はじめに
人類の進化にとって大きな役割を果たしたのは肉食であると考えられています。初期の人類は肉食獣が食べ残した草食獣の腐肉を漁っていたといわれています。その後、石器時代になると人類は様々な石器を開発し、積極的に動物を狩猟して肉を手に入れるようになりました。最終氷期が終わり、狩猟採集社会から農耕社会に移行すると、ヤギやヒツジ、ウシ、ブタ、ニワトリなどが家畜化され、容易にしかも安定的に肉を確保できるようになりました。
家畜とは飼いならされた動物のことで、英語ではdomestic animal あるいはdomesticated animalといいます。人の管理下で繁殖が行なわれます。表9-1に示すように、哺乳類では鯨偶蹄目(ゲイグウテイモク)のヒツジやヤギ、ウシ、スイギュウ、ラクダ、ラマ、アルパカ、トナカイ、ブタなど、奇蹄目のウマやロバなど、鳥類ではキジ目のニワトリやウズラ、シチメンチョウなど、カモ目のアヒルやガチョウなどが家畜として飼育されています。日本の農林水産省の家畜伝染病予防法にはハチ目の昆虫のミツバチが家畜に含まれています。畜産物とは家畜を繁殖・飼育して得られる肉やミルク、卵、皮、毛・羽毛、蜂蜜、ローヤルゼリーなどをいいます。
現在、世界で飼養されている主要な家畜の飼養数ならびに畜産物の生産量を表9-2に示します。詳細についてはそれぞれの家畜のところで説明します。
分子生物学的手法からクジラ類と偶蹄類が単系統をなすことが明らかになったことから、旧来のクジラ目と偶蹄目からなる鯨偶蹄目が新たに設けられました。鯨肉はヒトの食料として重要ですが、畜産物ではなく水産物として取り扱われていますので10章で解説します。
偶蹄類は蹄(ヒヅメ)のある偶数本の指を有します。ウシ科・シカ科・イノシシ科の動物は2本の主蹄(第3・4指)と2本の副蹄(第2・5指)を有しますが、ラクダ科の動物の指は2本(第3・4指)だけです。
反芻動物
偶蹄類のウシ科やラクダ科、シカ科、キリン科(キリン科の動物は家畜化されていません)の草食動物は反芻動物とよばれ、胃が3つあるいは4つあります。ウシ科、シカ科、キリン科は4つの胃をもちますが、ラクダ科の胃は3つです。ウシ、シカ、キリンなどの第一胃(ルーメンともいいます)から第三胃(ラクダでは第一胃と第二胃)は食道が変化したもので、第四胃(ラクダでは第三胃)が本来の胃に相当します。草や木の葉などを咀嚼(ソシャク)・嚥下(エンカ)して、第一胃に一旦貯蔵した後、それを再び口に戻して咀嚼し直すことを反芻といいます。教育の現場でも、学校で学んだことを家などでおさらいするときに「家で反芻してね」などということがあります。
第一胃は複数の胃全体の80%以上の容積を占め、発酵タンクとしての役割を担っています。第一胃には細菌や原虫など様々な微生物がたくさん生息しており、植物繊維のセルロースなどの多糖は、まず微生物が産生するセルラーゼやセロビアーゼなどの酵素により分解されてグルコースなどの単糖になり、さらに微生物により発酵(これをルーメン発酵とよびます)されて酢酸やプロピオン酸、酪酸という揮発性脂肪酸とメタンガスになります。反芻動物は、この揮発性脂肪酸を第一胃から吸収してエネルギー源として用いたり、脂質や糖質などの生合成に用いたりします。発酵が終了した食物残渣や微生物の死骸(反芻動物の良質なタンパク質源になります)などは第四胃・小腸に送られ、消化吸収されます。
偶蹄類の全てが反芻動物というわけではなく、イノシシ科(イノシシやブタなど)の動物は胃袋が1つであり、反芻はしません。鯨偶蹄目に属するクジラは4つの胃をもちますが、反芻はしません(10章水産物「クジラ」を参照)。
家畜と地球温暖化
上述したように、反芻動物はルーメン発酵でメタンを産生しますが、メタンは地球温暖化に関与する温室効果ガスの1つです。そこで、あまり知られていない家畜と地球温暖化の関係について紹介します。
温室効果ガスには二酸化炭素CO2やメタンCH4、一酸化二窒素(別名:亜酸化窒素)N2Oなどがあります。世界気象機関(WMO)が2021年に公表した温室効果ガスの2020年の世界の平均濃度は、二酸化炭素413.2ppm、メタン1,889ppb(1.889ppm)、一酸化二窒素333.2ppb(0.3332ppm)となっています(ppmはparts per millionの略で、体積比で100万分の1、ppbはparts per billionの略で10億分の1を表します)。これらの数値を直接比べると、メタンや一酸化二窒素の濃度は二酸化炭素よりかなり低いのですが、環境省総合環境政策局の「温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン Ver.1.0」によると、メタンは二酸化炭素の25倍、一酸化二窒素は298倍も強い温室効果があるといわれていることから、メタンや一酸化二窒素の地球温暖化への寄与率はかなり高いことが分かります。温室効果ガスは一般に負のイメージのみでとらえられていますが、実は現在の地球の人が過ごしやすい温暖な気候は温室効果ガスによりもたらされているのです。もし地球に温室効果ガスが存在しないと地表の平均気温は−19℃くらいとなり、地球は極寒の環境になってしまいますが、温室効果ガスのおかげで地表の平均気温は14℃程度に保たれています。しかしながら、人間の様々な活動により温室効果ガスは急激な上昇を続けており、昨今の世界各地における集中豪雨や異常干ばつなどの異常気象は地球温暖化に第一義的原因があると考えられています。
気象庁の気候変動監視レポート2021によると、世界の年平均気温は100年あたり0.73℃の割合で上昇しています。また、地球温暖化により陸氷(氷床や氷河)が溶けて海に流れ込んだり、海水温の上昇で海水が膨張したりして、世界平均海面水位は1901年から2018年の期間に20cm(15~25cm)上昇したと見積もられています。海面上昇は、実は最終氷期後の地球温暖化で過去にも起こっています。日本では縄文海進とよばれており、紀元前4,000年頃の縄文時代前期に日本の海水面は現在より5〜10mほど高かったといわれています。旧約聖書の「ノアの箱舟」は、この時代の海面上昇による大洪水の伝承といわれています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第3作業部会報告書(2022)によると、2019年における世界の温室効果ガス総排出量(590億トン)に占める割合は二酸化炭素換算量で表すと、二酸化炭素が75%、メタンが18%、一酸化二窒素が4%となっています。二酸化炭素の発生は化石燃料の燃焼(自動車や飛行機、船舶、列車、火力発電、家庭生活など)、森林破壊や砂漠化による二酸化炭素の吸収源の減少などによります。メタンは湿地(永久凍土、沼地、低湿地など)や水田、天然ガスなどから排出されていますが、毎年発生するメタンの総量の15〜18%が反芻動物のルーメン発酵から発生すると見積もられています。また、家畜の糞尿からは、かなりの量のメタンと一酸化二窒素が発生しています。したがって、畜産業も地球温暖化に大きく関与しているのです。
ウシ科の家畜
家畜のヒツジやヤギ、ウシ、スイギュウは鯨偶蹄目ウシ科の反芻動物ですが、それぞれ属が異なります。ヒツジはヒツジ属(Ovis)、ヤギはヤギ属(Capra)、ウシはウシ属(Bos)、スイギュウはアジアスイギュウ属(Bubalus)に属しています。
最終氷期(氷河期)が終わりを迎えた紀元前9,000年頃、トルコや北イラクで小麦を栽培する農耕が始まりました。ヒツジとヤギの家畜化は、それよりやや遅れて紀元前8,700〜8,500年頃に南東アナトリア(トルコ)のタウルス山脈(トロス山脈)南麓で始まり、その後、紀元前7,000年頃には西アジアの広い地域に広まったと推測されています。西アジアとその周辺地域の遺跡から出土した陶器に付着していた脂肪酸の安定同位体分析の結果から、ミルクの利用は紀元前7千年紀(紀元前7,000年〜6,001年のミレニアムすなわち1,000年の期間のことです)に行なわれていたと報告されています。
ウシの家畜化はヒツジやヤギより遅く、紀元前7,000年頃に西アジアやインダス川流域で行なわれました。スイギュウは紀元前5千年紀に中国で、紀元前3千年紀にインドで、それぞれ家畜化されたと考えられています。
ヒツジ
ヒツジ属(Ovis)には次に示す6種の野生ヒツジが含まれると考えられています。
- アジアムフロン(別名:レッドムフロン、英名:Asiatic mouflon or red mouflon、学名:Ovis orientalis): トルコ、アルメニア、アゼルバイジャン、イラク北東部、イランなどに生息
- ウリアル(urial、O. vignei): イラン、アフガニスタン、パキスタン、インドのラダック地方、トルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタン西部などに生息
- アルガリ(argali、O. ammon): アフガニスタン東部、タジキスタン、キルギスタン、カザフスタン東部、中国北西部、モンゴルなどに生息
- ユキヒツジ(別名:シベリアビッグホーン、snow sheep、Ovis nivicola): ロシア東部に生息
- ドールヒツジ(Dall sheep、O. dalli): アラスカからカナダ北西部、ブリティッシュコロンビアにかけて生息(アメリカの動物学者ウィリアム・ドールに因んで名付けられました)
- ビッグホーン(bighorn、O. canadensis): 北米大陸西部の山岳地帯に生息
かつて、ヨーロッパムフロン(European mouflon、O. musimon)が独立種として分類されていましたが、本種はアジアムフロンが7,000年程前に地中海のコルシカ島やサルジニア島に移入され、その後ヨーロッパ各地に分散したものであることが分かりました。現在ではアジアムフロンに含まれ、亜種O. orientalis musimonとされています。
北米に生息するドールヒツジとビッグホーンの共通祖先は約160万年前にユキヒツジから分岐して、ロシア東部からベーリング陸橋を通って北米に移動したと考えられています。アメリカヒツジのドールヒツジとビッグホーンが分岐したのは約100万年前と推定されています。
ウリアルは系統発生学的には130万年程前にアジアムフロンから分岐したと考えられており、両者は非常に近縁であるためウリアルをアジアムフロンに含める考えもあります。その場合には両者を単一種ムフロン(Ovis orientalis)とし、アジアムフロンはO. o. orientalis、ウリアルはO. o. vigneiという亜種に分類されます。アジアムフロンとウリアルの共通祖先は約170万年前にアルガリから分岐したと推定されています。
野生ヒツジ(Ovis)の祖先はユーラシア大陸で誕生し、それからムフロン・アルガリ系とユキヒツジ・アメリカヒツジ系に分岐したのは約240万年前と考えられています。
家畜のヒツジ(羊、英名:sheep、学名:Ovis aries)はアジアムフロンに由来すると考えられています。家畜化の初期は主に食肉用に利用されていました。紀元前2,000年頃メソポタミア南部で、カルディア人が刈り取った羊毛で初めて毛織物を作ったといわれています。古代ローマ時代になると男女とも羊毛で作られたトーガという衣類を着用するようになりました。羊乳はヨーグルトやチーズなどの原料に用いられますが、生乳を飲料用に利用することはほとんどありません。
多くの品種のヒツジが作り出されており、毛用種、肉用種、毛肉兼用種、毛皮種に分かれます。毛用種ではスペインメリノ種やランブイエメリノ種、オーストラリアメリノ種など、肉用種ではサウスダウン種やサフォーク種、チェビオット種など、毛肉兼用種ではコリデール種など、毛皮種ではロマノフ種などが代表的な品種です。
2019年における世界のヒツジ飼養頭数は12.4億頭(表9-2)であり、主要な飼養国は中国(シェア:13.2%)、インド(6.0%)、オーストラリア(5.3%)、ナイジェリア(3.8%)、イラン(3.33%)、スーダン(3.30%)、チャド(2.9%)などです。同年における世界の羊肉生産量(枝肉ベース:枝肉については後述する「食肉」を参照)は992万トンであり、主要な生産国は中国(24.9%)、オーストラリア(7.4%)、ニュージーランド(4.5%)、トルコ(3.9%)、アルジェリア(3.3%)、イギリス(3.1%)、インド(2.8%)などです。同年における世界の羊毛生産量(原毛ベース)は172万トンであり、主要な生産国は中国(19.8%)、オーストラリア(19.1%)、ニュージーランド(7.1%)、イギリス(4.1%)、トルコ(3.781%)、モロッコ(3.776%)、ロシア(2.9%)などです。2018年における世界の羊乳生産量は1,063万トンと報告されています。
日本に初めてヒツジが渡来したのは飛鳥時代の599年で、百済から推古天皇へ貢物(コウブツあるいはコウモツ)として献上されたと「日本書紀」に記載されています。その後、820年に新羅から、903年に唐から、1077年に宋からなど幾度も貢物としてヒツジが献上されたようですが、繁殖までには至らなかったようです。羊毛を使った厚地の毛織物の羅紗(ラシャ:ポルトガル語raxaに由来。12世紀頃の中世セルビア王国の首都ラスRasで生産されたため、raxaには「ラス産の」という意味があります)が、16世紀中頃にポルトガルから鉄砲などと共に伝来したといわれています。羅紗は戦国時代の武将の陣羽織として活用されました。江戸時代の1817年から幕府の薬草園である巣鴨薬園において、幕府に仕える医師かつ本草学者の渋江長伯によりヒツジが飼養され、試作された羅紗が将軍に納められたといわれています。巣鴨薬園は別名綿羊屋敷ともよばれ、300頭を超えるヒツジが飼われていました。
本格的なヒツジの飼養は明治維新後で、明治8年に大久保利通により下総に牧羊場が開設され、輸入された数千頭のヒツジが飼養されました。しかしながら、飼養管理技術や衛生対策などの不備から飼養頭数が減少し、明治21年に中止されました。第一次世界大戦後の大正7年から政府による飼養頭数100万頭を目標とした綿羊増殖計画が始まりましたが、太平洋戦争終結の昭和20年には18万頭に過ぎませんでした。しかしながら、戦後の衣料資源不足により国産羊毛の需要が高まったことから、再びヒツジ飼養が盛んになり、昭和32年には94万頭に達しました。その後、羊毛の輸入が自由化されたこと、ならびに化学繊維が発達したことからヒツジ飼養は衰退の一途をたどり、昭和51年には1万頭にまで減少しました。昭和50年代の中頃から羊肉の需要が高まり、肉用のサフォーク種を主体に飼養頭数は増加し、平成初期には3万頭にまで回復しました。平成31年における飼養頭数は20,263頭と報告されており、主に北海道(53.2%)、長野県(4.9%)、岩手県(3.8%)、千葉県(3.7%)、栃木県(3.0%)などで飼養されています。近年は肉用のテクセル種が増えているようです。
羊肉はヒツジの年齢により名称が異なり、1歳未満をラム、1歳から2歳までをホゲット、2歳以上をマトンとよびます。ラムはマトンと比べてヒツジ独特の臭みが少なく、肉質も柔らかいので癖がないのが特徴です。マトンはヒツジ独特の風味が強く、肉の味を楽しむにはこちらがお勧めです。日本ではホゲットはマトンに含まれています。北海道などではジンギスカン鍋料理で羊肉が楽しまれています。羊肉には脂肪酸を細胞内のミトコンドリアという細胞小器官で酸化して燃焼する際に必要なカルニチンという物質が牛肉や豚肉などより数倍多く含まれているので、ジンギスカンダイエットという言葉が生まれたほどです。しかしながら、羊肉には脂肪分が多く含まれているので食べ過ぎには気を付けましょう。
平成31年度の日本におけるヒツジと畜頭数は5,532頭であり、羊肉生産量(枝肉ベース)は155トンです。羊肉の輸入量(枝肉ベース)は22,229トンですので、自給率はわずか0.7%です。羊肉の主な輸入先はオーストラリア(66%)とニュージーランド(32%)です。
羊毛にはウールワックスがたくさん付着しています。これは皮脂腺から分泌されるロウで、体毛に防水性をもたせています。ロウは長鎖脂肪酸と長鎖アルコールのエステルのことです。羊毛から抽出されるロウはラノリンとよばれます。ラノリンlanolinはラテン語のlana(羊毛のことです)とoleum(油のことです)に由来するそうです。ラノリンを構成する長鎖脂肪酸はラノリン酸とよばれ200種類ほどあり、長鎖アルコールはラノリンアルコールとよばれ100種類ほどあります。従って、8,000〜20,000種類くらいのラノリンエステルが存在すると推定されています。ラノリンは化粧品やスキンケア製品などの原料として利用されています。
ヤギ
ヤギ属(Capra)には次の9種の野生ヤギが含まれます。
- パサン(別名:ベゾアール、英名:pasang or bezoar、学名:Capra aegagrus): トルコ、イラン、パキスタン、ギリシャのクレタ島などに生息
- カフカスアイベックス(Caucasian ibex、C. caucasica): カフカス(コーカサス)山脈西部に生息
- カフカスツール(Caucasian tur、C. cylindricornis): カフカス山脈東部に生息
- マーコール(markhor、C. falconeri): ヒマラヤ山脈からカシミール地方にかけて生息
- アルプスアイベックス(Alpine ibex、C. ibex): アルプス山脈に生息
- ヌビアアイベックス(Nubian ibex、C. nubiana): アラビア半島やエジプト東部の山岳地帯に生息
- スペインアイベックス(Spanish ibex、C. pyrenaica): イベリア半島の山岳地帯に生息
- シベリアアイベックス(Siberian ibex、C. sibirica): アフガニスタン、パキスタン北部、インド北西部、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタン東部、カザフスタン南東部、中国北西部、モンゴル、ロシア中南部などの山岳地帯に生息
- ワリアアイベックス(walia ibex、C. walie): エチオピア北部のシミエン国立公園などに生息
野生ヤギは野生ヒツジと異なり北米大陸には分布せず、ユーラシア大陸とアフリカ大陸の一部に分布しています。野生のヤギとヒツジは角と顎髭に外見的違いがあります。ヒツジの角は特定の種を除くと、耳を囲うように渦巻き状に前方へ丸く伸びるアモン角となるものが多いのですが、ヤギの角は直立あるいは後ろや横に伸びることはあっても前方へ伸びることはありません。ヒツジは家畜化や品種改良によって無角となった品種があります。ヤギには下顎に顎髭がありますが、ヒツジにはありません。
家畜のヤギ(山羊、英名:goat、学名:Capra hircus)は野生種パサンに由来すると考えられています。家畜化の当初の目的は食料としての肉を獲得することでしたが、後にミルクも利用されるようになりました。ヤギは人類が最初に搾乳を行なった動物と考えられており、チーズやバターなどの乳製品も山羊乳から発明されたといわれています。南東アナトリアのチャヨニュ遺跡から紀元前6千年紀後半期にチーズ製造に用いられたと考えられる土器が出土しています。
ヤギには多くの品種があり、乳用種、肉用種、毛用種、兼用種に分かれます。乳用種ではザーネン種やトッゲンブルグ種、アルパイン種など、肉用種ではボア種など、毛用種ではカシミヤ種やアンゴラ種など、兼用種ではブラックベンガル種などがよく知られています。特に毛用種のカシミヤ種とアンゴラ種は、それぞれカシミヤ織とモヘア織の原料に使われる高級な毛を産出することで有名です。
2019年における世界のヤギ飼養頭数は10.9億頭(表9-2)であり、主要な飼養国はインド(シェア:13.6%)、中国(12.5%)、ナイジェリア(7.5%)、パキスタン(7.0%)、バングラデシュ(5.6%)、チャド(3.5%)、ケニア(3.2%)などです。同年における世界の山羊肉生産量(枝肉ベース)は625万トンであり、主要な生産国は中国(37.7%)、インド(8.9%)、パキスタン(7.9%)、ナイジェリア(4.3%)、バングラデシュ(3.6%)、ミャンマー(2.1%)、チャド(2.0%)などです。2018年における世界の山羊乳生産量は1,871万トンと報告されています。
日本にヤギが渡来したのは15世紀以降といわれています。中国や朝鮮半島、東南アジア島嶼(トウショ)域から九州・沖縄地方に移入され、主に肉用として飼養されていました。日本在来種としては長崎県の西彼杵(ニシソノギ)半島や五島列島などに分布するシバヤギや鹿児島県のトカラ列島や奄美群島などに分布するトカラヤギなどがいます。
本格的なヤギの飼養が始まったのは明治11年に乳用種を輸入してからです。山羊が初めて統計に載った明治32年に飼養頭数は6万頭となり、明治44年に10万頭、昭和3年に20万頭、昭和15年に30万頭を超えました。太平洋戦争が終結した昭和20年には25万頭でしたが、戦後の食料不足を改善するために乳用種の飼養が奨励され、昭和27年に50万頭(沖縄県を除く)を超え、昭和32年には67万頭(沖縄県を除く)のピークを迎えました。その後ヤギ飼養熱が下がり、昭和51年に10万頭を割り、昭和61年には5万頭を下回りました。平成31年における飼養頭数は29,944頭と報告されており、主に沖縄県(39.1%)、北海道(5.5%)、長野県(3.9%)、鹿児島県(3.8%)、熊本県(2.7%)などで飼養されています。主な品種は乳用の日本ザーネン種と肉用のボア種です。
平成31年度の日本におけるヤギと畜頭数は4,169頭であり、山羊肉生産量(枝肉ベース)は80トンです。山羊肉の輸入量(枝肉ベース)は351トンですので、自給率は18.6%です。輸入先は100%オーストラリアです。
ウシ
ウシ属(Bos)に含まれるいわゆるウシ(牛、cattle)は野生牛のオーロックス(英名:aurochs、学名:Bos primigenius)やヤク(英名:yak、学名:B. mutus)、ガウル(英名:gaur、学名:B. gaurus)、バンテン(英名:banteng、学名:B. javanicus)から家畜化されています。
①世界のウシ
オーロックス(Bos primigenius)はすでに絶滅していますが、かつては次の3亜種がいたといわれています。
- ユーラシアオーロックス(Eurasian aurochs、B. p. primigenius): ヨーロッパから西アジア、中央アジア、東アジアにかけて広く生息(フランスのショーヴェやラスコーなどの洞窟壁画に描かれている牛はユーラシアオーロックスです)
- インドオーロックス(Indian aurochs、B. p. namadicus): 南アジアに生息
- 北アフリカオーロックス(North African aurochs、B. p. mauretanicus): 北アフリカに生息
オーロックスから家畜化されたウシには、コブの無いタウルス牛(別名:ヨーロッパ牛、英名:taurine cattle、学名:B. primigenius taurus)とコブのあるゼブ牛(別名:コブウシ、英名:zebu cattle、学名:B. p. indicus)の2系統があります。タウルス牛は西アジアで紀元前7千年紀にユーラシアオーロックスから、ゼブ牛はインダス川流域で紀元前7,000年頃にインドオーロックスからそれぞれ家畜化されたと考えられています。
タウルス牛は世界中で広く飼育されており、非常に多くの品種(480品種以上)があります。肉用種としてはヘレフォード種、アバディーンアンガス種、シャロレー種、ショートホーン種など、乳用種としてはホルスタイン種やジャージー種、ガンジー種、エアシャー種など、また、乳肉兼用種としてはアングラー種やシンメンタール種、ノルマン種、ブラウンスイス種などが飼育されています。
ゼブ牛は耐暑性や抗病性に優れており、熱帯・亜熱帯地方を中心に、南アジアや東南アジア、西アジア、アフリカ、南アメリカなどで飼育されています。ゼブ牛には約75品種あるといわれ、ブラーマン種やジール種、オンゴール種などは肉用種であり、レッドシンディー種やサヒワール種などは乳用種です。
野生のヤク(Bos mutus)は中国のチベット自治区や青海省、新疆ウイグル自治区、インド北西部などの3,000〜5,500mの高山地帯に生息していますが、その数は激減し、2008年には1万頭程度と推定されています。紀元前3,000年頃にチベット高原で家畜化されたといわれており、家畜のヤクにはBos grunniensの学名が与えられています。体表は寒冷地に適応した長い毛で覆われており、換毛しないため暑さには弱く、低地では生息できません。世界総頭数は1,400万頭と推定されており、中国(1,300万頭)、モンゴル(60万頭)、ネパール、ブータン、インドなどで飼育されています。ヤクのミルク(脂肪率:6〜8%)や肉は食用に供され、ミルクからはチーズやバターが作られています。
ガウル(Bos gaurus)はインドからインドシナ半島・マレー半島にかけて、海抜2,000m以下の丘陵地帯の森林や草原に生息する大型の野生牛です。生息数は約2万頭に激減しており、スリランカでは絶滅したといわれています。次の3亜種がいるといわれています。
- B. g. gaurus: インド、ネパール、ブータンに生息
- B. g. readei: ミャンマーに生息
- B. g. hubbacki: マレー半島のマレーシアに生息
ガヤル(英名:gayal、学名:Bos frontalis)はガウルを家畜化したものと考えられていますが、いつごろ、どこで家畜化されたかはよく分かっていません。ガヤルはミタン(mithanあるいはmithun)ともよばれており、インドやブータン、バングラデシュ、ミャンマー、中国雲南省などで飼育されています。ガヤルは主として食肉に供され、ミルク(脂肪率:7.2〜10.3%)の利用は少ないとされています。
バンテン(Bos javanicus)は東南アジアに生息する野生牛であり、次の3亜種がいるといわれています。
- ジャワバンテン(Javan banteng、B. j. javanicus): インドネシアのジャワ島やバリ島に生息
- ボルネオバンテン(Bornean banteng、B. j. lowi): ボルネオ島(カリマンタン島)に生息
- ビルマバンテン(Burma banteng、B. j. birmanicus): ミャンマー、タイ、カンボジア、ラオス、ベトナムに生息
野生種のバンテンは生息数が激減し、1万頭以下と見積もられています。バリ牛(英名:Bali cattle、学名:B. j. domesticus)はインドネシアで紀元前3,500年頃にジャワバンテンから家畜化されました。バリ牛は比較的小柄であり、繁殖能力に優れ、耐暑性、抗病性、粗食性が高いという特徴があります。東南アジアで約150万頭が飼育されており、主として食肉に供されています。問題点としては子ウシの死亡率が高く、成長が遅く、乳生産量の低いことが挙げられます。
ウシは農耕用や運搬用の動力としても利用されていますが、人類にとって肉およびミルクという非常に重要な食料供給源となっています。2019年において世界で飼養されているウシ(肉牛、乳牛を含む)は15.1億頭(表9-2)と報告されており、これにはタウルス牛、ゼブ牛、ヤク、ガヤル、バリ牛が含まれますが、後述するスイギュウは含まれません。主要な飼養国はブラジル(シェア:14.2%)、インド(12.8%)、アメリカ(6.3%)、中国(4.20%)、エチオピア(4.19%)、アルゼンチン(3.6%)、パキスタン(3.2%)などです。2019年における世界の牛肉生産量は6,831万トン(枝肉ベース)であり、主要な生産国はアメリカ(18.1%)、ブラジル(14.9%)、中国(8.7%)、アルゼンチン(4.6%)、オーストラリア(3.4%)、メキシコ(3.0%)、ロシア(2.4%)などです。
2019年における世界の乳牛飼養頭数(スイギュウは含まない)は2.65億頭(表9-2)であり、主要な飼養国はインド(20.0%)、ブラジル(6.1%)、パキスタン(5.3%)、アメリカ(3.5%)、エチオピア(3.3%)、スーダン(3.1%)、南スーダン(3.0%)などです。2018年における世界の牛乳生産量(生乳ベースで、水牛の乳は含まない)は6億8,322トンと報告されています。
②日本のウシ
日本に朝鮮半島からウシがウマとともに渡来したのは古墳時代の5世紀後半以前だといわれています。これは最も古い牛形埴輪が5世紀後半の奈良県橿原市の四条7号墳や兵庫県朝来市の船宮古墳から出土していることや奈良県御所市の南郷大東遺跡から5世紀のウシの臼歯が出土していることに因ります。奈良時代に編纂された「日本書紀」には安閑天皇2年(535年)9月条に「牛を難波の大隅島と媛島松原とに放牧せよ」と記されており、牛形埴輪の出現と合わせて、5〜6世紀にかけて近畿地方でウシの飼養・管理や放牧が行なわれていたと考えられます。6世紀中葉から後葉には千葉県印西市の小林1号墳や横芝光町の殿塚古墳から牛形埴輪が出現していることから、6世紀末までには関東地方でもウシの飼養が始まっていたと思われます。平安時代の10世紀初頭(905〜927年)に編纂された「延喜式」(養老律令の施行細則)巻28・兵部省式に諸国馬牛牧の条文があり、兵部省(律令制の太政官八省のひとつ)が管理する牛牧・馬牛牧・馬牧の国名および牧名が記載されています(諸国牧については後述する「ウマ②日本のウマ」を参照)。その条文から、ウシの飼養が武蔵国・上総国・下総国・相模国・備前国・周防国・長門国・伊予国・筑前国・肥前国・日向国の11ヶ国におかれた12牛牧、3馬牛牧において盛んに行なわれていたことが窺えます。
ウシは牛耕や牛車(ウシグルマ:物資運搬用)、牛乳、牛肉として利用され、牛乳ならびに乳製品(「酪」や「蘇」、「醍醐」とよばれていました)は皇族や貴族の薬として使用されていたといわれています。乗用の牛車(ギッシャ)が出現したのは平安時代以降と考えられています。天武天皇による「肉食禁止令」(牛、馬、犬、猿、鶏の肉を食することを禁じたもので、鹿や猪などは対象外)の発令(675年)以降、牛肉食は1,200年という長い間控えられましたが、明治時代になると文明開化の象徴として牛肉を食べることが奨励され、すき焼きや牛鍋が流行しました。
②-⑴日本の肉牛
古くから日本に在来する和牛としては山口県萩市の見島牛と鹿児島県十島村の口之島牛が現存しています。明治時代以降、日本各地で在来和牛に西洋種のアバディーンアンガス種やシンメンタール種、デボン種、ショートホーン種などを交配して改良された和種が黒毛和種、褐毛和種(主産地:熊本県、高知県)、無角和種(山口県)、日本短角種(岩手県、秋田県、青森県、北海道)の肉用4品種です。黒毛和種、褐毛和種、無角和種は昭和19年に、日本短角種は昭和32年に固定された品種と認められました。
明治時代にウシは殆どが耕牛(役肉牛)として飼養され、滋賀県、三重県以西の西日本に広く分布し、東日本には殆ど分布していませんでした。ただし、東日本では耕牛の代わりに耕馬が広く分布していました。日本における牛肉生産は主に耕牛の廃牛利用により発展してきました。耕牛の飼養頭数は明治10年に100万頭であり、増減を繰り返しながら明治44年には140万頭にまで増加しました。その後も増え続け昭和15年に200万頭を超え、太平洋戦争中の昭和18・19年には215万頭になりました。終戦後の昭和21・22年には182万頭まで減少しましたが、戦後の食糧増産政策やアメリカからの飼料穀物の輸入などにより役肉牛が増え、昭和31年には271万頭に達しました。その後農業機械化が本格化するにつれて役肉牛飼養の衰退が始まり、昭和40年に200万頭を割り、昭和42年には155万頭まで落ち込みました。昭和37年から始まった役肉用牛を日本独自の肉専用種に切り替える事業の成果が現れ出した昭和43年以降は肉用牛の飼養頭数は増加に転じ、昭和53年には200万頭を回復しました。この肉用牛の回復にはホルスタイン種などの乳用種雄の肥育も大きく寄与しています。平成の時代に入ると乳用種雌と黒毛和種雄との交雑種が導入されるようになり、平成6年には297万頭のピークに達しました。その後は減少傾向に転じ、令和3年2月1日現在における肉用牛は260.5万頭と報告されています。主な飼養地は北海道(20.6%)、鹿児島県(13.5%)、宮崎県(9.6%)、熊本県(5.2%)、岩手県(3.49%)、長崎県(3.48%)、栃木県(3.2%)などです。肉用牛の内訳は肉専用種70.2%、乳用種雄9.6%、交雑種20.2%となっています。肉専用種の約95%は黒毛和種で、残りは他の3品種の和種とアンガス種、ヘレフォード種などです。
牛の妊娠期間は約285日であり、肉牛が生まれてから食肉になるまで21〜30ヶ月ほどかかります(黒毛和種: 28〜30ヶ月、乳用種の雄: 21ヶ月、交雑種: 26ヶ月)。また、体重を1kg増やすのに必要な穀物飼料は10〜11kgといわれています。
令和2年度の日本における牛と畜頭数は105.3万頭(乳牛雌を含む)であり、牛肉生産量は33.6万トン(部分肉ベース:部分肉については後述する「食肉」を参照)です。と畜頭数に占める種類別割合は和牛45.9%、乳牛31.2%、交雑牛21.6%となっています。また、国産牛肉生産量に占める種類別割合は和牛47.9%、乳牛26.2%、交雑牛24.4%です。
平成3年(1991年)に牛肉の輸入が自由化され、オーストラリアやアメリカなどから安い牛肉が大量に輸入されるようになりました。令和2年度の牛肉の輸入量は59.1万トン(部分肉換算値)であり、牛肉の自給率は36.2%です。主な輸入先はオーストラリア(43.3%)やアメリカ(42.8%)です。
②-⑵日本の乳牛
戦国時代に安房(アワ)の国を治めていた里見氏により軍馬育成のために作られた嶺岡牧(千葉県南房総市)に江戸幕府8代将軍徳川吉宗が1728年にインド産の白牛(いわゆるゼブ牛)3頭を放牧し搾乳を始めたことから、嶺岡牧は「日本酪農発祥之地」といわれています。白牛の乳から作ったチーズ様乳製品「白牛酪」は良薬として将軍に献上されました。白牛は1792年には70余頭に増え、白牛酪が量産されるようになると、11代将軍徳川家斉は「白牛酪考」を刊行して白牛酪の効能(疲労回復や解熱など)を広く庶民に知らせ普及に努めました。嶺岡牧は明治44年に千葉県の種畜場になり、現在は千葉県畜産総合研究センター嶺岡乳牛研究所となっています。明治22年に乳用のホルスタイン種2頭が安房地域に導入されて乳牛の改良が始まり、大正10年頃までには安房の乳牛はほとんどホルスタイン種系になったようです。明治・大正期に安房地域では多くの練乳製造業が乱立し興亡を繰り返しました。その中の房総練乳株式会社は現在の株式会社明治、日本練乳株式会社は現在の森永乳業のそれぞれ源流となっています。
明治初期に乳牛飼養頭数は僅少でしたが、明治10年頃からの外国産乳用種(主としてホルスタイン種)の輸入により増加し、明治末期には5万頭を超えました。大正期に10万頭を超え、昭和19年には27万頭に達しました。太平洋戦争終結後一時的に減少しましたが、その後増加に転じ、昭和37年に100万頭になり、昭和54年に200万頭を超えました。昭和59・60年に211万頭のピークを迎えた後は漸減し、平成21年に150万頭となりました。令和3年2月1日現在における乳用牛は135.6万頭と報告されており、飼養分布では北海道が61.2%を占め、以下栃木県(3.9%)、熊本県(3.2%)、岩手県(3.0%)、群馬県(2.5%)、千葉県(2.0%)の順になっています。乳用牛の99%以上をホルスタイン種が占め、ジャージー種など他の乳用種は約1万頭です。
乳牛の1日当たり平均泌乳量は約30kgであり、搾乳できる期間は280〜300日です。令和2年度の生乳生産量は743万トンであり、用途別では飲用牛乳等用に54.2%、脱脂粉乳・バター等用に22.9%、生クリーム等用に16.0%、チーズ用に5.5%が処理されています。
スイギュウ
野生のスイギュウ(水牛、buffalo)はアフリカスイギュウ属(Syncerus)とアジアスイギュウ属(Bubalus)に分けられます。アフリカスイギュウ属はアフリカスイギュウ(英名:African buffalo、学名:Syncerus caffer)の1種のみで構成され、5亜種が存在するとされていますが、家畜化はされていません。アジアスイギュウ属には次の4野生種が存在しますが、いずれの種も生息数が減少し、絶滅の危機に瀕しています。
- アジアスイギュウ(wild water buffaloまたはAsian buffalo、Bubalus arnee): 南アジアから東南アジアにかけて広く生息し、4亜種(B. a. arnee、B. a. fulvus、B. a. septentrionalis、B. a. migona)が存在
- ローランドアノア(lowland anoa、B. depressicornis): インドネシアのスラウェシ島に生息
- マウンテンアノア(mountain anoa、B. quarlesi): インドネシアのスラウェシ島とブトン島に生息
- タマラオ(tamaraw or Mindoro dwarf buffalo、B. mindorensis): フィリピンのミンドロ島に生息
アジアスイギュウ属の中のアジアスイギュウのみが家畜化されています。家畜のアジアスイギュウ(domestic water buffalo、Bubalus bubalis)には河川型river type(B. b. bubalis、染色体数2n=50)と沼沢型swamp type(B. b. carabanesis、2n=48)の2亜種がありますが、それぞれ異なる野生のアジアスイギュウの亜種に由来すると考えられています。河川型は紀元前3千年紀にインドで、沼沢型は紀元前5千年紀に中国で、それぞれ家畜化されたと考えられています。現在、河川型は主にインドやパキスタン、エジプト、イタリアなどに分布し、沼沢型は主に中国や東南アジア諸国などに分布しています。
河川型には22品種(ムラー種、ニリ・ラビ種、ジャファラバディ種、地中海種など)、沼沢型には16品種が知られており、2018年に河川型と沼沢型を合わせて世界で2.08億頭(表9-2)が飼養されています。主要な飼養国はインド(シェア:54.9%)、パキスタン(18.7%)、中国(13.0%)、ネパール(2.5%)、ミャンマー(1.8%)、エジプト(1.7%)、フィリピン(1.4%)などです。日本では1930年代に台湾から沼沢型が沖縄県に導入され、1970年に1,382頭いましたが、1990年に210頭に減少し、2015年には110頭になっています。
河川型は主に肉やミルク(脂肪率:約8%)の生産用に、沼沢型は主に役肉用に利用されています。イタリアでは水牛乳は主にモッツァレラチーズの材料に使われています。
2018年における世界の水牛乳生産量は1億2,766万トン(表9-2)であり、主要な生産国はインド(71.9%)、パキスタン(22.0%)、中国(2.4%)、エジプト(1.7%)、ネパール(1.0%)などです。同年の世界における家畜の生乳生産量は8億4,336万トンであり、そのうちの81.0%を牛乳が、15.1%を水牛乳が占めています。
ラクダ科の家畜
現存するラクダ科はラクダ属(Camelus)とラマ属(Lama)の2属からなります。ラクダ科の祖先は約4,500万年前に北アメリカ大陸に現れたと考えられています。その後、北アメリカ大陸で進化・分化し、2,500万年前頃にラクダ属とラマ属は分岐したと推定されています。ラクダ属の祖先は1,100〜1,600万年前にベーリング地峡を通ってユーラシア大陸に移動し、400~500万年前にヒトコブラクダとフタコブラクダに分岐したと推定されています。ラマ属の祖先はパナマ地峡が形成された300万年前頃に南アメリカ大陸に移動し、200万年前頃にグアナコとビクーニャに分岐したと考えられています。北アメリカ大陸に留まったラクダ科の動物は、最終氷期が終わるころに絶滅しました。
ラクダ
ラクダ(駱駝、camel)はラクダ属(Camelus)の哺乳類の総称です。ラクダには家畜のヒトコブラクダ(一瘤駱駝、英名:dromedaryまたはArabian camel、学名:Camelus dromedarius)とフタコブラクダ(二瘤駱駝、英名:Bactrian camelまたはMongolian camel、学名:C. bactrianus)ならびに野生のフタコブラクダ(英名:wild Bactrian camel、学名:C. ferus)の3種が現存します。ヒトコブラクダの野生種はかつて西アジアと東アフリカに生息していたといわれています。ヒトコブラクダの家畜化は紀元前3,000年頃西アジアで行なわれ、その後野生種は絶滅したと考えられています。ヒトコブラクダはアフガニスタン、イラン、アラビア半島、アフリカならびにオーストラリアなどに分布しています。フタコブラクダは中央アジアにおいて紀元前2,500年頃家畜化されたと推測されています。野生および家畜のフタコブラクダはゲノム配列解析により43万年前頃に分岐したと推定されていることから、C. ferusはC. bactrianusの祖先ではないと考えられます。野生のフタコブラクダは中国北西部およびモンゴル南西部にわずか1,000~1,600頭しか存在せず、絶滅危惧種に指定されています。家畜のフタコブラクダはモンゴル、中国、カザフスタン、ロシアなどに分布しています。
ラクダの世界における飼養頭数は1961年に1,293万頭だったものが2018年には3,553万頭(表9-2)に増加しています。ヒトコブラクダの割合が圧倒的に多く、フタコブラクダは全ラクダのわずか3%に留まっています。主な飼養国はソマリア、スーダン、ケニア、ニジェール、チャド、モーリタニア、エチオピア、マリなどのアフリカ諸国やパキスタン、イエメン、アラブ首長国連邦、インド、モンゴル、中国、サウジアラビア、オマーンなどのアジア諸国です。
ウシと同じようにラクダも反芻動物ですが、ウシと異なり胃袋は3つであり、第三胃が単胃動物の胃に相当します。ラクダの背中の瘤には脂肪が貯蔵されており、ラクダにとってはエネルギー源としてだけでなく、砂漠地帯で直射日光を防ぐ断熱材としても役立っています。また、脂肪は代謝されて水(代謝水)を生じるので水の供給源としても役立ちます。ラクダは一度に80〜100リットル程の水を飲むそうで、その水は血液中に吸収されて貯蔵されます。通常血液中に大量の水が入ると浸透圧が低下し、赤血球が破裂(溶血)してしまいますが(これを水中毒といいます)、ラクダの赤血球は水を吸収して2倍程度に膨れ上がっても破裂しない構造になっています。そのようなわけでラクダは砂漠の中で1週間程度飲まず喰わずでも生きられるのです。
ラクダは人の騎乗や物資の運搬などのほか、肉やミルク、毛皮などの畜産物を得るために利用されています。ラクダ乳は生乳あるいは環境中の乳酸菌によって一晩発酵させた酸乳として利用されることが多いようですが、ヨーグルトやチーズ、粉乳、ミルクチョコレートの原料などとしても利用されています。
2018年における世界のラクダ乳生産量は314万トン(表9-2)と報告されており、そのうちのほとんど(91.6%)はアフリカ諸国で生産されています。
ラマ・アルパカ
ラマ属(Lama)の野生種グアナコ(英名:guanaco、学名:Lama guanicoe)とビクーニャ(英名:vicuna、学名:L. vicugna)は南米のペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチンにかけてのアンデス地域に分布しています。ラクダ属と異なりラマ属には背中に脂肪の瘤がありませんが、胃の数はラクダと同じで3つです。グアナコは海岸付近から標高5,600m付近まで移動できる能力があり、広域に生息していますが、ビクーニャはアンデス山脈の標高約3,500〜4,800mの高地の草原に生息しています。グアナコはビクーニャより体が大きく、体高はグアナコが100~120cm、ビクーニャが70~90cmであり、体重はグアナコが96~130kg、ビクーニャが40~55kgです。2010年~2012年の統計によると南米における生息数はグアナコが80.0万頭、ビクーニャが37.3万頭となっています。
紀元前4,000〜3,500年頃にペルーの中央アンデス付近で、グアナコからラマ(英名:llama、学名:Lama glama)が、ビクーニャからアルパカ(英名:alpaca、学名:L. pacos)がそれぞれ家畜化されたと推定されています。ラマはアルパカより体が大きく、体高はラマが109~119cm、アルパカが94~104cmであり、体重はラマが130~150kg、アルパカが50~65kgです。ラマにはカラ種やタンプリ種などの品種があり、カラ種は食肉・運搬用に、タンプリ種は毛用に利用されています。アルパカにはウアカヤ種とスリ種の2品種があり、両品種とも毛用に利用されています。家畜種のラマやアルパカの毛色は多様ですが、野生種のグアナコやビクーニャの毛色は均一です。ラマ属の4種の間では交雑が可能であり、ラマとアルパカの交雑種はワリ(wari)と呼称され、アルパカとビクーニャの交雑種はパコビクーニャ(pacovicuna)と呼称されています。
2010年~2012年の統計によると南米におけるラマの飼養頭数は439万頭であり、分布はボリビア67.8%、ペルー25.5%、アルゼンチン4.6%、チリ1.8%、エクアドル0.2%となっています。一方、アルパカの飼養頭数は362万頭であり、分布はペルー88.5%、ボリビア10.1%、チリ1.2%、エクアドル0.2%、アルゼンチン0.02%となっています。
トナカイ
トナカイ(英名:reindeer、学名:Rangifer tarandus)はシカ科トナカイ属(Rangifer)に属し、本種のみでトナカイ属が構成されています。アメリカ合衆国アラスカ州やカナダ、グリーンランド(デンマーク王国)、ノルウェー(スヴァールバル諸島を含む)、フィンランド、ロシアなどの北極圏周辺に生息し、北アメリカやグリーンランドではカリブー(caribou)とよばれています。トナカイには次の7亜種が知られています。
- マウンテントナカイ(mountain reindeer、R. t. tarandus): ノルウェーの北極ツンドラ地帯に生息
- フィンランドシンリントナカイ(Finnish forest reindeer、R. t. fennicus): フィンランドやロシア北西部の森林地帯に生息
- スヴァールバルトナカイ(Svalbard reindeer、R. t. platyrhynchus): ノルウェーのスヴァールバル諸島に生息(最小の亜種)
- バーレングランドカリブー(barren-ground caribou、R. t. groenlandicus): グリーンランド西部やカナダのヌナヴト準州とノースウエスト準州のツンドラ地帯(Barren Grounds)に生息
- シンリンカリブー(woodland caribou、R. t. caribou): カナダ南部やアメリカ北西部に生息(最大の亜種)
- ポーキュパインカリブー(Porcupine caribou、R. t. granti): アラスカやカナダのユーコン準州に生息(カナダのユーコン準州からアラスカにかけて流れるポーキュパイン川に由来)
- ピアリーカリブー(Peary caribou、R. t. pearyi): カナダのヌナブト準州とノースウエスト準州の島に生息(アメリカの北極探検家ロバート・ピアリーに因んで名付けられました)
シカの仲間は雄にだけ角が生えますが、トナカイは雌にも雄よりは小さい角が生えます。ウシ科の動物の角は生涯伸び続けますが、シカ科の動物の角は毎年抜け落ち生え変わります。余談ですが、日本に生息する特別天然記念物のニホンカモシカは、シカという名がついていますがシカの仲間ではなく、ヤギやヒツジと同じウシ科ヤギ族の仲間で、雌雄共に生涯伸び続ける角があります。
トナカイはユーラシア大陸北部で紀元前1,000年頃に家畜化されましたが、北アメリカ大陸のカリブーは近年まで家畜化されることはありませんでした。世界で約250万頭のトナカイが家畜として飼育されていると推計されています。また、北アメリカには3,000万頭以上のカリブーが生息していると推計されています。トナカイは肉やミルク、毛皮などが利用されるほか、人の乗用や荷物の運搬用にも利用されています。トナカイのミルクの脂質は22.5%、タンパク質は10.3%であり、シカのミルク(脂質:19.7%、タンパク質:10.4%)と同レベルですが、ウシのミルク(脂質:3.7%、タンパク質:3.4%)に比べると非常に高いことが知られています。
ブタ
イノシシ科はイノシシ属(Sus:イノシシを表すラテン語に由来)、イボイノシシ属(Phacochoerus)、カワイノシシ属(Potamochoerus)、モリイノシシ属(Hylochoerus)およびバビルサ属(Babyrousa)の5属から構成されています。イノシシ属はユーラシア大陸の北部を除くほぼ全域および日本、台湾、東南アジア島嶼(トウショ)域、アフリカ大陸北部などに広く分布しているのに対して、イボイノシシ属、カワイノシシ属、モリイノシシ属の3属はアフリカ大陸に、バビルサ属はインドネシアのスラウェシ島などに分布しています。
ペッカリー(鯨偶蹄目ペッカリー科の動物の総称)はイノシシ科の動物に似ていますが、この動物は中南米に分布しています。
イノシシ属は次の4種に分類されています。
- イノシシ(英名:wild pig or wild boar、学名:Sus scrofa): ユーラシア大陸の北部を除くほぼ全域およびアジア島嶼域、アフリカ大陸北部などに広く生息
- スンダイボイノシシ(Javan warty pig、S. verrucosus): ジャワ島、スラウェシ島、フィリピンなどに生息
- ボルネオヒゲイノシシ(Bornean bearded pig、S. barbatus): カリマンタン島(ボルネオ島)、スマトラ島、マレー半島などに生息
- コビトイノシシ(pygmy pig、S. salvanius): インドのマナス野生生物保護区にのみ生息(体重6〜10kg程度)
イノシシには日本に生息するニホンイノシシ(Sus scrofa leucomystax)やリュウキュウイノシシ(S. s. riukiuanus)など16亜種が確認されています。縄文時代にはイノシシはシカと並んで主要な狩猟対象でした。イノシシ肉を使った料理の「ぼたん鍋」は現在も郷土料理として珍重されています。
ブタ(豚、英名:pig、学名:Sus scrofa domesticus)はイノシシを家畜化したものであり、学名はイノシシの亜種になっています。イノシシは多産性(1回の出産で4〜5頭産む)であり、かつ雑食性であることから家畜化に適していたわけです。イノシシは上述したように地球上に広範囲に生息しており、家畜化は紀元前8,000年〜7,000年頃に中国や西アジアなどで多元的に始まったといわれています。現在も、地域により野生イノシシを捕獲して飼育・繁殖したり、イノシシとブタを交雑させたりしているところがあり、家畜化はまだ継続中と考えることができます。イノシシとブタを交配させて作る雑種第一代はイノブタとよばれています。
現在までに大・中ヨークシャー種やバークシャー種、デュロック種、ハンプシャー種、ランドレース種など様々な品種(400品種ほど)のブタが作られています。最近スーパーの肉売り場などでよく見かける三元豚とは3つの品種を掛け合わせたもので、ランドレースの雌と大ヨークシャーの雄を掛け合わせて生まれる交雑種の雌にデュロックの雄を交配したり、ランドレースの雌とデュロックの雄を掛け合わせて生まれる交雑種の雌にバークシャーの雄を交配したりして作られます。それぞれの品種の長所を合わせもつことにより肉質がよくなるだけでなく、多産で発育が早く、しかも病気にも強くなるというメリットが生じます。
ブタの妊娠期間は約114日と比較的短く、1回の出産で10数頭の子を産み、生後6〜7ヶ月で食肉にすることができます。また、体重を1kg増やすのに必要な穀物飼料は3〜4kgといわれています。従って、食肉生産としてブタは肉牛より経済性に優れています。
世界で食肉用に飼養されているブタ(飼育管理下のイノシシを含む)は2019年において8.50億頭(表9-2)と報告されており、主な飼養国は中国(36.5%)、アメリカ(9.3%)、ブラジル(4.8%)、スペイン(3.7%)、ドイツ(3.1%)、ロシア(2.8%)、ミャンマー(2.5%)などです。日本は916万頭で、17位にランクされています。2019年における世界の豚肉の生産量は1.10億トン(枝肉ベース)であり、主要な生産国は中国(38.6%)、アメリカ(11.4%)、ドイツ(4.8%)、スペイン(4.2%)、ブラジル(3.7%)、ロシア(3.6%)、ベトナム(3.0%)などです。日本は128万トンで17位にランクされています。
日本では縄文時代からイノシシはシカなどとともに狩猟対象にされ、食肉として利用されてきました。沖縄県嘉手納町の縄文遺跡野国貝塚から7,500~7,200年前のブタの骨が多数出土しており、これらのブタは中国大陸から持ち込まれ飼育されていたと考えられています。日本最古の弥生遺跡(水田遺跡)である佐賀県唐津市の菜畑遺跡(2章穀類「コメ①イネの歴史」を参照)からブタの骨が出土しており、弥生時代の始まりの頃にブタが水田稲作技術とともに大陸から九州にもたらされたと考えられています。大分市下郡桑苗遺跡、佐賀県吉野ヶ里遺跡、奈良県田原本町唐古遺跡など多くの弥生遺跡からもブタの骨が出土しており、弥生時代のブタは弥生ブタとよばれています。弥生ブタは食用のみならず農耕儀礼にも用いられたと考えられています。古墳時代の遺跡からもブタの骨は出土しています。奈良時代に編纂された「古事記」や「日本書紀」に「猪甘」や「猪飼」、「猪養」(何れもイカイと読みます)という記載があり、猪はブタを意味します。また、「万葉集」にも
♯203: 降る雪は あはにな降りそ 吉隠(よなばり)の 猪養の岡の 寒からまくに
という歌が詠まれています。このようにブタは弥生時代の初め頃から古墳時代を経て奈良時代にかけて飼育されていたことが窺えます。しかしながら、仏教の浸透とともに肉食は穢れとみなされ、ブタの飼育は次第に廃れていきました。
日本において養豚が一般農家に普及したのは明治維新以降です。明治初頭にイギリスから中ヨークシャーやバークシャーが輸入され、残飯などを主な飼料として飼われました。明治17年のブタの飼養頭数は25,982頭と記録されています。その後、少しずつ増加し、明治25年に6.7万頭、明治35年に21万頭、大正10年に50万頭、昭和10年に106万頭になり、昭和13年には太平洋戦争前のピークの114万頭に達しました。戦争により養豚は著しく衰退し、終戦翌年の昭和21年には9万頭まで激減しました。これはブタの飼料が人の食料と競合したことによります。しかし、戦後の復興に伴い養豚熱も復活し、昭和31年に飼養頭数は117万頭に達し戦前のピーク水準にまで回復しました。その後、養豚は急速に発展し、昭和37年に403万頭、昭和45年に634万頭となり、昭和56年には1,000万頭の大台を超え1,007万頭に達しました。平成元年に1,187万頭のピークを迎えると、それ以降は減少に転じ、平成8年には1,000万頭を割り990万頭になりました。その後も減少傾向は続き、令和3年2月1日現在において929万頭が飼養されています。主要な飼養地は鹿児島県(13.3%)、宮崎県(8.6%)、北海道(7.8%)、群馬県(6.9%)、千葉県(6.6%)、茨城県(5.5%)、岩手県(5.2%)などです。
令和2年度の日本におけるブタのと畜頭数は1,676万頭であり、豚肉生産量は91.7万トン(部分肉ベース)です。一方、豚肉の輸入量は88.4万トン(部分肉換算値)であり、豚肉の自給率は50.9%です。主な輸入先はアメリカ(28.3%)、カナダ(26.6%)、メキシコ(11.9%)、スペイン(11.2%)、デンマーク(8.4%)などです。豚肉は精肉(後述する「食肉」を参照)の他、ハムやソーセージ、ウインナーなどの加工品にも利用されます。
ウマ属の家畜
家畜のウマとロバは奇蹄目ウマ科ウマ属(Equus)に属します。奇蹄目には絶滅した科が多く、現存するのはウマ科、サイ科、バク科のみです。脚に奇数本の指をもつ場合が多く、ウマでは1本、サイでは3本、バクでは前脚が4本、後脚が3本です。ウマの祖先は5本の指をもっていましたが、進化の過程で第3指が発達し、他の指は退化しています。現存するウマ科はウマ属のみで構成され、ウマ属にはウマ、ロバ、シマウマが含まれます。シマウマは家畜化されていません。
ウマやロバ、シマウマは反芻動物ではなく、胃袋は1つしかありません。反芻動物の反芻胃に相当する機能を担っている消化器官は非常に発達した盲腸と結腸であり、そこでは微生物による植物繊維の分解と発酵が行われ、揮発性脂肪酸が産生・吸収されています。揮発性脂肪酸は反芻動物と同じようにエネルギー源として用いられたり、脂質や糖質などの生合成に用いられたりします。
ウマ科の最古の祖先であるエオヒップスEohippus(“-hippus”はウマを表すギリシャ語hipposに由来。別名:ヒラコテリウムHyracotherium)は今から約5,200万年以上前に北アメリカ大陸に存在しており、その後、ウマの祖先は主に北米で進化したといわれています。約3,500万年前にメソヒップスMesohippusに、約1,000万年前にディノヒップスDinohippusに進化しました。ディノヒップスはカナダのアルバータ州から米国のフロリダ州あるいは中米のパナマまで北米大陸に広く分布していたと考えられています。エオヒップスは前脚に4本、後脚に3本の指をもっていましたが、メソヒップスでは前・後脚の指は3本になっており、ディノヒップスでは前・後脚とも1本指(3本指のものもあるといわれています)になっています。
ウマ属(Equus)は北米でディノヒップスから進化しました。最も古いウマ属はアイダホ州のヘイガーマンHagermanという町で発見されたヘイガーマンホースHagerman horseとよばれるEquus simplicidensで、約350万年前に出現したとされています。Hagerman horseはHagerman zebraあるいはAmerican zebraともよばれており、シマウマに似ているようです。現存するウマ属のウマ、ロバ、シマウマは共通祖先から進化していますが、ゲノム解析からシマウマはウマよりロバと近縁で、ウマとロバ/シマウマが今から約400〜450万年前に分岐した後、ロバとシマウマは約280〜310万年前に分岐したと推定されています。西ユーラシアでは約250万年前にEquus stenonisというシマウマの仲間が現れています。約70万年前に北米に現れたウマの仲間のEquus scottiはベーリング地峡を通ってユーラシアに渡り、約30万年前にはフランスやイギリスに分布しており、後述するターパンにつながったと考えられます。北アメリカのE. scottiは最終氷期の終わり頃(約12,000〜11,000年前)に絶滅しています。
約410〜570万年前にウマ属から分岐したハリントンヒップス属(Haringtonhippus)が北米のアラスカからメキシコにかけて広く分布していました。この属はH. francisciの1種のみで構成されていますが、H. francisciはE. scottiと同様に最終氷期の末期頃に絶滅したといわれています。このようにウマの仲間は最終氷期の末に北米から姿を消していますが、これには気候変動やヒトによる狩猟が関わっていると考えられています。現在、北米にはマスタングとよばれる野生馬がいますが、これはスペイン人によりヨーロッパから持込まれたアンダルシアンなどが野生化したものです。
現存するウマには1種2亜種(家畜ウマとモウコノウマ)、ロバにはアフリカノロバ、アジアノロバ、チベットノロバの3種、シマウマにはヤマシマウマ、サバンナシマウマ、グレビーシマウマの3種がいます。
ウマ
①世界のウマ
ウマ(馬、英名:horse、学名:Equus ferus caballus)の祖先はターパン(tarpan、Equus ferus ferus)と考えられています。ターパンはすでに絶滅しています。フランスのショーヴェ洞窟(約32,000年前)やラスコー洞窟(約15,000年前)あるいはスペインのアルタミラ洞窟(約18,000年前)などの壁画には、ターパンと思われるウマが描かれています。また、約25,000年前のフランスのソリュートレ遺跡からは5〜10万頭のウマの骨が出土しています。これらの遺跡から、ウマを家畜化する遥か前からヒトはウマを食料として利用していたことが窺えます。
現在発見されている家畜化されたウマで最も古いものは紀元前3,500年頃のカザフスタン北部のボタイ(Botai)遺跡から発掘されたボタイウマです。このウマの臼歯には馬勒(バロク)の装着痕が見つかっており、おそらく騎乗に利用されていたと思われます。また、この遺跡で見つかった陶器のかけらから馬乳の脂肪酸が検出されており、搾乳も行なわれていたと思われます。モウコノウマ(蒙古野馬、別名:プルツェワルスキーホース、英名:Przewalski horse、学名:Equus ferus przewalskii)は1879年にロシアの探検家ニコライ・プルツェワルスキーによりモンゴルで発見され、一時は現存する唯一の野生馬と考えられていましたが、最近のゲノム研究によりボタイウマの子孫が再野生化したものであることが明らかになりました。現在世界中で飼養されているウマの系統はボタイウマの系統とはかけ離れており、これら2つの系統は3.8〜7.2万年前に分岐したと推定されています。ボタイウマの系統とは異なる現代のウマの系統が、いつ頃どこで家畜化されたかは未だ明らかになっていません。
ウマは当初、農耕や運搬あるいは食糧として利用されていましたが、やがて走る能力の高さから軍事用に利用されるようになりました。紀元前9世紀頃〜紀元後4世紀頃に馬を移動手段として現在のウクライナからカザフスタンにかけてスキタイという騎馬民族国家が繁栄しました。また、紀元前4世紀頃〜紀元後5世紀頃にモンゴル高原に匈奴(キョウド)という騎馬民族国家が繁栄しました。スキタイや匈奴は鉄製武器を携えており、スキタイはマケドニアやペルシアにとって、匈奴は中国の漢にとって非常に大きな脅威となっていました。13世紀初めにモンゴル高原にチンギス・ハンが興したモンゴル帝国は強大な軍馬・騎兵を擁し、東は中国・朝鮮から西は東ヨーロッパまでを勢力圏に治めました。モンゴル帝国(元朝)が鎌倉時代に2度にわたり日本を襲来しましたが、これは元寇とよばれています。ウマは世界中で幾多の戦争において軍馬として利用されてきましたが、第二次世界大戦以降その利用価値は一変し、娯楽(乗馬クラブや競馬)や医療(ホースセラピー)などのために利用されています。
家畜ウマは軽種(アラブやカマルグ、アンダルシアン、サラブレッドなど)、重種(ペルシュロンやシャイヤ、ブルトン、ベルジアンなど)、ポニー(アイリッシュポニーやシェトランドポニー、ウェルシュポニー、ファラベラなど)などに分類されます。2018年における世界のウマ飼養頭数は5,778万頭と報告されており、主な飼養国はアメリカ(18.1%)、メキシコ(11.1%)、ブラジル(10.0%)、中国(6.0%)、アルゼンチン(4.5%)、ロシア(2.1%)などです。
②日本のウマ
日本にウマが渡来したのはウシとほぼ同じで古墳時代だと考えられており、多くの古墳から馬形埴輪や馬具が出土しています。「日本書紀」には顕宗天皇2年(486年)10月条に「天下安平、徭役(ヨウエキ)なく、歳比登稔し、百姓は富み、馬は野にはびこった」と記載されており、5世紀後半にはかなりの数のウマが飼養されていたと思われます。飛鳥時代(592〜710年)には各地に馬牧が開設され、ウマが放牧されていました。文武天皇(在位:697〜707年)の勅旨(700年)により勅旨牧(チョクシマキ)がおかれ、そこで生産されたウマは貢馬(クメ)として朝廷に貢進されました。文武天皇の御代においては、大宝元年(701年)に「大宝律令」が制定され、令制国(別名:律令国)68ヶ国が設置されています。勅旨牧は御牧(ミマキ)ともよばれました。その他の官牧として諸国牧(ショコクマキ)や近都牧(キントマキ)がおかれました。「ウシ②日本のウシ」のところで述べたように平安時代に編纂された「延喜式」(927年)には3つの官牧である御牧、諸国牧、近都牧に関する記載があります。左右馬寮直轄の御牧は甲斐国・武蔵国・信濃国・上野国の4ヶ国に32ヶ所おかれました。兵部省が管轄する諸国牧は、畿内から離れた駿河国・相模国・武蔵国・安房国・上総国・下総国・常陸国・下野国・伯耆国・備前国・周防国・長門国・伊予国・土佐国・肥前国・肥後国・日向国の17ヶ国に25馬牧ならびに3馬牛牧がおかれ、ウマの飼養管理が諸国の国司により行なわれました。諸国牧から兵部省に貢上されたウマは左右馬寮の所轄である近都牧(都に近い摂津国・近江国・丹波国・播磨国に6牧がおかれていました)において放牧され、年中行事の諸祭や天皇の行幸などに用いられました。御牧、諸国牧、近都牧のいわゆる官牧は関東以西の国におかれており、東北地方の陸奥国や出羽国にはおかれませんでした。
官牧以外に私牧があり、とくに東北地方には多数の私牧がありました。平安時代の「後撰和歌集」(955年頃)や「蜻蛉日記」(974年前後)、「御拾遺和歌集」(1086年)などに“陸奥の尾駮(オブチ)の駒”の歌が多数詠まれています。
後撰和歌集: 陸奥の 尾駮の駒も 野飼ふには 荒れこそまされ なつくものかは
蜻蛉日記: われが名を 尾駮の駒の あればこそ なつくにつかぬ 身とも知られめ
御拾遺和歌集: 綱たへて はなれはてにし 陸奥の 尾駮の駒を 昨日見しかな
この尾駮駒は東北地方の陸奥国にあった尾駮牧(青森県六ヶ所村にあったようです)で産出される駿馬で、京の都で人気を博していたようです。
前九年合戦(1051〜1062年)と後三年合戦(1083〜1087年)の間の延久2年(1070年)に東北北部で起こった北奥合戦(延久蝦夷合戦ともよばれます)により、出羽国の北部と陸奥国の北部が日本国に完全に組み込まれました。この合戦の後、閉伊・久慈・鹿角・比内の諸郡や津軽諸郡(平賀・鼻和・田舎)、宇曾利郷、糠部(ヌカノブ:現在の岩手県北部から青森県東部)の一戸・二戸・三戸・四戸・五戸・六戸・七戸・八戸・九戸ならびに東・西・南・北の四門(九戸四門の制)という行政区画がおかれました。一戸から九戸の地名は四戸を除き現在も残っています。ところで糠部の地名が記録として現れるのは、「吾妻鏡(東鑑)」の文治5年(1189年)9月17日条に平泉毛越寺の事として「藤原基衡が毛越寺建立(1150〜1156年)にあたり、糠部の駿馬50疋を功物として仏師雲慶に与えた」とあるのが最初といわれています。同じく「吾妻鏡」の文治5年9月3日条に「藤原泰衡が夷狄嶋(北海道)を差し、糟部(カスベ)郡に赴く」とあり、糟は糠の誤り、あるいは糟と糠は同義語であるとの見解があります。したがって、文治5年には糠部という地名があり、糠部郡が建置されていたと考えられています。
糠部は馬産地として有名で多くの駿馬を産出しています。平安時代後期、糠部のそれぞれの戸で産出された馬を戸立(ヘダチ)とよんでおり、一戸立は一戸産の糠部駿馬、二戸立は二戸産の糠部駿馬を意味し珍重されていました。糠部駿馬のエピソードが「源平盛衰記」に記されており、寿永3年(1184年)正月20日の宇治川の戦いで先陣争いを演じた佐々木高綱の愛馬生咬(イケズキ)は七戸立、梶原景季の愛馬磨墨(スルスミ)は三戸立であり、また、同年2月7日一ノ谷の戦いで活躍した熊谷直実の愛馬権太栗毛は一戸立、替馬の西楼は三戸立であったといわれています。
江戸時代の1821〜1842年に国学者屋代弘賢により編集された「古今要覧稿」によれば、室町時代の永正5年(1508年)「馬焼印図」に糠部郡九ヶ之部(一戸から九戸)の焼印について記されており、それぞれの戸で生産された馬が異なる焼印により区別されていたということです。銘柄や商標をブランドbrandといいますが、brandには焼印という意味もあり、その語源はburnedです。焼印を押して自分の家畜と他人の家畜を区別していたことに由来します。
御牧がおかれていた甲斐国の南部牧(官牧ではなく私牧でした)の牧士(モクシ)であった南部光行(甲斐源氏の血筋)は、奥州平泉藤原氏討伐(1189年)での功績により源頼朝から陸奥国糠部を拝領し、奥州産馬の歴史と広大な牧を有する糠部で5人の子とともに牧場経営に当たったといわれています(一戸に長男行朝、三戸に次男実光、四戸に五男宗朝、七戸に四男朝清、九戸に六男行連がそれぞれ配置されました)。南部光行は奥州南部氏(三戸南部氏)の始祖であり、後の盛岡藩(別名:南部藩)に繋がっていきます。光行の三男実長も後に八戸南部氏の祖となっています。
江戸時代の1613年から1646年にかけて盛岡藩に南部九牧とよばれる放牧地が大間、奥戸、有戸、木崎、又重、住谷、相内、北、三崎に開設され、これらの牧で生産されるウマは南部馬として知られるようになります。
明治7年3月31日に明治政府の陸軍省に軍馬局が設置され、軍馬の供給・育成および購買並びに軍馬資源の調査が管掌されました。軍馬局はその後、軍馬育成所、軍馬補充署を経て明治29年5月9日に軍馬補充部に改称されました。軍馬補充部の本部は東京におかれ、全国各地に支部(北海道の釧路支部や十勝支部、青森県の三本木支部、宮城県の鍛冶谷沢支部、福島県の白河支部、兵庫県の青野支部など)がおかれました。
明治11年から大正末期にかけてウマの飼養頭数は150万頭前後で推移しました(但し、日露戦争の影響で明治37・38年には138万頭に減少)。日清・日露戦争において在来馬が軍馬として不適であることが実戦上で認識されたことを契機として、明治末期から大正期にかけて西洋種を導入した馬匹改良が急速に進展しました。総ウマ数に占める和種の割合は明治37年に92.7%でしたが、大正3年には68.3%、大正13年には16.5%に減少し、大正13年の雑種の割合は82.1%となりました。上述した南部馬は雑種化が進み、いなくなってしまいました。現存する在来馬(和種)としては北海道和種馬(道産子)、木曽馬(長野県)、対州馬(長崎県)、野間馬(愛媛県)、御崎馬(宮崎県)、トカラ馬(鹿児島県)、宮古馬(沖縄県)、与那国馬(沖縄県)の8種のみとなっています。
ウマの飼養頭数は昭和の初期までは150万頭台を維持しましたが、その後は減少に転じ、昭和10年に140万頭、太平洋戦争終結の昭和20年には110万頭となりました。昭和20年11月に陸軍省廃止とともに軍馬補充部は解体されました。戦後も飼養頭数は減少の一途をたどり、昭和40年には30万頭、昭和50年にはついに10万頭を下回りましたが、昭和51年から昭和の末までは9万頭前後で推移しました。平成に入るとやや増加に転じ、平成5〜7年には12万頭を超えましたが、その後は再び減少に転じています。
平成31(令和元)年に日本で飼養されたウマの頭数は78,247頭と報告されており、主に北海道(43.6%)、熊本県(7.6%)、茨城県(5.7%)、滋賀県(4.5%)、千葉県(2.9%)、兵庫県(2.7%)、青森県(2.19%)、神奈川県(2.19%)などで飼養されています。飼養されているウマの種類別では軽種馬が44,207頭で最も多く、農用馬が5,062頭、在来馬が1,574頭、小格馬(ポニーなど)が414頭となっています。在来馬を馬種別にみると北海道和種馬が954頭、木曽馬が142頭、野間馬が52頭、対州馬が39頭、御崎馬が118頭、トカラ馬が111頭、宮古馬が48頭、与那国馬が110頭となっています。
日本では馬肉は牛肉や豚肉などに比べて脂肪が少なくヘルシーなお肉として人気があり、馬刺しや鍋料理(「桜鍋」と称されます)などとして食べられています。平成31(令和元)年に日本でと殺された馬の頭数は10,297頭であり、馬肉生産量は4,102トン(枝肉ベース)です。馬肉の主な生産地は熊本県(42.1%)、福島県(20.2%)、青森県(11.7%)、福岡県(10.7%)、山梨県(4.9%)などです。同年の馬肉輸入量は8,972トン(枝肉換算値)であり、馬肉の自給率は31.4%です。馬肉の主な輸入先はカナダ(48.6%)、アルゼンチン(17.8%)、ポーランド(13.5%)、メキシコ(10.1%)、ブラジル(4.4%)などです。また、食肉を目的として平成31(令和元)年度にカナダから2,999頭、フランスから952頭の馬が輸入されています。
ロバ
野生のロバ(ノロバ)には次の3種がいます。
- アフリカノロバ(African wild ass、Equus africanus): アフリカ北東部のエチオピアやソマリアなどに生息し、ヌビアノロバ(Nubian wild ass、E. a. africanus)とソマリノロバ(Somali wild ass、E. a. somaliensis)の2亜種が存在
- アジアノロバ(Asian wild ass、E. hemionus): インド北西部、イラン、中国北部、トルクメニスタン、モンゴル南部などに生息
- チベットノロバ(Kiang、E. kiang): チベット高原に生息
家畜ロバ(驢馬、英名:donkey、学名:Equus africanus asinus)は紀元前3,000年頃にエジプトでアフリカノロバのヌビアノロバおよびソマリノロバを家畜化したものといわれています。ロバはウマよりも強健で粗食に耐えることができ、また、管理がしやすいといわれています。2012年の世界のロバ飼養頭数は約4,400万頭であり、そのうちアフリカが約44.4%、アジアが約38.9%を占めています。ロバは乗用や使役用、食肉用に利用されています。
雄のロバと雌のウマの交雑種はラバ(騾馬、mule)、また、逆の組み合わせで雌のロバと雄のウマの交雑種はケッテイ(駃騠、hinny)とよばれています。ラバもケッテイも不妊です。
食肉
家畜はと畜場においてと殺・解体され、血液、皮、頭、尾、内臓、四肢の先端などが取り除かれて枝肉(腎臓はついたまま)ができます。枝肉は通常背骨で左右に2分割されます。枝肉の歩留まり率(枝肉重量/生体重量×100)はウシの場合で約63%、ブタの場合で約70%です。
枝肉を分割して骨と余分な脂肪などを除去して整形したものが部分肉です。部分肉の歩留まり率(部分肉重量/枝肉重量×100)は牛肉で約71%、豚肉で約70%です。
精肉は部分肉から筋(スジ)や余分な脂肪、くず肉などを除去し、切り身、スライス、ミンチにしたものです。精肉の歩留まり率(精肉重量/部分肉重量×100)は牛肉、豚肉ともに約90%です。精肉の生体からの歩留まり率は牛肉で約40%、豚肉で約44%であり、700kgの牛生体からは約280kgの精肉が得られ、100kgの豚生体からは約44kgの精肉が得られる計算になります。
農林水産省の「食肉小売品質基準」により、牛肉はネック、かた、かたロース、リブロース、サーロイン、ヒレ、ばら、もも、そともも、らんぷ、すねの11の部位に分けられ、豚肉はネック、かた、かたロース、ロース、ヒレ、ばら、もも、そとももの8つの部位に分けられています。
と殺したウシやブタを解体・処理する過程で得られる血液、皮、頭、尾、骨、内臓などを畜産副産物とよび、そのうち皮以外の部分を総称して畜産副生物とよんでいます。牛の畜産副生物としては、ホホニク(頬肉)、タン(舌)、ハツ(心臓)、ハラミ(横隔膜)、レバー(肝臓)、ミノ(第一胃)、ハチノス(第二胃)、センマイ(第三胃)、ギアラ(第四胃)、ヒモ(小腸)、アキレス(アキレス腱)などが食用に供されます。豚の畜産副生物としては、カシラニク(頭肉)、ミミ(耳)、タン(舌)、ハツ(心臓)、ハラミ(横隔膜)、レバー(肝臓)、ガツ(胃)、ヒモ(小腸)、コブクロ(子宮)、トンソク(足)などが食用に供されます。皮や血液などは加工されて皮革製品や飼料などになります。乳と乳製品
哺乳類は地球上に約4,500種存在しているといわれており、その大きな特徴は子どもが乳(ミルク)で育てられることです。ミルクは脂質、タンパク質、糖質、ビタミンおよびミネラルの五大栄養素を含み、残りは水分です。水分以外を乳固形分といい、乳脂肪分と無脂乳固形分(タンパク質、糖質、ミネラルなど)に分けられます。ミルクに含まれる糖質としては、グルコースとガラクトースから構成される二糖の乳糖(ラクトース)が一般的に知られています。乳糖は同じ二糖のショ糖と比べると甘みが弱く、ショ糖の甘味度を1.00とすると乳糖は0.20程度であるといわれています(7章甘味料「甘味物質と甘味度」を参照)。
人類は家畜のミルクを直接飲料として利用するだけでなく、乳製品(ヨーグルト、クリーム、バター、チーズ、脱脂粉乳など)に加工して利用します。
①乳成分
家畜の乳成分含量は種により大きく異なります(表9-3)。例えば、脂質やタンパク質の含量はトナカイで高く、ウマやロバでは低いことが分かります。ヒツジやスイギュウの脂質含量はウシの約2倍です。ラマの脂質含量は低いですが、タンパク質含量は比較的高いです。乳糖含量はラマやウマ、ロバが比較的高値を示し、トナカイが最も低い値を示します。
ミルクには乳糖以外にミルクオリゴ糖とよばれる多くの種類のオリゴ糖が存在しています。牛乳の糖質の大部分は乳糖が占め(約48g/l)、ミルクオリゴ糖はごく少量(0.06〜0.46g/l)しか含まれていません。人乳の乳糖含量は約70g/l、ミルクオリゴ糖は12〜13g/lと報告されており、人乳にはかなりの量のミルクオリゴ糖が含まれていることが分かります。ヒトミルクオリゴ糖には乳児腸管内でのビフィズス菌の増殖・定着促進作用や病原菌に対する腸管付着阻害作用などの機能性が認められています。
家畜の中でウシのミルクが最も多く生産されていますので牛乳の脂肪とタンパク質について以下に説明します。搾ったばかりの牛乳中の脂肪は直径0.1〜10μmの脂肪球として存在しています。脂肪球はトリグリセリドを内側に、リン脂質やコレステロール、脂溶性ビタミン等を表面にもち、その周りを、タンパク質を主成分とする膜(脂肪球皮膜)が包んだ構造をしています。搾りたての牛乳を加工しないで静置すると、やがて脂肪球は液面に浮かんでクリームとして分離します。しかしながら、市販の牛乳は脂肪球の直径が2μm以下に均質化されているので脂肪がクリームとして分離することはありません。
牛乳タンパク質の約80%を占めるカゼインにはαs1-、αs2-、β-およびκ-カゼインの4種類があります。いずれもリン酸化されたセリンというアミノ酸残基をもっており、このリン酸基にカルシウムイオンCa2+が結合しています。Ca2+を結合したこれらのカゼインはカゼインミセルとして存在しています。ミルクが白色不透明に見えるのはカゼインミセルおよび脂肪球が光を乱反射するためです。
チーズを作る際にカゼインの固形物から分離する液体、あるいはヨーグルトを静置しておくと上部に溜まる液体を乳清(またはホエイ)とよびます。乳清はミルクから脂肪およびカゼインを除いた後の液体のことです。乳清に含まれるカゼイン以外の水溶性タンパク質は乳清タンパク質とよばれ、αラクトアルブミン、βラクトグロブリン、免疫グロブリン(抗体のことです)、血清アルブミン、ラクトフェリン、トランスフェリンなどが含まれています。
②生乳と牛乳
「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(通称・略称:乳等省令)」によると、乳とは生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳及び加工乳をいうと定められています。本書では生乳、牛乳、特別牛乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳について簡単に説明します。
- 生乳:搾取したままの牛の乳
- 牛乳:直接飲用に供する目的又はこれを原料とした食品の製造若しくは加工の用に供する目的で販売する牛の乳。保持式により63℃で30分間加熱殺菌するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌すること。無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分3.0%以上
- 特別牛乳:特別牛乳搾取処理業の許可を受けた施設で搾取した生乳を処理して製造。殺菌する場合は保持式により63℃から65℃までの間で30分間加熱殺菌すること。無脂乳固形分8.5%以上、乳脂肪分3.3%以上
- 成分調整牛乳:生乳から乳脂肪分その他の成分の一部を除去したもの。殺菌は牛乳の例による。無脂乳固形分8.0%以上
- 低脂肪牛乳:成分調整牛乳であつて、乳脂肪分を除去したもののうち、無脂肪牛乳以外のもの。殺菌は牛乳の例による。無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分0.5%以上、1.5%以下
- 無脂肪牛乳:成分調整牛乳であつて、ほとんどすべての乳脂肪分を除去したもの。殺菌は牛乳の例による。無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分0.5%未満
③乳糖不耐症
乳糖は乳児期の主な糖質栄養分であり、小腸粘膜の上皮細胞に存在するラクターゼという酵素によりグルコースとガラクトースに分解されて吸収されます。離乳によりミルクを飲まなくなると、この酵素の活性は出生時の5〜10%ほどに低下します。そのような状況で乳糖を摂取すると、小腸に蓄積して腸内細菌により利用されるようになり、その結果、水素ガスやメタンガス、有機酸が生成され、鼓腸や下痢などの消化障害を引き起こします。これを乳糖不耐症といい、ヒトでもほかの哺乳動物でも見られます。授乳期を過ぎても牛乳などを継続して飲み続ければラクターゼ活性の低下が抑えられ、乳糖耐性を維持できる場合があります。しかしながら、成人して牛乳を飲まなくなると多くのヒトは乳糖不耐症になり、その発生頻度はアジアでは95%以上に上るといわれています。一方、成人しても牛乳を飲み続ける習慣のある北ヨーロッパの人々には乳糖耐性の人が多いことが知られています。
先天的にラクターゼの欠損した乳児は一次性乳糖不耐症になります。また、乳児がウイルスや細菌による腸炎に罹ると、腸粘膜が傷害されてラクターゼ活性が低下し二次性乳糖不耐症になります。これらの乳糖不耐症の乳児には母乳とともに乳糖分解酵素製剤を経口投与したり、母乳の代わりに乳糖不耐症乳児向けの特殊なミルクを与えたりして対処されます。成人して乳糖不耐症になった場合には、生乳を飲まないようにするか、あるいは飲む量を少なくしたり、ヨーグルトやチーズなど乳糖が微生物で分解された乳製品を摂取したりすれば消化障害を回避できます。
④乳製品とは?
乳等省令によると、乳製品とはクリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、調製液状乳、発酵乳、乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%以上を含むものに限る)及び乳飲料をいうと定められています。
以下にクリーム、バター、チーズ、全粉乳、脱脂粉乳、発酵乳について説明します。
⑤クリーム
乳等省令によると、クリームは生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したもので、乳脂肪分は18.0%以上と定められています。一般的に生クリームとよばれています。用途による分類では、乳脂肪分30〜48%のヘビークリームはホイップ用、18〜30%のライトクリームはコーヒー用に分類されています。
⑥バター
乳等省令によると、バターは生乳、牛乳又は特別牛乳から得られた脂肪粒を練圧したもので、乳脂肪分は80.0%以上、水分は17.0%以下と定められています。バターは上述したクリームから作られます。クリームを激しく撹拌すると、脂肪球同士が衝突して脂肪球皮膜が破れ、脂肪が凝集してできるものが脂肪粒(バター粒)です。脂肪粒から分離した脂肪球皮膜を含む液体はバターミルクとよばれます。
バターは植物油から作られるマーガリン(4章植物油「マーガリン」を参照)と並んで家庭でもよく利用される油脂食品です。バター100gを得るには原料の生乳が約5リットル必要といわれています。バターは脂溶性のビタミンAが豊富です。バターには様々な種類の脂肪酸が含まれていますが、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸の4種で総脂肪酸の約75%を占めています。融点の高い脂肪酸が多く含まれているので冷蔵庫で冷やせば非常に固くなります(4章植物油「表4-3 主な脂肪酸の性状」を参照)。
バターは家庭でも容易に作ることができます。市販の無添加生クリーム(乳脂肪分35〜40%で、乳化剤や安定化剤を含まないものがよい)をペットボトルに入れて5〜10分間シェイクし、脂肪同士をくっつけて塊を作ります。脂肪の塊(脂肪粒)ができると水分(バターミルク)が分離しますので、これを除きます。ペットボトルをハサミで切り、脂肪塊を取り出し、食塩を2%程度になるように加えて混ぜればできあがりです(これは有塩バターとよばれます)。
塩を加えない無塩バター(正式には食塩不使用バターというようです)が市販されていますが、これはお菓子やケーキを作るのによく使われます。原料乳を乳酸発酵させてから作る発酵バターは日本ではほとんど流通していないようですが、ヨーロッパでは主流のようです。
⑦チーズ
本章「ヤギ」のところで述べたように、南東アナトリアの遺跡から紀元前6千年紀後半期にチーズ製造に用いられたと考えられる土器が出土しています。また、考古学的研究により紀元前6千年紀にポーランドでチーズ作りが行なわれていたという証拠が素焼き土器片から発見されています。
乳等省令によると、チーズとはナチュラルチーズ及びプロセスチーズをいいます。ナチュラルチーズとは、⑴乳、バターミルク(バターを製造する際に生じた脂肪粒以外の部分をいう)、クリーム又はこれらを混合したもののほとんどすべて又は一部のタンパク質を酵素その他の凝固剤により凝固させた凝乳から乳清の一部を除去したもの又はこれらを熟成したもの、あるいは、⑵乳等を原料として、タンパク質の凝固作用を含む製造技術を用いて製造したものであって、⑴に掲げるものと同様の化学的、物理的及び官能的特性を有するものと定められています。また、プロセスチーズとはナチュラルチーズを粉砕し、加熱溶融し、乳化したものと定められています。加熱溶解させることで発酵を止め長期保存に適した状態にすることができます。
もう少し具体的に説明すると、チーズはミルクタンパク質のカゼインが凝固したものです。製造工程において乳酸菌を用いる点はヨーグルトと共通していますが、異なる点はレンネットとよばれる凝乳酵素(実体はタンパク質分解酵素です)を加えることです。ウシやヤギ、ヒツジの哺乳期間中の第四胃に存在するキモシン(レンニンともよばれます)が従来レンネットとして用いられてきましたが、最近では微生物レンネットや遺伝子組換えレンネット(牛キモシンを微生物に作らせたもの)が利用されています。カゼインミセルの表面には糖鎖をもつκ-カゼインが局在し、その負電荷を帯びた親水性部分が露出しているためミセル同士は電気的に反発して水によく分散しています。レンネットがκ-カゼインを特異的に分解すると親水性部分が遊離します。その結果、カゼインミセル間の反発力が弱まり、カゼインが脂肪球とともに凝集してカードとよばれる凝固物ができます。
出来上がったカードがチーズの原形となり、その後熟成工程を経て様々な種類のチーズが作られます。熟成させない場合はモッツァレラチーズなどのフレッシュチーズになります。カードは型枠に入れて固め、塩をすり込んだり、塩水に漬けたりして加塩した後、冷暗所において熟成させます。チーズによっては表面に白カビを植えつけたり(カマンベールチーズ)、内部に青カビを植えつけたり(ブルーチーズ)して熟成させるものもあります。ヨーロッパの国々では古くからチーズ作りは家庭の主婦の重要な仕事の1つと考えられていたようです。チーズの女王ともよばれるフランスのカマンベールチーズはノルマンディー地方のカマンベール村の農婦マリー・アレルにより1791年頃作られたと伝えられています。
先にポーランドで紀元前6千年紀のチーズ作りの証拠が発見されたと書きましたが、これは山羊乳を原料としたものです。ポーランドでは現在でも多くの種類の山羊乳チーズ(シェーブルチーズとよばれています)が作られています。世界において、チーズは牛乳、山羊乳、めん羊乳のみならず水牛乳や馬乳、ラクダ乳などからも作られています。
⑧全粉乳
乳等省令によると、全粉乳とは生乳、牛乳又は特別牛乳からほとんどすべての水分を除去し、粉末状にしたもので、乳固形分は95.0%以上(うち乳脂肪分25.0%以上)、水分は5.0%以下と定められています。
⑨脱脂粉乳
乳等省令によると、脱脂粉乳とは生乳、牛乳又は特別牛乳の乳脂肪分を除去したものからほとんどすべての水分を除去し、粉末状にしたもので、乳固形分は95.0%以上、水分は5.0%以下と定められています。
⑩発酵乳
乳等省令によると、発酵乳とは乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したもので、無脂乳固形分は8.0%以上と定められています。
酵母で発酵させるとエタノール(エチルアルコール)が産生されるので乳酒とよばれます。但し、乳酸発酵も同時進行し、乳酸も産生されるので酸味を呈します。モンゴルなどでは馬乳酒がよく飲まれていますが、アルコール濃度は1〜1.5%程度と低いようです。
ヨーグルトはウシやスイギュウ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ラクダなどのミルクを乳酸菌で発酵させて作る発酵乳のことです。乳酸菌は代謝により乳酸を生成する多くの属・種の細菌の総称で、ラクトバチルス属(Lactobacillus)やビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)などの細菌を含みます。国際規格では「ヨーグルトは加熱殺菌したミルクにブルガリア菌(Lactobacillus bulgaricus)とサーモフィラス菌(Streptococcus thermophillus)という2種類の乳酸菌をスターターとして加えて発酵させて作る」と定められていますが、実際には、これら2種類だけでなく、ビフィズス菌(これはビフィドバクテリウム属の細菌の総称です)やガセリ菌(Lactobacillus gasseri)など他の乳酸菌が用いられたり、ブルガリア菌のみが用いられたりしており、ヨーグルトの製造方法は一様ではありません。
ヨーグルトの歴史は人類が西南アジアにおいてヤギやヒツジ、ウシなどを家畜化したことに端を発しています。つまり、これらの家畜が出産し、得られたミルクを容器に入れて放置しておいたら空気中の乳酸菌が混入してミルク中の乳糖から乳酸が産生され、その結果、ミルクが凝固したことが起源といわれています。ミルクタンパク質のカゼインは、乳酸によりミルクのpHが低下して酸性になるとゲル化するという性質があり、これがヨーグルトの実体です。英語のヨーグルトyogurtの語源はトルコ語のヨウルトに由来するといわれています。
⑪プロバイオティクスとプレバイオティクス
動物の腸内には非常に多くの種類の細菌が多数住みついて腸内細菌叢(腸内フローラともいいます)を形成しています。上述したヨーグルト作りに使用されているビフィズス菌やガセリ菌は通常それぞれヒトの大腸と小腸に主に生息している善玉菌であり、プロバイオティクスとよばれています。プロバイオティクスとは「腸内フローラのバランスを改善することによりヒトに有益な作用をもたらす微生物」と定義され、その微生物を含む食品(ヨーグルトや乳酸菌飲料)をプロバイオティクスとよぶこともあります。乳酸菌飲料にはラクトバチルス・カゼイ・シロタ株(Lactobacillus casei Shirota)を含むヤクルトなどがあります。日本の糠漬けや韓国のキムチ、ドイツのザワークラウトなどの漬物に含まれている乳酸菌もプロバイオティクスとして利用されています。
3章豆類「ダイズ」で述べた大豆オリゴ糖、5章野菜「キク科の根菜類」・7章甘味料「シロップ②アガベシロップ」で述べたフラクトオリゴ糖、前述したミルクオリゴ糖などのオリゴ糖や2章穀類「食物繊維」で述べた水溶性食物繊維(β-グルカン、フルクタン、ペクチン、アルギン酸、フコイダンなど)はプレバイオティクスとよばれています。プレバイオティクスは「⑴消化管上部で分解・吸収されない、⑵大腸に共生する有益な細菌の選択的な栄養源となり、それらの増殖を促進する、⑶大腸の腸内フローラ構成を健康的なバランスに改善し維持する、⑷ヒトの健康の増進維持に役立つ、という4つの条件を満たす食品成分」を指します。
家禽
家畜化されたニワトリやウズラ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウなどの鳥類は家禽とよばれます。ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウはキジ目キジ科に属し、ニワトリはヤケイ属(Gallus)、ウズラはウズラ属(Coturnix)、シチメンチョウはシチメンチョウ属(Meleagris)に分類されます(表9-1)。アヒルとガチョウはカモ目カモ科の水鳥(水禽ともよばれます)で、水かきがあります。アヒルはマガモ属(Anas)、ガチョウはマガン属(Anser)に分類されます(表9-1)。
ニワトリ
ヤケイ属(Gallus)は次の4種に分類されています。
- セキショクヤケイ(red junglefowl、Gallus gallus):カシミール、ネパールおよびブータンを含むヒマラヤ沿いのインド北部、ゴダバリ川以北のインド中央高原、ベンガル地方、ボルネオを除く全東南アジア、中国雲南省・四川省などに生息
- ハイイロヤケイ(grey junglefowl、G. sonneratii):インドの中央から南部にかけて生息
- セイロンヤケイ(Ceylon junglefowl、G. lafayettii):セイロン島に生息
- アオエリヤケイ(green junglefowl、G. varius):インドネシアのジャワ島、バリ島、ロンボク島、コモド島、フロレス島などに生息
ゲノムDNA塩基配列の解析から、ハイイロヤケイとセイロンヤケイが分岐したのは約180万年前、セキショクヤケイとハイイロヤケイ/セイロンヤケイが分岐したのは約260〜290万年前、アオエリヤケイと他のヤケイ種が分岐したのは約400万年前、そしてヤケイ属がキジ属のコウライキジ(Phasianus colchicus)から分岐したのが約2,100万年前と推定されています。
ニワトリ(鶏、英名:chicken、学名:Gallus gallus domesticus)は約8,000年前にセキショクヤケイから家畜化されたと推定されています。セキショクヤケイには次の5亜種が知られています。
- G. g. gallus:タイおよびその周辺地域に分布
- G. g. spadiceus:ミャンマーおよび中国雲南省に分布
- G. g. jabouillei:中国南部およびベトナムに分布
- G. g. murghi:インドに分布
- G. g. bankiva:ジャワ島に分布
ニワトリの起源については単元説と多元説があります。単元説はタイおよびその周辺地域に生息する1つの亜種G. g. gallusから家畜化されたニワトリが世界中に拡散したとするもので、秋篠宮文仁親王らにより提唱されました。一方、多元説は南アジア、中国南西部および東南アジアの複数の地域でG. gallusのいくつかの亜種から独立して家畜化されたとするものです。
ニワトリの品種には卵用種の白色レグホーン種(イタリア原産)や黒色ミノルカ種(スペイン原産)、肉用種のブラマ種(インド原産)やコーチン種(中国原産)、白色コーニッシュ種(イギリス原産)、卵肉兼用種の横斑プリマスロック種(アメリカ原産)やロードアイランドレッド種(アメリカ原産)、ニューハンプシャー種(アメリカ原産)などがあります。
採卵鶏の代表品種である白色レグホーン種は世界中で最も多く飼育されています。本品種の名前はイタリアの港リボルノLivornoから輸出されたことから、その英語名レグホーンLeghornに由来するそうです。孵化後(孵化日数:約21日)150日くらいから産卵を始め、400日ほどの産卵期間に300〜320個の卵を産むという産卵能力の非常に高い品種です。
肉用鶏としてよく知られているブロイラーはニワトリの品種ではなく、孵化後7〜8週という短い期間で出荷できるように育種改良された品種間雑種です。白色プリマスロック種(横斑プリマスロック種の変異種)のメスと白色コーニッシュ種のオスを交配した一代雑種が世界のブロイラー生産の主力となっています。孵化後50日ほどで食肉となるブロイラーの体重を1kg増やすのに必要な穀物飼料は2.2〜2.3kgといわれており、ブタより少なくて済むので食肉生産の経済性が最も優れた家畜といえます(本章「ブタ」を参照)。
世界で採卵用および食肉用に飼養されているニワトリは2019年において259.2億羽(表9-2)と報告されており、主な飼養国は中国(シェア:19.9%)、インドネシア(14.4%)、アメリカ(7.6%)、ブラジル(5.7%)、パキスタン(5.1%)、イラン(4.2%)、インド(3.1%)などです。日本は世界シェア1.25%で、13位にランクされています。2019年における世界の鶏卵生産量は8,348万トンであり、主要な生産国は中国(34.1%)、アメリカ(8.0%)、インド(6.9%)、インドネシア(5.7%)、ブラジル(3.8%)、メキシコ(3.5%)、日本(3.2%)などです。同年における世界の鶏肉生産量は1.18億トン(骨付き肉ベース)であり、主要な生産国はアメリカ(17.1%)、中国(12.3%)、ブラジル(11.5%)、ロシア(3.9%)、インド(3.5%)、インドネシア(3.0%)、メキシコ(2.9%)などです。
日本に中国大陸からニワトリが渡来したのは弥生時代の紀元前2世紀頃といわれています。古代においてニワトリは時告げ鳥や闘鶏として利用されていたようで、鶏肉や鶏卵は殆ど食用にされなかったようです。本章「ウシ②日本のウシ」のところで述べたように、天武天皇による「肉食禁止令」(675年)の発令以降、鶏肉を食べることは長い間禁じられていました。江戸時代になると鶏卵や鶏肉が食べられるようになりました。1785年(天明5年)に「万宝料理秘密箱」という卵の料理書が出され、煮抜き卵、鶏卵焼、金糸鶏卵(薄焼きたまご)、鶏卵占(たまごとじ)、寄せ卵(卵豆腐)など種々の卵の料理法が紹介されています。
明治時代に入ると食生活の変化にともない、鶏卵や鶏肉の利用が急速に進んでいきました。ニワトリの飼養羽数は全国で初めて家禽調査が行なわれた明治21年に910万羽でしたが、明治38年には1,600万羽に増加しました。当時の養鶏は主として採卵を目的としており、卵を産まなくなった廃鶏が鶏肉として利用されました。採卵鶏の飼養羽数は昭和10年に太平洋戦争前のピークである5,170万羽に達しましたが、以後減少に転じ、昭和15年に4,520万羽、昭和19年に3,250万羽、昭和25年には1,660万羽にまで落ち込みました。その後は養鶏熱が復活し、昭和30年に4,570万羽、昭和40年に1.14億羽、昭和45年に1.61億羽と順調に増加しました。以後平成末期まで1.5億羽〜1.9億羽の範囲で推移しています。
令和3年2月1日現在において日本で飼養されている採卵鶏は1.81億羽(6ヶ月齢以上の成鶏めす:1.41億羽)であり、成鶏めすの主な飼養地は茨城県(10.1%)、千葉県(7.0%)、鹿児島県(6.1%)、岡山県(5.2%)、愛知県(5.1%)、広島県(5.1%)、青森県(3.8%)などです。令和2年度における日本の鶏卵の生産量は259.6万トン、輸入量は10.2万トン(全卵粉や卵黄粉、卵白などの殻付き換算後の数値)であり、自給率は96.2%です。
太平洋戦争後の昭和24年頃にアメリカからの肉用種の移入とともにブロイラーの飼養が日本において小規模ながら始まり、徐々に生産が拡大していきました。昭和39年にブロイラーと採卵鶏の飼養統計が分けられ、その頃からブロイラー生産は急速に伸び始めました。ブロイラーの飼養羽数は昭和40年に1,850万羽(採卵鶏の6分の1程度)でしたが、昭和50年に8,740万羽、昭和60年には1.50億羽に達しました。平成2年までは1.5億羽台を維持しましたが、その後は減少に転じ、平成11年には1.02億羽となりました。以後平成20年まで1.0億羽台を維持しました。平成21年から増加に転じ、平成25年に1.32億羽まで回復し、以後令和3年まで1.3億羽台を維持しています。令和3年2月1日現在において、ブロイラーは1億3,966万羽飼養されており、主な飼養地は宮崎県(20.1%)、鹿児島県(19.4%)、岩手県(16.2%)、青森県(5.1%)、北海道(3.6%)、熊本県(3.0%)、徳島県(2.8%)などです。
ブロイラー生産に押されて数は少ないものの、日本各地で多くの品種の地鶏が食肉用に飼われています。農林水産省の「地鶏肉の日本農林規格」に記載されている地鶏は、比内鶏や声良鶏、会津地鶏、軍鶏(シャモ)、薩摩鶏、コーチン、沖縄ひげ地鶏など全部で38品種に上ります。
令和2年の日本における食鳥処理羽数は8.18億羽であり、そのうち肉用若鶏(孵化後3ヶ月齢未満)は約9割を占める7.25億羽、廃鶏(採卵鶏または種鶏を廃用した鶏)は約1割を占める8,750万羽、その他の肉用鶏(地鶏などが含まれ、孵化後3ヶ月齢以上)は515万羽です。同年の鶏肉生産量(骨付き肉ベース)は165.6万トン、鶏肉(調製品を含む)輸入量は85.9万トンであり、自給率は65.8%です。鶏肉調製品とは唐揚げ、竜田揚げ、チキンカツ、つくね、チキンナゲット、照り焼きチキンなど加熱調理されたもので、主にタイや中国から輸入されています。調製品を含まない鶏肉の輸入量は53.5万トン(骨付き肉ベース)であり、主にブラジル(74.2%)やタイ(23.2%)から輸入されています。
ウズラ
キジ目キジ科ウズラ属(Coturnix)には次の6種が含まれています。
- ウズラ(Japanese quail、Coturnix japonica): シベリア南部からモンゴル、中国、朝鮮半島、日本、東南アジアにかけて広く生息
- ヨーロッパウズラ(common quail or European quail、C. coturnix): 中央アジア、南アジア、西アジア、ヨーロッパ、アフリカにかけて広く生息
- ムナグロウズラ(rain quail、C. coromandelica): バングラデシュ、インド、ネパール、パキスタンに生息
- ヤクシャウズラ(harlequin quail、C. delegorguei): アフリカおよびアラビア半島に生息
- オーストラリアウズラ(stubble quail、C. pectoralis): オーストラリアに生息
- ヌマウズラ(brown quail、C. ypsilophora): ニューギニア、オーストラリア、タスマニアに生息
これらの種のうち野生ウズラ(C. japonica)が日本で室町時代に武士の手により家畜化されたといわれています。世界の家畜の中で唯一日本において家畜化された動物と考えられています。ウズラの体長は20cmほどです。孵化後(孵化日数:約17日)2ヶ月弱で性成熟し、1年間に5〜6世代の世代交代をします。オスは食肉用に、メスは採卵用(年間250個ほど産卵します)に利用されます。また、実験動物としても用いられています。日本養鶉(ヨウジュン)協会は5月5日を「うずらの日」に制定し、日本記念日協会に登録されています。
日本におけるウズラの飼養羽数は昭和16年に200万羽でしたが、太平洋戦争により激減しました。戦後復興により昭和40年には200万羽に回復し、その後も増加を続け、昭和50年に590万羽、昭和59年には850万羽のピークを迎えました。昭和60年から平成16年まで700万羽前後で推移しましたが、平成17年以降は減少に転じました。平成28年における飼養羽数は417万羽であり、主な飼養地は愛知県(55.7%)、千葉県(12.2%)、群馬県(11.8%)などです。
シチメンチョウ
北アメリカ大陸にのみ生息するキジ目キジ科シチメンチョウ属(Meleagris)の野生シチメンチョウ(英名:wild turkey、学名:Meleagris gallopavo)には次の6亜種が存在します。
- Eastern wild turkey (M. g. silvestris): 北米東部から中南部に生息
- Osceola (or Florida) wild turkey (M. g. osceola): フロリダ半島に生息
- Rio Grande wild turkey (M. g. intermedia): アメリカのテキサス州からオクラホマ州、カンサス州、ニューメキシコ州、コロラド州、オレゴン州、ユタ州に生息
- Merriam’s wild turkey (M. g. merriami): ロッキー山脈に生息
- Gould’s wild turkey (M. g. mexicana): メキシコ中・北部からアリゾナ・ニューメキシコ州南部に生息
- South Mexican wild turkey (M. g. gallopavo): メキシコ南部に生息
家禽シチメンチョウ(domestic turkey、M. g. domesticus)は、これらの亜種のうちSouth Mexican wild turkey (M. g. gallopavo) から遅くとも2,000年前にメソアメリカで家畜化されたと推定されています。ヨーロッパには16世紀初頭にスペイン人により持ち込まれ、多くの品種が開発されました。品種としてはブラックスパニッシュやロイヤルパーム、ブロードブレステッドブロンズ、ブロードブレステッドホワイト、ブルボンレッド、ベルツビルスモールホワイトなどがあります。
2018年においてシチメンチョウは世界で4.7億羽飼養されており、そのうち北米が54%、ヨーロッパが23%、南米が14%を占めています。
シチメンチョウは孵化後(孵化日数:約28日)食肉として出荷されるまでに雄で18〜20週間、雌で14〜16週間飼養されます。2016年における世界のシチメンチョウ肉の生産量は620万トンであり、主要な生産国はアメリカ(43%)、ブラジル(9%)、ドイツ(8%)、フランス(6%)、イタリア(5%)、ロシア(4%)、スペイン(3%)、ポーランド(3%)、カナダ(3%)、イギリス(3%)などです。
シチメンチョウの皮なし生肉(皮下脂肪を除いたもの)100g当たりの脂肪含量は0.7gであり、ブロイラーの皮なし生むね肉(皮下脂肪を除いたもの)の1.9gおよび皮なし生もも肉(皮下脂肪を除いたもの)の5.0gと比べてかなり少ないので、シチメンチョウ肉は欧米を中心にヘルシーな肉として人気があります。
アヒル
カモ目カモ科マガモ属(Anas)には31種の野生のカモ(鴨、wild duck)が含まれており、その内のマガモ(真鴨、英名:mallard、学名:Anas platyrhynchos platyrhynchos)を原種として家畜化されたのがアヒル(家鴨、英名:domestic duck、学名:Anas platyrhynchos domesticus)です。マガモはユーラシア大陸や北アメリカ大陸、アフリカ大陸北部などに幅広く生息しています。アヒルは紀元前1,000年頃に中国で家畜化されたといわれています。東アジア(または北東アジア)と東南アジアで飼養されているアヒルは異なるマガモを起源としているといわれています。
アヒルにはアオクビアヒル(日本原産)、大阪アヒル(日本原産)、ペキンアヒル(中国原産)、チェリバレー(イギリス原産)、カーキーキャンベル(イギリス原産)、インディアンランナー(マレーシア・インドネシア原産)、ルーアン(フランス原産)など多くの品種があり、肉用、卵用、羽毛用、観賞用、愛玩用などに飼養されています。
日本にアヒルが中国から渡来したのは平安時代であろうといわれており、日本在来のアオクビアヒルはその子孫と考えられます。江戸時代の正徳2年(1712年)に大坂の医師寺島良安により編纂された百科事典「和漢三才図会(ワカンサンサイズエ)」に鶩(アヒロ)の記載があります。アヒロは足が広いことからきており、アヒルの名はアヒロに由来します。
ペキンアヒルは中国の明朝の時代(1368-1644年)に誕生した肉用種で、世界的に有名な品種です。チェリバレーはイギリスでペキンアヒルを改良した肉用種で、日本でも飼養されています。アヒルの孵化日数は約28日で、肉用種のチェリバレーは孵化後60〜65日で食肉になります。
カーキーキャンベルはイギリスにおいてインディアンランナー(卵用種)、ルーアン(肉用種)、マガモを交配して開発された卵用種で、年平均300個(卵重:75g前後)以上産卵します。中国の食品として有名なピータン(皮蛋)はアヒルの卵を強いアルカリ性条件下で熟成して作られます。
ナキアヒルはアイガモ(合鴨)ともよばれ、アヒルとマガモを交配したものです。多くの鴨肉料理に利用されたり、田んぼの除草(合鴨農法とよばれています)に利用されたりしています。
マガモ属とは異なるカイリナ属(Cairina)のノバリケン(別名:マスコビーダック、英名:Muscovy duck、学名:Cairina moschata)を家畜化したものがバリケン(domestic Muscovy duck、Cairina moschata domestica)です。ノバリケンは中央アメリカから南米に生息し、600〜700年前頃にアンデス高地のインカ帝国で家畜化されたと考えられています。バリケンをフランスで改良した大型の肉用種がバルバリー種(フランス鴨ともよばれています)で、日本でも飼養されています。バリケンの孵化日数はアヒルより長く、約35日です。肉用種のバルバリーは孵化後65〜75日間飼養され、食肉として処理されます。ムラード(mulard)はバリケンとアヒルの一代雑種で繁殖能力はなく、肉用に飼養されています。
2018年においてアヒル(バリケンを含む)は世界で11.3億羽飼養されており、その内の88%をアジア(特に中国)が占めています。
ガチョウ
カモ目カモ科マガン属(Anser)には11種のガン(雁、wild goose)が含まれており(ガンはカリともよばれます)、ガチョウ(鵞鳥、domestic goose)はその中のハイイロガン(灰色雁、英名:greylag goose、学名:Anser anser)とサカツラガン(酒面雁、英名:swan goose、学名:A. cygnoides)から家畜化されました。
ハイイロガンにはヨーロッパ、北アフリカ、西アジアに生息し、嘴が短く黄色をしているキバシハイイロガン(A. a. anser)と中国、モンゴル、ロシア、インド北部などに生息し、嘴がやや長くピンク色をしているハイイロガン(A. a. rubrirostris)の2亜種がいます。セイヨウガチョウ(Anser anser domesticus)は紀元前2,500年頃古代エジプトにおいてキバシハイイロガンから家畜化されたといわれています。
サカツラガンはカザフスタン、モンゴル、ロシア南東部、中国、朝鮮半島、日本などに生息しています。シナガチョウ(Anser cygnoides domesticus)は紀元前2,000年頃中国においてサカツラガンから家畜化されたといわれています。
シナガチョウは頭部前端に瘤状の隆起があり、セイヨウガチョウに比べて首が長いのが特徴です。セイヨウガチョウの品種にはエムデン(ドイツ原産)やツールーズ(フランス原産)、ランド(フランス原産)、ピルグリム(アメリカ原産)、ポメラニアン(ポーランド原産)、セバストポール(東ヨーロッパ原産)などがあり、シナガチョウの品種(ほとんどが中国原産)には豁眼種、獅頭種、伊犁種などがあります。ガチョウは肉用、卵用、羽毛用などに飼養されています。2018年における世界のガチョウ飼養羽数は3.7億羽であり、その内の87%をアジア(特に中国)が占めています。
ガチョウの卵重は120〜170gで、孵化日数は約31日です。肉用種のブロイラータイプは8〜9週齢、体重約4kgで出荷され、ヘビータイプは12〜14週齢、体重約6kgで出荷されます。
鶏卵
上述したように家禽の特徴は肉のみならず卵が食用に利用されることです。ここでは特に世界中で飼育されているニワトリの卵に的を絞って説明したいと思います。採卵鶏は、ほぼ毎日産卵するように育種改良されているので、雌鳥にとっては大変な重労働です。
鶏卵の重さは、およそ40〜76gくらいの幅があり、表9-4に示すように重さによりSSサイズからLLサイズまで6つに区分されています。
卵は卵黄、卵白ならびに卵殻からできています。卵殻の内側には微生物を通さないフィルターとしての役割をもつ二層の卵殻膜が存在し、卵殻にはガス交換のできる気孔が無数に開いています。卵重に占める卵黄の割合は約30%、卵白は約60%、卵殻は約10%となっています。
卵黄のおよその成分割合は、水分48%、タンパク質15%、脂質34%です。卵黄の黄色は飼料のトウモロコシに含まれているカロテノイド系の黄色い色素ルテインとゼアキサンチン(1章植物「植物の色」を参照)に起因します。国立(クニタチ)ファームという会社でトウモロコシの代わりに米を含む飼料を用いて生産されている鶏卵(「ホワイトたまご」とよばれています)の卵黄は白っぽい色をしています。トウモロコシを含む飼料に赤いパプリカの粉末などを混ぜると卵黄がオレンジ色になるなど、卵黄の色は飼料に含まれる色素により色々変えることができるようです。また、飼料にビタミンEやヨウ素、ω3脂肪酸、カロテノイドなどを添加して栄養機能を強化した鶏卵も開発されています。
卵白にはタンパク質が約11%含まれており、その他はほとんどが水分です(約88%)。卵白タンパク質にはオボアルブミンやオボトランスフェリン、リゾチームなどがあります。オボアルブミンは卵白タンパク質の約54%を占めています。オボトランスフェリンは鉄イオンを強く結合する働きがあり、微生物の増殖に必要な鉄の利用をブロックします。リゾチームには細菌の細胞壁を分解し、溶菌する作用があります。従って、卵の内部には微生物の侵入を防ぐフィルター機能を有する卵殻膜、静菌作用のあるオボトランスフェリン、殺菌作用のあるリゾチームが存在し、卵が微生物で汚染されるのを防いでいます。
卵殻は殆どが炭酸カルシウムCaCO3でできており、その40%がカルシウムであることから、60gの卵を毎日産むには2.4gのカルシウムが必要です。体重2kgほどの産卵期のニワトリはカルシウム含量3%の飼料を1日当たり100g、すなわち3gのカルシウムを摂取して産卵という人から課せられたハードな仕事を全うしているのです。ちなみに日本人の1日当たりのカルシウム必要量は700mgとされています。卵を1個食べる毎に、ぜひニワトリのハードワークに思いを馳せてやってください。
肉類の鉄分
鉄は私たちの体内に3〜4g程度しか存在しない微量元素であり、血液中の赤血球に存在するヘモグロビンや筋肉に存在するミオグロビンという酸素結合タンパク質などの合成に不可欠な金属元素です。ヘモグロビンやミオグロビンにはヘムとよばれるポルフィリンの鉄錯体が結合しています。鉄は赤い色をしているので血液や筋肉が赤いのは結局鉄の色ということになります。酸素はヘムの中の鉄に結合することができます。動物の肺に取込まれた酸素は血液中の赤血球のヘモグロビンに結合して全身を循環し、脳や筋肉、肝臓、腎臓など様々な臓器に供給されます。筋肉のミオグロビンは赤血球のヘモグロビンから受け取った酸素を一時的に筋肉に貯蔵するのに役立ちます。体内での酸素の役割については1章植物「生物における酸素の役割」を参照して下さい。
食餌からの鉄分の摂取が不足すると我々の身体は鉄欠乏状態に陥り、十分なヘモグロビンの合成ができなくなるため貧血を引き起こします(ヘモグロビン鉄は体内総鉄の約2/3を占めています)。これを鉄欠乏性貧血といいます。貧血になると体内の各種臓器が酸素不足に陥り、エネルギー代謝などに障害が生じます。貧血の基準は血中ヘモグロビン濃度により、男性で13g/dl未満、女性で12g/dl未満とされています。成人女性は月経や妊娠・出産により鉄欠乏に陥りやすく、厚生労働省の「平成27年国民健康・栄養調査報告」(平成29年3月発表)によると、20〜59歳までの女性では貧血の割合が約18%に上っています。一方、同じ年齢幅の男性では貧血は約2%と低いレベルに落ちついています。
鉄分の多い食品は家畜の肉(肉類)や赤身魚、貝類が知られています。肉類や魚介類の可食部100g当たりの鉄含量を表9-5に示します。家畜の肉類では、ミオグロビン含量が多い肉、つまり赤味が強い肉ほど、鉄が多く含まれていることが分かります。スーパーやお肉屋さんなどで馬肉、牛肉、羊肉、豚肉、鶏肉の色調を比べてみると面白いですよ。また、同じ家畜の肉でも、肩肉やもも肉、むね肉など部位により鉄含量が異なります。マグロ類はキハダマグロやメバチマグロなど種類により鉄含量が異なります。肉類や魚介類以外では、レバー(肝臓)、海藻、小松菜やほうれん草、水菜などの野菜類、小豆や大豆、インゲン豆、エンドウ豆などの豆類にも比較的多くの鉄が含まれています。
食物に含まれている鉄のすべてが腸から吸収されるわけではなく、鉄の吸収率は食物により異なります。肉類の鉄の多くはミオグロビンのヘム鉄として存在しており、鉄の吸収率は20%を超えて比較的高いのですが、一方、野菜類や豆類の多くの鉄は非ヘム鉄の形で存在しており、吸収率は1〜4%と低いことが知られています。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると、1日当たりの鉄推奨量は成人男性で7.0〜7.5mg、成人女性で10.5mgとなっています。ただし、10〜17歳の育ち盛りの時期には、これより3〜4mg程度多く摂取することが推奨されています。
ゼラチンと煮凝り
6章果物「ビタミンCと壊血病」のところで述べたように、動物には非常に多くの割合でコラーゲンというタンパク質が存在しています。コラーゲンは水に不溶性で皮膚や腱、骨などに含まれ、体を頑強にしています。皮膚や骨を水で煮詰めるとコラーゲンは熱変性して可溶化され、抽出されます。これがゼラチンとよばれるもので、ゼリーの材料になります。市販のゼラチン粉末に水を加えて加熱すると溶けますが、冷やすとゲル化します。このような性質はコラーゲンに特有なものです。普通の水溶性タンパク質は加熱すると熱変性して水に不溶性になります。例えば、ゆで卵をつくると卵白は白く固まってしまいます。
豚足や鶏の手羽先、魚などの煮物を作るとゼラチンを含む煮汁が冷えてゼリー状になります。これが「煮凝り」とよばれる料理です。私たちは知らず知らずのうちにコラーゲンのもつ不思議な性質を利用して料理を作っているのです。
ミツバチ
ミツバチ(honey bee)は農林水産省で定められた家畜の仲間です。ミツバチはハチ目ミツバチ科ミツバチ属(Apis)の昆虫で、現在世界に9種が知られています。養蜂に用いられているのはヨーロッパやアフリカに分布するセイヨウミツバチ(西洋蜜蜂、英名:Western honey bee、学名:Apis mellifera)と南アジアや東南アジア、東アジアに分布するトウヨウミツバチ(東洋蜜蜂、英名:Eastern honey bee、学名:Apis cerana)の2種です。
セイヨウミツバチには次に示す亜種を含む31亜種が認められています。
- ドイツミツバチ(A. m. mellifera):基亜種
- イタリアミツバチ(A. m. ligustica)
- スペインミツバチ(A. m. iberiensis)
- コーカサスミツバチ(A. m. caucasia)
- カルニオラミツバチ(A. m. carnica)
- アフリカミツバチ(A. m. scutellata)
トウヨウミツバチには次に示す亜種を含む8亜種が認められています。
- チュウゴクミツバチ(A. c. cerana):基亜種
- ニホンミツバチ(A. c. japonica)
- インドミツバチ(A. c. indica)
養蜂の歴史は古く、紀元前2,500年頃にはエジプトで行なわれていたといわれています。ミツバチは蜂蜜やローヤルゼリー、蜜ロウ、プロポリスという畜産物を生産するだけでなく、果物や果実的野菜(イチゴ、メロン、スイカなど)の生産における花粉媒介者(ポリネーター pollinator)としての重要な役割を担っています。人類が最初に口にしたお酒は蜂蜜が天然発酵したミード(mead)という醸造酒であったと考えられています。
日本において飛鳥時代の643年に養蜂が行なわれたとの記録が「日本書紀」に見られます。平安時代の「延喜式」(927年)には甲斐国や相模国、信濃国、能登国、越中国などから朝廷への貢進品として蜂蜜の記載があります。養蜂が本格的に行なわれるようになったのは江戸時代になってからです。当時、蜂蜜は主として薬用に利用されていたようです。明治初期まではニホンミツバチが養蜂に用いられていましたが、明治10年にセイヨウミツバチのイタリアミツバチが導入され、以後日本の養蜂の主役になっていきました。
①ミツバチの生態
ミツバチは社会性昆虫であり、コロニー(群れ)をなして生活しています。コロニーは巣(後述する蜜ロウでできています)を作り、巣には1匹の女王蜂と数万匹の働き蜂(全て雌です)、ならびに数百匹から千匹程度の雄蜂がいます。女王蜂は体重が250mg前後であり、100mg前後の働き蜂よりかなり大きい体をしています。雄蜂は働き蜂より一回り体が大きく、また、目が大きいのが特徴です。
ミツバチの巣には巣房とよばれる部屋が非常にたくさんあります。巣房は一端が閉じた管状構造をしており、また、断面が六角形で互いに密着して二次元的に広がった巣板を作っています。巣の中には巣板が幾重にも並んでいます。ミツバチの美しい六角模様の巣板を作る建築能力が遺伝的に刷り込まれていることに非常に驚かされます。
女王蜂は1日に数千個の卵を生み、働き蜂が育てます。女王蜂と働き蜂は受精卵から生まれる二倍体(32本の染色体をもっています)で、後述するローヤルゼリーを食べた雌の幼虫だけが女王蜂になります。雄蜂は4月〜6月の繁殖期に未受精卵から生まれる半数体(16本の染色体をもっています)で、巣の中では働き蜂から餌をもらう以外何もしないのでドローン(怠け者)とよばれます。
ミツバチの罹る病気に腐蛆病(フソビョウ)がありますが、これは「家畜伝染病予防法」に定められた家畜伝染病(法定伝染病)の1つです。蛆とは幼虫のことであり、蜂児が腐蛆病菌に感染すると発症して死んでしまいます。
1つのコロニーが大きくなり巣を分ける必要があるとき(これを分蜂あるいは分封といいます)、あるいは女王蜂が年老いて交代させる必要があるときなどには、10個ほどの円錐形の女王蜂育成用巣房(王台とよばれます)が作られます。新しい女王蜂が誕生する前に、旧女王蜂は半数前後の働き蜂を連れて巣を出て行き、新たに巣を作ります。最初の女王蜂が誕生すると、他の王台の中にいる女王蜂の蛹(サナギ)は殺されてしまいます。新女王蜂は多くのコロニーから集まる数百匹の雄蜂の群れの中に飛び込んでいき、空中交尾を行ないます。交尾を果たした雄蜂は生殖器官が引きちぎられるため死んでしまいます。新女王蜂は多数の雄蜂と交尾し、遺伝的に多様な精子を受精嚢に数百万個蓄えることができるそうです。交尾を終えた女王蜂は、旧女王蜂が出て行った巣を継承してコロニーを存続させます。女王蜂の交尾行動は生涯を通して1回のみであるといわれ、女王蜂が生きている間精子は機能を維持したまま保存されます。
女王蜂の寿命は2〜3年ですが、働き蜂は1ヶ月(越冬期は4〜5ヶ月)程度です。雄蜂は成虫になってから12日ほどで性成熟し、交尾により寿命を全うします。交尾不成立の雄蜂は巣に戻りますが、秋になると巣を追い出されて餓死してしまいます。冬になると女王蜂は産卵をやめ、秋に生まれ育った働き蜂(数は夏の最盛期の3分の1以下に減っています)と体を寄せ合って越冬生活を送ります。春になると女王蜂は産卵を始め、コロニーを大きくしていきます。ミツバチのこのような越冬方法はスズメバチとは大きく異なります。スズメバチは女王蜂だけが朽木などで冬眠します。翌春目覚めた女王蜂は単独で営巣し、働き蜂を育ててコロニーを形成していきます。
②蜂蜜
蜂蜜に関しては7章甘味料に記載してありますので参照してください。ここでは蜂蜜の生産量について説明します。2019年における世界の蜂蜜生産量は185万トン(表9-2)であり、主要な生産国は中国(シェア:24.0%)、トルコ(5.9%)、カナダ(4.3%)、アルゼンチン(4.3%)、イラン(4.1%)、アメリカ(3.8%)などです。
2020年における日本の蜂蜜生産量は2,929トンであり、主に北海道(14.3%)、長野県(10.0%)、秋田県(8.3%)、熊本県(7.6%)、青森県(5.3%)、和歌山県(4.3%)、愛知県(4.3%)などで生産されています。なお、2020年における蜂蜜の輸入量は49,348トンであり、自給率はわずか5.6%です。主な輸入先は中国(68.5%)、アルゼンチン(9.9%)、カナダ(8.2%)です。
③ローヤルゼリー
ローヤルゼリーは働き蜂が分泌する乳白色の液体で、女王蜂や女王蜂となる幼虫に与えられます。成分は水分約65%、タンパク質・アミノ酸約13%、糖質15%、脂質約3%、その他(ビタミンやミネラルなど)約4%と測定されています。ローヤルゼリーには特有成分として脂肪酸の一種である10-ヒドロキシ-2-デセン酸が含まれています。このデセン酸のもつ女性ホルモンに似た作用や皮脂分泌抑制作用、血糖値・血中コレステロール値低下作用などの各種生理作用が注目されています。2011年に日本の農学者鎌倉昌樹は、ローヤルゼリーに含まれているロイヤラクチンという分子量57,000のタンパク質が幼虫の女王蜂への分化を誘導することを明らかにしました。
日本における2020年のローヤルゼリー生産量は2,991kgです。
④蜜ロウ
蜜ロウはミツバチの巣を構成するロウ(ワックス)であり、主成分はパルミチン酸ミリシルとセロチン酸ミリシルなどのエステルです。働き蜂の腹部のロウ腺から分泌されます。パルミチン酸ミリシルはパルミチン酸(4章植物油「アブラヤシ」を参照)とミリシルアルコール(炭素数30の直鎖飽和一価アルコールで、トリアコンタノールともいいます)のエステル、セロチン酸ミリシルはセロチン酸(炭素数26の直鎖飽和脂肪酸)とミリシルアルコールのエステルです。
蜜ロウは食用にはなりませんが、ロウソクやハンドクリーム、リップクリーム、木材保護用ワックス、クレヨンなどの材料として利用されます。
日本における2020年の蜜ロウ生産量は22,858kgです。
⑤プロポリス
プロポリスはセイヨウミツバチが樹木の樹脂などを原料にして作り、巣の出入り口や隙間に塗り付けたものです。ニホンミツバチなどトウヨウミツバチはプロポリスを作りません。プロポリスpropolisはギリシャ語のpro (プロ=前)とpolis(ポリス=都市)に由来し、ミツバチの巣(すなわち都市)を出入り口(すなわち前面)で守るという意味があります。
ブラジルにはヨーロッパから移入されたセイヨウミツバチのイタリアミツバチ(A. m. ligustica)やスペインミツバチ(A. m. iberiensis)が帰化していましたが、1956年にタンザニアから導入したアフリカミツバチ(A. m. scutellata)がこれらと交雑してアフリカナイズドミツバチ(アフリカ蜂化ミツバチ)が誕生しました。アフリカナイズドミツバチは攻撃性が強く、アピトキシンにより人をも殺すことからキラービーともよばれていますが、プロポリス生産能力が優れていることからブラジルでは広く飼養されています。
プロポリスは健康食品として注目されています。主な成分として、アルテピリンCやクリフォリンなどのケイ皮酸誘導体、ケンフェロールやケンフェライドなどのフラボノイドが含まれています。アルテピリンCには抗がん作用や抗菌作用、クリフォリン、ケンフェロール、ケンフェライドには抗アレルギー作用が認められています。
参考文献
気象庁 「気候変動監視レポート2021:世界と日本の気候変動および温室効果ガス等の状況」 令和4年3月
環境省 総合環境政策局 環境計画課 「温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン Ver.1.0」 平成29年3月
気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 第6次評価報告書第3作業部会報告書 2022年4月
平田昌弘 「搾乳の開始時期推定とユーラシア大陸乳文化一元二極化説」 酪農乳業史研究 5:1-12, 2011
正田陽一監修 「世界家畜図鑑」 講談社 1987
Rezaei, H. R. et al. “Evolution and taxonomy of the wild species of the genus Ovis (Mammalia, Artiodactyla, Bovidae)” Molecular Phylogenetics and Evolution 54:315-326, 2010
廣岡孝信 「奈良時代のヒツジの造形と日本史上の羊」 奈良県立橿原考古学研究所紀要「考古学論攷」 41:27-50, 2018
農林水産省 畜産局畜産振興課 「めん羊・山羊をめぐる情勢」 令和3年11月
長谷川信美 「高山草原における少数民族による草食家畜の放牧方式調査概要」 ヒマラヤ学誌 17:138-145, 2016
川本 芳ら 「ヒマラヤにおけるミタンの利用−ブータンの交雑家畜の遺伝学研究から−」 ヒマラヤ学誌 13:267-282, 2012
基峰 修 「文献と埴輪・壁画資料から見た牛甘(飼)−牽牛織女説話の伝来年代を含めて−」 人間社会環境研究 34:77-98, 2017
中西僚太郎 「明治前期における耕牛・耕馬の分布と牛馬耕普及の地域性について」 歴史地理学 169:2-22, 1994
米内山昭和 「肉牛生産の展開と産地構造に関する研究」 北海道立農業試験場報告 37:1-80, 1981
中江利孝 「日本における乳加工技術100年をふりかえって(1)」 化学と生物 9:594-600, 1971
伊藤 宏 「食べ物としての動物たち」 講談社ブルーバックス 2001
農林水産省 大臣官房統計部 「畜産統計(令和3年2月1日現在)」 令和3年7月
農林水産省 畜産局 「畜産・酪農をめぐる情勢」 令和3年11月
農林水産省 畜産局牛乳乳製品課 「最近の牛乳乳製品をめぐる情勢について」 2021年12月
独立行政法人 農畜産業振興機構 「令和2年度成牛および豚のと畜頭数・令和2年食鳥処理羽数」 畜産の情報 2021年8月号
Aryal, A. et al. “Call to conserve the wild water buffalo (Bubalus arnee) in Nepal” International Journal of Conservation Science 2:261-268, 2011
Hassan, A. A. M. et al. “Buffalo species identification and delineation using genetic barcoding markers” Journal of Genetic Engineering and Biotechnology 16:499-505, 2018
Minervino, A. H. H. et al. “Bubalus bubalis: a short story” Frontiers in Veterinary Science 7:570413, 2020
Ming, L. et al. “Whole-genome sequencing of 128 camels across Asia reveals origin and migration of domestic Bactrian camels” Communications Biology 3:1, 2020
Faye, B. “How many large camelids in the world? A synthetic analysis of the world camel demographic changes” Pastoralism: Research, Policy, and Practice 10:25, 2020
Oyewale J. et al. “Alterations in the osmotic fragility of camel and donkey erythrocytes caused by temperature, pH and blood storage” Veterinarski Arhiv 81:459-470, 2011
川本 芳 「アンデス高地で利用されるラクダ科家畜の遺伝的特徴と家畜化をめぐる問題」 国立民族学博物館調査報告 84:307-331, 2009
Kadwell, M. et al. “Genetic analysis reveals the wild ancestors of the llama and the alpaca” Proceedings of the Royal Society of London B 268:2575-2584, 2001
久馬 忠・石橋 晃 「飼料学(41)-V産業動物 Ⅳ反芻動物-[11] Gトナカイ」 畜産の研究 61:997-1002, 2007
黒澤弥悦 「イノシシがブタになるとき-どのように始まるのだろうか?」 All about SWINE 43:49-57, 2013
新美倫子・盛本 勲 「野国貝塚群B地点出土イノシシ類の年齢構成と性比について」 南島考古 40:3-10, 2021
西本豊弘 「弥生時代のブタについて」 国立歴史民俗博物館研究報告 36:175-193, 1991
丹波太左衞門 「20世紀における日本の豚改良増殖の歩み」 畜産技術協会 2001
Eisenmann, V. “Origins, dispersals, and migrations of Equus (Mammalia, Perissodactyla)” Courier Forschungsinstitut Senckenberg 153:161-170, 1992
Vilstrup, J. T. et al. “Mitochondrian phylogenomics of modern and ancient equids” PLoS One 8:e55950, 2013
Orlando, L. et al. “Recalibrating Equus evolution using the genome sequence of an early Middle Pleistocene horse” Nature 499:74-78, 2013
Heintzman, P. D. “A new genus of horse from Pleistocene North America” eLife 6:e29944, 2017
Outram, A. K. et al. “The earliest horse harnessing and milking” Science 323:1332-1335, 2009
Gaunitz, C. et al. “Ancient genomes revisit the ancestry of domestic and Przewalski’s horses” Science 360:111-114, 2018
安田初雄 「古代における日本の放牧に関する歴史地理的考察」 福島大学学芸学部論集 10:1-18, 1959
入間田宣夫 「延久二年北奥合戦と諸郡の建置」 東北アジア研究 1:89-108, 1997
安田初雄 「近世の南部の九牧に関する歴史地理的研究」 東北地理 8:69-76, 1955
大瀧真俊 「近代馬匹改良政策と馬産地域の対応−青森県上北郡を対象にして−」 農業史研究 37:44-54, 2003
社団法人 日本馬事協会 「日本の馬産・戦後50年のあゆみ」 平成11年6月
農林水産省 生産局畜産部畜産振興課 「馬関係資料」 令和3年4月
Fitsum, M. and Ahmed, K. M. “Population dynamic production statistics of horse and ass in Ethiopia: a review” Journal of Biology, Agriculture and Healthcare 5:57-62, 2015
Jenness, R. and Sloan, R. E. “The composition of milks of various species: a review” Dairy Science Abstracts 32:599-612, 1970
浦島 匤ら 「ウシをはじめとする家畜ミルクオリゴ糖研究の最近の進歩」 化学と生物 50:498-509, 2012
石井哲也 「カゼインミセルの構造および性質に関する最近の研究動向」 Milk Science 54:1-8, 2005
Salque, M. et al. “Earliest evidence for cheese making in the sixth millennium BC in northern Europe” Nature 493:522-525, 2013
西田隆雄 「野鶏のDomestication」 化学と生物 12:319-328, 1974
Lawal R. A. et al. “The wild species genome ancestry of domestic chickens” BMC Biology 18:13, 2020
Akishinonomiya, F. et al. “Monophyletic origin and unique dispersal patterns of domestic fowls” Proceedings of the National Academy of Sciences USA 93:6792-6795, 1996
Miao, Y.-W. et al. “Chicken domestication: an updated perspective based on mitochondrial genomes” Heredity 110:277-282, 2013
農林水産省 「地鶏肉の日本農林規格」
都築政起 「ウズラ(Japanese quail, Coturnix japonica)」 生物工学 91:110-113, 2013
Thornton, E. K. et al. “Earliest Mexican turkeys (Meleagris gallopavo) in the Maya region: implications for pre-Hispanic animal trade and the timing of turkey domestication” PLoS One 7:e42630, 2012
Hitosugi, S. et al. “Phylogenetic relationships of mitochondrial DNA cytochrome b gene in East Asian ducks” The Journal of Poultry Science 44:141-145, 2007
高山耕二ら 「屋外放飼したセイヨウガチョウならびにシナガチョウの産卵能力の比較」 鹿児島大学農場研報 33:9-12, 2011
文部科学省 「日本食品標準成分表 2015年版(七訂)」
山田養蜂場 みつばち健康科学研究所 「ミツバチについての基礎知識」
(http://www.bee-lab.jp/hobeey/hobeeydb/db01/index.html)
農林水産省 畜産局 「養蜂をめぐる情勢」 令和3年10月
鎌倉昌樹 「ミツバチの女王蜂分化を誘導する因子ロイヤラクチンの発見」 生化学 84:994-1003, 2012