主な成分として、アルテピリンCやクリフォリンなどのケイ皮酸誘導体、ケンフェロールやケンフェライドなどのフラボノイドが含まれています。アルテピリンCには抗がん作用や抗菌作用、クリフォリン、ケンフェロール、ケンフェライドには抗アレルギー作用が認められています。
参考文献
園池公毅 「光合成とはなにか」 講談社ブルーバックス 2008
松本 健・日本放送協会 「四大文明 メソポタミア」 NHK出版 2000
伊藤俊幸 「日本人の起源 第2部 縄文稲作の究明」 (http://www.geocities.jp/ikoh12)
青山和夫 「古代メソアメリカ文明」 講談社選書メチエ 2007
文部科学省 「日本食品標準成分表 2015年版(七訂) 脂肪酸成分表編」
(http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365451.htm)
Isshiki, M. et al. “A naturally occurring functional allele of the rice waxy locus has a GT to TT mutation at the 5’splice site of the first intron” The Plant Journal 15: 133-138, 1998
伊勢一男ら 「低アミロース良食味水稲品種ミルキークイーンの育成」 作物研究所研究報告 2: 39-61, 2001
厚生労働省 「自然毒のリスクプロファイル」 (http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/poison/index.html)
林原亜樹ら 「白インゲン豆による食中毒に伴うレクチン活性の分析事例」 福岡市保健環境研究所報 32: 101-104, 2007
日本チョコレート・ココア協会 「チョコレート・ココア大辞典」 (http://www.chocolate-cocoa.com)
韋 保耀ら 「キクイモ及びヤーコンのフラクトオリゴ糖について」 岐阜大学農学部研究報告 56: 133-138, 1991
川岸舜朗 「香辛野菜のフレーバー形成 1.ネギ属植物のにおい形成とその生理的意義」 化学と生物 31: 741-745, 1993
石井現相 「香辛野菜のフレーバー形成 2.アブラナ科植物の香味形成と芥子油」 化学と生物 31: 745-749, 1993
中村宜督 「イソチオシアネートによるがんの化学予防の可能性」 岡山大学農学部学術報告 95: 87-91, 2006
グリコ 「唐辛子のおはなし」 (http://www.glico.co.jp/info/chili)
タバスコ倶楽部 「タバスコの歴史」 (http://tabasco-club.seesaa.net/article/378079152.html)
厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」 (http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html)
文部科学省 「日本食品標準成分表 2015年版(七訂)」 (http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365297.htm)
大隅清治 「クジラは昔 陸を歩いていた」 PHP文庫 1997
小西健志 「ヒゲクジラはコスト至上主義?-クジラの体と食性と栄養のつながり-」 鯨研通信 438: 10-17, 2008
Noren, S.R. & Williams, T.M. “Body size and skeletal muscle myoglobin of cetaceans: adaptations for maximizing dive duration” Comparative Biochemistry and Physiology Part A 126: 181-191, 2000
国際連合食糧農業機関(FAO) 「世界漁業・養殖業白書2016年」 (http://www.jaicaf.or.jp/fileadmin/user_upload/publications/FY2016/SOFIA2016_in_brief-J.pdf)
農林水産省 「平成28年漁業・養殖業生産統計」 (http://www.maff.go.jp/j/tokei/sokuhou/kaimen/gyogyou_seisan/h28/index.html)
有田 誠・磯部洋輔 「ω3系脂肪酸由来の抗炎症性代謝物の構造と機能」 生化学 80: 1042-1046, 2008
和田政裕 「多分野で活用されるキチン・キトサン −かに殻から生まれる有用バイオ資源−」 ニッスイGLOBAL No. 67, 2010
Kawashima, K. & Yamanaka, H. “Influences of seasonal variations in contents of glycogen and its metabolites on browning of cooked scallop adductor muscle” Fisheries Science 62: 639-642, 1996
圦本達也ら 「タイラギの性成熟と各種組織におけるグリコーゲン量との関係」 水産増殖 53: 397-404, 2005
薩 秀夫 「タウリンの多彩な生理作用と動態」 化学と生物 45: 273-281, 2007
内藤 剛ら 「筑前海区産養殖マガキのグリコーゲン及び遊離アミノ酸量の季節変化及び年変動」 福岡県水産海洋技術センター研究報告 24: 33-40, 2014
奥村卓二ら 「秋田県戸賀湾、秋田県金浦町地先、鳥取県泊村地先および島根県隠岐島島前湾におけるイワガキのグリコーゲン含量の季節変化」 Nippon Suisan Gakkaishi 71: 363-368, 2005
中村幹雄 「やまとしじみ」 日本水産資源保護協会 広報資料 わが国の水産業シリーズ 2011 (http://www.fish-jfrca.jp/02/pdf/pamphlet/094.pdf)
ぼうずコンニャク市場魚貝類図鑑 (http://www.zukan-bouz.com)
JANUS Expert Columns 徳田先生の部屋 「第10回 海藻特有のぬるぬる、ぷるぷるの正体は?」 (http://www.janus.co.jp/tokuda/tabid/87/Default.aspx)
唐澤幸司・阿部健一 「海藻多糖類(1) 寒天」 食品と容器 53: 546-551, 2012
唐澤幸司・阿部健一 「海藻多糖類(2) カラギナン、アルギン酸」 食品と容器 53: 610-614, 2012
平田昌弘 「搾乳の開始時期推定とユーラシア大陸乳文化一元二極化説」 酪農乳業史研究 5: 1-12, 2011
正田陽一監修 「世界家畜図鑑」 講談社 1987
伊藤 宏 「食べ物としての動物たち」 講談社ブルーバックス 2001
環境省総合環境政策局 「温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン Ver.1.0」 (平成29年3月) (https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/jimu/data/guideline.pdf)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 第5次評価報告書 「Climate change 2014: synthesis report」 (http://www.ipcc.ch/report/ar5/syr)
久馬 忠・石橋 晃 「飼料学(41)-V産業動物 Ⅳ反芻動物-[11] Gトナカイ」 畜産の研究 61: 997-1002, 2007
坂田 隆 「各国でのラクダの飼養頭数とラクダ乳およびラクダ肉の生産」 石巻専修大学研究紀要 22: 53-64, 2011
川本 芳 「アンデス高地で利用されるラクダ科家畜の遺伝的特徴と家畜化をめぐる問題」 国立民族学博物館調査報告 84: 307-331, 2009
黒澤弥悦 「イノシシがブタになるとき-どのように始まるのだろうか?」 All about SWINE 43: 49-57, 2013
Orlando, L. et al. “Recalibrating Equus evolution using the genome sequence of an early Middle Pleistocene horse” Nature 499: 74-78, 2013
Fitsum, M. & Ahmed, K.M. “Population dynamic production statistics of horse and ass in Ethiopia: a review” Journal of Biology, Agriculture and Healthcare 5: 57-62, 2015
高木茂美 「サラブレッドのエネルギー代謝」 遺伝 40: 19-23, 1986
片岡 啓 「各種哺乳動物の乳成分組成の比較」 岡山実験動物研究会報 3: 24-32, 1985
浦島 匤 「ミルクオリゴ糖の比較生化学的解析」 Milk Science 51: 1-11, 2002
浦島 匤ら 「ウシをはじめとする家畜ミルクオリゴ糖研究の最近の進歩」 化学と生物 50: 498-509, 2012
石井哲也 「カゼインミセルの構造および性質に関する最近の研究動向」 Milk Science 54: 1-8, 2005
Salque, M. et al. “Earliest evidence for cheese making in the sixth millennium BC in northern Europe” Nature 493: 522-525, 2013
農林水産省 「地鶏肉の日本農林規格」 (http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_jidori_150821.pdf)
都築政起 「ウズラ(Japanese quail, Coturnix japonica)」 生物工学 91: 110-113, 2013
山田養蜂場 みつばち健康科学研究所 「ミツバチについての基礎知識」 (http://www.bee-lab.jp/hobeey/hobeeydb/db01/index.html)
鎌倉昌樹 「ミツバチの女王蜂分化を誘導する因子ロイヤラクチンの発見」 生化学 84: 994-1003, 2012