はじめに
世界の漁業と養殖業
一般的に漁業というと水産動植物を獲り、また、これを養殖する事業をいいます。しかし、農林水産省の「漁業・養殖業生産統計」では、天然の水産動植物を獲ることを漁業とし、養殖業と分けています。そして、漁業は海面漁業と内水面漁業、養殖業は海面養殖業と内水面養殖業に分けて生産物の統計をとっています。
国際連合食糧農業機関(FAO)がまとめた「世界漁業・養殖業白書2020年」によると、2018年の世界の魚介類(魚類、甲殻類、軟体動物類などで、海藻類を含まない)の総生産量は1億7,853万トンとなっています。内訳は天然魚介類が9,643万トン(海面:87.5%、内水面:12.5%)、養殖魚介類が8,210万トン(海洋:37.5%、内水面:62.5%)です。1990年以降、天然魚介類の漁獲量は殆ど伸びていませんが、一方、魚介類の養殖業は発展し続けており、総生産量に占める養殖生産量の割合は、1990年にはわずか13.4%でしたが、2000年には25.7%、2010年には39.8%と著しく増え、2018年には46.0%に達しています。特に中国における魚介類の養殖は著しく発展し、2018年の世界の養殖魚介類生産量の57.9%を中国が占めています。
2018年の世界の海藻類生産量は3,335万トン(生重量)であり、そのうち養殖海藻が97.1%を占めています。養殖海藻の生産量は1990年には377万トンでしたが、2000年には1,060万トン、2010年には2,017万トン、2018年には3,239万トンに急増しています。特に中国とインドネシアにおける海藻養殖は大きく発展し、2018年の世界の養殖海藻類生産量の57.1%を中国、28.8%をインドネシアが占めています。
日本に目を向けると、農林水産省の「令和元年漁業・養殖業生産統計」では、日本における水産物の総生産量は416.3万トンであり、その内訳は天然魚介類・海藻類が321.9万トン、養殖魚類(ブリ、マダイ、ウナギ、マスなど)が27.9万トン、養殖貝類(ホタテガイ、カキなど)が30.6万トン、その他の養殖水産動物類(クルマエビ、ホヤ類など)が1.4万トン、養殖海藻類(ノリ類、ワカメ類、コンブ類など)が34.6万トンとなっています。
MSC・ASC認証
4章植物油「WWFとRSPO認証」で紹介したWWFは国際的な海洋保全活動の一環として、国際機関である海洋管理協議会(MSC)と水産養殖管理協議会(ASC)の認証制度の普及をサポートしています。
MSCは責任ある漁業を推奨するために1997年に設立された独立した非営利団体です。MSCは世界の水産物市場を変革し、持続可能な漁業を推進するという取り組みを行なっており、魚種資源の減少から増加への転換、漁業者の生計維持、世界の海洋環境の保全などを目指しています。ある漁業がMSC認証を得るためには、漁獲する漁業の現場だけでなく、水産物の加工・流通の過程もMSC基準に則って厳しい審査を受けます。審査に合格し認証が得られると「持続可能な漁業で獲られた水産物であることを認証した海のエコラベル」というMSCの青いマークをつけて製品を販売することができます。消費者もMSCマークにより、それが水産資源や海洋環境に配慮した製品であることが分かり、安心して水産物を買うことができるわけです。MSC年次報告書2019年度によると、2020年3月31日時点において世界で409の漁業がMSC認証を受けています(MSC認証が一時停止されている22の漁業を含みます)。MSCプログラムに参加している漁業(MSC認証漁業+認証一時停止中の漁業+認証審査中の89漁業)の総漁獲量は1,470万トンで、世界の天然魚の総漁獲量の17.4%に達しています。
日本においては2021年9月1日現在、以下に示す10件の漁業がMSC認証を取得しています。
・北海道漁業協同組合連合会のホタテガイ漁業(認証取得年:2013年)
・宮城県塩釜市明豊漁業株式会社のカツオ・ビンナガマグロ一本釣り漁業(2016年)
・静岡県焼津市石原水産株式会社のカツオ・ビンナガマグロ一本釣り漁業(2019年)
・兵庫県相生市マルト水産株式会社の垂下式カキ漁業(2019年)
・宮城県気仙沼市臼福本店のタイセイヨウクロマグロ漁業(2020年)
・三重県尾鷲市尾鷲物産のビンナガ・キハダ・メバチマグロ漁業(2021年)
水産業の盛んな日本においても、今後MSC認証漁業が増えていくことが期待されます。
前述したように、世界における魚介類の養殖業は発展し続けており、漁業総生産量に占める養殖生産量の割合は50%に迫っています。しかしながら、養殖業のグローバルな発展に伴い様々な問題が浮かび上がってきています。養殖場を造るための沿岸マングローブ林の急速な破壊、養殖に必要な餌となる小魚の乱獲、養殖場における過剰な餌や養殖個体の排泄物の蓄積、薬物投与による水質汚染などです。そこで、これらの現状を改善し、自然環境と地域社会に対し「責任ある養殖」を推進する国際機関として、2010年にASCが設立されました。ASCは持続可能な養殖を目指し、2021年9月現在、サケ、淡水マス、ティラピア、パンガシウス(ナマズ類)、アワビ、二枚貝(ホタテ、カキ、アサリ、ムール貝)、エビ、ブリ・スギ類、スズキ・タイ・オオニベ類、ヒラメ、熱帯魚類の11魚介類について、その養殖形態に応じて個別の原則と基準を設けています。なお、2018年3月に海藻(藻類)についてASCとMSCの初の共同策定基準が設けられました。MSCと同様に基準に則って厳しい審査を受けてパスすると、「責任ある養殖管理のもとで育てられた水産物であることを認証したASCマーク」を付けて製品を販売することができます。消費者はこのマークにより、自然環境への負荷を最小限に抑え、法令・人権・労働といった社会的な側面でも責任ある経営・管理を行なっている養殖場で生産された製品であることが分かります。2021年4月1日時点で、世界で1,371ヶ所の養殖場がASCの認証を取得しています。
日本においては2016年3月に宮城県漁業協同組合志津川支所のカキ養殖が日本で初めてASC認証を取得しました。その後、ブリやカンパチ、ニジマス、ギンザケ、マダイの養殖が次々にASC認証を取得しています。特異なものとして、株式会社ユーグレナが2019年1月に世界で初めて取得した微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)とヤエヤマクロレラの「ASC-MSC海藻(藻類)認証」が挙げられます(ユーグレナとクロレラについては1章植物「植物プランクトンと海藻」を参照)。
海藻
海藻は多細胞藻類であり、ほとんどの種が付着器官の仮根で岩場などに固着して生活しています(1章植物「植物プランクトンと海藻」を参照)。日本をはじめ東アジアでは海の野菜sea vegetableとして好んで食べられていますが、西洋では海の雑草seaweedと称して食卓に上ることはほとんどありません。海藻は1章植物「光合成」で説明した光合成色素により緑藻、褐藻、紅藻の3つのグループに大きく分類されます。日本で食用とされている海藻のうち、代表的なものを表10-1に示します。
①緑藻
緑藻は地上の植物の葉と同じようにクロロフィルとカロテノイドを光合成色素としてもっており、緑色をしています。一般的にアオノリ(青海苔)とよばれているものは、アオサ目アオサ科アオサ属(Ulva)のアナアオサ(穴青藻、英名:holey sea lettuce、学名:Ulva pertusa)やスジアオノリ(筋青海苔、英名:green laver、学名:U. prolifera)、ヒビミドロ目ヒトエグサ科ヒトエグサ属(Monostroma)のヒトエグサ(一重草、英名:green laver、学名:Monostroma nitidum)などです(表10-1)。
アナアオサは藻体が硬いため、乾燥させて、ふりかけなどに利用されます。スジアオノリはアオノリの中では最も味がよいとされ、一般的には乾燥させて「抄きあおのり」や粉末の「青粉」などに加工されます。スジアオノリは徳島県や千葉県などで養殖されています。
ヒトエグサは一般に「あおさ」または「あおさのり」(沖縄では「アーサー」)とよばれ、主に「のり佃煮」に加工されたり、生のまま味噌汁の具として利用されたりしています。三重県の伊勢志摩ではヒトエグサの養殖が盛んで、全国の生産量の約70%を占めています。
②褐藻
褐藻はクロロフィルaとクロロフィルc(クロロフィルbはもちません)、ならびに少量のカロテンと大量の赤褐色の色素フコキサンチン(カロテノイドの一種)を光合成色素として葉緑体にもつため褐色を呈しています。わが国ではコンブ目のワカメやコンブ、シオミドロ目のモズク、ヒバマタ目のヒジキやアカモクなどの褐藻がよく食べられています(表10-1)。
ワカメ(若布、学名:Undaria pinnatifida)はコンブ目チガイソ科ワカメ属(Undaria)の海藻で、北海道以南から九州にかけ生育し、縄文の時代から日本人にはよく食されています。ワカメ以外のワカメ属のアオワカメ(U. peterseniana)やヒロメ(U. undarioides)も食用とされています。採りたてのワカメを湯通しすると褐色から緑色に劇的に変化します(写真10-1)。これは、フコキサンチンという褐色色素はタンパク質と結合していると呈色しますが、加熱によりタンパク質を変性させると遊離して色を失い、熱に安定なクロロフィルの緑色が残るためです。コンブやモズクなどの褐藻類も採れたては褐色をしていますが、湯通しするとやはり緑色に変わります。
2019年の日本におけるワカメ類の養殖生産量は4.46万トン(生重量)で、主な産地は宮城県(シェア:39.9%)、岩手県(28.3%)、徳島県(13.5%)、兵庫県(7.4%)などです。
コンブ(昆布)はコンブ目コンブ科コンブ属(Saccharina)の褐藻の総称で、マコンブ(Saccharina japonica)、ナガコンブ(S. longissima)、ミツイシコンブ(S. angustata)などがあります。マコンブにはオニコンブ(別名:ラウスコンブ、S. j. var. diabolica)、リシリコンブ(S. j. var. ochotensis)、ホソメコンブ(S. j. var. religiosa)という変種があります。コンブは寒い気候の北海道や青森県、岩手県、宮城県沿岸でよく育ちます。北海道昆布の商品としては「羅臼昆布」(オニコンブ:知床半島の根室海峡側で収穫)、「利尻昆布」(リシリコンブ:宗谷岬を中心に収穫)、「日高昆布」(ミツイシコンブ:襟裳岬を中心に収穫)、「長昆布」(ナガコンブ:釧路から根室にかけて収穫)、「山出し昆布」(マコンブ:函館を中心に道南で収穫)などが有名です。マコンブは道南のみならず、青森県の津軽海峡沿岸から岩手県沿岸まで分布し、ホソメコンブは北海道の石狩湾沿岸から渡島半島日本海沿岸にかけてと、青森県の津軽海峡沿岸から宮城県の金華山沿岸にかけて広く分布しています。
歴史的には、「続日本紀」(797年)に昆布が蝦夷から平城京へ献上されたとあります。また、「延喜式」(927年)には陸奥国の交易品に昆布が記載されており、平安時代には昆布が京の都に運ばれ、珍重されていたようです。
近年、コンブ(マコンブ系)は中国、韓国などで盛んに養殖されています。2018年における世界の養殖コンブ生産量は1,145万トン(生重量)であり、養殖海藻類の中で最も多く生産されています。2019年の日本におけるコンブ類の生産量は、天然コンブ類が4.65万トン(シェア:北海道96.1%、青森県2.4%)、養殖コンブ類が3.26万トン(北海道73.3%、岩手県23.6%、宮城県2.8%)となっています。
モズク(水雲)はシオミドロ目ナガマツモ科に属する糸状で、分枝する褐藻の総称です。古くから日本各地の沿岸で採取され、食べられてきた種としてのモズク(別名:イトモズク、Nemacystus decipiens)はモズク属(Nemacystus)の海藻で、ホンダワラなどの藻類に付着して生育することから「藻付く」とよばれ、本来ならモヅクと命名されるべきところです。しかしながら、藻に付くモズクは少なく、石や岩などに付着するモズクの方が多いようです。現在日本で食べられているモズクとしては、イトモズクの他にオキナワモズク属(Cladosiphon)のオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus)、イシモズク属(Sphaerotrichia)のイシモズク(Sphaerotrichia firma)、フトモズク属(Tinocladia)のフトモズク(Tinocladia crassa)、クロモ属(Papenfussiella)のクロモ(Papenfussiella kuromo)などがあります。これらのモズクのうち、沖縄県で養殖されているオキナワモズクが、わが国のモズク生産量の90%以上を占めており、日本全国に流通しています。その他のモズクは日本各地の沿岸で採取され、それぞれの産地で消費されています。
ヒジキ(鹿尾菜、Sargassum fusiforme)はヒバマタ目ホンダワラ科ホンダワラ属(Sargassum)の長さ1mを超える褐藻で、北海道以南の太平洋沿岸、瀬戸内海、日本海西部沿岸、九州から南西諸島までの磯の岩場などに群生しています。日本では天然ものが採取されていますが、中国や韓国で養殖されたものが大量に輸入されています(国内流通量の約90%が輸入です)。採れたてのヒジキは苦味や渋味が強いため生で食べるには適さないので、3〜4時間釜茹でして苦味などを抜いた後乾燥して製品化されます。生のヒジキは茶色から褐色をしていますが、加工するにつれ黒くなります。ひと昔前までは鉄釜で茹でていたためヒジキの鉄含量は乾物100g当たり58.2mgと非常に高かったのですが、最近はステンレス釜で茹でているため乾物100g当たりの鉄含量は6.2mgと少なくなっています。黒コンニャクはヒジキの粉末を加えて作られます。
ヒジキと同じホンダワラ属のアカモク(赤藻屑、Sargassum horneri)は、長さが4mにもなる藻類で日本各地に生息しています。肥料の原料に利用されています。食用としては日本海側の秋田県や山形県、新潟県などの限られた地域でのみ利用されていましたが、最近は食品としての人気が上昇しており、加工品の流通量が増えています。
ワカメ、コンブ、モズク、ヒジキ、アカモクなどの褐藻類にはヌメリ成分として水溶性食物繊維のアルギン酸やフコイダンが含まれています。
アルギン酸は1883年スコットランドの化学者スタンフォードにより褐藻類から単離された粘質多糖で、マンヌロン酸とグルロン酸という2種類のウロン酸から構成されています。藻類algaeから得られる酸性物質という意味からalginic acid(アルギン酸)と名付けられました。アルギン酸自身やアルギン酸カルシウムは水に不溶性ですが、アルギン酸のナトリウムあるいはカリウム塩は水溶性です。食品分野では増粘剤や安定化剤、ゲル化剤、乳化剤、麺質改良剤、成形肉の結着剤などとして利用されています。低分子化アルギン酸ナトリウムはコレステロールの吸収を抑える働きがあるので、血清コレステロール値の高めのヒト用の特定保健用食品の成分として許可されています。人工イクラの皮膜にはアルギン酸が使われています。医療分野では手術糸や創傷被覆剤などとして、化粧品分野では増粘剤や保水剤などとして利用されています。
フコイダンは1913年スウェーデンのウプサラ大学教授キリンによりヒバマタ目ヒバマタ科ヒバマタ属(Fucus)の褐藻(ブラダーラックFucus vesiculosusなど)から発見され、当初はフコイジンと命名されましたが、後に多糖の国際命名基準によりフコイダンと変更されました。フコイダンは硫酸化フコースを主な構成成分とする高分子多糖で、フコース以外にグルクロン酸、ガラクトース、マンノース、キシロースなども結合しています。フコースの名前はフコイダンから発見されたことに由来します。褐藻の種類により構成成分の異なるフコイダンが存在します。抗腫瘍作用が認められ、現在盛んに基礎研究と臨床研究が進められています。
③紅藻
紅藻の葉緑体にはクロロフィル(クロロフィルa)とカロテノイド(カロテンとルテイン)のほかにフィコビリンという第三の光合成色素が含まれています。フィコビリンにはフィコエリトロビリンやフィコシアノビリンなどがあり、これらの色素自身には色がありませんが、タンパク質と共有結合してフィコビリンタンパク質となり発色します。タンパク質と結合することにより、フィコエリトロビリンは紅色のフィコエリトリンに、フィコシアノビリンは青色のフィコシアニンになります。このように紅藻には3種類の光合成色素が全て含まれており、赤紫色をしています。日本で食用にされている紅藻にはウシケノリ目のアサクサノリやスサビノリ、スギノリ目のフノリやアカバギンナンソウ、テングサ目のマクサやオニクサなどがあります(表10-1)。
アマノリ(甘海苔)あるいはノリ(海苔)はウシケノリ目ウシケノリ科アマノリ属(Pyropia)の紅藻の総称で、アサクサノリ(Pyropia tenera)やスサビノリ(P. yezoensis)などがあり、有明海、瀬戸内海、伊勢湾・三河湾、東京湾、松島湾などで養殖されています。現在は、ナラワスサビノリというスサビノリの品種がノリ養殖の主流になっています。主として板海苔に加工され(規格サイズ:縦21cm×横19cm)、おにぎりや巻き寿司などに使われています。焼く前の板海苔は黒紫色や黒褐色をしていますが、焼くことにより熱に弱いフィコビリンタンパク質が色を失い、熱に安定なクロロフィルの緑色が出てきます。
フノリ(布海苔)はスギノリ目フノリ科フノリ属(Gloiopeltis)の紅藻の総称で、フクロフノリ(Gloiopeltis furcata)やマフノリ(G. tenax)などがあります。日本各地に分布していますが、フクロフノリは樺太や千島など寒い海域にも生息する北方系であり、マフノリは比較的暖かい海域に生息する南方系です。生のフノリは湯通しすると緑色に変わります。赤紫色した乾物が流通しており、味噌汁の具などに利用されています。
アカバギンナンソウ(別名:仏の耳、Mazzaella japonica)はスギノリ目スギノリ科アカバギンナンソウ属(Mazzaella)の紅藻で、北海道や東北地方北部太平洋沿岸に生息しています。加熱すると赤色から緑色に変わります。青森県八戸地方では春先に採れるこの海藻を蒸した後、つぶして練り込み「アカハタモチ」という郷土料理をつくり、磯の香りとモチモチの食感を楽しんでいます。
テングサ(天草)はテングサ目テングサ科テングサ属(Gelidium)のマクサ(Gelidium elegans)やオニクサ(G. japonicum)、オオブサ(G. pacificum)などの紅藻の総称です。テングサを茹でて溶かし、煮汁を冷まして固めた食品を「ところてん」(心太あるいは心天と書きます)といい、天突きという道具で突き出して細い糸状とし、辛子醤油や酢、黒蜜などをかけて食べます。ところてんは、かなり昔(奈良・平安時代)から食べられていたようです。
江戸時代のある冬の極寒の時期に、使い残しのところてんを戸外に置いたところ凍ってしまい、しばらく放置しておいたところ水分が無くなり乾物状態になっていたそうです(いわゆる凍結乾燥されたのです)。これに水を加えて煮ると再び溶け、冷やすとまた固まるという現象が発見されました。この乾物がいわゆる「寒天」です。
寒天の主成分はアガロースとアガロペクチンという2種類の多糖で、構成比はアガロース:アガロペクチン≒70:30です。アガロースはD-ガラクトースと3,6-アンヒドロ-L-ガラクトースからなる二糖のアガロビオースが直鎖状に多数結合した中性多糖であり、アガロペクチンはアガロビオース単位に硫酸基が結合し、更にグルクロン酸やピルビン酸を含む複雑な酸性多糖です。寒天は羊羹やゼリーなどの菓子材料ならびに工業用材料として用いられています。科学の分野では、寒天ゲルは細菌の培養実験などに、アガロースゲルは核酸の電気泳動実験などに用いられています。
寒天は上述したテングサ以外にオゴノリ目のオゴノリ(Gracilaria vermiculophylla)、スギノリ目のサイミ(Ahnfeltiopsis concinna)、イギス目のエゴノリ(Campylaephora hypnaeoides)などの紅藻からも製造されています。エゴノリ(恵胡海苔)は日本海沿岸に多く生息し、これを煮溶かしてコンニャクのように固めたものが各地の郷土料理として作られており、青森県では「えご天」、山形県では「えご」、新潟県佐渡では「いごねり」、京都府では「うご」、山口県や福岡県では「おきゅうと」などとよばれています。
オゴノリは元来寒天の原料としては利用されていなかったのですが、アルカリ処理することにより寒天の原料になることが日本で発見されました。現在はテングサよりオゴノリの方が寒天の原料として多く利用されるようになっています。寒天原藻のオゴノリは中国やインドネシアなどで盛んに養殖されています。2018年の世界の養殖オゴノリ生産量は345万トン(生重量)であり、養殖海藻類の中で前述したコンブ、後述するキリンサイに次いで第3位となっています。
寒天と並んでもう1つ紅藻から抽出される多糖にカラギナンがあります。カラギナンはアイルランド南東部の海沿いの町カラギーンCarragheenで集積されたスギノリ目スギノリ科ツノマタ属(Chondrus)のヤハズツノマタ(別名:トチャカ、英名:Irish moss、学名:Chondrus crispus)から1844年に初めて抽出され、町名に因んで名付けられました。カラギナンはD-ガラクトースと3,6-アンヒドロ-D-ガラクトースが交互に直鎖状に多数結合した多糖であり、硫酸基を有します。一見すると寒天の成分であるアガロースに似ていますが、硫酸基を有する点と、アンヒドロガラクトースがアガロースではL型ですが、カラギナンではD型である点が異なります(L型とD型は鏡像異性体のことです)。カラギナンは日本では寒天ほどよく知られていませんが、デザートや乳製品などの増粘・ゲル化剤、ハミガキの粘度調整剤、芳香剤のゲル化剤、医薬品のカプセルなどに幅広く利用されています。上述したアカバギンナンソウから作られるアカハタモチはカラギナンのゲル化を利用したものと考えられます。
現在、カラギナンは主にスギノリ目ミリン科キリンサイ属(Eucheuma)のキリンサイ(麒麟菜、Eucheuma spinosumやE. cottonii)から得られています。カラギナン原藻のキリンサイは東南アジア(インドネシア、フィリピン、ベトナムなど)やアフリカ(タンザニア、モザンビーク、マダガスカルなど)、南太平洋諸国(フィジー、キリバスなど)、カリブ海諸国、ブラジルなど世界の多くの国で養殖されています。2018年における世界の養殖キリンサイ生産量は924万トン(生重量)であり、養殖海藻類の中でコンブに次いで第2位です。
④ヨウ素
海藻にはヒトにとって必須元素であるヨウ素(ヨードともいいます)が豊富に含まれています(乾物100g当たりのヨウ素含量:マコンブ200mg、ヒジキ45mg、アカモク27mg)。ヨウ素は甲状腺ホルモン(チロキシンとトリヨードチロニン)を合成するのに必要です。日本人は海藻などからヨウ素を十分に摂取しているので欠乏症になることはほとんどありませんが、土壌にヨウ素が欠乏している国や海藻を食べる習慣のない国では、食塩にヨウ素を添加するなどして欠乏症を防いでいます。ヨウ素が欠乏すると甲状腺機能低下が起こり、強い全身倦怠感、無力感、皮膚の乾燥、体のむくみなどの症状が現れ、小児の場合には発育障害や知的障害にいたる場合があります。
クジラ
今から5,000万年くらい前に、陸生偶蹄類(9章畜産物を参照)の一群が水中生活に適応し、海に進出してクジラへと進化したと考えられています(写真10-2)。進化の過程で前足は胸鰭へ、尾は尾鰭へと形態変化し、後足は退化しました。魚の尾鰭は縦方向に伸びており、左右の方向に動かして推進するのに対して、クジラの尾鰭は横方向に伸び、上下方向に動かして推進力を得ています。
クジラ類は遺伝子解析から偶蹄類のカバに近縁であることが明らかにされ、旧来のクジラ目と偶蹄目は鯨偶蹄目に統合されました。クジラとカバの共通の特徴としては、①水生である、②水中で交尾や出産、育児をする、③ほとんど毛がない、④汗腺や皮脂腺がない、などが挙げられます。ただし、カバは体表から赤色のヒポスドール酸やオレンジ色のノルヒポスドール酸を含む粘液(しばしば「血の汗」とよばれます)が分泌されており、これらの物質には紫外線を遮断する効果や、抗菌作用が認められています。
クジラは歯をもつハクジラと、歯をもたず上顎から生えた鯨ひげをもつヒゲクジラの2つに大きく分類されます。ハクジラは60種以上いますが、ヒゲクジラは15種(亜種は除きます)しかいません。表10-2に代表的なハクジラとヒゲクジラを示します。ハクジラは魚やイカ、カニなどを主に捕食しますが、ヒゲクジラは鯨ひげを使ってオキアミ、コペポーダ(カイアシ類)などの動物プランクトンやイワシ、ニシンなどの小魚を大量に濾しとり食べます。
ハクジラのなかで比較的小型のもの(成体で体長4m程度以下)をイルカ(海豚)とよんでいます。マイルカ科マイルカ属(Delphinus)のマイルカ(真海豚、common dolphin、Delphinus delphis)やハンドウイルカ属(Tursiops)のハンドウイルカ(半道海豚、bottlenose dolphin、Tursiops truncatus)、カマイルカ属(Lagenorhynchus)のカマイルカ(鎌海豚、Pacific white-sided dolphin、Lagenorhynchus obliquidens)などはよく知られています。ハンドウイルカとカマイルカは水族館のイルカショーの人気ものです。カマイルカは青森県の陸奥湾内でカーフェリーに並んで泳ぐ姿をしばしば見ることができます。
カワイルカ(river dorphin)は主に河川の淡水域あるいは河口の汽水域に生息するイルカの総称で、3科3属に分類されています。カワイルカは海に進出したクジラの祖先が、淡水に移り住んだものと考えられています。アマゾンカワイルカ科アマゾンカワイルカ属(Inia)にはアマゾンカワイルカ(Amazon river dolphin、Inia geoffrensis)、ボリビアカワイルカ(Bolivian river dolphin、I. boliviensis)、アラグアイアカワイルカ(Araguaian river dolphin、I. araguaiaensis)の3種がいます。このうちアラグアイアカワイルカは2014年に発見された新種です。カワイルカ科カワイルカ属(Platanista)にはインドカワイルカ(South Asian river dolphin、Platanista gangetica)1種のみが含まれますが、本種はガンジスカワイルカ(Ganges river dolphin、P. g. gangetica)とインダスカワイルカ(Indus river dolphin、P. g. minor)の2亜種に分けられています。ラプラタカワイルカ(La Plata dolphin、Pontoporia blainvillei)はラプラタカワイルカ科ラプラタカワイルカ属(Pontoporia)の唯一の種で、南米ラプラタ川の河口汽水域やブラジルのウバツバ周辺からアルゼンチンのバルデス半島周辺にかけての海岸に生息しています。中国の長江にヨウスコウカワイルカ(Chinese river dolphin、Lipotes vexillifer)が20世紀末まで生息していましたが、21世紀初めにほぼ絶滅したといわれています。
マイルカ科シャチ属(Orcinus)のシャチ(別名:オルカ、英名:orcaあるいはkiller whale、学名:Orcinus orca)は食性が広く、魚やイカから、海鳥、ペンギン、ラッコ、アザラシ、オタリア、クジラにいたるまで捕食します。
イッカク科にはイッカク属(Monodon)のイッカク(一角、narwhal、Monodon monoceros)やシロイルカ属(Delphinapterus)のシロイルカ(別名:ベルーガ、white whaleあるいはbeluga、Delphinapterus leucas)がいます。イッカクの雄には歯が変形した1本の長い牙があります。シロイルカは体長が5m以上になりますので英名のようにシロクジラとよんだ方がよいかもしれません。ベルーガは様々な鳴き声を発することから「海のカナリア」ともよばれています。
ナガスクジラ科ナガスクジラ属(Balaenoptera)のナガスクジラ(fin whale、Balaenoptera physalus)やミンククジラ(別名:コイワシクジラ、minke whale、B. acutorostrata)、クロミンククジラ(Antarctic minke whale、B. banaerensis)、ニタリクジラ(Bryde’s whale、B. brydei)、イワシクジラ(sei whale、B. borealis)ならびに同科ザトウクジラ属(Megaptera)のザトウクジラ(humpback whale、Megaptera novaeangliae)などには下顎から腹部にかけて畝(ウネ)とよばれる伸縮性のある組織があります。食物を食べるときに大きな口を開けると海水が口の中に入ってきます。すると畝の部分が風船のように膨らむため一度に大量の海水とともに食物を取込むことができます。口を閉じ海水を外に押し出すと食物だけが鯨ひげにひっかかるわけです。このようなろ過方式により集めた食物を飲み込みます。
セミクジラ科セミクジラ属(Eubalaena)のセミクジラ(North Pacific right whale、Eubalaena japonica)やホッキョククジラ属(Balaena)のホッキョククジラ(bowhead whale、Balaena mysticetus)などセミクジラ科のクジラには畝がありません。口の先端部には鯨ひげがないので、口を開けて泳ぐと、食物が海水とともに口の中に入ってきます。口の両側にある鯨ひげを通して海水はろ過され出て行きます。このとき食物は鯨ひげの内側にひっかかるので、これを集めて飲み込みます。
コククジラ科コククジラ属(Eschrichtius)のコククジラ(gray whale、Eschrichtius robustus)は沿岸部の海底の泥の中に生息しているヨコエビなどの小さな甲殻類やゴカイの仲間、軟体類などを食べます。このクジラは頭部の先端で海底の泥を掘りおこします。まき上げられた泥や食物を海水とともに口に含み、鯨ひげで食物を濾しとり食べるのです。
クジラにはウシと同じように胃袋が4つあります。第一胃は食道が変化したもので、食道胃または前胃とよばれ、消化液を分泌しません。第一胃は大量の食べたものを貯蔵しておく場所です。ウシなどは食べたものを第一胃から口に戻し噛み直すという反芻をしますが、クジラは反芻しません。第二胃は主胃、第三胃は幽門胃とよばれ、これら2つの胃が組織学的に真の胃袋です。主胃と幽門胃からは消化酵素(ペプシンやリパーゼなど)や粘液(ムチン)が分泌されます。第四胃は十二指腸の前半が変化した十二指腸膨大部であり、膵管(消化酵素を含む膵液を分泌する管)が開口しています。
クジラは黒皮とよばれる薄い表皮の内側にある脂皮とよばれる厚い脂肪層で全身が包まれています。脂皮は水中で生活するクジラが体温を奪われるのを防ぐ断熱材として働いており、その厚さは南極海から赤道近くまで回遊するクロミンククジラの3〜5cmから、北極海とその周辺で暮らすホッキョククジラの50cm位までクジラの種により様々です。また、脂肪は体内でエネルギー(ATP)産生のために代謝されて水(代謝水)が生成されますので、水を飲まないクジラにとり重要な水分の供給源となります。脂皮に含まれる脂質成分はヒゲクジラとハクジラで異なっています。ヒゲクジラではトリグリセリドが主成分ですが、ハクジラではロウ(ワックス)がかなり多く含まれており、特にマッコウクジラ科マッコウクジラ属(Physeter)のマッコウクジラ(sperm whale、Physeter macrocephalus)では皮下脂肪の約66%をロウが占めています。ロウは長鎖脂肪酸と長鎖アルコールのエステルです。人類はトリグリセリドを消化吸収できますが、ロウは消化できません。
黒皮と脂皮の部分は本皮とよばれ、刺身として、あるいは、熱湯を通して酢みそ和えなどとして食べられています。本皮に須の子(脂肪層の内側についている肉の部分)がついたものは皮須とよばれます。上述したナガスクジラなどの畝の部分も表皮と厚い脂肪層からできており、これに須の子がついたものは畝須とよばれます。皮須や畝須はベーコンの原料になります。クジラの脂皮にはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのω(オメガ)3脂肪酸が多く含まれていることが知られています。ミンククジラの脂皮を含む可食部100g当たりのω3脂肪酸含量は、本皮でEPA 4,300mg、DHA 3,400mg、畝須でEPA 2,200mg、DHA 1,800mgと報告されています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。
クジラの背肉や胸肉、腹肉などの赤肉は家畜の肉に比べて低脂肪で高タンパク質です。後述するように日本は2019年7月1日から商業捕鯨を再開したので、新鮮なクジラ赤肉を食卓で食べられるようになりました。クジラ赤肉には抗疲労効果や抗酸化作用が認められるイミダゾールジペプチドのバレニンやアンセリン、カルノシンが高濃度に含まれており、鯨肉は機能性食材としても利用できます。
マッコウクジラの筋肉には大量のミオグロビンという酸素結合タンパク質が存在し、大量の酸素を貯蔵できるので、信じられないほど長い時間(1時間以上)の無呼吸潜水が可能です。骨格筋のミオグロビン含量はウシで約0.5%であるのに対して、マッコウクジラではウシの10倍の約5%もあります。マッコウクジラを含むハクジラ類において、筋肉のミオグロビン含量と潜水時間の間には正の相関性が存在すると報告されています。すなわち、ミオグロビン量が多いほど長い時間潜水できます。アカボウクジラ科アカボウクジラ属(Ziphius)のアカボウクジラ(Cuvier’s beaked whale、Ziphius cavirostris)やトックリクジラ属(Hyperoodon)のキタトックリクジラ(northern bottlenose whale、Hyperoodon ampullatus)は筋肉にそれぞれ約4%および6%のミオグロビンがあり、両者とも1時間以上潜水できることが知られています。
乱獲によりクジラの数が急激に減少したことから、1946年に鯨資源の保存及び捕鯨産業の秩序ある発展を図ることを目的として国際捕鯨取締条約が結ばれ、これに基づき1948年に国際捕鯨委員会(IWC)が設立されました。日本は1951年にIWCに加盟しましたが、その後も商業捕鯨を続けました。1982年にIWCで商業捕鯨停止が決議され、日本は1987年から南極海での商業捕鯨、1988年から太平洋ならびに沿岸での商業捕鯨を停止しました。商業捕鯨停止後はIWC管理対象の大型鯨類(ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラ、マッコウクジラ、ナガスクジラ)の調査捕鯨とIWC管理対象外のアカボウクジラ科ツチクジラ属(Berardius)のツチクジラ(Baird’s beaked whale、Berardius bairdii)の捕獲が行なわれていましたが、2019年6月30日に日本はIWCから脱退し、同年7月1日から商業捕鯨を再開しました。捕獲対象クジラはヒゲクジラのミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラならびにハクジラのツチクジラです。世界的には、ノルウェーがミンククジラを、アイスランドがミンククジラとナガスクジラを、デンマーク(グリーンランド)がミンククジラを、アメリカがホッキョククジラを、ロシアがコククジラをそれぞれ捕獲しています。
スズキ目の魚
スズキ目は160科1539属10,033種から構成されており、魚類の中で最大の目です。淡水域、汽水域、海水域などほとんどすべての水圏に分布しています。表10-3にスズキ目の代表的な魚を示します。
水産養殖管理協議会(ASC)の認証基準が設けられている①スズキ・タイ・オオニベ類、②ブリ・スギ類、③ティラピアはスズキ目の魚です。その他のスズキ目の魚は④アジ、⑤サバ科の魚、⑥タチウオ、⑦カジキ、⑧ブラックバス、⑨ハタハタとしてまとめました。
①スズキ・タイ・オオニベ類
スズキ(鱸、Japanese seabass、Lateolabrax japonicus)はスズキ科スズキ属(Lateolabrax)の魚類で、北海道南部から九州南部までの太平洋・日本海・東シナ海沿岸、瀬戸内海、内湾、汽水域、淡水域に生息しています。若魚は汽水域から淡水域に入るといわれています。スズキは、いわゆる出世魚(成長するに従って名の変わる魚)で、セイゴ→フッコ→スズキとよばれます。
飛鳥時代から奈良時代にかけて詠まれた歌を編纂した日本最古の和歌集「万葉集」には8種の魚(鱸、鯛、鮪、鰹、つなし、鮎、鰻、鮒)しか登場しません。クジラは鯨魚(イサナ)とよばれ、万葉集には海、浜、灘にかかる「鯨魚とり」という枕詞(マクラコトバ:和歌の特定の語にかかって修飾または口調を整えるのに用いることば)として
#3852: 鯨魚とり 海や死にする 山や死にする 死ぬれこそ
海は潮干て 山は枯れすれ
#3893: 昨日こそ 船出はせしか 鯨魚とり 比治奇の灘を
今日見つるかも
などと使われていますが、鯨そのものを詠んだ歌はありません。
鱸は柿本人麻呂により
#252: 荒たへの 藤江の浦に 鱸釣る 海人(あま)とか見らむ
旅行く我を
と詠まれています。
スズキの主な漁場は仙台湾、東京湾、伊勢湾、若狭湾、有明海などの内湾や瀬戸内海です。2019年における日本の漁獲量は6,000トンで、千葉県、兵庫県、愛知県、宮城県、福岡県などが主な産地です。
ヨーロッパスズキ(European seabass、Dicentrarchus labrax)は上述したスズキ科とは異なるモロネ科のヨーロッパスズキ属(Dicentrarchus)の魚類で、東部大西洋沿岸や地中海・黒海に分布しています。
タイ(鯛、seabream)はタイ科の海水魚の総称で、マダイ属(Pagrus)のマダイ(真鯛、red seabream、Pagrus major)、キダイ属(Dentex)のキダイ(黄鯛、yellowback seabream、Dentex hypselosomus)、クロダイ属(Acanthopagrus)のクロダイ(黒鯛、blackhead seabream、Acanthopagrus schlegelii)、ヘダイ属(Sparus)のヨーロッパヘダイ(Gilt-head bream、Sparus aurata)などを含みます。
マダイは北海道以南の日本各地、朝鮮半島から黄海・東シナ海・南シナ海に分布し、日本では古来「おめでたい魚」として祝い膳には欠かせない魚の代表です。「万葉集」に長意吉麻呂(ながのおきまろ)の鯛を詠んだ短歌が見られます。
#3829: 醤酢(ひしほす)に 蒜(ひる)搗(つ)き合(か)てて
鯛願ふ 我にな見えそ 水葱(なぎ)の羹(あつもの)
キダイはレンコダイともよばれ、太平洋側では千葉県以南、日本海側では新潟県以南および東シナ海に分布しますが、瀬戸内海には生息していないようです。クロダイは南日本、朝鮮半島、中国北部沿岸などに分布しています。ヨーロッパへダイは東部大西洋沿岸域や地中海に生息しています。
2019年の日本における天然タイ類の漁獲量は2.50万トンで、主な生産地は長崎県、福岡県、島根県、愛媛県、兵庫県などです。マダイの養殖は盛んに行なわれており、同年の生産量は6.20万トンで、天然マダイ(1.59万トン)の約4倍です。主な養殖地は愛媛県、熊本県、高知県、三重県、長崎県などで、特に愛媛県は57%を占めています。クロダイも三重県、石川県、長崎県、福井県、高知県などで養殖されていますが、生産量は少ないようです。
愛媛県のダイニチは2020年6月に世界で初めてマダイ養殖のASC認証を取得しました。また、熊本県海水養殖漁業協同組合も2021年7月にマダイのASC認証を取得しています。
ヨーロッパへダイは上述したヨーロッパスズキとともには地中海や黒海(ギリシャやトルコなど)で盛んに養殖されています。エーゲ海やイオニア海に接するギリシャは養殖業の盛んな国で、ヨーロッパスズキおよびヨーロッパヘダイの世界の養殖生産量のそれぞれ3割および5割をギリシャが占めています。
ニベ科オオニベ属(Argyrosomus)のオオニベ(大鮸、Japanese meagre、Argyrosomus japonicus)は西太平洋やインド洋に広く分布しています。体長2m位まで成長する大型のニベ類です。日本では千葉県から九州南部の太平洋沿岸や瀬戸内海などに生息しており、宮崎県で養殖されています。
日本語で愛嬌や思いやりがないことを「にべもない」といいますが、この「にべ」は漢字では鮸膠あるいは鰾膠と表記します。これはニベ(鮸)という魚の浮き袋(鰾)を煮つめて作る膠(ニカワ)すなわち鰾膠(ニベニカワ)に由来し、粘着力の強いところから転じて、愛想とか愛嬌という意味があります。現在では、「にべもなく断られた」、「にべもない態度」など否定形で使われることが多いようです。
②ブリ・スギ類
アジ科ブリ属(Seriola)のブリ(鰤、Japanese amberjack、Seriola quinqueradiata)、カンパチ(間八、S. dumerili)、ヒラマサ(平政、S. lalandi)はブリ類とよばれます。ブリは北西太平洋にのみ分布しています。カンパチは太平洋と大西洋の東西両岸の他に地中海やインド洋にも分布しています。ヒラマサは太平洋と大西洋の東西両岸に分布しています。ブリはいわゆる出世魚で、関東地方ではワカシ→イナダ→ワラサ→ブリとよばれ、関西地方ではツバス→ハマチ→メジロ→ブリとよばれています。
2019年の日本における天然ブリ類の漁獲量は10.9万トンであり、主に長崎県、島根県、岩手県、北海道、千葉県などで水揚げされています。ブリ類の養殖は盛んに行なわれており、同年の生産量は13.6万トン(ブリ:10.3万トン、カンパチ:2.9万トン)であり、天然ブリ類を凌いでいます。2019年の日本の海面養殖魚類生産量は24.7万トンであり、第1位はブリ(41.7%)、第2位は上述したマダイ(25.1%)、第3位はカンパチ(11.6%)が占めています。ブリの主な養殖地は鹿児島県、大分県、愛媛県、宮崎県、高知県など、カンパチの主な養殖地は鹿児島県、愛媛県、宮崎県、大分県、香川県などです。
日本において、魚の臭みを消すために果物を混ぜた餌で育てた養殖魚をフルーツ魚とよんでいます。大分県では「かぼすブリ」や「かぼすヒラマサ」など、また、愛媛県では「みかんブリ」などのフルーツ魚が養殖されています。
黒瀬水産は2017年12月に世界で初めてブリのASC認証を取得しました(養殖場:宮崎県と鹿児島県)。その後、グローバルオーシャンワークスと福山養殖(鹿児島県)、マルハニチログループのアクアファーム(大分県)、ならびに鹿児島県東町漁業協同組合もブリのASC認証を取得しています。また、マルハニチログループの奄美養魚(鹿児島県)は2019年7月に世界で初めてカンパチのASC認証を取得しました。
スギ(須義、cobia、Rachycentron canadum)はスギ科スギ属(Rachycentron)の海水魚で、スギ科は本種のみで構成されています。スギは東部太平洋を除く世界中の温暖な海に広く分布し、日本近海では南日本に多く生息しています。日本では沖縄でのみ養殖されています。世界では中国やパナマ、ベトナム、台湾、エクアドル、ドミニカ共和国など多くの国で養殖されています。
③ティラピア
ティラピアはカワスズメ科カワスズメ属(Oreochromis)の淡水魚の総称で、ナイルティラピア(Nile tilapia、Oreochromis niloticus)やカワスズメ(別名:モザンビークティラピア、Mozambique tilapia、O. mossambicus)などが含まれます。ナイルティラピアの原産地はアフリカ西部のニジェール川水系やアフリカ東部のナイル川水系、ならびにイスラエルのヤルコン川などとされています。カワスズメの原産地はアフリカ南東部のザンベジ川・リンポポ川水系を中心とする河川域です。両種ティラピアとも世界の多くの地域に移入されています。ティラピア類は日本ではチカダイやイズミダイとよばれています。2018年の世界におけるナイルティラピアの養殖生産量は453万トンで、養殖魚類の中では第3位にランクされています。主要な養殖生産国は中国、インドネシア、エジプト、バングラデシュ、ブラジルなどです。
④アジ
アジ(鯵)はアジ科アジ亜科(20属から構成)の海水魚の総称で、マアジ属(Trachurus)のマアジ(真鯵、Japanese horse mackerel、Trachurus japonicus)やニシマアジ(西真鯵、Atlantic horse mackerel、T. trachurus)、シマアジ属(Pseudocaranx)のシマアジ(縞鯵、white trevally、Pseudocaranx dentex)などが含まれます。マアジは北西太平洋の沿岸域に、ニシマアジは北東大西洋沿岸域や地中海に分布しています。シマアジは全世界の亜熱帯・温帯海域の沿岸部に広く分布していますが、東部太平洋には分布していないようです。
2019年における日本のアジ類漁獲量は11.3万トンであり、主な産地は長崎県、島根県、宮崎県、愛媛県、鳥取県などです。特に長崎県の水揚げが多く、全国の漁獲量の38.9%を占めています。
天然シマアジの水揚げは少なく、流通しているシマアジの殆どは養殖ものです。2019年の養殖シマアジの生産量は4,400トンで、主な養殖地は愛媛県、熊本県、大分県、高知県などです。特に愛媛県は全国の養殖生産量の45.5%を占めています。
⑤サバ科の魚
サバ科にはサバやマグロ、カツオ、サワラなどが含まれます。
サバ(鯖、mackerel)はサバ科サバ属(Scomber)の海水魚の総称で、マサバ(真鯖、Pacific chub mackerel、Scomber japonicus)やゴマサバ(胡麻鯖、blue mackerel、S. australasicus)、タイセイヨウサバ(別名:ノルウェーサバ、Atlantic mackerel、S. scombrus)などが含まれます。マサバは北太平洋に分布しています。ゴマサバはマサバより暖かい海域を好み、南北太平洋の温帯・熱帯海域、紅海、アデン湾、オマーン湾、ペルシア湾などに分布しています。タイセイヨウサバは北大西洋の温帯海域、地中海、黒海に分布しています。
2018年における世界のサバ類の漁獲量は、マサバが156万トン、タイセイヨウサバが105万トンとなっています。
2019年における日本のサバ類の漁獲量は44.5万トンであり、マサバの漁獲量はゴマサバの約7倍です。主な産地は長崎県、茨城県、三重県、静岡県、宮崎県などです。また、近年日本各地でマサバの養殖が始まっており、「唐津Qサバ」(佐賀県)、「長崎ハーブ鯖」(長崎県)、「ひむか本さば」(宮崎県)、「酔っぱらいサバ」(福井県)、「お嬢サバ」(鳥取県)、「ぼうぜ鯖」(兵庫県)などのブランド名で販売されています。日本はかつてサバの輸入国でしたが、2006年を境にして輸出国に変わりました。2019年の輸出量は16.9万トン(漁獲量の38%)で、ナイジェリア、エジプト、ガーナなどのアフリカ諸国や東アジア・東南アジア諸国などに輸出されています。現在も7万トン程輸入されており、その9割程度はノルウェー産です。サバにはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が豊富に含まれており、健康食材として見直されています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。
マグロ(鮪、tuna)はサバ科マグロ属(Thunnus)に分類される回遊性魚類の総称で、キハダ(キハダマグロ、yellowfin tuna、Thunnus albacares)、ビンナガ(ビンナガマグロ、albacore、T. alalunga)、メバチ(メバチマグロ、bigeye tuna、T. obesus)、ミナミマグロ(southern bluefin tuna、T. maccoyii)、タイヘイヨウクロマグロ(別名:ホンマグロ、Pacific bluefin tuna、T. orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(Atlantic bluefin tuna、T. thynnus)などが含まれます。キハダとメバチは世界中の熱帯・温帯海域に、ビンナガは世界中の温帯海域に、ミナミマグロは南半球の温帯海域にそれぞれ分布しています。クロマグロには太平洋に分布するタイヘイヨウクロマグロと大西洋(地中海・黒海を含む)に分布するタイセイヨウクロマグロの2種があり、両種とも北半球の温帯海域に生息しています。
マグロは古くはシビとよばれ、「万葉集」に大伴家持が
#4218: 鮪(しび)突くと 海人(あま)の燭(とも)せる いざり火の
穂にか出(い)ださむ 我が下思(したもひ)を
と詠んでいます。
2018年の世界におけるマグロ類の漁獲量は217万トンで、内訳はキハダ67.7%、メバチ19.6%、ビンナガ10.3%、クロマグロ1.8%、ミナミマグロ0.7%となっています。
2019年の日本におけるマグロ類の漁獲量は16.3万トンで、内訳はキハダ49.9%、メバチ21.0%、ビンナガ18.6%、クロマグロ6.3%、ミナミマグロ3.8%となっています。静岡県、宮城県、高知県、宮崎県、東京都、鹿児島県、沖縄県などで多く水揚げされています。本章の「MSC・ASC認証」で述べたように、宮城県や静岡県のビンナガの一本釣り漁業、宮城県のタイセイヨウクロマグロ漁業、ならびに三重県のビンナガ・キハダ・メバチ漁業はMSC認証を取得しています。クロマグロの養殖が長崎県や鹿児島県、高知県、三重県などで行なわれており、2019年の生産量は1.96万トンでした。日本はマグロ類の輸入が多く、2018年には国内生産量に相当する18.3万トンが輸入されています。マグロ類は主に刺身として利用されますが、キハダやビンナガは缶詰の原料になります。
カツオ(鰹、skipjack tuna、Katsuwonus pelamis)はサバ科カツオ属(Katsuwonus)の海水魚で、世界中の熱帯・温帯海域に分布しています。英名がskipjack tuna(skipとは「水面を飛び跳ねる」の意味)となっているように、マグロ類に含まれることがあります。
鹿児島近海のカツオは春から夏にかけて黒潮に乗って日本沿岸を北上して三陸沖に達し、秋になるとUターンして南下します。春獲りの「初鰹」は脂が少なく、鰹節に適しているといわれます。秋獲りの「戻り鰹」は脂が多いためトロカツオともよばれ、刺身として人気があります(後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。カツオは節や刺身の他、たたき、缶詰などに利用されます。鰹節とは、おろしたカツオの身をゆでるか、または蒸し、焙って乾かし、カビ付けをした後、日光で乾燥したものです。
奈良時代の「古事記」(712年)には、古墳時代の雄略天皇の御代(5世紀末頃)のところに「堅魚(カタウオ)を上げて舎屋を作れる家ありき」と記されています。堅魚とは神社や宮殿の棟木(ムナギ)の上に並べる鰹木(カツオギ)のことであり、その形は鰹節に似ています。「大宝律令」(701年)の海産物調腑の制によると、堅魚(素干したカツオ)、煮堅魚(煮て日干したカツオ)、堅魚煎汁(カタウオイロリ:カツオの煮汁をさらに煮つめた調味料)が租税として課せられていました。また、鰹は「万葉集」には浦島伝説に関する長歌に
#1740: ・・・水江(みづのえ)の 浦島子(うらのしまこ)が 堅魚釣り
鯛釣り誇り 七日まで 家にも来ずて 海界(うなさか)を
過ぎて漕ぎ行くに・・・
と詠まれています。鰹節には「勝男武士」の漢字があてられ、戦国時代の武士の縁起かつぎとして戦陣に携帯されたといわれています。「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」は江戸時代中期の俳人山口素堂の作ですが、初鰹は当時の江戸っ子には大人気だったようです。このように鰹は古くから日本人の生活に密着した魚のようです。
2018年の世界のカツオ漁獲量は316万トンで、アンチョベータ(ペルーカタクチイワシ:705万トン)、スケトウダラ(340万トン)に次いで第3位となっています。2019年における日本のカツオ漁獲量は23.3万トンであり、主な産地は静岡県、宮城県、東京都、三重県、高知県、宮崎県などです。本章の「MSC・ASC認証」で述べたように、宮城県や静岡県のカツオの一本釣り漁業はMSC認証を取得しています。
サワラ(鰆、Japanese Spanish mackerel、Scomberomorus niphonius)はサバ科サワラ属(Scomberomorus)の海水魚であり、北海道南部から九州南部までの太平洋・日本海・東シナ海沿岸や瀬戸内海、中国・台湾・韓国の東シナ海沿岸などに生息しています。出世魚であり、成長に伴いサゴシ(またはサゴチ)→ナギ→サワラと呼び名が変わります。2019年の日本の漁獲量は1.58万トンであり、主な産地は福井県、京都府、石川県、鳥取県、島根県などです。
⑥タチウオ
タチウオ(太刀魚、largehead hairtailあるいはcutlassfish、Trichiurus lepturus)はタチウオ科タチウオ属(Trichiurus)の回遊魚で、世界中の熱帯・亜熱帯域の沿岸から大陸棚にかけて生息しています。日本においては北海道から九州南岸にかけて分布しています。体長は150~200cm程度になります。体表に鱗がなく、グアニン質の層で覆われているため銀色に輝いて見えます。尾鰭と腹鰭は退化してなくなっている一方、背鰭は大きく発達し、背中全体に伸びています。和名のタチウオは銀色で平たく細長い体形が太刀に似ていることに由来します。英名のcutlassfishも体形がやや反り身で片刃の重い短剣cutlassに似ていることに由来します。
2018年の世界における漁獲量は115万トンであり、その内の大半が中国により漁獲されています。2019年の日本における漁獲量は6,400トンであり、主な産地は和歌山県、愛媛県、長崎県、大分県、鹿児島県などです。
⑦カジキ
カジキ(梶木、marlin)はマカジキ科とメカジキ科の魚類の総称です。マカジキ科はマカジキ属(Kajikia)のマカジキ(真梶木、striped marlin、Kajikia audax)やクロカジキ属(Makaira)のクロカジキ(黒梶木、Indo-Pacific blue marlin、Makaira mazara)など5属11種で構成されていますが、メカジキ科はメカジキ属(Xiphias)のメカジキ(目梶木、swordfish、Xiphias gladius)1種のみで構成されています。カジキは上顎が剣状に長く鋭く伸びて吻(フン)を形成しているのが特徴です。メカジキ(目梶木)の名はマカジキなどと比べて目が大きいことに由来します。「梶木通し」はメカジキの方言で、とがった吻で船の加敷(カジキ)を突き通すという意味からきています。
マカジキはインド洋、太平洋の熱帯・温帯海域に分布し、その赤身肉はカジキ類の中では最高級品といわれています(マカジキの刺身は絶品)。クロカジキはインド洋、太平洋の熱帯・温帯海域に分布しており、大西洋の熱帯・温帯海域に分布するニシクロカジキ(西黒梶木、Atlantic blue marlin、Makaira nigricans)とは区別されています。アーネスト・ヘミングウェイの有名な小説「老人と海」で老漁師サンチャゴがキューバ沖で3日間にわたって死闘を繰り広げる魚はニシクロカジキだといわれています。メカジキは太平洋、大西洋、インド洋の熱帯・温帯海域に広く分布しています。
2018年において世界でカジキ類の漁獲量が多かった国はスペイン(2.50万トン)、台湾(2.32万トン)、イラン(1.86万トン)、スリランカ(1.77万トン)などです。
2019年の日本におけるカジキ類の漁獲量は1.09万トン(メカジキ:54.1%、クロカジキ類:22.0%、マカジキ:17.4%)であり、宮城県、高知県、宮崎県、神奈川県などで主に水揚げされています。
⑧ブラックバス
サンフィッシュ科オオクチバス属(Micropterus)の淡水魚はブラックバス(black bass)とよばれています。これにはオオクチバス(大口バス、largemouth bass、Micropterus salmoides)やコクチバス(小口バス、smallmouth bass、M. dolomieu)などが含まれます。これらのブラックバスの原産地は北アメリカですが、世界各地に移入されています。日本には1925年に箱根の芦ノ湖にオオクチバスが初めて放流されました。その後日本各地に放流され、全国の淡水域に生息しています。コクチバスも日本に移入されています。両ブラックバスとも魚食性が強いため日本在来魚を減少させるなど問題視され、2005年に環境省により特定外来生物に指定されています。しかしながら、悪い面ばかりではなく、ブラックバスフィッシングなどのビジネスが展開されています。また、魚自体は白身で美味であるため、琵琶湖周辺や芦ノ湖周辺などではフライや天ぷらなどのバス料理が提供されています。
⑨ハタハタ
ハタハタ(鰰あるいは鱩、sailfin sandfish、Arctoscopus japonicus)はハタハタ科ハタハタ属(Arctoscopus)の魚類で、主に日本海やオホーツク海などに分布しています。日本では乱獲により漁獲量が激減したため、1992年9月から1995年8月まで全面禁漁が実施され、その後は資源量が回復しています。
2019年の日本における漁獲量は5,400トンであり、主な産地は鳥取県、兵庫県、秋田県、石川県などです。「しょっつる」は秋田県で江戸時代初期からハタハタを原料にして作られてきた魚醤です。このしょっつるとハタハタで作る鍋料理が秋田名物「しょっつる鍋」です。ハタハタの卵は「ぶりこ」とよばれ、非常に美味です。
サケ科の魚
サケ目はサケ科のみから成り、サケ科は11属66種から構成されています。表10-4にサケ科の代表的な魚を示します。サケはサケ科の魚類の総称と定義されています。一般的にサケ類・マス類とよび分けられていますが、両者の間に明白な線引きはありません。サケ・マス類は元々淡水魚でしたが、氷期に餌の豊富な海を求めて降海性を強め、イワナ型→ニジマス型→サケ型に進化したと考えられています。
タイヘイヨウサケ属(Oncorhynchus)にはシロザケ、ベニザケ、クニマス、ギンザケ、カラフトマス、ニジマス、サクラマス、マスノスケなどが含まれます。その他に、タイセイヨウサケ属(Salmo)のタイセイヨウサケ、イワナ属(Salvelinus)のイワナやオショロコマ、イトウ属(Hucho)のイトウなどがよく知られています。
①シロザケ
シロザケ(白鮭、英名:chum salmonまたはdog salmon、学名:Oncorhynchus keta)は日本では縄文時代から食糧とされてきたサケで、単にサケと言えばこのシロザケを指します。平安時代の「延喜式」には、サケを租税として貢納している国(信濃、越後、越中)が列記されています。
シロザケは北太平洋、日本海、オホーツク海、ベーリング海、北極海に広く分布しています。海洋で成熟したサケは母川(生まれた川)を遡上し、繁殖行動を終えると雌雄とも全て死んでしまいます。繁殖期の雄の吻部は伸びて先端が曲がる「鼻曲がり」になります。タイヘイヨウサケ属Oncorhynchusは、ギリシャ語のoncos「鉤」とrynchos「鼻」すなわち鉤鼻に由来します。鼻曲がりはシロザケだけでなく、繁殖期のベニザケやギンザケ、カラフトマスなどの雄にも見られます。
河川の川床の砂礫で孵化した仔魚は砂礫中にとどまり、腹部の卵黄のうを吸収しながら成長します。孵化後しばらくすると仔魚の体側には黒い斑紋(パーマーク)が現れます。卵黄のうの吸収がほぼ終わった稚魚は砂礫から浮上し、摂餌を開始します。餌は河川を流下する水生昆虫や陸生昆虫です。河川から海に下る(降海といいます)時期になると、鱗にグアニン色素が蓄積し、体色が銀白色になります。これをスモルト化(銀化)といい、海水適応能を獲得します。また、降海の頃にはパーマークが消失します。降海した幼魚はしばらくの間は河口付近の沿岸海域で生活し、その後次第に沖合に移動して、若魚期の回遊生活に移行すると考えられています。
シロザケには後述するベニザケのヒメマスやサクラマスのヤマメなどのように河川残留型や陸封型は知られていません。
日本の河川を降海し、沿岸滞留期を過ごしたサケの若魚は日本列島に沿って北上し、最初の夏をオホーツク海で過ごすようです。その後、北太平洋、ベーリング海、アラスカ湾などを数年かけて回遊・成熟し、日本沿岸に回帰します。通常4年魚(海洋年齢3年)の回帰が最も多く、これに次ぐ5年魚(海洋年齢4年)と合わせると全体の9割程度を占めます。母川への遡上(9月〜12月)がみられるのは、日本海側は山口県(粟野川)、太平洋側は千葉県(栗山川)が南限といわれています。但し、九州の福岡県、佐賀県、宮崎県、鹿児島県あるいは四国の高知県の沿岸や河川で日本海由来と思われる迷いサケが捕獲されたとの報告があります。上記のような生活史を有するサケは遡河回遊魚とよばれます。
現在、シロザケの養殖は行なわれていませんが、人工孵化放流が全国の多くの遡上河川で行なわれています。日本で最初のサケの人工孵化は、関沢明清により1877年(明治10年)1月に茨城県那珂川産のサケの受精卵を用いて行なわれました。育成された稚魚はサケの遡上しない荒川や多摩川、相模川に移植放流されたといわれています。その後、瞬く間にサケの人工孵化放流が全国に広まりました。日本にはニジマスは生息していませんでしたが、1877年6月にアメリカからニジマスの受精卵(発眼卵)が関沢明清のもとに届き、孵化・飼育に成功しました。これが日本におけるニジマス養殖の原点です。彼は1878年12月に「養魚法一覧」を発刊し、日本のサケ・マス人工孵化技術の普及に努めました。
人工授精した受精卵は水温8℃において約60日で孵化します。孵化した仔魚は日光を嫌うため、卵黄を吸収し終わって浮上するまで(水温8℃において約60日間)、遮光した環境で管理されます。浮上した稚魚は人工配合飼料で体長4〜5cm程度まで飼育された後、3月〜5月頃に河川に放流されます。放流された稚魚は天然稚魚と同様に降海し、海洋での回遊生活に移ります。天然産卵の孵化率は30〜40%ですが、人工孵化の孵化率は95%以上あるようです。天然産卵のサケの回帰率は約0.5%ですが、人工孵化されたサケの回帰率は約4%といわれています。
2017年の世界におけるシロザケの漁獲量は26.2万トンであり、世界の天然サケ・マス類漁獲量全体(92.1万トン)の28.4%を占めています(後述するカラフトマスに次いで第2位です)。2018年における日本のシロザケの漁獲量は海面が8.40万トン、内水面が0.67万トンで、総量は9.07万トンです。主な産地は北海道、岩手県、青森県、宮城県、秋田県、新潟県、山形県などです。
イクラや筋子はサケやマスの卵巣から得られる水産物です。イクラは成熟卵を卵巣からバラバラに取り出して、醤油漬けなどにしたものであり、筋子は未熟な卵を卵巣のまま取り出して、塩漬けなどにしたものです。シロザケのイクラや筋子にはω3脂肪酸(EPA・DHA)やビタミンDが豊富に含まれています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」、「ビタミンDと骨粗鬆症」を参照)。また、シロザケの切り身にもビタミンDが豊富に含まれています。
②ベニザケ
ベニザケ(紅鮭、sockeye salmonまたはred salmon、Oncorhynchus nerka)は、北緯40度以北の北太平洋、ベーリング海ならびにオホーツク海に分布しています。ベニザケは生まれてから数年を湖沼で過ごした後降海し、海洋生活を1〜4年(多くは2〜3年)送ります。産卵のために河川や湖沼に遡上し、一生を終えます。ベニザケの遡上・産卵水系の主な分布域は、北アメリカでは南はコロンビア川から北はアラスカのクスコックウィン川におよび、アジア側ではカムチャッカ半島から北はアナディール川にかけてです。日本の河川には遡上しません。養殖はされておらず、天然ものが漁獲されています。2017年の世界におけるベニザケの漁獲量は18.0万トンで、世界の天然サケ・マス類漁獲量全体(92.1万トン)の19.5%を占めています。2016年における日本のベニザケ輸入量は3.7万トンで、ほとんどがロシアとアメリカから輸入されています。
ベニザケの陸封型はヒメマス(姫鱒、kokanee、Oncorhynchus nerka nerka)とよばれています。日本では北海道東部の阿寒湖と網走川水系のチミケップ湖に自然分布しています。ヒメマスの移植は1894年(明治27年)に阿寒湖から支笏湖へ種卵が導入されたのが最初です。1902年(明治35年)に支笏湖から十和田湖へ、1906年(明治39年)には十和田湖から中禅寺湖に種卵が導入されています。その後、ヒメマスが移植されたこれら3つの湖を拠点として、種卵が北海道や本州北中部地方の60以上の湖沼に移植されましたが、現在ヒメマスが生息している湖沼やダム湖は22程度といわれています。
③クニマス
クニマス(Oncorhynchus kawamurae)は上述したヒメマスの亜種としてO. nerka kawamuraeとされることがありましたが、近年遺伝的研究によりヒメマスとの生殖隔離が示唆されたことから、別種とされています。秋田県田沢湖の固有種でしたが、1940年に発電事業のため、玉川の強酸性水(玉川温泉由来)が導入されて湖水の酸性化が進み、1948年頃絶滅しました。しかしながら、2010年に山梨県の富士五湖のうちの西湖でクニマスが再発見されました。これは絶滅前の1935年に田沢湖から移植されたものの子孫と考えられています。
④ギンザケ
ギンザケ(銀鮭、coho salmonまたはsilver salmon、Oncorhynchus kisutch)は、北太平洋、オホーツク海、ベーリング海に広く分布しています。遡上・産卵水系の主な分布域はアジア側においてはロシアのハバロフスク地方からカムチャッカ半島、チュコト半島にかけてとサハリン、クリル列島など、北米側においてはアラスカ州南西部からカリフォルニア州モンテレー湾にかけてとアリューシャン列島などです。日本では索餌回遊中の個体が沿岸で漁獲されたり、北海道の河川に迷いザケとして遡上したりしますが、恒常的な産卵はみられていません。
春に川で生まれた稚魚は普通1年間淡水生活を送ります。翌春、体長10cm以上に成長した幼魚はスモルト化し、降海します。ほとんどの個体は海洋で一冬過ごした後、翌年の秋に(成熟年齢3年)母川に回帰・遡上します。産卵期は11月〜1月です。繁殖行動を終えると雌雄とも死にます。ギンザケには海で一夏過ごしただけで成熟して川にもどる早熟な雄(2年魚)が現れますが、これはジャック(jack)とよばれています。ジャックも繁殖行動を示します。
ギンザケの資源量は比較的少なく、世界の漁業漁獲量は2000年以降年間2万トン前後で推移しています。ギンザケの海面養殖技術が確立されており、主な養殖生産国はチリや日本などです。2017年における世界の養殖生産量は18.0万トンで、世界のサケ・マス類養殖量全体(335.1万トン)の5.4%を占めています。日本はチリから8.8万トンを2016年に輸入しています。2019年の日本における養殖量は1.59万トンであり、主に宮城県(シェア:89.3%)で生産され、「みやぎサーモン」のブランド名で流通しています。弓ヶ浜水産株式会社により養殖されているギンザケ(新潟県の「佐渡荒海サーモン」や鳥取県の「境港サーモン」)は2021年7月にASC認証を取得しています。
⑤カラフトマス
カラフトマス(樺太鱒、別名:セッパリマス、pink salmonまたはhumpback salmon、Oncorhynchus gorbuscha)は北緯36度以北の太平洋、ベーリング海、オホーツク海、日本海ならびに北極海の一部にまで広範囲に分布しています。遡上する河川はアジア側では朝鮮半島北東部からシベリアのレナ川まで、北米側ではカリフォルニア州のサクラメント川からカナダのマッケンジー川までです。
日本では北海道と北東北の河川に遡上がみられますが、中心はオホーツク沿岸と根室海峡沿岸の河川です。8月〜10月に産卵し、産卵後は寿命を終えます。翌年の3月下旬〜6月に稚魚は砂礫中から夜間に浮上し、河川では殆ど摂餌することなく降海します。カラフトマスの稚魚にはパーマークがありません。降海直後は沿岸域で過ごし、成長とともに沖合に移動し、8月〜9月にはオホーツク海で生活するようになります。海水温が低下する10月〜12月にオホーツク海からクリル列島を抜け、北太平洋へ移動します。回遊範囲は東経175度付近までの北太平洋西部とされ、シロザケと比べると狭いようです。約1年間の海洋生活の後(通常2年魚)、夏から秋にかけて産卵回帰しますが、母川回帰性は低いようです。繁殖期の雄の背は著しく張り出してきます。このため別名でセッパリマス、英名でhumpback salmonとよばれています。
2017年の世界における天然カラフトマスの漁獲量は43.6万トンで、世界の天然サケ・マス類漁獲量全体(92.1万トン)の47.3%を占めており、第1位です。2018年の日本における漁獲量は9,715トンで、殆どが沿岸で捕獲されています。
⑥ニジマス
ニジマス(虹鱒、rainbow trout、Oncorhynchus mykiss)は、北米太平洋側のメキシコ北西部からアラスカ半島にかけてとロシアのカムチャッカ半島を中心に分布し、一生を河川・湖沼で生活する河川型(淡水型)と川と海を回遊する遡河回遊型(スチールヘッドsteelheadとよばれます)の2つのタイプに分けられます。河川型は平均3歳で成熟し、およそ8年の寿命に達するまでに数回産卵します。遡河回遊型は生後2〜3年で降海し、1〜4年北太平洋で生活した後成熟します。夏から冬にかけて河川に回帰し、夏に遡上した群は冬から春に、冬に遡上した群は春に産卵します。スチールヘッドの多くは繁殖行動後死亡しますが、一部は降海し再び繁殖のために遡上するといわれています。
①シロザケのところで述べたように日本にはニジマスは生息していませんでしたが、1877年(明治10年)にアメリカから日本にニジマスの河川型が移植され、今では全国で盛んに養殖されています。山梨県のブランド「甲斐サーモンレッド」は、山梨県特産のブドウの果皮粉末を添加した飼料を与えて養殖した1kg以上の大型ニジマスです。青森県産業技術センター内水面研究所(十和田市)で開発された淡水養殖の大型ニジマス(2kg以上に育ちます)は、「青い森紅(クレナイ)サーモン」の名で販売されています。
アメリカのワシントン大学のローレン・ドナルドソン博士が海水で飼育できるように改良した大型のニジマスはドナルドソンニジマスとよばれています。青森県の津軽海峡で養殖されているドナルドソンニジマスは「海峡サーモン」というブランド名で販売されています。
ドナルドソンニジマスのメスとスチールヘッドのオスをかけ合わせて作り出されたものがトラウトサーモン(あるいはサーモントラウト)です。トラウトサーモンは世界各国で海面養殖されており、日本にはチリやノルウェーなどから輸入されています(2016年1.8万トン)。近年、日本においても海面養殖されるようになり、青森県の「青森サーモン」、岩手県の「宮古トラウトサーモン」、新潟県の「佐渡トラウトサーモン」、福井県の「ふくいサーモン」、広島県の「広島サーモン」、香川県の「讃岐さーもん」などのブランド名で流通しています。
「青森サーモン」を生産している日本サーモンファームは2019年12月に国内のサーモン養殖では初めてASC認証を取得しました。千葉県のFRDジャパンは2020年5月に完全閉鎖循環濾過システムを用いた陸上でのトラウトサーモン養殖でASC認証を取得しています(ブランド名は「おかそだち」です)。
2017年の世界におけるニジマスの養殖生産量は81.2万トン(内水面:64.5万トン、海面:16.7万トン)であり、世界のサケ・マス類養殖量全体(335.1万トン)の24.2%を占めています(海面養殖されているニジマスはトラウトサーモンです)。2019年の日本におけるニジマスの内水面養殖生産量は4,775トンであり、主な産地は静岡県、長野県、山梨県、群馬県、栃木県、福島県などです。
⑦サクラマス
サクラマス(桜鱒、masu salmonまたはcherry salmon、Oncorhynchus masou masou)はタイヘイヨウサケ属の中で唯一アジア側にのみ分布し、日本をはじめカムチャッカ半島西岸、沿海州、サハリン、朝鮮半島東岸に生息しています。日本においては北海道、本州日本海側のほぼ全域、房総半島以北の太平洋側などに分布し、ホンマスとよばれることもあります。サクラマスの名前は桜の咲く時期に沿岸から母川に遡上することに由来するといわれています。富山の郷土料理「ます寿司」はサクラマスを酢で味付けした押し寿司です。
一生を淡水河川で過ごす河川型(陸封型)個体群と降海型個体群があり、降海型をサクラマス、河川型をヤマメ(山女魚)とよびます。河川で孵化・浮上した稚魚は少なくとも1年間は河川で生活し、スモルト化した個体は4月〜6月に降海し、海洋生活に移ります。北の方ほど降海型の出現率が高く、カムチャッカ半島ではほぼすべてが降海するようです。1年間の海洋生活を過ごしたサクラマスは春に母川に回帰します。産卵期は北海道では8月〜10月、東北地方では9月〜11月です。繁殖行動後、全てのサクラマスは死亡します。
サクラマスは日本とロシアの沿岸だけで漁獲されており、2018年の漁獲量は日本が1,254トン、ロシアが19トンでした。日本の主な産地は北海道(シェア:75.3%)と青森県(15.8%)です。資源の維持・増大のために人工孵化放流が行なわれています。また、サクラマスの生産増大のために、海面養殖が兵庫県淡路島や宮崎県、富山県などで行なわれています。
サツキマス(皐月鱒、red-spotted masu salmon、Oncorhynchus masou ishikawae)とビワマス(琵琶鱒、Biwa trout、O. masou rhodurus)はサクラマスの亜種です。サツキマスは静岡県以南の太平洋側と瀬戸内海に分布し、ビワマスは琵琶湖とその流入河川(安曇川や姉川など)に分布しています。サツキマスの名前はサツキツツジの咲く頃(5月〜6月)に母川に戻ってくることに由来するようです。サツキマスの河川型(陸封型)はアマゴ(雨魚)とよばれています。アマゴの資源量の方がサツキマスより圧倒的に多いようです。アマゴやサツキマスには体表に朱色の点がありますが、ヤマメやサクラマスにはこれがありません。ビワマスの稚魚や幼魚には朱色の点がありますが、成魚になると消えます。
ミトコンドリアゲノム解析により、サクラマスとサツキマスの分岐以降にビワマスはサツキマスから分岐したと考えられています。すなわち淀川水系を利用していたサツキマスのうち琵琶湖に陸封された個体群がビワマスになったというわけです。
河川の産卵床中で孵化したサツキマスの仔魚は3〜4ヶ月間産卵床内で過ごし、春に浮上します。河川で夏を過ごし成長した幼魚のなかから11月頃にスモルト化する個体が出現し、降海します。秋にスモルト化するサケ科魚類はサツキマスの幼魚だけで、スモルト化する割合は雌が多いそうです。冬から春にかけて沿岸域あるいは汽水域で生活し急成長したサツキマスは5月〜6月に母川回帰し、夏は大きな淵で生活します。10月〜11月に産卵し、繁殖行動後は雌雄とも死亡します。現在、サツキマスの漁獲量は非常に少なくなっているようです。
琵琶湖流入河川で孵化したビワマスの稚魚は2月〜4月に産卵床から浮上し、しばらく河川生活を送った後、5月〜6月に琵琶湖に降下します。琵琶湖で生活し満3年〜5年で成熟すると、親魚は9月頃から産卵河川への遡上を開始します(ビワマスにも母川回帰性はあるようです)。産卵期は10月〜12月で、繁殖行動後は雌雄とも死んでしまいます。
ビワマス資源を増やす目的で、人工孵化放流が1883年から行なわれています。近年の漁獲量は25トン前後で推移しています。
⑧マスノスケ
マスノスケ(鱒之介、chinook salmonまたはking salmon、Oncorhynchus tschawytscha)はキングサーモンともよばれ、サケ・マス類の中では最も大型です。北緯40度以北の北太平洋、オホーツク海、ベーリング海に分布し、河川型と海洋型の2つのタイプが存在します。河川型は孵化後1〜2年淡水中で生活してから降海し、沖合を数年回遊した後、春から夏にかけて母川回帰します。産卵時期は夏から秋にかけてです。海洋型は孵化・浮上後3ヶ月以内に降海し、大部分を沿岸域で生活した後、産卵直前に母川回帰します。産卵時期は秋から冬にかけてです。両タイプとも繁殖行動後に全て死亡します。
マスノスケの漁業資源は他のサケ・マス類と比較して少ないといわれており、2016年の世界における漁業漁獲量は7,522トンです。日本での水揚げはほとんどありません。
1870年代にカリフォルニアからニュージーランド(NZ)に移入され、現在、NZは世界のマスノスケ養殖の主要産地となっています。2018年のNZにおける養殖量は14,339トンと報告されており、海面養殖が83%、内水面養殖が17%を占めています。内水面養殖の特徴はマウントクック(海抜3,724m)の氷河から流れる水を利用して養殖が行なわれている点です。世界で2番目に多くマスノスケを養殖しているのはカナダのブリティッシュコロンビアで、2016年に2,346トンを生産しています。日本にはNZから輸入されています。
⑨タイセイヨウサケ
タイセイヨウサケ(別名:アトランティックサーモン、Atlantic salmon、Salmo salar)はタイセイヨウサケ属(Salmo)の魚類で、北大西洋沿岸の温帯域から北極海域に分布しています。学名のsalmoは「サケ」を、salarは「飛び越える」を意味します。
成熟した個体は春から初秋にかけて母川を遡上し(母川回帰性は強い)、9月〜11月に産卵します。シロザケやカラフトマスとは異なり、産卵した親の中には再び降海し、複数年に亘って繁殖行動を示すものもいます。受精した卵は平均水温が約4℃の場合、約110日で孵化し、仔魚は1〜2ヶ月間砂利の間で過ごした後、水面に浮上し摂餌を始めます。幼稚魚は河川や湖沼でプランクトンや水生昆虫、小エビなどを食べながら1〜4年間を過ごし、体長が14cm程度に成長するとスモルト化し、降海します。降海しないで、一生を淡水で過ごす残留型も現れるようです。降海した幼魚は概ね2〜4年間海洋生活を送り、産卵のために母川に回帰します。
タイセイヨウサケは乱獲の影響で資源量が激減し、アメリカでは商業捕獲が全国的に禁止されています。現在世界市場に流通しているタイセイヨウサケの大部分は養殖魚です。タイセイヨウサケはASC認証の対象魚になっています。2017年の世界における養殖量は234.6万トンであり、世界のサケ・マス類養殖量全体(335.1万トン)の70%を占めています。主な養殖生産国はノルウェー、チリ、イギリス、カナダなどです。日本のスーパーの店頭には、ノルウェーやチリ産の養殖アトランティックサーモンの刺身や切り身が毎日のように並んでいます。養殖アトランティックサーモンにはω3脂肪酸であるEPAやDHAが豊富に含まれています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。
⑩イワナ・オショロコマ
イワナは(岩魚、char)はイワナ属(Salvelinus)の淡水魚の総称で、主に河川の上流の冷水域などに生息しています。イワナ類の種としては、イワナ(whitespotted char、Salvelinus leucomaenis)、オショロコマ(別名:カラフトイワナ、Dolly Varden、S. malma)、カワマス(brook trout、S. fontinalis)、レイクトラウト(lake trout、S. namaycush)などが知られています。
イワナにはアメマス(Salvelinus leucomaenis leucomaenis)、ニッコウイワナ(S. l. pluvius)、ヤマトイワナ(S. l. japonicus)、ゴギ(S. l. imbrius)の4亜種が認められ、ロシア東岸、サハリン、日本などに分布しています。日本における亜種の地理的分布は、アメマスが北海道から東北、ニッコウイワナが太平洋側では山梨県富士川以北、日本海側では鳥取県日野川以北の本州各地、ヤマトイワナが本州中部と紀伊半島、ゴギが中国地方に大別されますが、分布域の重複も認められています。アメマスは河川と海洋を回遊する遡河回遊型ですが、その他は一生を淡水で過ごす河川型です。ニッコウイワナは近年、養殖もされており、都市部の店頭などにも並んでいるようです。紀伊半島の熊野川水系上流域にのみ生息しているヤマトイワナの地域個体群はキリクチとよばれています。
イワナは多回産卵性で、河川上流域で9月〜11月に産卵が行なわれます。遡河回遊型のアメマスは孵化後すぐに降海せず、2〜3年程度河川で生活し、スモルト化した個体のみが降海します。スモルト化しないアメマスは河川に残留し、エゾイワナとよばれます。降海したアメマスはシロザケのように外洋へ大回遊することはなく、沿岸域を回遊するようです。
オショロコマには同名亜種のオショロコマ(Salvelinus malma malma)とミヤベイワナ(S. m. miyabei)が知られています。オショロコマは北太平洋沿岸域に広く分布しており、アメリカ側ではアラスカ州北部からワシントン州にかけて、アジア側ではチュコト半島からカムチャッカ半島、ハバロフスク地方を経て朝鮮半島北部まで、ならびにサハリン、北海道などに生息しています。山岳地帯の源流域から河口域、湖、ならびに海洋まで多様な生息環境に適応しています。降海型のオショロコマは高緯度地域に生息する個体群に多くみられるようです。北海道のオショロコマは殆どが河川型ですが、知床半島周辺の河川では海から遡上してきた降海型が捕獲されるようです。ミヤベイワナは北海道の然別湖(シカリベツコ)とその流入河川にのみ生息するオショロコマの亜種です。然別湖は約1万5千年前に大雪山系の火山噴火で川が堰き止められてできた堰止め湖で、そのとき湖に陸封されたオショロコマが独自に進化を遂げたものがミヤベイワナです。
カワマスは北アメリカ東部原産のイワナ類の仲間で、降海型もいます。1902年にアメリカから日光湯ノ湖に移入され、その後、日本各地に移植されました。
レイクトラウトは北アメリカ北部原産の淡水魚で、1966年にカナダから日光中禅寺湖などに移入されました。
⑪イトウ
イトウ(伊富、Sakhalin taimenあるいはJapanese huchen、Hucho perryi)はイトウ属(Hucho)の遡河回遊魚で、極東ロシアの沿海地方・ハバロフスク地方、サハリン、北海道などに分布しています(Parahucho属に分類されることがあります)。イトウ属のほとんどは純淡水魚ですが、イトウは降海性を示し、河川上流域から河口の汽水域、沿岸域にまで分布しています。成熟したイトウの生活拠点は汽水域・沿岸域のようです。イトウは多回産卵性で、春期(4月〜5月)に汽水域から河川上流に遡上・産卵し、その後速やかに汽水域に降河するようです。稚魚は7月〜8月頃に産卵床から浮上し、水生昆虫などを摂餌します。上流域で1〜2年間過ごし、体長が30cmを超える頃になると魚類(フクドジョウなど)、両生類(カエルなど)、時にはネズミなどを捕食するようになり、下流域に生息場所を移して行きます。
イトウは食用としては非常にマイナーですが、近年、北海道(阿寒湖漁協と南富良野町)ならびに青森県(鰺ヶ沢町)で養殖されるようになり、日本人の口に入る機会が増えると思われます。
カレイ目の魚
カレイ目は14科134属678種から構成されており、一般的にカレイ(鰈、righteye flounder)、ヒラメ(鮃、large-tooth flounder)、シタビラメ(舌鮃、sole)とよばれる多くの魚が食用になります。表10-5にカレイ目の代表的な魚を示します。カレイはカレイ科の魚類の総称、ヒラメはヒラメ科とスコプタルムス科の魚類の総称、シタビラメはウシノシタ科とササウシノシタ科の魚類の総称です。これらは稚魚の間は、両目は体の左右に位置していますが、成長するとともにカレイでは左目が体の右側に移動し、ヒラメでは右目が体の左側に移動します。俗に、「左ヒラメに右カレイ」といわれます。但し、ヌマガレイは例外的に日本では左側に目があり、北米では左側にあるものと右側にあるものが混在しています。シタビラメではウシノシタ科は体の左側に目があり、ササウシノシタ科は体の右側に目があります。
カレイ目の魚は両目のある側(有眼側)を上にして海底に横向きになり、砂や泥に潜るなどして生活しているため底生魚とよばれています。一般的に、有眼側は黒褐色から褐色を、無眼側は白色を呈しています。
えんがわ(縁側)とはカレイやヒラメの体全体を囲むようにある長い背鰭(セビレ)と臀鰭(シリビレ)の付け根に並んでいる担鰭骨(タンキコツ)に沿って付いている筋肉のことです。脂の乗った酷のある味とコリコリとした食感があり、刺身や寿司のネタの1つとして珍重されます。
①カレイ類
マガレイ属(Pseudopleuronectes)のカレイにはマガレイ(真鰈、yellow striped flounder、Pseudopleuronectes herzensteini)やマコガレイ(真子鰈、marbled sole、P. yokohamae)、クロガレイ(黒鰈、black plaice、P. obscurus)、クロガシラガレイ(黒頭鰈、cresthead flounder、P. schrenki)などがあります。
マガレイはオホーツク海沿岸、北海道〜福島県の太平洋沿岸、北海道〜長崎県の日本海・東シナ海沿岸などに分布しており、カレイ類の代表格です。塩焼きや煮つけ、唐揚げにして食べられます。干したものは適度に身がしまり、より美味しくなります。
マコガレイは北海道〜土佐湾の太平洋沿岸、瀬戸内海、北海道〜九州の日本海・東シナ海沿岸、渤海〜東シナ海北部沿岸などに分布しています。内湾性で関東、中部、関西の大都市圏の近くでまとまって獲れるので、人気のあるカレイです。活け締めの刺身は最高といわれています。
クロガレイやクロガシラガレイは有眼側が黒いのが特徴で、主として本州北部から北海道沿岸に分布しています。両魚種は市場では混同して取り扱われることがあります。ムニエル、潮汁、塩焼き、煮付け、唐揚げなどにして食べられます。
オヒョウ(halibut)は漢字で大鮃すなわち大きな鮃と書きますが、カレイの仲間です。体長は3m前後になります。オヒョウ属(Hippoglossus)にはタイヘイヨウオヒョウ(太平洋大鮃、Pacific halibut、Hippoglossus stenolepis)とタイセイヨウオヒョウ(大西洋大鮃、Atlantic halibut、H. hippoglossus)の2種があり、前者は主にオホーツク海、ベーリング海、アラスカ湾〜カリフォルニア半島に分布し、後者は北大西洋西部・東部に分布しています。カナダでは大西洋におけるオヒョウ漁が2013年にMSC認証を取得しています。北海道産やアメリカ・カナダからの輸入ものの切り身がスーパーなどで手に入ります。オヒョウのムニエルやフライは大変美味です。
アカガレイ属(Hippoglossoides)にはアカガレイ(赤鰈、flathead flounder、Hippoglossoides dubius)やソウハチガレイ(宗八鰈、pointhead flounder、H. pinetorum)が含まれます。両魚種ともオホーツク海、日本海、渤海、黄海、東シナ海、福島県以北の太平洋沿岸などに分布しています。アカガレイの名は無眼側が内出血したように赤いことに由来します。京都府機船底曳網漁業連合会のアカガレイ漁は2008年9月にアジアで初めてのMSC認証を取得しました。2013年には認証の継続が認められていましたが、2017年12月より認証が一時停止されています。アカガレイの活け締めした鮮度のよいものは、刺身が非常に美味だそうです。ソウハチガレイは主に干物として流通しています。
アブラガレイ属(Atheresthes)のアブラガレイ(油鰈、Kamchatka flounder、Atheresthes evermanni)は体長1m前後になる大きなカレイで、古くは油をとっていたためこの名が付けられたようです。東北以北の太平洋・日本海沿岸、オホーツク海、ベーリング海に分布しており、アメリカ(アラスカ)・カナダ産のものが日本に輸入されています。身には脂が多く含まれ、煮付けにすると非常に美味です。寿司の縁側としても人気があります。
カラスガレイ属(Reinhardtius)のカラスガレイ(烏鰈、Greenland halibut、Reinhardtius hippoglossoides)はアブラガレイと同様に体長が1mを超える大型のカレイです。左目が完全に右側に移動しておらず、頭部側縁にあるのが特徴です。有眼側は全体に黒褐色から黒色、無眼側も薄墨色をしていることが名の由来です。北太平洋北部ならびに北大西洋北部の冷たい海域に分布しており、日本では主に北海道や青森県で漁獲されています。アブラガレイと同様に身に脂が多く、冷凍切り身として出回っています。縁側の寿司ネタとしての利用も多いようです。
シュムシュガレイ属(Lepidopsetta)のアサバガレイ(浅場鰈、dusky sole、Lepidopsetta mochigarei)は日本海、オホーツク海南部、千島(クリル)列島から福島県にかけての太平洋沿岸に分布しています。子持ちガレイとして売られていることが多く、煮付けが美味です。
ババガレイ属(Microstomus)のババガレイ(婆鰈、別名:ナメタガレイ、slime flounder、Microstomus achne)は体の表面の粘液が多く、薄汚れていて、皮がブヨブヨして老婆に見えるところから名付けられたそうです。東シナ海から渤海、日本海、サハリン沿岸、クリル列島南部、北海道から本州常磐にかけての太平洋沿岸に分布しています。煮付け、塩焼き、干物などにすると非常に美味です。
ヌマガレイ(沼鰈、starry flounder、Platichthys stellatus)はヌマガレイ属(Platichthys)の魚類で、汽水域から河川や湖沼の淡水域にも生息し、時には河川の中流域まで遡上することからカワガレイ(川鰈)とよばれることもあります。産卵は海に下って行われます。日本海、オホーツク海、ベーリング海ならびに北太平洋の北西部千葉県沿岸からアリューシャン列島を経て東部南カルフォルニア沿岸にかけて分布しています。日本沿岸のヌマガレイはほぼ100%ヒラメのように両目が左側にありますが、アラスカ沿岸のものは約70%が、カリフォルニア沿岸のものは約50%が左側に両目があります。背鰭、臀鰭、尾鰭に黒色の帯模様があるのが特徴です。身に脂が少なく、味の評価は低いですが、活け締めして刺身で食べるのが一番美味しいようです。
2019年の日本におけるカレイ類の漁獲量は39,800トンです。主な生産地は北海道、島根県、鳥取県、兵庫県などで、北海道が全国の漁獲量の約60%を占めています。
②ヒラメ類
ヒラメ科ヒラメ属(Paralichthys)のヒラメ(鮃、bastard halibut、Paralichthys olivaceus)は北太平洋西部、オホーツク海、日本海、東シナ海、南シナ海に分布する体長1m前後になる海水魚です。2019年の日本におけるヒラメの漁獲量は6,900トンであり、北海道、宮城県、青森県、福島県などで主に水揚げされています。刺身や寿司ネタになる高級食材で、養殖もされています。2019年のヒラメの養殖量は2,000トンであり、大分県、鹿児島県、愛媛県などで主に生産されています。大分県の養殖ヒラメはカボス果汁を混ぜた餌で育てられており、「かぼすヒラメ」というブランド名で知られています。
ヒラメ科ガンゾウビラメ属(Pseudorhombus)にはガンゾウビラメ(雁瘡鮃、cinnamon flounder、Pseudorhombus cinnamoneus)やタマガンゾウビラメ(玉雁瘡鮃、fivespot flounder、P. pentophthalmus)が含まれています。雁瘡(ガンガサあるいはガンソウ)とは雁が飛来する頃に発症し、帰る頃に治癒するという湿疹性皮膚病の俗称です。ガンゾウビラメ(雁瘡鮃)の名は、皮が雁瘡のようにガサガサしていることに由来するようです。ガンゾウビラメは千葉県から南九州にかけての太平洋沿岸、青森県から長崎県にかけての日本海・東シナ海沿岸、朝鮮半島から中国広東州にかけての渤海・黄海・東シナ海・南シナ海沿岸に分布しています。ヒラメより小さく(体長30〜40cm程度)、有眼側に輪郭のある1つの斑紋があります。非常に美味だそうですが、日本における漁獲量は多くなく、産地周辺で消費されているようです。
タマガンゾウビラメは南北海道から南九州にかけての太平洋・日本海・東シナ海沿岸、瀬戸内海、朝鮮半島・中国・台湾の東シナ海沿岸に分布しています。魚体はガンゾウビラメより小さく、体長は20〜25cm程度です。有眼側に5つの斑紋があるのが特徴で、英名のfivespot flounderの由来になっています。産地などでは刺身や煮付けなどで食べられていますが、一般には干物が流通しているようです。
スコプタルムス科スコプタルムス属(Scophthalmus)のイシビラメ(石鮃、turbot、Scophthalmus maximus)は北大西洋の北東部、バルト海、地中海、黒海に分布するヨーロッパ産ヒラメで、ヨーロッパの重要な魚種です。体長は日本のヒラメと同じくらいで1m前後になります。乱獲により漁獲量が激減したため、現在はヨーロッパ各国で養殖が進んでいます。中国、韓国、チリでも盛んに養殖されています。
③シタビラメ類
ウシノシタ科とササウシノシタ科の魚類はシタビラメ(舌鮃)とよばれていますが、これは形がウシの舌に似ていることに由来します。ウシノシタ科は両目が左側にあり、ササウシノシタ科は右側にあります。シタビラメは非常に美味であり、ムニエルにして食べるのが定番のようです。
日本で食用になっているウシノシタ科のシタビラメとしてはイヌノシタ属(Cynoglossus)のイヌノシタ(犬之舌、robust tonguefish、Cynoglossus robustus)やアカシタビラメ(赤舌鮃、red tonguefish、C. joyneri)、タイワンシタビラメ属(Paraplagusia)のクロウシノシタ(黒牛舌、black cow-tongue、Paraplagusia japonica)の3種が主流だといわれています。これらのシタビラメはいずれも南シナ海、東シナ海、黄海に分布していますが、日本近海での分布域に多少違いが見られます。イヌノシタは太平洋側では房総半島辺りまで、日本海側では新潟県辺りまで分布しており、アカシタビラメは太平洋側では岩手県辺りまで、日本海側では新潟県辺りまで分布しています。クロウシノシタは北海道南部までの日本海・太平洋沿岸に生息し、3種の中では最も北にまで分布しています。イヌノシタとアカシタビラメの有眼側は赤みがかった褐色をし、無眼側は血がにじんだように赤い色をしています。体長はイヌノシタが40〜45cmであるのに対して、アカシタビラメは25〜30cmとやや小型です。クロウシノシタの有眼側は黒褐色で、無眼側は白く、鰭が黒くて白縁があるという特徴があり、体長はイヌノシタと同程度で40〜45cmです。
ヨーロッパのシタビラメとしてはササウシノシタ科ソレア属(Solea)のヨーロッパソール(common sole、Solea solea)が代表格で、最も人気のある高級魚の1つです。ソール(sole)は靴底の意味で、体長は最大70cm程度になります。ノルウェー南部から北西アフリカのセネガルにかけての北大西洋沿岸(北海やバルト海西部を含む)や地中海、黒海に分布しています。かつてドーバー海峡に臨むイギリス南東部の港町ドーバーで盛んに水揚げされたため、ドーバーソール(Dover sole)の別名があります。2016年の世界における漁獲量は3.2万トンで、オランダやフランスが主な産地です。養殖も行われており、2010年以降の生産量は100トン前後で推移しています。タラ目の魚
タラ(鱈、cod)はタラ目の魚類の総称です。タラ目は9科75属555種に分類されており、そのうちのタラ科、メルルーサ科、マクルロヌス科、チゴダラ科の魚が主に食用にされています。表10-6に代表的なタラ目の魚を示します。
①タラ科の魚
マダラ属(Gadus)にはマダラ(真鱈、Pacific cod、Gadus macrocephalus)やスケトウダラ(介党鱈、Alaska pollockまたはwalleye pollock、G. chalcogrammus)、タイセイヨウダラ(大西洋鱈、Atlantic cod、G. morhua)が含まれます。スケトウダラは、かつてスケトウダラ属(Theragra)に分類されていましたが、2014年にマダラ属に変更されました。マダラやスケトウダラは日本海、オホーツク海、ベーリング海、日本の本州北部からアリューシャン列島を経てアメリカのカリフォルニア州までの北太平洋沿岸に分布しています。タイセイヨウダラはアメリカのノースカロライナ州からグリーンランド・アイスランドを経てスペインのビスケー湾までの北大西洋沿岸ならびにバルト海、北海、ノルウェー海、バレンツ海に分布しています。
日本で古くからタラといえばマダラを指していました。マダラはタラ類の中では大型で、体長は1m前後になります。スケトウダラは中型で、体長は60cm程度です。マダラの白子(精巣)は大変美味ですが、非常に高価です。スケトウダラの白子は手頃な値段で買えます。一般的に「たらこ」といえばスケトウダラの卵巣のことで、「塩蔵たらこ」や「辛子明太子」は人気食品です。マダラの卵巣は「真鱈子」とよばれており、たらこより安く手に入ります。マダラの身を使った鍋料理「たらちり」やフライ、粗(アラ)を使った「じゃっぱ汁」(青森県の郷土料理)などは非常に美味です。スケトウダラは漁獲後に船上ですり身にして冷凍する技術が確立され、蒲鉾や竹輪、薩摩揚げ、鳴戸巻き、はんぺん、ソーセージなどの練り製品に利用されています。「棒鱈」は内蔵をとったスケトウダラを水にさらし、凍結乾燥を繰り返して干し上げたもので、長期保存が可能です。マクドナルドで販売されている「フィレオフィッシュ」という商品はスケトウダラのフライを使ったものです。
2019年における日本のマダラ漁獲量は5.32万トン、スケトウダラ漁獲量は15.38万トンです。マダラの主な産地は北海道、岩手県、青森県、宮城県であり、北海道が74.2%のシェアを占めています。スケトウダラの主要な産地は北海道であり、シェアは95.0%です。
世界におけるスケトウダラの漁獲量は2011年以降年間300万〜350万トン程度で推移しており、2018年においてはアンチョベータ(ペルーカタクチイワシ)の705万トンに次いで第2位の340万トンです。
タイセイヨウダラはヨーロッパ近海で最も古くから獲られていた魚の1つです。マダラと同様に大型のタラで、体長は1m程度になります。タイセイヨウダラも世界における漁獲量の比較的多い魚種で、2018年には122万トンの水揚げ量がありました。
コマイ属(Eleginus)のコマイ(氷下魚、saffron cod、Eleginus gracilis)は体長30cm前後の小型のタラで、北太平洋およびその縁海の黄海、日本海、オホーツク海、ベーリング海に分布しています。主に干物として流通しています。冬期に獲れたコマイを上述した棒鱈のように氷点下の屋外で凍結乾燥したものは「かんかい」とよばれています。
ミナミダラ属(Micromesistius)にはミナミダラ(Southern blue whiting、Micromesistius australis)やプタスダラ(blue whiting、M. poutassou)が含まれます。ミナミダラは体長50cm程度になる中型のタラで、ニュージーランド南部やチリ、アルゼンチンなどの沿岸に分布しています。スケトウダラの代替品としてすり身にして利用されます。ニュージーランドのミナミダラ漁業は2012年にMSC認証を取得しています。
プタスダラは体長30cm程度の小型のタラで、バレンツ海(北極海のヨーロッパ側の一部)からアイスランド周辺、ならびに北大西洋東部(地中海西部を含む)に分布しています。2018年におけるプタスダラの漁獲量は171万トンと多く、海水魚の世界における漁獲量としては第5位です。多くがフィッシュミール(魚粉)や魚油の原料として利用されています。
②メルルーサ科の魚
メルルーサ(merluza:スペイン語)はメルルーサ科の魚類の総称で、英名はヘイクhakeです。メルルーサ属(Merluccius)にはケープヘイク(Cape hake、Merluccius capensis)やアルゼンチンヘイク(Argentine hake、M. hubbsi)、ヨーロッパヘイク(European hake、M. merluccius)、キタタイヘイヨウヘイク(North Pacific hake、M. productus)などが含まれます。
ケープヘイクはアフリカのアンゴラから南アフリカ共和国にかけての南大西洋大陸棚に分布し、アルゼンチンヘイクは南米のブラジルからフォークランド諸島にかけての南大西洋大陸棚に分布します。両種は体長40〜60cm程度の中型のタラです。
ヨーロッパヘイクはノルウェー・アイスランドから西アフリカのモーリタニアにかけての北大西洋東部海域ならびに地中海に分布する体長1m程度の大型の魚です。西ヨーロッパの重要な魚で、主に鮮魚として流通しています。
キタタイヘイヨウヘイクは北米西岸のバンクーバー島からカリフォルニアにいたる北太平洋東部海域に分布し、体長は60cm程度になります。鮮魚や冷凍フィレとして流通する他、すり身にも加工されます。
③マクルロヌス科の魚
ホキ属(Macruronus)はかつてメルルーサ科に分類されていましたが、最近マクルロヌス科として独立しました。ホキ(blue grenadier、Macruronus novaezelandiae)やデコラ(Patagonian grenadier、M. magellanicus)はホキ属の魚です。ホキの学名Macruronus novaezelandiaeは「ニュージーランドの大きな尾」を意味するそうです。ホキもデコラも体長120cm前後になる大型のタラ類で、ホキはニュージーランド南島周辺、オーストラリア南部・タスマニア島近海に分布し、デコラはアルゼンチン・チリ近海に分布します。ホキもデコラも主に冷凍フィレとして流通しており、日本にも輸入されています。フライにして食べると美味しいようです。
④チゴダラ科の魚
チゴダラ(稚児鱈、Japanese codling、Physiculus japonicus)は、体長40cm前後のチゴダラ属(Physiculus)の魚で、北海道から高知県までの太平洋沿岸、北海道から山口県までの日本海沿岸などに分布します。エゾイソアイナメと同じだといわれています。水揚げ地周辺で、みそ汁や煮付けとして食べられています。
ニシン目の魚
ニシン目は6科80属400種に分類されており、そのうちのニシン科、ウルメイワシ科、カタクチイワシ科の魚が主に食用にされています(表10-7)。
ニシン目にはアンチョベータ(ペルーカタクチイワシ)やタイセイヨウニシン、ヨーロッパマイワシ(ニシイワシ)、カタクチイワシなど漁獲量の多い魚種が含まれています。日本でイワシ3種といわれるものはマイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシです。
①ニシン科の魚
ニシン属(Clupea)にはニシン(鰊または鯡、Pacific herring、Clupea pallasii)やタイセイヨウニシン(大西洋鰊、Atlantic herring、C. harengus)が含まれます。ニシンは体長35cm前後の海水魚で、日本からアリューシャン列島・アラスカ湾を経てカリフォルニア半島に至る北太平洋(日本海、オホーツク海、ベーリング海を含む)に広く分布しています。一方、タイセイヨウニシンは前述した太平洋のニシンよりやや大きく(体長:45cm程度)、米国のノースカロライナ州からアイスランドを経てヨーロッパのビスケー湾までの北大西洋(ノルウェー海や北海を含む)に広く分布しています。
ニシンは春(2月〜5月)に産卵のために北海道西岸に大群で近づくことから「春告魚(ハルツゲウオ)」とよばれ、また、このニシンの大群を群来(クキ)とよんでいます。沿岸の浅い海域の海藻が繁茂した場所にメスが産卵し、同時にオスが一斉に放精することにより海は乳白色に濁ります。ニシンの卵が一面に付着したコンブやワカメは「子持ちこんぶ」、「子持ちわかめ」とよばれ、大変珍味です。
ニシンやタイセイヨウニシンの卵巣を塩漬けしたものは「数の子」とよばれ、頭と尾と内蔵を取り去り、身を2つに裂いて干したものは「身欠きにしん」とよばれます。「にしん漬け」は身欠きにしんを米のとぎ汁などにつけて戻し、大根、人参、キャベツなどの野菜と塩、麹で漬け込んだもので、にしんの旨味が野菜にしみ込んで、なかなか美味です。身欠きにしんを戻して昆布に巻いて煮た「昆布巻き」は、スーパーなどで市販されています。「にしん棒煮」は身欠きにしんを戻して軟らかく甘辛く煮たもので、これを「かけそば」にのせたものが京都名物の「にしんそば」です。
明治20年(1887年)頃から昭和の初期頃までは日本におけるニシンの年間漁獲量は40万トンを超えていましたが、その後急激に減少し、昭和30年代には5万トン以下になり、平成初期には2千トン前後に落ち込みました。近年回復傾向に転じ、2017年に0.92万トン、2018年に1.24万トン、2019年に1.49万トンの漁獲がありました。北海道が99.3%のシェアを占めています。
2018年の世界におけるタイセイヨウニシンの漁獲量は182万トンであり、アンチョベータ、スケトウダラ、カツオに次いで第4位です。
北海道産のニシンは鮮魚として流通していますが、数の子や身欠きにしんのほとんどはアメリカやカナダ、ロシア、ノルウェーから輸入されています。
マイワシ(真鰯、Japanese pilchard、Sardinops melanostictus)は体長20cm程度のマイワシ属(Sardinops)の魚類で、サハリンから南シナ海までの東アジア沿岸域に分布しています。日本におけるマイワシの漁獲量は1980年代には年間400万トンを超えていましたが、1990年以降は激減し、2000年代には5万トン以下になりました。2010年以降増加傾向に転じ、2019年は53.53万トンの水揚げがありました(イワシ類の中では最も多い)。主な産地は茨城県、千葉県、福島県、宮城県など東日本の太平洋沿岸ですが(これら4県で総漁獲量の62%を占めます)、鳥取県や石川県などの日本海側や、愛媛県、長崎県などでもかなりの水揚げがあります。鮮魚や開き干し、丸干し、缶詰などとして流通しています。
シラスとはイワシ類の稚魚のことで、主にマイワシのシラス(マシラス)とカタクチイワシのシラス(カタクチシラス)に分けられます。日本における2019年のシラスの漁獲量は5.95万トンであり、主な産地は愛知県、静岡県、大阪府、茨城県、愛媛県、高知県、大分県などです。カタクチシラスの方がマシラスより多く水揚げされています。シラスは「釜揚げしらす」、「しらす干し」、「ちりめんじゃこ(縮緬雑魚)」として販売されています。シラスを塩茹で後、放冷しただけのものが「釜揚げしらす」、軽く乾かしたものが「しらす干し」、強く干したものが「ちりめんじゃこ」とよばれています。
ヨーロッパマイワシ(別名:ニシイワシ、European pilchard、Sardina pilchardus)は体長20cm程度のサルディナ属(Sardina)の海水魚です。分布域はアイスランド・ノルウェーから西アフリカのセネガル辺りまでの北大西洋の東部沿岸(北海、地中海、黒海を含む)です。2018年の世界におけるヨーロッパマイワシの漁獲量は161万トンであり、単一魚種としては第6位です。ビスケー湾におけるヨーロッパマイワシ漁業についてはイギリス、フランス、スペインでMSC認証が取得されています。
コノシロ(鰶、dotted gizzard shad、Konosirus punctatus)は体長25cm前後になるコノシロ属(Konosirus)の魚です。出世魚で4〜5cmのものをシンコ(新子)、7〜10cm程度のものをコハダ(小鰭)、13cm程度のものをナカズミ、15cm以上のものをコノシロとよんでいます。コノシロは成長するに従って値段が安くなり、シンコが最も高く、コノシロは非常に安いそうです。古くはコノシロの幼魚をツナシとよんでおり、「万葉集」の大伴家持の長歌に
#4011: ・・・汝(な)が恋ふる その秀(ほ)つ鷹は 松田江の
浜行き暮らし つなし捕る 氷見(ひみ)の江過ぎて
多祜(たこ)の島 飛びたもとほり・・・
と詠まれています。日本では仙台湾辺りから九州南岸にかけての太平洋沿岸、新潟県から九州南岸にかけての日本海・東シナ海沿岸、瀬戸内海に分布し、内湾や河口の汽水域に生息します。コノシロは煮付けや塩焼き、酢締めなどにして食されます。酢締めのコハダ寿司は美味です。2019年の日本におけるコノシロの漁獲量は4,900トンで、主に千葉県、熊本県、大阪府、神奈川県などで水揚げされています。
サッパ(別名:ママカリ、Japanese sardinella、Sardinella zunasi)はサッパ属(Sardinella)の海水魚で、体長12cm前後になります。日本においては北海道から九州南部までの太平洋・日本海・東シナ海沿岸および瀬戸内海に分布しています。主に瀬戸内海沿岸で漁獲され、焼いたり、酢漬けにしたり、佃煮にしたりして食されます。煮ないで生のまま干した「素干し」も作られます。
キビナゴ(黍魚子、silver-stripe round herring、Spratelloides gracilis)は体長10cm前後になるキビナゴ属(Spratelloides)の魚です。日本においては伊豆半島辺りから九州南部にかけての太平洋沿岸や中国・九州の日本海・東シナ海沿岸、南西諸島沿岸の暖流域に分布しています。刺身や唐揚げ、魚すきなどにして食べます。また、成魚の一夜干し、素干し、煮干し、稚魚の「きびなごちりめん」などの干物にも加工されます。
②ウルメイワシ科の魚
ウルメイワシ(潤目鰯、Western Pacific red-eye round herring、Etrumeus micropus)は体長30cm程になるウルメイワシ属(Etrumeus)の海水魚で、眼に厚い脂瞼(シケン)があり潤んだように見えるため潤目鰯と名付けられました。分布域は富山県辺りから長崎県までの日本海沿岸、宮城県辺りから鹿児島県までの太平洋沿岸、東シナ海、南シナ海などです。主に丸干しとして流通しており、「目ざし」や「頬ざし」として知られています。
ウルメイワシ属にはE. micropus以外にハワイ諸島周辺に分布するE. makiawa(Hawaiian red-eye round herring)や北東太平洋に分布するE. acuminatus(Eastern Pacific red-eye round herring)、北西大西洋に分布するE. sadina(またはE. teres、Atlantic red-eye round herring)などが含まれます。
2019年の日本におけるウルメイワシの漁獲量は6.07万トンで(イワシ3種の中では最も少ない)、主な産地は島根県、宮崎県、長崎県、高知県、鹿児島県などの西日本です。
③カタクチイワシ科の魚
カタクチイワシ科の魚はアンチョビ(anchovy)と総称され、カタクチイワシ属(Engraulis)、エツ属(Coilia)、ツマリエツ属(Setipinna)などに分類されます。主要なものはカタクチイワシ属のカタクチイワシ(片口鰯、別名:セグロイワシ、Japanese anchovy、Engraulis japonicus)、アンチョベータ(別名:ペルーカタクチイワシ、anchoveta、E. ringens)、ヨーロッパカタクチイワシ(European anchovy、E. encrasicolus)などです。
カタクチイワシは体長14cm前後で、沿岸性の強い海水魚です。分布域はカムチャッカ半島南部から日本・台湾を経て、フィリピン諸島辺りまでの北太平洋西部沿岸(日本海、東シナ海、南シナ海を含む)です。成魚は鮮魚での流通は少なく、多くは「煮干し」や「焼き干し」、「目ざし」、「みりん干し」などの干物に加工されます。マイワシのところで述べたように、カタクチイワシの稚魚はシラス(カタクチシラス)とよばれ、「釜揚げしらす」や「しらす干し」、「ちりめんじゃこ」として流通しています。
2019年の日本におけるカタクチイワシの漁獲量は13.3万トン(マイワシの約1/4)で、主な産地は長崎県、三重県、愛知県、愛媛県、広島県、香川県、千葉県などです。世界における2018年のカタクチイワシ漁獲量は95.7万トンで、イワシ類では後述するアンチョベータ、前述したヨーロッパマイワシに次いで3番目に多くなっています。
アンチョベータは南太平洋東部のペルー・チリ沖に分布するカタクチイワシで、体長20cm程度にまで成長します。アンチョベータの漁獲量は1970年頃には年間1,000万トンを超えていましたが、その後急激に減少し、1990年頃までは年間400万トン以下あるいは年により100万トン以下に落ち込むことがありました。これにはエルニーニョと乱獲が大きく関与していると考えられています。エルニーニョが発生してペルー沖の海水温が上昇すると、高水温に弱いアンチョベータの資源量は低迷し、更に不十分な資源管理(乱獲)がこれに拍車をかけたという訳です。資源管理が十分に行われるようになると資源は回復し、2005年〜2014年の平均年間漁獲量は652万トンでした。2015年は431万トン、2016年は319万トン、2017年は392万トンとやや低調でしたが、2018年には705万トンとなり、単一魚種としては断トツでした(2位のスケトウダラ:340万トン)。漁獲される多くのアンチョベータから魚粉や魚油が生産され、これらは世界中で急伸する養殖魚類の餌の原料などとして供給されています。また、魚油にはヒトの健康を維持・改善する機能のあるω3脂肪酸(EPA・DHA)が多く含まれているので、機能性食品や医薬品の原料としても利用されています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。
ヨーロッパカタクチイワシは体長15cm程度の海水魚で、北はノルウェー南部から南はナイジェリア辺りまでの北大西洋東部沿岸(地中海や黒海などを含む)に分布しています。スペインのカンタブリア海におけるヨーロッパカタクチイワシ漁業は、2015年に同魚種としてはヨーロッパで最初のMSC認証を取得しています。
キュウリウオ目の魚
キュウリウオ目は4科22属88種に分類されており、主に表10-8に示すキュウリウオ科とシラウオ科の魚が食用に供されています。
①アユ
アユ(鮎、ayuまたはsweetfish、Plecoglossus altivelis)は東アジアに分布するキュウリウオ科アユ属(Plecoglossus)の魚で、日本においては北海道から沖縄までの河川や湖沼、ダム湖などに生息しています。また、大陸では朝鮮半島辺りから中国とベトナムの国境辺りにかけての沿岸、ならびに台湾に分布しています。アユはオオアユ(P. altivelis altivelis)、リュウキュウアユ(P. altivelis ryukyuensis)、チャイニーズアユ(P. altivelis chinensis)の3亜種に分類されています。オオアユは北海道から九州に分布するいわゆるアユで、リュウキュウアユは奄美大島や沖縄に分布しています。琵琶湖に生息するアユはコアユ(小鮎)とよばれ、遺伝的にはオオアユと異なるようですが、正式には亜種として分類されていません。
アユは秋に川の下流域で産卵し、孵化した仔魚は数日のうちに海に下ります。塩分濃度の比較的低い河口から4kmを超えない海域で、カイアシ類などの動物性プランクトンを捕食して成長し、稚魚期には動・植物性プランクトンや小型水生昆虫などを捕食します。アユの稚魚は「氷魚(ヒウオまたはヒオ)」あるいは「シラスアユ」とよばれます。冬を海で過ごし、5〜10cm程度に成長した幼魚は春になると川を遡上します。川の中流から上流域に辿り着いた幼魚は水生昆虫なども捕食しますが、川底の石や岩などに付着した藻類(藍藻、珪藻、緑藻)を主食として成長します。川で生活するアユは1匹につき約1m2の縄張りをもちます。体長は20〜25cm程度になり、秋に産卵のため下流に下ります。この子持ち鮎は「落ち鮎」とよばれます。鮎は普通産卵後に死んでしまい、寿命が1年であることから「年魚(ネンギョ)」ともよばれます。一部は年を越すものもあり、「止まり鮎」あるいは「通し鮎」とよばれます。
アユは上述したように川で孵化し、海で仔・稚魚期を過ごし、幼魚期に川に遡上して成長し、産卵後寿命を終えます。このような生活史をもつアユは淡水性の両側回遊魚とよばれ、サケのように川で孵化し、海で成長して川で産卵する遡河回遊魚とは区別されます。
琵琶湖に生息するコアユは海に下らないで、琵琶湖を海の代わりに利用して生活しています(いわゆる陸封型です)。長い間、淡水で世代交代を繰り返したため、海水適応能を失っていると考えられています。湖ではミジンコなどの浮遊動物を捕食します。稚魚の一部は春に琵琶湖の流入河川に遡上し、藻類を食べることによりオオアユと同程度にまで成長しますが、大部分は湖内に留まりミジンコなどしか食べないので10cm程度にしか成長しません(コアユとよばれる所以です)。コアユは秋になると川に遡上して産卵するか、あるいは湖岸に近いところで産卵し、一生を終えます。川で孵化した仔魚は湖に下り冬を過ごします。
鮎漁には友釣りや鮎汲み、投網漁、梁漁、鵜飼などがあります(長良川の鵜飼は有名)。塩焼きにして食べるのが基本ですが、天ぷらやムニエルにしても美味です。卵巣や白子を塩漬けにした「うるか」は大層美味で、酒の肴に珍重されています。アユにはキュウリ様香気成分(2,6-ノナジエナール)やスイカ・メロン様香気成分(3,6-ノナジエン-1-オール)が含まれており、刺身や背越しなど生食も好まれますが、アユは横川吸虫という寄生虫の中間宿主であるため、内閣府食品安全委員会は生食を避けるよう注意喚起しています(本章末尾に述べる「魚介類から感染する寄生虫症」を参照)。琵琶湖で12月〜3月頃に水揚げされる氷魚は佃煮や釜揚げなどにして、4月〜8月頃に獲られる小鮎は山椒煮や煮付け、天日干しなどにして食されます。
アユは古来日本人に親しまれてきた魚であり、「万葉集」には鮎を詠んだ歌が数多くあります。また、万葉の時代に鵜飼はすでに行われており、大伴家持の長歌や短歌に
#4156:・・・流る辟田(さきた)の 川の瀬に 鮎子さ走る
島つ鳥 鵜養伴なへ 篝(かがり)さし
なづさひ行けば・・・
#4158: 年のはに 鮎し走らば 辟田川 鵜八つ潜(かづ)けて
川瀬尋ねむ
などと詠まれています。
日本における天然アユの漁獲量は平成初期には18,000トン前後ありましたが、その後は減少を続け2019年は2,051トンでした。主な産地は神奈川県、茨城県、栃木県、岐阜県、愛媛県などです。アユの養殖は1909年(明治42年)に石川千代松により琵琶湖のコアユを用いて行われたのが最初といわれています。2019年の養殖アユの生産量は4,067トンと天然アユの約2倍で、主な産地は愛知県、岐阜県、和歌山県、栃木県、滋賀県などです。
②シシャモ・カラフトシシャモ
シシャモ属(Spirinchus)のシシャモ(柳葉魚、shishamo smelt、Spirinchus lanceolatus)は北海道南東部の太平洋側だけに生息する日本固有種で、遺伝的に分化した日高系(鵡川、沙流川など)と十勝・釧路系(十勝川、新釧路川など)の両系群に分類されています。サケと同じ遡河回遊魚で、海で育った成魚は秋(10月〜12月)に川の下流域に遡上・産卵し、翌年の4月〜5月に孵化した仔魚は直ちに降海します(産卵から孵化まで約6ヶ月を要します)。沿岸域で、仔・稚魚の間は動・植物性プランクトンを捕食し、ある程度大きくなるとゴカイや潮虫の仲間を捕食して成長します。海で越冬し、1歳半で体長15cm程度になった成魚は秋に川に遡上し、繁殖行動後は海に下り死んでしまいます。メスの一部は生き残り、翌年2歳半で再び産卵に加わるものもいるようです。未成魚のオスは1歳半になっても遡河せず海で再び越冬し、秋に繁殖のため川に遡上します。
シシャモは秋に産卵のため川に上る時期が漁期です。1966年〜1968年頃は3,000〜4,000トン程度獲れていたようですが、近年は1,000トン前後しか水揚げがありません。鮮魚は刺身や塩焼き、ムニエルにして食され、干物にもされますが、非常に高価です。
カラフトシシャモ(樺太柳葉魚、capelin、Mallotus villosus)はカラフトシシャモ属(Mallotus)の海水魚であり、上述したシシャモと異なり遡河回遊魚ではありません。北太平洋北部から北極海、北大西洋北部にかけて世界的に広く分布しています。3〜4年で成熟し、沿岸で産卵し一生を終えます。体長は20cm前後になります。世界の漁獲量は1977年頃には年間300〜400万トンもありましたが、その後は乱獲により急激に減少し、近年は年間30万トン前後に落ち込んでいます。日本のスーパーなどで普段見かけるシシャモ類のほとんどは輸入カラフトシシャモ(子持ちシシャモ)の干物です。2010年〜2018年の間にアイスランドやノルウェー、カナダなどから年間2万トン前後が輸入されています。
③チカ・ワカサギ
チカ(千魚、Japanese smelt、Hypomesus japonicus)とワカサギ(公魚、wakasagiまたはpond smelt、Hypomesus nipponensis)はワカサギ属(Hypomesus)の魚類です。ワカサギを公魚と書くのは、江戸時代に常陸国麻生藩が11代将軍徳川家斉に霞ヶ浦のワカサギを年貢として納め、公儀御用魚としたことに由来します。
チカは海水魚で、日本の北海道や三陸以北の本州(陸奥湾を含む)、大陸の朝鮮半島からカムチャッカ半島、サハリン、クリル列島の沿岸域に生息しています。寿命は4年前後で、体長は25cm前後になります。フライや天ぷら、塩焼きが美味です。鮮度がよければ、刺身や酢締め、昆布締めなど生食もお勧めです。
ワカサギは本州日本海側の島根県以北、太平洋側では千葉県以北、ならびに北海道の河川の下流や河口の汽水域、汽水湖(宍道湖、八郎湖、霞ヶ浦、小川原湖、網走湖など)に生息しています。ロシアのハバロフスクのウスリー川やサハリンのオホーツク海に面した河川、ベーリング海に面したアナジリ川、東シベリア海に面したコリマ川などにも分布しています。
ワカサギは本来、河川で孵化した後、海に下り成長し、産卵のために河川に遡上する遡河回遊魚です。淡水域だけでも生きられるため日本各地の湖沼(阿寒湖、洞爺湖、芦ノ湖、山中湖、諏訪湖、琵琶湖など)やダム湖に移植されています。冬期に結氷する湖沼におけるワカサギの氷上穴釣りは人気があります。網走湖や小川原湖、宍道湖などの汽水湖では湖内滞留型と遡河回遊型が存在することが知られています。繁殖期には湖に流入する河川に上り産卵するケースと湖内で産卵するケースがあります。産卵時期は関東以西(霞ヶ浦や河北潟、宍道湖など)では1月〜2月(諏訪湖や西湖では2月〜5月)、東北地方(八郎湖や小川原湖など)では3月〜4月、北海道(網走湖や阿寒湖など)では4月〜6月であり、秋に産卵するアユとは異なります。孵化した仔魚は海あるいは湖に流れ下り、約1年で成熟し、体長10cm程度になります。産卵後は多くが死にますが、2年あるいは3年生きるものもいます。
2019年の日本におけるワカサギの漁獲量は981トンであり、主な産地は青森県、北海道、秋田県、茨城県などです。青森県小川原湖のワカサギ水揚げ量は後述するシラウオと並んで全国トップです(ワカサギ:42%、シラウオ:51%)。フライや天ぷら、素焼き、塩焼き、佃煮、甘露煮などにして食されます。
④シラウオ・イシカワシラウオ
シラウオ(白魚、shirauoまたはJapanese icefish、Salangichthys microdon)は北海道から九州南部(鹿児島県)にかけて、ならびに朝鮮半島東岸から沿海州、サハリンにかけての極東アジアに分布するシラウオ科シラウオ属(Salangichthys)の魚類で、スズキ目ハゼ科シロウオ属のシロウオ(素魚、ice goby、Leucopsarion petersii)とは異なる種です。生きている間は半透明ですが、死ぬと全体が白くなることが和名の由来だそうです。シラウオは遡河回遊魚で、河川の河口や汽水湖(サロマ湖、網走湖、小川原湖、霞ヶ浦、宍道湖など)の汽水域あるいは海洋沿岸域に生息しています。体長10cm前後になる1年魚で、2月〜5月に産卵し、一生を終えます。
網走湖や小川原湖のシラウオはワカサギと同じように湖内滞留型と遡河回遊型が存在しますが、涸沼(ヒヌマ)では湖内滞留型のみが存在するようです。
2019年の日本におけるシラウオの漁獲量は565トンであり、主な産地は青森県、茨城県、島根県などです。天ぷらや唐揚げ、刺身、卵とじ、佃煮、吸物などにして食されます。シラウオはアユとともに横川吸虫という寄生虫の中間宿主であるため、生食は避けましょう(本章末尾に述べる「魚介類から感染する寄生虫症」を参照)。
イシカワシラウオ(石川白魚、Ishikawa icefish、Neosalangichthys ishikawae)は元来シラウオ属に分類されていましたが、2012年に新たにイシカワシラウオ属(Neosalangichthys)として再分類されました。和名はアユの養殖のところで述べた石川千代松への献名ではないかといわれています。日本固有の海水魚で、青森県から和歌山県に至る太平洋沿岸に生息し、淡水域には入らないとされています。体長6cm前後になる1年魚で、2月〜5月に産卵し、一生を終えます。刺身やかき揚げ、卵とじ、吸物、釜揚げなどにして食されます。海水魚なので横川吸虫の心配はいりません。
ウナギ目の魚
ウナギ目は15科141属790種に分類されており、そのうちのウナギ科、アナゴ科、ハモ科の魚が主に食用に供されています(表10-9)。
①ウナギ
ウナギ(鰻、eel)はウナギ科ウナギ属(Anguilla)の魚類の総称です。ウナギ類は海で生まれ、河川や湖沼に遡上して成長した後、海に下って産卵するという生活史をもつため降河回遊魚とよばれます。食用になる主なものはニホンウナギ(Japanese eel、Anguilla japonica)、ヨーロッパウナギ(European eel、A. anguilla)、アメリカウナギ(American eel、A. rostrata)、ビカーラウナギ(Indonesian shortfin eel、 A. bicolor bicolor)の4種です。ニホンウナギは東アジア(日本、朝鮮半島、中国、台湾など)の沿岸域に、ヨーロッパウナギはユーラシア大陸西部やアフリカ大陸北部の沿岸域に、アメリカウナギは北アメリカ大陸の大西洋沿岸域(メキシコ湾・カリブ海沿岸域を含む)や西インド諸島などに、ビカーラウナギは東南アジアやインド、アフリカ東部などの沿岸域にそれぞれ分布しています。
ニホンウナギの産卵場は東京から約2,300km離れたマリアナ諸島の西方海域にあるスルガ海山近傍であることが東京大学海洋研究所の塚本勝巳らにより特定されています。4月〜8月頃にかけて新月の日前後に産卵され、受精卵は36時間という短い期間で孵化します。仔魚期(体長1〜6cm)のウナギは透明で柳の葉のような形をしており、レプトセファルスとよばれ、北赤道海流に乗り西へと輸送されます。北赤道海流はフィリピン東方沖で黒潮とミンダナオ海流に分かれます。黒潮に乗り換えたレプトセファルスは北へと輸送される過程でシラスウナギとよばれる稚魚に変態します(体長5〜6cm)。一方、南下するミンダナオ海流に入ったレプトセファルスは死滅すると考えられています。スルガ海山近傍で生まれ、約6ヶ月をかけて東アジアの沿岸域に辿り着いたシラスウナギ(日本の沿岸には12月〜翌年4月頃に到達)は汽水域や淡水域に進入し、体表に色素が発現したクロコとよばれる幼魚になり、底生生活に移行します。クロコは河川や湖沼で成長し、腹側が黄味を帯びた黄ウナギになります。5〜10年かけて体長50〜100cmに成長した黄ウナギは目が大きくなり、金属光沢をもった銀ウナギに変態し、秋から冬にかけて産卵のために降河し、回遊を始めるとされています。銀ウナギの平均年齢はオスで7歳、メスで9歳程度といわれています。海に出た銀ウナギは約半年をかけて産卵場に到達し、4月〜8月頃にかけて産卵・放精を行うと、その一生を終えると考えられています。
日本の代表的なウナギ料理は蒲焼きであり、うな丼やうな重、ひつまぶし、う巻き(うなぎ巻き卵)などにして食べられます。鰻は古くは「むなぎ」とよばれ、「万葉集」に大伴家持が
#3853: 石麻呂に 吾(われ)物申(まを)す 夏痩せに
良しといふものそ 鰻(むなぎ)捕(と)り喫(め)せ
と詠んでいるように、古来夏バテ防止に食されていたようです。
ウナギや後述するアナゴ、ハモなどウナギ目の魚の血液にはイクシオトキシンというタンパク質性毒素が含まれています。中毒症状としては、血液を大量に飲んだ場合に、下痢、嘔吐、不整脈、麻痺、呼吸困難などが引き起こされ、死亡することもあるといわれています。また、血液が目や口、傷口に入ると局所的な炎症が引き起こされます。イクシオトキシンは加熱により失活し、毒性がなくなりますので、ウナギ目の魚は加熱調理して食べれば安全です。刺身など生食は避けるべきです。
日本の河川や湖沼における天然ウナギの漁獲量は1960年代には年間3,000トン前後ありましたが、その後は減少の一途を辿り、1993年には1,000トンを下回り、2019年は66トンでした。主な産地は茨城県、島根県、岡山県などです。
ウナギの養殖は1879年にクロコを用いて始まりました。大正時代にシラスウナギを池で養殖する技術が発展し、1920年代にはシラスウナギからの養殖が可能となり、1930年以降養殖生産量は天然漁獲量を上回るようになりました。シラスウナギは冬から春にかけて日本の河口付近に到達するものを採捕しますが、現在、採捕に当たっては都道府県知事の特別採捕許可(採捕期間・漁法・場所等が制限されています)が必要です。ウナギ養殖産業は太平洋戦争末期から1950年にかけて低迷しましたが、それ以降復興し、1988年から1991年にかけて年間養殖量は約4万トンのピークに達しました。その後減少に転じましたが、1997年以降は2万トン前後で推移しており、2019年は17,073トンでした。主な養殖生産地は鹿児島県、愛知県、宮崎県、静岡県などです。東アジアでは中国や台湾、韓国などにおいてウナギの養殖が盛んに行われており、日本は2019年に中国から29,270トン(活鰻換算値)、台湾から1,985トン(活鰻換算値)を輸入しています。
上述したように、日本における天然ウナギの漁獲量は養殖生産量の1%以下であり、ウナギの供給のほとんどは養殖に依存しています。養殖に必要なシラスウナギは乱獲などにより激減しており(ニホンウナギは2014年に国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種に指定されました)、養殖産業を脅かしています。この現状を打開するには、ウナギの完全養殖が求められます。完全養殖とは親ウナギから得られた受精卵を孵化し、誕生した仔魚(レプトセファルス)を飼育して稚魚(シラスウナギ)に変態させ、さらに親ウナギになるまで飼育して次世代の受精卵・仔魚を得るという養殖技術です。ニホンウナギの完全養殖の実験が2010年に水産総合研究センター(現在の水産研究・教育機構)において世界で初めて成功しました。完全養殖のサイクルの中で、レプトセファルスをシラスウナギに飼育する過程が最も困難な段階だといわれていますが、レプトセファルスにサメの卵を食べさせることでこれは克服されました。現在は完全養殖の大量生産の実験が進められており、完全養殖されたウナギを食べることができる日は近いでしょう。
ヨーロッパウナギとアメリカウナギの産卵場は長い間北アメリカ大陸東方のサルガッソー海であるとされてきましたが、卵や産卵中のウナギ成魚がこの海域で直接確認されたことはありませんでした。最近、海流データによる仔・稚魚の回遊シミュレーションにより、産卵場はサルガッソー海の東側にある大西洋中央海嶺の海山である可能性が示唆されています。ヨーロッパウナギはオランダ、ドイツ、イタリア、デンマーク、ギリシャ、スペインなどで養殖されており、薫製やトマト煮込みなどにして食されています。スペインではシラスウナギをニンニクと唐辛子の香りをつけたオリーブ油で炒めたアヒージョが人気です。ヨーロッパウナギは2009年に動植物保護のため輸出入を規制するワシントン条約の対象になり、輸入する際は輸出国の証明書が必要になりました。また、2010年にIUCNの絶滅危惧種にも指定され、2010年12月からEU(ヨーロッパ連合)からのヨーロッパウナギの輸出入が全面的に禁止されています。かつて中国で養殖されたヨーロッパウナギが日本に大量に輸入されていましたが、現在は少なくなっています(ヨーロッパウナギの稚魚が違法に中国に輸入され、養殖されている可能性があります)。中国ではアメリカウナギの稚魚も輸入し、養殖しているようです。
ビカーラウナギの産卵場は現在明らかになっていません。本種はフィリピンやインドネシアなどで養殖されており、日本にも輸入されています。
②アナゴ
アナゴ(穴子、conger)はアナゴ科の海水魚の総称です。海に棲み、ウナギに似ているため漢字で海鰻とも書かれます。主にアナゴ属(Conger)のマアナゴ(真穴子、whitespotted congerあるいはcommon Japanese conger、Conger myriaster)が流通しており、一般にアナゴといえばマアナゴを指します。マアナゴの天ぷらやフライ、蒲焼き、煮物、寿司などは大変美味です。
マアナゴは北海道以南の日本の沿岸域、東シナ海に分布し、浅い海の砂泥底に生息しています。体長はオスで40cm、メスで90cm程になります。産卵場は沖ノ鳥島南方沖の九州パラオ海嶺付近で、産卵時期は6月〜9月頃とされています。アナゴの仔魚もウナギと同じように透明で柳の葉のような形をしており、レプトセファルスとよばれます。春先に日本沿岸に辿り着くレプトセファルス(体長5〜8cm程度)は一般的に「のれそれ」とよばれていますが(もともとは高知県土佐地方の呼び名だったようです)、岡山県では「べらた」、兵庫県淡路島辺りでは「はなたれ」とよばれています。「のれそれ」の刺身は海の珍味として人気があります。大阪府泉南市の岡田浦漁業協同組合は平成27年度から近畿大学水産研究所と連携し、大阪湾で採捕したマアナゴの稚魚(レプトセファルスが変態したシラスアナゴ)の養殖に取り組み、養殖アナゴは「泉南あなご」として商品化されています。マアナゴの完全養殖の実験・研究が行われていますが、現時点では成功していません。
マアナゴのほかに、クロアナゴ(黒穴子、beach conger、Conger japonicus)やギンアナゴ属(Gnathophis)のギンアナゴ(銀穴子、bucktooth conger、Gnathophis heterognathos)などが僅かに流通しているようです。
日本における2019年のアナゴ類の漁獲量は3,300トンで、主な産地は島根県や長崎県、宮城県、福島県、茨城県、愛知県、兵庫県、山口県、福岡県などです。
③ハモ
ハモ(鱧、daggertooth pike conger、Muraenesox cinereus)はハモ科ハモ属(Muraenesox)の海水魚で、大きな尖った口(英語のpikeは「尖った先」の意)に鋭い歯(英語のdaggerは「短剣」の意)をもち、荒い性質です。西太平洋とインド洋の熱帯・温帯域に広く分布し、日本では福島県以南の太平洋沿岸、青森県以南の日本海沿岸、九州の東シナ海沿岸、瀬戸内海の砂泥底に生息しています。ウナギやアナゴのように海洋への大回遊はせず、産卵は沿岸水域の砂泥底で行われます。産卵時期は5月〜9月頃で、卵は2日以内に孵化します。1年ほど浮遊仔魚期(レプトセファルス)を過ごした後変態し、稚魚(シラスハモ)になります。メスはオスよりも成長が早く、オスは成長しても体長70cm程度ですが、メスは2m以上になります。ハモ漁は紀伊水道や瀬戸内海などで盛んですが、近年は漁獲量の全国的な統計が取られていません。
ハモは雌が旨く、雄はまずいので、雌を選びます。ハモの筋肉中には肉間骨という小骨が多数存在するため、3枚に下ろした後「骨切り」をしてから調理します。はもちり(落とし)、ぼたんはも、はもすき、フライ、天ぷら、唐揚げなどにして食されています。また、ハモの卵巣(鱧子)の煮付けも非常に美味だそうです。ハモは京都の祇園祭や大阪の天神祭に欠かせない夏の食材です。
ハモ属にはスズハモ(鈴鱧、common pike conger、M. bagio)がいますが、ハモに比べて味が落ちるとされています。漁獲量は少なく、地域的に食されているようです。
ダツ目の魚
ダツ目の魚
ダツ目は5科(サンマ科、トビウオ科、サヨリ科、ダツ科、メダカ科)36属227種に分類されています。ダツ目の代表的な魚を表10-10に示します。
①サンマ
サンマ(秋刀魚、Pacific saury、Cololabis saira)はサンマ科サンマ属(Cololabis)の表層性回遊魚で、北太平洋(東シナ海、日本海、オホーツク海、ベーリング海を含む)の日本周辺から北アメリカ大陸沿岸までの亜熱帯水域から亜寒帯水域にかけて広く分布しています。サンマは関西ではサイラとよばれており、種小名sairaに使われています。サンマは季節的な南北回遊ならびに東西回遊をすることが知られています。南北回遊においては、夏季(5月〜8月頃)に亜熱帯水域から北上し、亜寒帯水域を索餌場として成長します。8月中旬以降南下回遊を開始し、冬季(12月〜3月頃)には産卵のために亜熱帯水域に到達します。東西回遊においては、6月〜7月頃には日本の遥か東方の沖合(東経155度〜西経170度付近)に多く分布し、日本近海には少なくなりますが、秋以降は西方向に回遊し、日本近海に来遊します。サンマの産卵期は長く、9月から翌年6月にわたり、産卵場は季節的に移動するといわれています。受精卵は15℃では2週間程で孵化します。孵化後6〜7ヶ月で体長約20cmに成長し、1歳魚は体長29cm前後になります。寿命は約2年であり、体長は最大で35cm程度になります。成熟個体は主に体長25cm以上で、0歳魚の一部と1歳魚が産卵します。
サンマ漁は江戸時代の延宝年間(1673年〜1681年)に紀州(紀伊国)熊野灘で始まり、その後房州(安房国)方面に伝わり、盛んに行われるようになったといわれています。世界的には、1950年代は日本と韓国がサンマを漁獲していましたが、1960年代からは旧ソ連、1980年代終盤からは台湾、2010年代からは中国とバヌアツ(南太平洋のニューヘブリディーズ諸島)が漁獲を始めました。これらの国による総漁獲量は年による変動が大きく、10万トン台から60万トン台の範囲です。2018年における総漁獲量は43.9万トンであり、台湾が最も多く(シェア:41.1%)、次いで日本(29.3%)、中国(20.6%)、韓国(5.4%)、バヌアツ(1.9%)、ロシア(1.8%)の順になっています。
サンマは極めて美味で、様々に調理して食されています。定番は塩焼きですが、蒲焼きや刺身も好まれます。煮付けや甘露煮などの煮物、天ぷらやフライなどの揚げ物にも適しています。干物(煮干し、丸干し、開き干し、みりん干しなど)や缶詰にして、あるいは冷凍して保存され、これらは年中流通しています。サンマにはアジやサバ、サケ、ニシン、イワシなどのように豊富なω3脂肪酸(EPA・DHA)やビタミンDが含まれています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」、「ビタミンDと骨粗鬆症」を参照)。
②トビウオ
トビウオ(飛魚、flyingfish)はトビウオ科の海水魚の総称、またはその1種です。トビウオ類は太平洋、インド洋、大西洋の亜熱帯から温帯の海域に生息し、世界に50種程、日本近海に30種程いるといわれています。胸鰭が大きく発達して翼状になり、海面を飛ぶことができます。日本沿岸で獲れる主なトビウオ類はハマトビウオ属(Cypselurus)の大型(体長50cm程度)のハマトビウオ(浜飛魚、Japanese giant flyingfish、Cypselurus pinnatibarbatus japonicus)、中型(体長30〜35cm程度)のトビウオ(別名:ホントビウオ、飛魚、Japanese flyingfish、C. agoo)やツクシトビウオ(筑紫飛魚、narrowtongue flyingfish、C. doederleini)、小型(体長25cm程度)のホソトビウオ(細飛魚、darkedged-wing flyingfish、C. hiraii)の4種です。トビウオ類は刺身やたたきなどの生食、フライや唐揚げなどの揚げ物、塩焼きや開き干しなどの焼き物、煮付けなどに調理し食されます。
日本における1997年〜2006年のトビウオ類の年間漁獲量は8,000トン前後で推移していましたが、以後統計データが取られていません。トビウオ漁は鹿児島県や長崎県、島根県などで盛んに行われています。世界においては主にフィリピンやペルー、インドネシア、サントメ・プリンシペ(アフリカ)、ベナン(アフリカ)、インドなどで漁獲されています。
③サヨリ
サヨリ(細魚、Japanese halfbeak、Hyporhamphus sajori)はサヨリ科サヨリ属(Hyporhamphus)の海水魚です。体は細長く、下顎が細く針状に突出しており、体長は40cm前後になります。日本や朝鮮半島、中国の沿岸域に生息しています。
漁獲量が多いのは石川県、千葉県、北海道、茨城県、広島県、香川県などですが、全国的な漁獲量の統計データは取られていません。サヨリは刺身や酢締め、焼き物(塩焼き、みりん干し、開き干し、丸干し)、揚げ物(フライ、天ぷら)などにして食されます。
④ダツ
ダツ(駄津、needlefish)はダツ科の海水魚の総称、またはその1種です。日本の沿岸にはダツ属(Strongylura)のダツ(駄津、Pacific needlefish、Strongylura anastomella)、テンジクダツ属(Tylosurus)のテンジクダツ(天竺駄津、Blackfin longtom、Tylosurus acus)やオキザヨリ(沖細魚、Hound needlefish、T. crocodilus)、ハマダツ属(Ablennes)のハマダツ(浜駄津、Flat needlefish、Ablennes hians)などが生息しています。いずれも体長は1mを超え、細長い魚です。両顎が前方に長く突出して嘴(クチバシ)になっており、これが英名needlefish(needleは針の意)の由来になっています。ダツは光に反応し、突進する性質があります。夜間海面近くにいるダツをライトで照らしたとき、突進してきて人の体に突き刺さる死傷事故が起きています。
ダツは地域的には刺身や塩焼き、煮物などにして食されていますが、一般的には流通していません。
⑤メダカ
メダカ(目高、medaka)はメダカ科の小さな(体長3〜4cm程度)淡水魚の総称で、日本、中国、韓国、台湾など東アジアに広く分布しています。従来、日本にはメダカ属(Oryzias)のメダカ(Oryzias latipes)1種しか生息していないとされていましたが、2011年に朝井俊亘らによりミナミメダカ(南目高、Japanese rice fish、O. latipes)とキタノメダカ(北目高、Northern medaka、O. sakaizumii)の2種に分類されました。キタノメダカの種小名sakaizumiiはメダカ研究の第一人者である酒泉 満への献名です。ミナミメダカは江戸時代から観賞用に広く飼育され、ヒメダカやシロメダカという体色変異体が誕生しています。これらの品種は野生のクロメダカとともに江戸時代後期(1835年)に出版された「梅園魚譜」に描かれています。近年品種改良が進んで多くの品種が作られ、観賞魚や実験動物として利用されています。
かつてメダカは日本の小川や池沼、水田などに多く見られました。しかし、近年の水辺環境の変化に伴い、個体数が激減し、2003年に環境省の絶滅危惧種に指定されました。現在、日本各地でメダカの保護活動が行われています。
新潟県ではメダカを「うるめ」とよび、食用にしてきました。新潟県阿賀町のうるめっこ組合ではヒメダカを養殖して、「鹿瀬のめだか」という佃煮のブランド品を製造・販売しています。
カサゴ目の魚
カサゴ目は26科279属1477種で構成され、食用とされる代表的な魚を表10-11に示します。
①アイナメ科の魚
アイナメ(鮎魚女、別名:アブラメ、fat greenling、Hexagrammos otakii)はアイナメ属(Hexagrammos)の体長30〜40cm程度の海水魚で、日本近海の藻が繁茂する浅い岩礁域に生息しています。種小名otakiiは魚類学者である大瀧圭之介への献名です。
全国的に食べられていますが、漁獲量自体は多くありません。白身の非常に美味い高級魚で、刺身、木の芽焼きや木の幽庵焼きなどの焼物、ちり鍋や落とし、煮付けなどの煮物、みそ汁やすまし汁などの汁物、幼魚の天ぷらや唐揚げなどの揚物など様々に調理して食されます。
ホッケ属(Pleurogrammus)はホッケ(別名:マホッケ、Okhotsk atka mackerel、Pleurogrammus azonus)とキタノホッケ(別名:シマホッケ、Atka mackerel、P. monopterygius)の2種で構成されています(英名のAtkaはアリューシャン列島のアトカ島Atka islandに由来)。
ホッケは日本付近では茨城県以北の太平洋沿岸、対馬海峡以北の日本海沿岸、北海道のオホーツク海沿岸に分布し、その他にロシアの沿海地方(プリモルスキー地方)や南サハリン沿岸などに分布しています。水深100m前後の大陸棚に生息し、体長は40cm程度になります。ホッケといえば開き干しが定番ですが、鮮魚が手に入ればちり鍋や煮付け、フライにしても美味です。ホッケのすり身は団子や蒲鉾に加工されます。
日本におけるホッケの漁獲量は1998年に23.5万トンのピークがありましたが、その後は減少傾向が続き、2015年〜2017年は1.7万トン程度しかありませんでした。2012年から漁獲規制が行われており、2018年の漁獲量は3.37万トン、2019年は3.41万トンと回復の兆しが見え始めています。北海道が日本の漁獲量の大部分(約96%)を占めており、その他に青森県、秋田県、山形県、新潟県、石川県など日本海側で水揚げされています。
キタノホッケはホッケより北の海で獲れるという意味合いがあります。オホーツク海やベーリング海(特にアリューシャン列島付近)に分布し、ホッケより深い海域に生息しています。成魚(体長30cm前後)の体には5本の垂直な黒い縞があり(別名シマホッケの由来)、ホッケと区別できます。ロシアやアラスカ産のキタノホッケの開き干しが日本にたくさん輸入されています。
②オコゼ
オコゼはオニオコゼ科および近縁の数種の魚の総称です。オニオコゼ属(Inimicus)のオニオコゼ(鬼虎魚または鬼鰧、devil stinger、Inimicus japonicus)は日本の本州中部以南の近海の岩礁に生息し、体長は30cm程度になります。外見は和名のごとく鬼のように醜いですが、非常に美味です。ただし高級魚のため、庶民の口にはなかなか入らないようです。
③カジカ
カジカはカジカ科の魚類の総称、またはその1種です。カジカ属(Cottus)のカジカ(鰍または杜父魚、別名:ゴリ、Japanese sculpin、Cottus pollux)は淡水魚で、本州、四国、九州北西部のきれいな河川上流に生息し、体長は20cm程度になります。汁にするといいだしがでるといわれ、「ごり汁」や「ごり酒」などにして楽しまれています。
④ギンダラ
ギンダラ科ギンダラ属(Anoplopoma)はギンダラ(銀鱈、sablefish、Anoplopoma fimbria)1種のみで構成されています。タラ(鱈)という名がついていますが、タラ目ではなくカサゴ目に分類されています。主にオホーツク海南東部、ベーリング海(アリューシャン列島)に分布しています。深海に生息し、体長は120cm程になります。アメリカやロシアなどから冷凍ギンダラが輸入されており、定番は塩焼きや煮付けです。西京漬けも美味です。最近はカナダのバンクーバー島で養殖されている生ギンダラがチルドで日本に空輸されており、刺身や寿司、しゃぶしゃぶなどとして楽しまれています。ギンダラは脂肪分が多く(18.6%)、ω3脂肪酸(EPA・DHA)も豊富に含まれています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。
⑤コチ
コチ(flathead)はコチ科の頭の平たい海水魚の総称です。日本沿岸に生息するコチ属(Platycephalus)のコチ(鯒、bartail flathead)は1991年にマゴチ(真鯒、Platycephalus sp.2)とヨシノゴチ(吉野鯒、Platycephalus sp.1)の2種に分けられましたが、まだ学名が決まっていないためPlatycephalus sp.とされています。色合いの違いからマゴチをクロゴチ、ヨシノゴチをシロゴチとよぶことがあります。味はマゴチの方が良いといわれています。山形県以南の日本海沿岸、宮城県以南の太平洋沿岸、九州の東シナ海沿岸、瀬戸内海などに分布しています。海岸から水深30mくらいまでの砂底に生息し、体長は60cm前後になります。
⑥メバル科の魚
カサゴ(笠子、marbled rockfish、Sebastiscus marmoratus)はカサゴ属(Sebastiscus)の海水魚で、日本の北海道以南の太平洋、日本海、東シナ海沿岸や瀬戸内海、中国の黄海、東シナ海、南シナ海沿岸などに分布しています。浅い岩礁域に生息し、体長は25cm程になります。卵胎生で、10月~11月に交尾し、メスの体内で孵化した仔魚は11月~4月に体外に産出されます。煮付けや塩焼きが美味です。
キチジ(喜知次、別名:キンキ、broadbanded thornyhead、Sebastolobus macrochir)はキチジ属(Sebastolobus)の深海魚で、東北から北海道・クリル列島にかけての太平洋沿岸、オホーツク海、ベーリング海などに分布しています(日本海にはほとんどいないようです)。体長は30cm前後になり、獲れたてのものは鮮やかな赤色をしていますが、時間が経つにつれオレンジ色→黄色に変色していきます。キチジはギンダラのように脂肪分が多く(21.7%)、ω3脂肪酸(EPA・DHA)も豊富に含まれています(後述する「ω3およびω6脂肪酸」を参照)。料理の定番は煮付けですが、塩焼きや唐揚げ(小振りのもの)も美味です。2019年の日本における漁獲量は900トンで、北海道が最も多く56%を占めており、その他に青森県、岩手県、宮城県などで水揚げされています。
アラスカキチジ(shortspine thornyhead、Sebastolobus alascanus)はキチジの近縁種で、北海道東部からベーリング海を経てアラスカ湾にかけて分布しています。深海に生息し、体長は80cm程度とキチジの2倍以上の大きさになります。主にロシア、アメリカ(アラスカ)、カナダで漁獲されています。日本には主にアラスカ産やカナダ産の冷凍魚が輸入されています。日本産のキチジは高級魚ですが、輸入アラスカキチジは手頃な値段です。
メバル属(Sebastes)にはメバル(アカメバル、クロメバル、シロメバル)やウスメバル、クロソイなどが含まれます。メバル属の魚はカサゴと同じように卵胎生で、交尾後メスの体内で孵化した仔魚が体外に産出されます。
メバル(目張、Japanese rockfish)の名は目が大きく張り出していることに由来します。メバルは2008年にアカメバル(赤目張、Sebastes inermis)、クロメバル(黒目張、S. ventricosus)、シロメバル(白目張、S. cheni)の3種に分けられました。日本の北海道南部から九州および朝鮮半島南部に至る沿岸域に分布しています。浅い岩礁域や藻場に生息し、体長は25cm前後になります。
ウスメバル(薄目張、別名:オキメバル、goldeye rockfish、Sebastes thompsoni)は日本の北海道南部から伊豆半島にかけての太平洋沿岸、北海道南部から対馬、朝鮮半島にかけての日本海沿岸に分布しています。浅い岩礁域にいるメバルと比べると沖合の深場(水深100mくらいの岩礁域)にいるためオキメバルともよばれ、体長は30cm程度になります。青森県から石川県にかけての日本海側で主に水揚げされています。
クロソイ(黒曹以、black rockfishあるいはKorean rockfish、Sebastes schlegelii)は東アジア(日本、朝鮮半島、中国)の沿岸に広く分布し、浅瀬の岩礁域に生息しています。体長は3年で30cm程度になり、10年以上の長寿命で、体長60cmになるものもいます。漁獲量の比較的多い県は香川県、長崎県、三重県、福井県などです。現在、北海道(噴火湾)、青森県(むつ市脇野沢地区)、宮城県(志津川湾)、香川県などで養殖されています。
フグ目の魚
フグ目は9科101属357種で構成されています。表10-12に示すフグ科、ハリセンボン科、マンボウ科、カワハギ科、ハコフグ科などの魚類が食用に供されています。
①フグ
フグ(河豚、puffer)はフグ科の魚類の総称です。フグは後述する猛毒のフグ毒をもち、適切に処理しないで食べるとフグ中毒を発症し、死に至ることがあります。処理等により人の健康を損なうおそれがないと厚生労働省により認められているフグの種類としては、トラフグ属(Takifugu)のトラフグ(虎河豚、Japanese puffer、Takifugu rubripes)、シマフグ(縞河豚、striped puffer、T. xanthopterus)、マフグ(真河豚、purple puffer、T. porphyreus)、クサフグ(草河豚、grass puffer、T. niphobles)など16種です。
トラフグは北海道から九州までの日本近海、東シナ海、黄海に分布しています。沿岸から沖合の砂底などに生息し、体長は70cm程度になる大型種です。「フグの王様」とも称され、究極の美味と評価されています。トラフグは筋肉と皮と精巣(白子)が食用可能部位です(後述する②フグ毒を参照)。ふぐ刺し(てっさ)やふぐちり(てっちり)、唐揚げなどは絶品です。皮はコラーゲンたっぷりで、湯引きして酢和えなどにして味わえます。白子焼きやムニエルも至福の味と評されています。
シマフグは日本の相模湾以南の太平洋、富山湾以南の日本海、黄海、東シナ海、南シナ海に分布しています。沿岸から水深100m位までの沖合の岩礁域に生息し、体長は60cm前後になる大型種です。トラフグと同様に筋肉と皮と精巣が食用に供されます。
マフグはサハリン以南の日本海、北海道以南の太平洋、黄海、東シナ海に分布しています。沿岸から水深200m位までの大陸棚の縁辺に生息し、砂泥域に多く見られます。体長は45cm程になる中型種で、「フグの女王」と称されています。トラフグと比べて漁獲量は多く、庶民的な価格で人気があります。筋肉と精巣が食用に供されます。
クサフグは青森県から沖縄県までの日本近海、朝鮮半島近海などに分布し、沿岸や内湾の砂底や砂泥底に生息しています。体長15cm前後の小型種で、流通はせず、地域的に食されています。筋肉のみが食用になります。
日本における2019年の天然フグ類の漁獲量は5,000トンで、主に北海道や石川県、山口県、宮崎県などで水揚げされています。フグの養殖はトラフグ1種のみで行われています。2019年におけるトラフグの養殖生産量は4,100トンで、主に長崎県(シェア:51.2%)、熊本県(14.6%)、佐賀県(7.3%)などで養殖されています。
②フグ毒
フグは猛毒のフグ毒テトロドトキシンをもっています。1909年に日本の薬学者田原良純(日本で最初の薬学博士)によりフグ毒成分が世界で初めて単離され、テトロドトキシンtetrodotoxinと命名されました。これはフグ科の学名Tetraodontidaeと毒素toxinの合成語です。化学構造は1964年に明らかにされました。
ヒトにおけるフグ毒の経口摂取による致死量は1〜2mgであるといわれています。厚生労働省の「自然毒のリスクプロファイル:魚類:フグ毒」には、フグ毒の毒力の強さはフグの種類や部位により著しく異なり、一般に肝臓、卵巣、皮の毒力が強いと記載されています。フグは種類により食用可能な部位が異なります。例えば、トラフグやシマフグは筋肉と皮と精巣が食用可能、マフグは筋肉と精巣が食用可能、クサフグは筋肉のみが食用可能です。しかしながら、ドクサバフグは筋肉を含め全ての部位が有毒なため摂食してはならないとされています。日本では毎年30件程度のフグ中毒が発生し、死者も出ています。素人によるフグの取扱いや調理は大変危険ですので、フグ調理師あるいはフグ取扱者等フグ処理の資格を有する者が調理したものを食べるようにしましょう。
中毒症状としては、食後20分から3時間程度でしびれや麻痺症状が現れます。麻痺症状は口唇から四肢、全身に広がり、重症の場合には呼吸困難で死に至ります。フグ中毒に対する有効な治療法や解毒剤は今のところありませんが、人工呼吸により呼吸を確保し適切な処置が施されれば確実に延命できるようです。
テトロドトキシンはビブリオ属(Vibrio)やシュードモナス属(Pseudomonas)の海洋細菌により産生され、生物濃縮によりフグの体内に蓄積されると考えられています。また、この毒素はフグだけでなく、両生類のカリフォルニアイモリ、魚類のツムギハゼ、軟体動物のヒョウモンダコなど多様な生物に存在することが確認されています。
天然フグは毒素を有するヒトデや巻貝を餌にするので毒素がたまりますが、イワシやアジなど毒素をもたない特定の餌だけで育てた無毒のフグが養殖・生産されています。
③ハリセンボン
ハリセンボン(針千本、porcupinefish)はハリセンボン科の魚類の総称、またはその1種です。全世界の熱帯から温帯の浅海に広く分布しています。皮膚にたくさんの棘があるのが特徴で、これが和名「針千本」ならびに英名porcupinefish(porcupine:ヤマアラシという棘のような硬毛をもつ動物)の由来になっています。ハリセンボン属(Diodon)のハリセンボン(針千本、long-spine porcupinefish、Diodon holocanthus)、ネズミフグ(鼠河豚、spot-fin porcupinefish、D. hystrix)、ヒトヅラハリセンボン(人面針千本、black-blotched porcupinefish、D. liturosus)、ならびにイシガキフグ属(Chilomycterus)のイシガキフグ(石垣河豚、spotfin burrfish、Chilomycterus reticulatus)の4種は沖縄県で古くから食用とされています。「アバサー汁」は沖縄料理の一つです(アバサーは沖縄でのハリセンボンの呼び名)。厚生労働省の「自然毒のリスクプロファイル:魚類:フグ毒」には、ハリセンボンの筋肉、皮、精巣は食用可能とされています。また、肝臓も無毒であると報告されています。ハリセンボンによる中毒事例の報告はありません。
④マンボウ
マンボウ(翻車魚、ocean sunfish)はマンボウ科の魚類の総称、またはその1種です。世界の熱帯から温帯の海の沖合に分布しています。マンボウ属(Mola)のマンボウ(Mola mola)は外洋の表層から深海(水深800m程度)に生息しており、体長3m、体重2トン以上になります。夏期に日本の沿岸で漁獲され、食用にされます。筋肉と皮、肝、腸が食べられます。
⑤カワハギ
カワハギはカワハギ科の魚類の総称、またはその1種です。カワハギ属(Stephanolepis)のカワハギ(皮剥、threadsail filefish、Stephanolepis cirrhifer)は日本の本州から九州の沿岸、朝鮮半島から中国の広東省にかけての大陸沿岸、台湾やフィリピン諸島北部の沿岸などに分布し、水深100mよりも浅い砂地に生息しています。体は菱形で上下に平たく、体長は25cm程になります。皮は丈夫でざらざらしていますが、簡単に剥がせることが和名の由来です。味は究極の美味といわれており、活魚は超高級魚だそうです。静岡市では地下海水を用いた陸上養殖が行われています。
ウマヅラハギ属(Thamnaconus)のウマヅラハギ(馬面剥、black scraper、Thamnaconus modestus)はウマのような長い顔のカワハギという意味があります。北海道以南の日本近海から東シナ海、南シナ海にかけて分布しています。体はカワハギより細長く、体長は30cm位になります。傘の直径が2mにもなる巨大クラゲのエチゼンクラゲを食べることで有名です。値段はカワハギより安いですが、味は遜色ないようです。
⑥ハコフグ
ハコフグ(箱河豚、black-spotted boxfish、Ostracion immaculatus)はハコフグ科ハコフグ属(Ostracion)の海水魚で、日本の本州以南の沿岸に生息しています。全身が六角形の板状鱗で覆われているという特徴があり、体長は25cm前後になります。筋肉と精巣は食用になります。長崎県の五島列島の郷土料理に「かっとっぽ」というハコフグの味噌焼きがあり、人気を博しています。パフトキシンという溶血性のある毒を体表から分泌しており、皮は食べられません。
ハコフグには上述したフグ毒テトロドトキシンはありませんが、パリトキシン様毒を体内にもつことがあり、この毒素による中毒事例が報告されています。主な症状は横紋筋の融解に由来する激しい筋肉痛(横紋筋融解症)で、しばしば黒褐色の排尿(ミオグロビン尿症)を伴います。
コイ目の魚
コイ目は6科321属3,268種から構成されています。主にコイ科のコイ類やフナ類、ウグイ、ハス、オイカワ、ドジョウ科のドジョウ類などが食用に供されています(表10-13)。
①コイ
コイ(鯉、common carp、Cyprinus carpio)は中央アジア原産のコイ属(Cyprinus)の淡水魚で、世界中に広く分布しています。地中海のキプロス島(Cyprus)を経由してヨーロッパに伝わったことが属名の由来です。口に2対のヒゲがあるのが特徴です。寿命は15~20年といわれています。体長は約60cmで、1mを超えるものもあります。
現在、日本にはノゴイ(あるいはマゴイ)とよばれる比較的細長い(体高の低い)コイとヤマトゴイとよばれる縦に平たい(体高の高い)コイの2種類が生息しています。ノゴイは日本に有史以前から生息している在来型(あるいは野生型)であり、ヤマトゴイはユーラシア大陸由来の導入型(あるいは飼育型)です。両者は形態的に異なるのみならず、遺伝学的にも大きく異なっていることが明らかにされています。
鎌倉時代に吉田兼好(兼好法師)により書かれた随筆「徒然草」の第118段には「鯉ばかりこそ、御前にても切らるるものなれば、やんごとなき魚なり」とあります。すなわち、鯉は天皇の前でも生き作りに料理されるくらい貴い魚であったということです。
ヤマトゴイは明治時代以降盛んに移植・放流され、日本の河川・湖沼に広く分布しています。そして、導入されたヤマトゴイと在来のノゴイとの交雑が起こっています。2019年における日本の天然ゴイの漁獲量は175トンと少なく、主に青森県や新潟県などで漁獲されています。同年の養殖ゴイの収獲量は2,726トンであり、茨城県、福島県、宮崎県、長野県、山形県、群馬県などが主要な生産地です。コイは洗い、鯉こく、あら汁、甘露煮、唐揚げなどにして食されています。
2018年の世界におけるコイの養殖生産量は419万トンで、世界の養殖魚の中でソウギョ、ハクレン、ナイルティラピアに次いで第4位にランクされています(後述する②中国四大家魚ならびに既に述べたスズキ目の魚③ティラピアを参照)。主な生産国は中国、インドネシア、ミャンマー、ベトナム、バングラデシュ、ロシアなどです。
②中国四大家魚
中国四大家魚とよばれる中国ゴイ(Chinese carp)とはソウギョ属(Ctenopharyngodon)のソウギョ(草魚、grass carp、Ctenopharyngodon idellus)、ハクレン属(Hypophthalmichthys)のハクレン(白鰱、silver carp、Hypophthalmichthys molitrix)とコクレン(黒鰱、bighead carp、H. nobilis)、アオウオ属(Mylopharyngodon)のアオウオ(青魚、black carp、Mylopharyngodon piceus)の4種を指します。これらのコイ類は東アジアのアムール川流域からベトナムにかけて分布する淡水魚です。いずれも口ヒゲはなく、体長1mを超える大きなコイです。中国、インド、バングラデシュ、イラン、エジプト、ウズベキスタン、ロシア、パキスタンなどで盛んに養殖されています。
2018年の世界におけるソウギョの養殖生産量は570万トン(世界の養殖魚の中で第1位)、ハクレンは479万トン(第2位)、コクレンは314万トン(第5位)、アオウオは69万トンです。
明治時代以降、四大家魚は中国から日本各地に移植されましたが、ほとんど繁殖・定着することはなかったようです。しかしながら、利根川・江戸川水系ではうまく自然繁殖でき、特にハクレンは数を増し、観光資源にもなっています。
③三大インドゴイ
南アジア(インド、バングラデシュ、ミャンマー、ネパール、パキスタンなど)の河川や湖沼にはインドゴイ(Indian carp)とよばれる淡水魚が生息しています。特に、ラベオ属(Labeo)のカトラ(catla、Labeo catla)とロフ(rohuまたはroho labeo、L. rohita)、ならびにケンヒー属(Cirrhinus)のムリガル(mrigal carp、Cirrhinus cirrhosus)は三大インドゴイとよばれています。カトラの体長は1.8m前後、ロフは2m前後になりますが、ムリガルの体長は1m程度です。
これらのインドゴイは南アジアを中心に盛んに養殖されています。2018年の世界におけるカトラの養殖生産量は304万トンであり、世界の養殖魚の中でコクレンに次いで第6位です。ロフの養殖量は202万トンとなっています。
上述したようにコイ類は世界中で盛んに養殖されており、2018年に世界で養殖された鰭のある魚(finfish)の総生産量5,428万トンのうち約43%をコイ類が占めています。
④フナ
フナ(鮒、crucian carp)はフナ属(Carassius)の魚類の総称です。フナはユーラシア大陸に広く分布し、河川、湖沼、ため池などの淡水域に生息しています。ギンブナ(銀鮒、ginbuna、Carassius auratus langsdorfii)は日本列島、朝鮮半島、中国に分布しており、体長は30cm前後になります。ニゴロブナ(煮頃鮒あるいは似五郎鮒、nigorobuna、C. auratus grandoculis)は琵琶湖固有種で、体長は35cm前後になります。ゲンゴロウブナ(源五郎鮒、Japanese white crucian carp、C. cuvieri)は琵琶湖・淀川水系固有種です。体高が高く、横から見ると菱形をしており、体長は50cm前後になります。ヘラブナ(箆鮒)はゲンゴロウブナを品種改良したもので、日本全国に移植され、釣りの最高峰といわれています。
鮒は「万葉集」に長意吉麻呂(ながのおきまろ)により
#3828: 香塗れる 塔にな寄りそ 川隈(かわくま)の
屎鮒(くそぶな)食(は)める いたき女奴(めやつこ)
と下品に詠まれています。
近江(滋賀県)の伝統食品「鮒鮨(フナズシ)」はニゴロブナやゲンゴロウブナを使った「熟れ鮨(ナレズシ)」です。熟れ鮨は塩漬けにした魚と米飯を一定期間乳酸発酵させた食品で、東南アジアで考案されたといわれています。「すし」の語源は「酸し」で、酸味があるという意味です。乳酸により腐敗が抑えられるため魚の保存食として利用されています。熟れ鮨は中国から日本に伝わり、奈良時代には食されていたといわれています。熟れ鮨の材料にはフナだけでなく、ビワマスやコイ、アユ(吉野の「釣瓶鮨」は有名)、ウグイ、ハス、オイカワ、ナマズ、ドジョウなども使われています。「江戸前鮨」は江戸時代に一般に広まった食酢を使った酢飯を握り、その上に江戸前(江戸湾およびその付近で獲れる魚介類のこと)をのせた握り鮨です。江戸前鮨は従来の熟れ鮨とは全く異なる早鮨で、またたく間に全国に広がり、現在では代表的な日本料理の一つとなっています。
2019年の日本におけるフナ類の漁獲量は423トンで、主に岡山県や新潟県、千葉県、島根県、青森県などで収獲されています。フナ類は中国やウズベキスタン、モルドバ、ルーマニア、ベラルーシ、台湾などで養殖されており、2018年の世界の生産量は277万トンです。
⑤ウグイ
ウグイ(鯎、Japanese dace、Tribolodon hakonensis)はウグイ属(Tribolodon)の淡水魚で、体長は30cm前後になります。沖縄地方を除く日本全国に分布し、河川の上流域から下流域、湖沼などに幅広く生息しています。海に下る降海型もおり、北にいくほど降海型が増える傾向にあります。
ウグイは青森県の宇曽利湖や秋田県の田沢湖のような強い酸性の湖にも生息していることが知られています。宇曽利湖の酸性は湖底から硫酸を含む水が噴出していることやpHが3以下の強酸性の川が湖に流入していることに起因します。田沢湖の酸性は本章「サケ科の魚③クニマス」で述べたように玉川温泉由来の強酸性水が導入されたことに起因します。このような酸性環境下でウグイが生きられる要因としては、①ウグイのエラに多く存在する塩類細胞が水素イオン(H+)を湖水側に排出し、重炭酸イオン(HCO3-)を血管側に排出して血液の酸性化を防いでいること、②全身の組織でアンモニアや重炭酸イオンが産生され、中和剤として利用されていることが東京工業大学の広瀬茂久らにより明らかにされています。ウグイは繁殖の時期になると、湖に流入する中性の河川に遡上して産卵します。生まれた稚魚は、ある程度成長すると酸性環境下で生きることができるようになり、湖に下って住みつきます。
ウグイの漁獲量は後述するオイカワと合わせた統計値ですが、2019年において全国で163トンでした。主な産地は青森県、神奈川県、熊本県などです。ウグイは塩焼きや唐揚げ、甘露煮などにして食されます。
⑥ハス・オイカワ
ハス属(Opsariichthys)の淡水魚にはハス(鰣、three-lips、Opsariichthys uncirostris uncirostris)やオイカワ(追河、pale chub、O. platypus)などが含まれます。ハスは琵琶湖・淀川水系や福井県の三方湖に自然分布する魚食性の魚で、体長は30cm前後になります。日本以外にも、アムール川水系に分布する亜種O. uncirostris amurensisや朝鮮半島、長江からインドシナ半島に分布する亜種O. u. bidensが確認されています。ハスは魚田(ギョデン:魚の田楽の意。魚を串に刺し味噌をぬって焼いた料理)や塩焼き、フライ、天ぷら、熟れ鮨(滋賀県の「ハス鮨」)などにして食されます。
オイカワは日本の本州、四国、九州ならびに東アジアの一部に分布しており、体長は20cm前後になります。天ぷら、唐揚げ、南蛮漬け、熟れ鮨(滋賀県の「ちんま鮨」)などにして食されます。また、焼き干しにして保存されます。
⑦ドジョウ
ドジョウ(loach)はコイ目ドジョウ科の魚類の総称、あるいはその1種です。ドジョウ科は26属180種からなり、ユーラシア大陸の淡水域に広く分布しています。種としてのドジョウ(泥鰌または鰌、pond loach、Misgurnus anguillicaudatus)はドジョウ属(Misgurnus)の淡水魚で、日本やサハリン、台湾、ならびにアムール川からベトナムにかけての東アジアに広く分布しています。沼や池、河川、水田などの泥の中に生息しています。体長は20cm前後になり、口に5対10本のヒゲがあります。ヒゲには味蕾があり、食物を探すのに使われます。古くは日本の水田や小川など、どこにでもいましたが、水田整備や農薬により激減しました。現在、大分県や石川県、福井県、島根県などで養殖が行われています。国内生産量は少なく、中国や台湾などから輸入されています。ドジョウは柳川鍋、どじょう汁、唐揚げ、蒲焼きなどにして食されます。
カラドジョウ(唐泥鰌、large-scale loach、Paramisgurnus dabryanus)はカラドジョウ属(Paramisgurnus)の淡水魚で、中国、朝鮮半島、台湾などに分布しています。前述したドジョウと同じように沼や水田、水路などの泥底に生息し、体長は15cm程度になります。ドジョウより長い口ヒゲが5対10本あります。日本には生息していなかったのですが、中国から移入され、定着しています。ドジョウと同様に食用になります。
ナマズ目の魚
ナマズ(鯰、catfish)はナマズ目の魚類の総称、あるいはその1種です。ナマズ目の魚類は35科446属2867種に分類され、日本には10種程生息しているといわれています。多くが淡水に生息しますが、海に生息するものもいます。食用に供される主なナマズを表10-14に示します。
①ナマズ科の魚
ナマズ科ナマズ属(Silurus)のナマズ(鯰、別名:マナマズあるいはニホンナマズ、Japanese common catfishまたはAmur catfish、Silurus asotus)は体長60cm程度になる淡水魚で、東アジアの中国東部や朝鮮半島、日本、台湾などに分布しています。日本に生息するナマズ属の淡水魚は、このマナマズと日本固有種のイワトコナマズ(岩床鯰、rock catfish、S. lithophilus)ならびにビワコオオナマズ(琵琶湖大鯰、Biwa catfish、S. biwaensis)の3種です。マナマズは古くは西日本にのみ分布し、東日本には江戸時代初期までは分布しなかったといわれています。江戸時代中頃には関東地方に見られるようになり、東北地方で確認されるようになったのは江戸時代後半とのことです。
イワトコナマズは琵琶湖、瀬田川、余呉湖などの岩や石の多い場所(岩床)に生息していることが名の由来になっています。体長は60cm前後になり、マナマズより味がよいといわれています。ビワコオオナマズは琵琶湖特産種で、淀川水系にも生息しています。名前のとおり、体長120cm前後になる大型ナマズで、泥臭みがあり、マナマズやイワトコナマズより味は劣るといわれています。
縄文時代早期から中期の滋賀県大津市の粟津貝塚湖底遺跡からナマズの歯骨片が出土していることから、縄文人はナマズを食していたと考えられます。平安時代末期に成立したとみられる「今昔物語集」巻第二十第三十四話に、上津出雲寺の別当(寺の役僧)が亡き父の転生した大鯰を食べ、喉に骨が突き刺さってもだえ死んだ話が記されています。室町時代の山科家(公家)の日記「山科家礼記」には、鯰を贈答品として利用していたことが記されています。江戸時代中期に書かれた「当流節用料理大全」には、鯰の効能として「乳のでないときに味噌汁にして与えるとよい」と記されており、母乳の出がよくなるように鯰を食べさせる慣習はこの頃に現れたとされています。
②パンガシウス
パンガシウス科の魚類は、パキスタンからインドネシアまでの南アジア・東南アジア一帯の汽水や淡水域に生息します。パンガシウス属(Pangasius)のカイヤン(別名:チャー、striped catfish、Pangasius hypophthalmus)やバサ(basa、P. bocourti)がよく知られています。カイヤンはパンガシアノドン属(Pangasianodon)に分類され、学名をPangasianodon hypophthalmusとすることがあります。両種とも体長は1mを超える大型のナマズで、メコン川やチャオプラヤ川が原産です。東南アジアの他の河川にも養殖のために移入されています。パンガシウス養殖のためのASC認証基準が設けられています。ベトナムで養殖されたASC認証パンガシウスが日本にも輸入されています。非常に美味で、フライやムニエルなどにして食されます。カイヤンの2018年の世界における養殖量は236万トンに上ります。
③ヒレナマズ
ヒレナマズ(鰭鯰、whitespotted clariasまたはHong Kong catfish、Clarias fuscus)はヒレナマズ科ヒレナマズ属(Clarias)の淡水魚で、体長は30cm前後になります。中国南部やラオス、ベトナムが原産地です。日本では沖縄県に外来種として移入分布しています。2018年に岡山市のジャパンマリンポニックスがヒレナマズの完全養殖に成功し、「桃太郎フィッシュ」のブランド名で販売しています。ヒレナマズはニホンウナギの代用や中華料理の食材などとして使用されています。
ヒレナマズ属の多くの種が中国や東南アジアなどで養殖されており、2018年の世界における生産量は125万トンになっています。
④ギギ
ギギ科ギバチ属(Pseudobagrus)にはギギ(義義、bald gigi、Pseudobagrus nudiceps)やコウライギギ(高麗義義、bagrid catfishあるいはyellow catfish、P. fulvidraco)などが含まれます。ギギは日本固有種で、新潟県阿賀野川以南の本州、四国、九州北東部の河川や湖沼に生息しています。ギーギーと鳴くことが名の由来です。体長は30cm前後になり、蒲焼きや煮付け、みそ汁などにして食されています。
コウライギギはアムール川から中国南部、朝鮮半島など東アジアに広く分布する淡水魚で、体長20cm前後にまで成長します。日本では2008年に霞ヶ浦で初めて採捕され、現在では利根川水系に広く生息する外来種です。中国の長江流域や広東省などで盛んに養殖されており、2018年の養殖量は51万トンになります。
⑤チャネルキャットフィッシュ
チャネルキャットフィッシュ(別名:アメリカナマズ、channel catfish、Ictalurus punctatus)はアメリカナマズ科アメリカナマズ属(Ictalurus)の淡水魚です。北米原産で、カナダ南部やアメリカ中部・東部、メキシコ北部に広く分布しています。体長は通常50cm前後になりますが、1mを超えるものもあります。非常に美味で、フライにしてハンバーガーとして人気があります。天ぷらや唐揚げ、ムニエル、スープにしても美味です。日本には1971年以降に養殖用に移入され、霞ヶ浦・利根川水系、阿武隈川水系、矢作川水系、琵琶湖・瀬田川などで繁殖・定着しています。養殖もされています。
チョウザメ
チョウザメ(蝶鮫)はチョウザメ目の魚類の総称です。チョウザメ目はチョウザメ科(4属25種)とヘラチョウザメ科(2属2種)の2つの科に分類されており、チョウザメ科の魚はスタージョンsturgeon、ヘラチョウザメ科の魚はパドルフィッシュpaddlefishとよばれます。チョウザメ(特にスタージョン)は体がサメのような形をしており、体側にある大きな硬い鱗(板状硬鱗)の形が昆虫のチョウ(蝶)に似ていることが名の由来です。パドルフィッシュには体側にそのような硬鱗はなく、尾鰭の付け根や鰓蓋(エラブタ)の表面に1mm以下の小さな鱗が見られるだけです。チョウザメは後述する軟骨魚類のサメとは異なり硬骨魚類の仲間です。
チョウザメとサメの違いとして次のような点が挙げられます。
- 外見上チョウザメには鰓蓋がありますが、サメには鰓蓋がなく鰓孔(エラアナ)がむき出しになっています。
- チョウザメには浮き袋がありますが、サメにはありません。
- チョウザメにはサメのような歯がありません。
- サメの吻(上顎が前方へ突出している部分)にヒゲはありませんが、スタージョンの吻の下側には4本のヒゲが付いており、餌となるエビやカニなどの甲殻類や貝類、ゴカイ類、小魚などを探すのに役立ちます。
チョウザメは海や塩湖(湖水の塩濃度が0.3%以上の湖)に生息し、産卵のために川を遡上する種と淡水にのみ生息する種がいます。カスピ海は塩濃度1.2%の塩湖であり、チョウザメ類の宝庫です。海や塩湖に生息するチョウザメは川の上流で産卵し、サケ類と異なり、産卵後親は死なないで、再び海や湖に戻ります。寿命は50年以上といわれています。
チョウザメは、その卵がキャビアとして有名ですが、肉もまた美味です。食用に供される主なチョウザメ類を表10-15に示します。
①チョウザメ属の魚
チョウザメ科チョウザメ属(Acipenser)にはミドリチョウザメ(green sturgeon、Acipenser medirostris)、シロチョウザメ(white sturgeon、A. transmontanus)、サハリンチョウザメ(別名:ミカドチョウザメ、Sakhalin sturgeon、A. mikadoi)、アムールチョウザメ(Amur sturgeon、A. schrenckii)、ロシアチョウザメ(osetraまたはRussian sturgeon、A. gueldenstaedtii)、ホシチョウザメ(sevrugaまたはstarry sturgeon、A. stellatus)、コチョウザメ(sterlet、A. ruthenus)、シベリアチョウザメ(Siberian sturgeon、A. baeri)などが含まれます。
ミドリチョウザメは北太平洋のアリューシャン列島、アラスカ湾からカリフォルニアにかけて分布し、体長は2m前後に達します。シロチョウザメは北太平洋東部のアラスカ湾からカリフォルニアにかけて分布し、体長は2m程度になります。
サハリンチョウザメ(ミカドチョウザメ)は日本海、オホーツク海、ベーリング海などに分布し、体長は1.5m前後になります。サハリンチョウザメは1990年代まではミドリチョウザメとして、あるいはミドリチョウザメの亜種として分類されていましたが、現在は独立した種として分類されています。サハリンチョウザメとミドリチョウザメは系統発生学的には非常に近く、約16万年前に分岐したと考えられています。サハリンチョウザメは後述するダウリアチョウザメとともにかつては北海道の石狩川や天塩川、釧路川、十勝川などに遡上・産卵していたといわれています。ロシアのトゥムニン川(Tumnin River)がサハリンチョウザメの現在の唯一の産卵場所であると知られています。アムールチョウザメは中国やロシアのアムール川流域に生息し、体長は3m前後になります。本種は北海道紋別や標津などの沿岸で捕獲されていることから、アムール川から降海し、長距離回遊すると考えられます。
ロシアチョウザメやホシチョウザメはカスピ海や黒海などに分布し、体長は2m前後になります。コチョウザメは黒海に流入するドナウ川やドニプロ川、カスピ海に流入するヴォルガ川やウラル川、シベリアのオビ川やエニセイ川などに分布する比較的小型(体長:1.2m前後)の魚です。シベリアチョウザメはシベリアの多くの大河オビ川、エニセイ川、レナ川、コルイマ川などの流域に生息し、体長は生息環境により異なり70~170cmの範囲にわたります。
②ダウリアチョウザメ属の魚
チョウザメ科ダウリアチョウザメ属(Huso)にはダウリアチョウザメ(別名:カルーガ、kalugaあるいはkaluga sturgeon、Huso dauricus)やオオチョウザメ(別名:ベルーガ、belugaあるいはbeluga sturgeon、H. huso)などが属します。ダウリアチョウザメはアムール川に生息し、体長3~5mになる大型の魚です。本種は降海し、オホーツク海や日本海にも分布しており、北海道の沿岸や沖合などで時々捕獲されています。オオチョウザメはカスピ海や黒海に生息し、体長はダウリアチョウザメと同様に3~5mになります。
③ショベルノーズチョウザメ
ショベルノーズチョウザメ(shovelnose sturgeon、Scaphirhynchus platorynchus)はチョウザメ科スカフィリンクス属(Scaphirhynchus)の淡水魚です。米国ミシシッピ川流域に生息し、体長は50~85cmと比較的小型です。吻がショベル(スコップ)のような形になっていることが名の由来です。
④ヘラチョウザメ
ヘラチョウザメ(篦蝶鮫、American paddlefish、Polyodon spathula)はヘラチョウザメ科ヘラチョウザメ属(Polyodon)の淡水魚で、米国ミシシッピ川流域に生息しています。体長は1.5~2m程になります。長い吻が篦(ヘラ)状になっているのが名の由来です。吻の下面後方に1対の短いヒゲがありますが、これは食物探査にはあまり役立っていないようです。吻の下面にはローレンチーニ器官という微弱な電流を感知する器官があり、餌となる微小なミジンコや小エビなどの動物プランクトンの筋運動・心拍動により生じる活動電流を感知し、その所在を確認すると考えられています。口を大きく開いて水と一緒にプランクトンを呑み込み、口内の咽頭部両側にある細かな櫛(クシ)の歯のような鰓耙(サイハ)で濾し採ります。
ヘラチョウザメ科にはもう1種シナヘラチョウザメ(Chinese paddlefish、Psephurus gladius)がおり、中国の長江や黄河流域に生息していましたが、生息環境の悪化により21世紀に入って絶滅したといわれています。
⑤チョウザメの養殖
世界における天然チョウザメの漁獲量は1990年に18,192トンでしたが、その後急速に減少し、2007年には835トンでした。一方、養殖チョウザメの生産量は1990年には323トンでしたが、2000年には3,158トン、2007年には25,705トン、2016年には127,780トンと急増しています。
ベステルは1958年に旧ソ連でチョウザメ類を保護するために開発されたオオチョウザメの雌とコチョウザメの雄との交雑種(ハイブリッド)で、世界各地で養殖されています。ベステルbesterの名はオオチョウザメの英名belugaとコチョウザメの英名sterletから作られた造語です。日本には1980年に導入され、各地で養殖されています。刺身やソテー、フライ、しゃぶしゃぶなどにして食されています。また、卵から非常に良質なキャビアが作られています。
日本のフジキンは1998年に世界で初めて水槽でのチョウザメの完全養殖に成功しました。茨城県常陸太田市の里美養魚場で生産されるフジキンのチョウザメは「超ちょうざめ」と名付けられ、全国の養殖業者への稚魚の販売やレストランなどへのキャビア用の抱卵活魚や魚肉用の活〆魚の販売が行われています。フジキンではベステルを始め、アムールチョウザメ、ロシアチョウザメ、ヘラチョウザメなどが飼育されています。
ところで、チョウザメの交雑種はベステルの他に、ロシアチョウザメ(osetra)の雌とダウリアチョウザメ(kaluga)の雄の交雑種オスカルoskal、ダウリアチョウザメ(kaluga)の雌とアムールチョウザメ(Amur sturgeon)の雄の交雑種カラムkalamならびにダウリアチョウザメ(kaluga)の雌とミカドチョウザメ(mikado sturgeon:サハリンチョウザメのことです)の雄の交雑種カルミカkalmikaが作られています。さらに、これらの交雑種と純粋種あるいは交雑種同士の掛け合わせによりベスカルbeskal(ベステルの雌×ダウリアの雄)、カラマムkalamam(カラムの雌×アムールチョウザメの雄)、ベスカルミカbeskalmika(ベステルの雌×カルミカの雄)、カラムカルミカkalamkalmika(カラムの雌×カルミカの雄)が作られています。
北海道知床半島の付け根に位置する標津町(シベツチョウ)に標津サーモン科学館がありますが、そこには純粋種のチョウザメが7種(ダウリアチョウザメ、ミカドチョウザメ、ロシアチョウザメ、シベリアチョウザメ、オオチョウザメ、コチョウザメ、ヘラチョウザメ)、交雑種が6種(ベステル、オスカル、ベスカル、カラマム、ベスカルミカ、カラムカルミカ)展示されているようです。
⑥キャビア
キャビアはチョウザメの卵を塩漬けにした食品で、世界三大珍味のひとつです(他のふたつはフォアグラとトリュフ)。オオチョウザメのキャビアはベルーガ(beluga)、ロシアチョウザメのキャビアはオシェトラ(osetra)、ホシチョウザメのキャビアはセヴルーガ(sevruga)とよばれ大変珍重されています。
2016年における世界のキャビア生産量は328トンでした。キャビア用の主な魚種はシベリアチョウザメ、ロシアチョウザメ、カラム(雑種)、シロチョウザメなどです。
日本は2016年時点でEU、アメリカ、スイスに次ぐ世界第4位のキャビア輸入国です。かつて日本にはロシアチョウザメ、ホシチョウザメ、オオチョウザメのキャビアが輸入されていましたが、現在は主にヘラチョウザメ、シベリアチョウザメ、ショベルノーズチョウザメ、シロチョウザメなどのキャビアが輸入されています。
近年、日本各地において養殖されているベステルやアムールチョウザメ、シロチョウザメ、シベリアチョウザメ、ロシアチョウザメなどからキャビアが作られるようになり、岐阜県の「奥飛騨キャビア」、高知県の「よさこいキャビア」、香川県の「瀬戸内キャビア」、宮崎県の「宮崎キャビア1983」や「平家キャビア」などのブランド名で販売されています。
サメ・エイ
サメ(鮫、shark)やエイ(鱏、ray)は軟骨魚類の板鰓魚類に分類され、骨格は軟骨から形成され、浮き袋や鰓蓋(エラブタ)はなく、雄には交接器(クラスパー)があります。サメの体は頭尾方向に長く伸び、体側には5~7個の鰓孔(エラアナ)があります。鰓孔は䚡裂(サイレツ)ともいいます。一方、エイの体は上下に平たく、体の腹側には5~6個の鰓孔があります。サメは9目34科106属400種に、エイは4目17科72属540種に分類されています。食用に供される主なサメ・エイを表10-16に示します。
サメやエイなどの軟骨魚類は浸透圧調節のため高濃度の尿素とトリメチルアミンオキシドを蓄積しています。尿素はタンパク質を変性させ、その機能を阻害する作用があるため、生物にとってはよくない物質ですが、トリメチルアミンオキシドと共存することによりその効果が弱められると考えられています。通常、尿素とトリメチルアミンオキシドの存在比が2:1になるのが望ましいとされています。サメやエイの死後、尿素はアンモニアに、トリメチルアミンオキシドはトリメチルアミンになるため体から強烈なアンモニア臭がします。しかしながら、アンモニアは腐敗を遅らせるため、広島県山間部では漁獲後1~2週間経過したサメが刺身として食べられているそうです。
①サメ
サメの雄には交接器(クラスパー)があり、雌と交尾をすることから、サメは漢字で鮫と書きます。サメの頭部にはローレンチーニ器官とよばれる感覚器官が存在し、獲物の発する微弱な電流を感知し、捕捉することができます。口には鋭い歯が並んでいるものが多く、歯が抜けても新しいものが生えてきます。
青森県の三内丸山遺跡から、アブラツノザメやホシザメの骨が、他の食用にされていた動物の骨と一緒に発掘されていることから、縄文時代からサメは食用に供されていたと考えられます。
サメは奈良時代の歴史書「古事記」の「因幡(イナバ)の素兎(シロウサギ)」神話にワニ(鰐)として登場しており、今でも中国地方ではサメをワニとよんでいます。また、サメは関西地方ではフカ(鱶)ともよばれています。サメの鰭はフカヒレとよばれ中国料理の重要な材料となっています。サメの調理法について記載された最古の史料は室町期の「四条流包丁書」(1498年)とされており、当時は刺身として食されていたようです。
日本で主に水揚げされているサメはツノザメ目ツノザメ科ツノザメ属(Squalus)のアブラツノザメ(Pacific spiny dogfish、Squalus suckleyi)、メジロザメ目メジロザメ科ヨシキリザメ属(Prionace)のヨシキリザメ(blue shark、Prionace glauca)、ドチザメ科ホシザメ属(Mustelus)のホシザメ(starspotted smooth-hound、Mustelus manazo)、シュモクザメ科シュモクザメ属(Sphyrna)のシロシュモクザメ(smooth hammerhead、Sphyrna zygaena)、ネズミザメ目ネズミザメ科ネズミザメ属(Lamna)のネズミザメ(salmon shark、Lamna ditropis)などです(表10-16)。
アブラツノザメは全世界の寒帯から温帯海域に分布しており、体長は雌で1m前後、雄で70cm前後になります。良質な肝油がとれることや、第一背鰭と第二背鰭に太い棘があることが名の由来です。主に北海道や東北太平洋側で水揚げされています。非常に美味で、皮を剥ぎ、頭と内臓を取り除いた「棒ザメ」として流通しています。刺身や煮付け、蒲焼き、フライなどにして食されています。
ヨシキリザメは全世界の温帯から熱帯海域に分布しており、体長は2~3mになります。フカヒレの原料として重要な種であり、鰭が切り取られます。ヨシキリザメの語源については、ヒレは魚にとっては足であり、「ヒレを切り取る」ことは「足を切り取る」ことであり、そこから「アシキリザメ」という名が生まれ、アシが「悪し」に通ずるのを嫌って、「ヨシ(善し)キリザメ」にしたといわれています。おでんなどに使う「はんぺん」や「すじ」の材料としても非常に重要なサメです。
ホシザメは日本、朝鮮半島、中国、台湾、ベトナムの沿岸域に分布し、体形は細長く、体長は1.5m前後になります。背中に白い星状の斑点が見られることが名の由来です。サメの中で最も味がよいといわれており、フライや煮付け、湯引き、酢味噌和え(すくめ)、煮こごりなどにして食されます。
シロシュモクザメは全世界の温帯から熱帯海域に分布しており、体長は4m前後になります。筋肉がやや白く、頭部がT字型をしており、仏具の叩き鉦(カネ)を打ち鳴らす撞木(シュモク)に似ていることが名の由来です。フカヒレは最高級とされています。練り製品(蒲鉾など)や干ものなどに加工されます。
ネズミザメは北太平洋の亜寒帯海域(日本海、オホーツク海、ベーリング海、アラスカ湾からカリフォルニア沖)に分布し、体長は3m前後になります。主に宮城県気仙沼をはじめ東北各県で水揚げされています。煮付けやフライ、ムニエルなどにして食されます。切り身を塩漬け加工したものは「塩モーカ」とよばれています。心臓は「ホシ」とよばれ、刺身や焼き肉、竜田挙げなどにして食されます。
ジンベエザメ(whale shark、Rhincodon typus)はテンジクザメ目ジンベエザメ科ジンベエザメ属(Rhincodon)のサメで(ジンベエザメ科は1属1種で構成されています)、世界中の熱帯、亜熱帯、温帯海域に分布しています。魚類の中で最大で体長15m程になることから、whale sharkの英名が付けられています。後述するエイとともに水族館の人気者で、先進国では食用に供されていません。魚体に似合わず動物プランクトン(オキアミなどの甲殻類や頭足類の幼生など)や小魚、海藻などを摂食する食性を有します。海水と一緒にそれらの餌を大きな口で吸い込み、鰓耙(サイハ)(前述した「チョウザメ」④ヘラチョウザメを参照)で濾し採り、鰓孔から水だけを排出し、残った餌を呑み込みます。
②エイ
エイは胸鰭が頭部から胴部にかけて大きく発達して上下に平たく、長く伸びた鞭状の尾をもつ独特の体型をしており、水族館の人気者です。エイの大きさを表す用語として、体盤長(縦の長さすなわち吻端から胸鰭の末端までの長さを表す)と体盤幅(横幅すなわち胸鰭の左端から右端までの最大幅を表す)があります。エイの雄にはサメと同様に交接器(クラスパー)があり、交尾により繁殖します。
トビエイ目イトマキエイ科イトマキエイ属(Mobula)のエイをマンタ(manta)とよぶことがあります。特にエイの中では最も大きく、体盤幅が5~6mに達するナンヨウマンタ(Alfred manta、Mobula alfredi)やオニイトマキエイ(giant manta、M. birostris)などがマンタとよばれます。
日本で主に食用にされているエイはガンギエイ目ガンギエイ科ソコガンギエイ属(Bathyraja)のリボンカスベ(Dusky-pink skate、Bathyraja diplotaenia)やメガネカスベ属(Raja)のメガネカスベ(別名:マカスベ、mottled skate、Raja pulchra)、トビエイ目アカエイ科アカエイ属(Hemitrygon)のアカエイ(red stingray、Hemitrygon akajei)などです(表10-16)。「カスベ」はエイの北海道における方言ですが、和名にリボンカスベやメガネカスベなどと付けられているエイもいます。
縄文時代の貝塚からアカエイなどの骨や歯が出土しており、縄文人はエイを食していたことが窺えます。また、宮城県里浜貝塚からはエイの尾にある毒棘から作った狩猟用の鏃(ヤジリ)が出土しています。室町期の「四条流包丁書」(1498年)がエイの調理法について記載された最古の史料とされています。
北海道から沖縄まで日本全国で多少地域による偏りはあるものの、エイは現在も煮もの(煮付け、煮こごり、味噌煮)、刺身(あらい、湯引き)、汁もの(味噌汁、魚汁)、和えもの(ぬた、ともあえ)、焼きもの(塩焼き、ムニエル)、揚げもの(唐揚げ、フライ、天ぷら)などにして食されています。
リボンカスベは千葉県銚子以北の太平洋沿岸や北海道のオホーツク沿岸に分布しており、全長は90cm前後になります。主に北海道で水揚げされています。
メガネカスベはオホーツク海から日本海、黄海、東シナ海の沿岸域に分布しています。体盤長および体盤幅はそれぞれ1.1m前後になり、体盤はほぼ菱形を呈します。体盤にある1対の暗い円状の斑点がメガネに似ていることが名の由来です。主に日本と韓国で漁獲されています。
アカエイは北海道南部から東南アジアまでの汽水域から沿岸域に分布し、最もなじみのあるエイです。体盤長は80cm前後、尾を含めた全長は1.5m前後になります。尾の棘にはタンパク質性毒素があり、刺されると強烈な痛みに襲われます。アナフィラキシーショックで死亡する事例もありますので、注意が必要です。エイの中では最も美味といわれています。
③サメ・エイの繁殖方法
サメとエイの繁殖方法には卵生と胎生があります。卵生では交尾により受精した卵が母親から体外に産み出され、卵の中の胚は卵黄から栄養をもらって成長し、孵化します。リボンカスベやメガネカスベなどガンギエイ科のエイは卵生で、「カスベの煙草入れ」や「タコの枕」とよばれる糸巻き状の卵殻に覆われた長方形の大きな卵(メガネカスベの場合、長辺:14~19cm、短辺:7~9cm)を産みます。卵の四隅にはツノ状の突起があります。メガネカスベの1個の卵からは1~5尾の仔魚が生まれます。ネコザメ科やトラザメ科などのサメも卵生です。
胎生では受精卵は母親の体内(子宮内)に留まり、次の4つの方法で成長した仔魚(胎仔)が体外に産み出されます。
1)卵黄依存型:卵生と似ていますが、受精卵は母体内で育ち、孵化してから体外に産み出されます。胎仔は基本的には母体からの栄養供給を受けず、比較的大きな卵黄嚢の栄養のみに依存して成長します。アブラツノザメやジンベエザメなどはこの型です。産仔数はアブラツノザメで1~15尾(平均:6~7尾)、ジンベエザメでは300尾程です。
2)卵食・共食い型:母親は卵黄を使い果たした胎仔のために餌としての未受精卵を子宮内に供給します。この卵を食べて胎仔は成長します(卵食型)。ネズミザメなどはこの型です。また、シロワニ(Carcharias taurus:ネズミザメ目オオワニザメ科シロワニ属)では最初の受精卵から発生した胎仔が、他の受精卵や胎仔を捕食して成長します(共食い型)。
3)胎盤類似物型:ホシザメやアカエイ、ナンヨウマンタなどで認められている型で、胚は卵黄を吸収しながら成長し、その後子宮内に分泌されるミルク(「子宮ミルク」とよばれます)を摂取して成長します。有明海のアカエイの排卵は5月に集中しており、雌の体内に貯蔵されている精子と受精し、受精後わずか3ヶ月の妊娠期間を経て、夏に7~25尾の赤ちゃんが産まれることが最近の研究で明らかにされています。ナンヨウマンタの妊娠期間は約1年です。
4)胎盤型:卵黄を使い果たした胎仔は卵黄嚢を胎盤に転換し、臍帯(へその緒)を通じて母親から栄養をもらい成長します。メジロザメ科のヨシキリザメやシュモクザメ科のシロシュモクザメなどが胎盤型です。妊娠期間は9~12ヶ月で、ヨシキリザメでは35尾程度、シロシュモクザメでは20~50尾の仔魚が産み出されます。
ホヤ
ホヤ(海鞘、ascidian)は尾索動物に含まれ、マボヤ目とマメボヤ目の海産動物の総称です。体は被嚢(ヒノウ)とよばれるセルロースを含む組織で覆われているため、被嚢類とよばれることもあります。入水孔と出水孔をもち、入水孔から海水を取り込み、水中の植物プランクトンやデトリタス(有機懸濁物)などを濾過摂取してから、排泄物とともに出水孔から排出します。成体には海藻の根のような付着器があり、海底の岩などに固着します。雌雄同体ですが、同じ個体の卵と精子が受精(自家受精)することはなく、異なる個体間における受精(他家受精)により繁殖します。ホヤは日本や韓国、フランス、イタリア、チリなどで食材として利用されています。食用とされるマボヤ目の主なホヤを表10-17に示します。
日本では主にマボヤ科マボヤ属(Halocynthia)のマボヤ(Halocynthia roretzi)とアカボヤ(H. aurantium)が食用に供されています。マボヤもアカボヤも全長は20cm前後になります。マボヤの被嚢には多数の乳頭状突起があり、その外観から、「海のパイナップル」とよばれることがあります。マボヤは日本各地のほか、朝鮮半島や山東半島に分布しています。太平洋側では牡鹿半島以北、日本海側では男鹿半島以北に主に分布し、北海道では津軽海峡から日本海側に多く生息するといわれています。マボヤは宮城県、北海道(津軽海峡沿岸や噴火湾)、岩手県ならびに青森県で養殖されており、2019年における日本の養殖生産量は12,500トンでした。
アカボヤはマボヤよりも低い水温を好み、北海道の太平洋・オホーツク海沿岸からベーリング海を経て北アメリカ北西部沿岸に分布しています。流通するアカボヤのほぼ全ては天然物で、北海道で漁獲されています。養殖技術の開発が進められていますが、現在、まだ確立されていません。
マボヤやアカボヤの筋肉(筋膜体)が赤橙色を呈するのはカロテノイドに因ります。主要なカロテノイドとして、β-カロテン、アスタキサンチン、ミチロキサンチン、アロキサンチンなどが同定されています。アカボヤに含まれるカロテノイドの総量はマボヤより15倍程多いことが知られています。アスタキサンチンには抗酸化作用や抗炎症作用、抗疲労作用など、ミチロキサンチンには抗酸化作用が見いだされています。
ホヤは生のまま刺身で食べるのが一番美味ですが、焼きボヤ、蒸しボヤ、茹でボヤ、干しボヤなどにしても美味しく頂けます。ホヤには独特の風味があるため、好き嫌いがはっきり分かれます。マボヤの主な風味成分として、n-デカジエノール、n-オクタノール、n-オクテノール、n-デセノール、n-ヘプテノールなどが同定されています。
マボヤ科カラスボヤ属(Pyura)のカラスボヤ(Pyura vittata)、シロボヤ科シロボヤ属(Styela)のシロボヤ(Styela plicata)やエボヤ(S. clava)は日本や朝鮮半島、中国などの沿岸に分布しており、全長10cm前後になります。日本では食用とされていませんが、韓国では食用に供されています。
ウニ・ナマコ
ウニ(海胆、sea urchin)はウニ綱に、ナマコ(海鼠、sea cucumber)はナマコ綱にそれぞれ属する棘皮動物の総称です。食用にされる主なウニはホンウニ目のもの、ナマコは楯手目のものです(表10-18)。
①ウニ
日本近海に生息し、食用にされている主なウニはホンウニ目オオバフンウニ科オオバフンウニ属(Strongylocentrotus)のエゾバフンウニ(short-spined sea urchin、Strongylocentrotus intermedius)やキタムラサキウニ(Northern sea urchin、S. nudus)、バフンウニ属(Hemicentrotus)のバフンウニ(elegant sea urchin、Hemicentrotus pulcherrimus)、アカウニ属(Pseudocentrotus)のアカウニ(red sea urchin、Pseudocentrotus depressus)、ナガウニ科ムラサキウニ属(Heliocidaris)のムラサキウニ(purple sea urchin、Heliocidaris crassispina)の5種です。
ウニは生殖腺である卵巣や精巣を食用にします。生食が最も美味ですが、塩やアルコールを用いて加工した「塩雲丹」や「アルコール雲丹」が保存用に作られています。加工されたウニは通常「雲丹」と表記されます。青森県八戸地方の郷土料理「いちご煮」はウニとアワビを用いた汁物で、その名はお椀に盛り付けたとき、乳白色の汁に沈む黄金色のウニの姿がまるで「朝靄の中に霞む野いちご」のように見えることから名付けられたといわれており、今では缶詰としても流通しています。
日本における2019年のウニの漁獲量は7,900トンであり、北海道や青森県、岩手県、宮城県など北日本が主な生産地です。
②ナマコ
日本で食用にされているナマコ(海鼠)は楯手目シカクナマコ科マナマコ属(Apostichopus)のマナマコ(Japanese sea cucumber、Apostichopus armata)とアカナマコ(A. japonicus)の2種です。マナマコはクロ型とアオ型の2つのタイプに分けられています。細長い芋虫型をしており、前端に口、後端に肛門があります。体表は主にコラーゲンからなる厚い体壁で覆われています。
日本人と海鼠の関わりは古く、「古事記」(712年)に海鼠について
“天孫(アマテラスの孫ニニギ)降臨の際、アメノウズメが魚たちを集め「おまえたちは神の御子(ニニギ)に仕えるか」と尋ねると、多くの魚はみな「お仕えいたしましょう」と答えたが、海鼠だけが答えなかった。それを見たアメノウズメは「海鼠のこの口は、とうとう何も答えない口だ」といって、紐小刀でその口を裂いてしまった。これによって、今に至るまで海鼠の口は裂けているのである。”という記述があります。また、「養老律令」賦役令や「延喜式」にも諸国からの貢納品として挙げられています。
日本における2019年のナマコ類の漁獲量は6,500トンであり、北海道や青森県、山口県、大分県などで主に水揚げされています。中国の遼寧省や山東省、福建省などではナマコの養殖が盛んに行われています。2018年における世界の養殖量は17.7万トンであり、その殆どは中国で生産されています。
日本では酢の物や煮物として食べられます。中国では干しナマコとして中華料理に利用されています。ナマコのもつサポニンの一種であるホロトキシン(holotoxin)は日本の薬学者島田恵年(シゲトシ)により発見され、強い防カビ作用が認められるため、白癬菌が原因である水虫の治療薬(商品名:「ホロスリン」)として利用されています。
二枚貝
私たちが普通「貝」といえば、炭酸カルシウムを主成分とする硬い殻をもつアサリやハマグリのような二枚貝やアワビやサザエのような巻貝を指します。二枚貝や巻貝は軟体動物の仲間です。本節では世界で主に食用にされているマルスダレガイ目、イタヤガイ目、ウグイスガイ目、イガイ目、フネガイ目の代表的な二枚貝(表10-19)について説明します。
①マルスダレガイ目の二枚貝
日本や世界で主に食用にされているマルスダレガイ目の二枚貝はマルスダレガイ科アサリ属(Ruditapes)のアサリ(浅蜊、Japanese littleneck、Ruditapes philippinarum)、同科ハマグリ属(Meretrix)のハマグリ(蛤、common orient clam、Meretrix lusoria)、チョウセンハマグリ(朝鮮蛤、Lamarck’s hard clam、M. lamarckii)、シナハマグリ(支那蛤、hard clam、M. petechialis)、シジミ科シジミ属(Corbicula)のヤマトシジミ(大和蜆、Japanese basket clam、Corbicula japonica)、マシジミ(真蜆、Asian clam、C. leana)、セタシジミ(瀬田蜆、Seta freshwater clam、C. sandai)、バカガイ科ウバガイ属(Spisula)のウバガイ(姥貝、Sakhalin surf clam、Spisula sachalinensis)、ナタマメガイ科アゲマキガイ属(Sinonovacula)のアゲマキガイ(揚巻貝、Chinese razor clam、Sinonovacula constricta)などです。
アサリは殻長6cm程になる二枚貝で、貝殻には様々な模様や色があります。日本や朝鮮半島、台湾、フィリピンまで広く分布しています。アサリの貝殻は縄文貝塚から多数出土しており、縄文人に好んで食べられていたようです。アサリは2018年に世界で414万トン養殖されており(カキ類の517万トンに次いで第2位)、その殆どが中国で生産されています。日本は中国からASC認証された養殖アサリを輸入しています。日本においてはアサリの養殖は殆ど行われていません。2019年における日本のアサリ漁獲量は7,976トンであり、主に愛知県、北海道、福岡県、静岡県などで水揚げされています。
日本に生息するハマグリ類は内湾性のハマグリと外洋性のチョウセンハマグリです。ハマグリは北海道南部から九州にかけての日本各地、朝鮮半島、台湾、中国大陸の沿岸域に分布しています。ハマグリは形が栗の実に似ており、「浜の栗」とよばれていたことが語源です。殻長は8cm程度になります。ハマグリの貝殻は縄文貝塚から出土しており、縄文時代から日本人に親しまれてきました。「日本書紀」には景行天皇(第12代天皇:日本武尊の父)が東国巡幸の際に磐鹿六雁命(イワカムツカリノミコト)が白蛤(ウムキ:ハマグリの古名)を膾(ナマス)にして献上したと記述されています。鹿島灘、九十九里浜、日向灘などが主要な産地でしたが、水質汚染や干潟の大規模な埋め立てなどにより漁獲量は激減し、絶滅危惧種に指定されています。
チョウセンハマグリは日本の太平洋側では房総半島以南、日本海側では能登半島以南に分布し、その他に台湾やフィリピンなどにも分布しています。殻長は12cm前後とハマグリより大きくなり、主な産地は鹿島灘、九十九里浜、日向灘などです。島根県益田産のチョウセンハマグリは「鴨島ハマグリ」のブランドで流通しています。
シナハマグリは朝鮮半島、中国、ベトナム北部沿岸に分布し、日本にも外来種として生息しています。現在日本国内で流通しているハマグリ類の殆どは中国産のシナハマグリだといわれています。
日本に生息するシジミ類にはヤマトシジミ、マシジミ、セタシジミの3種類があり、ヤマトシジミは汽水域に、マシジミとセタシジミは淡水域に生息しています。マシジミは他の2種に比べて味が落ちるといわれ、殆ど漁獲されていません。セタシジミは琵琶湖水系の固有種であり、この湖から流れ出る唯一の河川である瀬田川(この川は京都府で宇治川、大阪府で淀川となり、大阪湾に注いでいます)付近で、昔は沢山獲れたことからこの名前があります。全国的に流通しているヤマトシジミの主な産地は島根県の宍道湖(シンジコ)、青森県の十三湖と小川原湖、茨城県の涸沼(ヒヌマ)、北海道の網走湖などの汽水湖、ならびに木曽三川や涸沼川などの汽水域です。昭和40年から50年頃は、シジミ漁獲量は5万トン前後ありましたが、その後環境改変による資源減少が原因で減少し、令和元年(2019年)における漁獲量は9,638トンでした。シジミ資源の回復を目指して、漁獲量の制限、体長制限、禁漁区の設定などによる資源管理が行なわれています。
シジミを食べる前に砂抜きをしますが、真水で砂抜きをすると旨味成分であるコハク酸、アラニン、グルタミン酸、グリシンが半減しますので、食塩が1%程度入った塩水で砂抜きをすると旨味成分が失われません。シジミをザルに入れ、シジミの殻の一部が水面すれすれになるようにして酸欠を防ぐことも、砂抜きでは大切です。砂抜き後、長期間保存のために冷凍しても味は落ちないようです。シジミには肝機能を高める効果のあるオルニチンが豊富に含まれていますので、お酒を飲んで弱った肝臓を癒すにはシジミ汁がよいといわれています。また、カキと同様にビタミンB12も豊富に含まれています。
ウバガイ(姥貝)は寿命が30年以上あることから、「年老いた女」を意味する姥(ウバ)が付けられたといわれています。ホッキガイ(北寄貝)ともよばれます。日本の鹿島灘以北から北海道、ロシアのサハリン、クリル列島沿岸などに分布し、冷水域の外洋に面した浅い海の砂底に生息しています。殻長は12cm程になります。
アゲマキガイ(揚巻貝)は長方形の貝殻をもち、殻長は10cm前後、殻高は3cm前後になります。チンダイガイ(鎮台貝)ともよばれます。日本の瀬戸内海や有明海、朝鮮半島、中国大陸の河口や汽水の内湾、干潟に生息していますが、日本ではほぼ絶滅状態です。中国などで養殖が盛んに行われており、2018年における世界の養殖生産量は85.3万トンでした。日本には中国や韓国から輸入されています。
②ホタテガイ類
ホタテガイ類(scallop)はイタヤガイ目イタヤガイ科の二枚貝の総称です(表10-19)。日本で一般的によく知られているのはミズホペクテン属(Mizuhopecten)のホタテガイ(帆立貝、Japanese scallop、Mizuhopecten yessoensis)です。1854年に米国のペリー艦隊が来航した際に函館から本種を持ち帰り、イタヤガイ属(Pecten)のPecten yessoensisと命名されました。ラテン語のpectenは「櫛」、yessoensisは「蝦夷の」を意味します。その後、Pecten属の亜属としてPatinopecten属が設けられ(ラテン語patinoは「皿」の意)、本種はPatinopecten yessoensisとされたこともありましたが、現在はMizuhopecten yessoensisの学名が与えられています。Mizuhoは日本の美称「瑞穂の国」(瑞穂はみずみずしい稲の穂のことで、瑞穂のみのる国という意味)に由来します。
ホタテガイは東北から北海道、サハリン、クリル列島、カムチャッカ半島などの沿岸域に分布する寒冷海洋性の貝であり、生息に適した海水温は5~20℃です。高温限界は22~23℃とされています。左殻は膨らみが弱く、赤褐色をしており、右殻は膨らみが強く、白色をしています。砂の海底に右殻を下にして生息しています。
日本でホタテガイが初めて記述されたのは江戸時代(1712年)に出版された寺島良安編「和漢三才図会」といわれています。江戸時代から昭和30年頃にかけてのホタテ漁はもっぱら天然ものの漁獲であり、豊漁と衰微の繰り返しでした。昭和30年代に入ると中間育成篭の開発や稚貝採苗器の開発(杉の葉に玉葱袋をかぶせる方法)などが行われ、昭和45年以降ホタテガイの増養殖が本格化していきます。ホタテガイの産卵期は青森県陸奥湾で3月~4月、北海道サロマ湖で4月~5月です。増殖は中間育成されて殻長3cm以上になった稚貝(ベビーホタテ)を地まき放流し、海底で育成させる方法で、主に北海道のオホーツク海沿岸などで行われています。養殖は中間育成された稚貝(殻長4~5cm)を丸篭に入れて海に吊るしたり、貝の耳殻に穴を開けてテグスで吊るしたりして行われ、垂下養殖法とよばれています。垂下養殖は主に青森県の陸奥湾や北海道の噴火湾で行われていますが、最近は岩手県や宮城県の三陸沿岸でも行われるようになっています。養殖ホタテの殻長は1年で6cm前後、2年で11cm前後、3年で13cm前後になります。1年貝で4月~6月に水揚げされるものは半成貝とよばれ、主として「ボイルホタテ」として流通します。
日本における2018年のホタテガイの漁獲量は304,767トンであり、その殆どが北海道で水揚げされています。本章「MSC・ASC認証」のところで述べたように、北海道のホタテガイ漁業は日本で初めてのMSC認証を受けています。2018年の養殖量は173,959トンであり、青森県、北海道、宮城県、岩手県などが主な生産地です。このように日本では漁獲量の方が養殖量より多いことが分かります。ホタテガイは日本で最も多く生産されている貝です。
世界におけるホタテガイ類の生産の主流は養殖によるもので、主要な養殖生産国は中国、日本、ペルー、チリ、韓国などです。中国ではアルゴペクテン属(Argopecten)のアメリカイタヤガイ(Argopecten irradians)、アズマペクテン属(Azumapecten)のアズマニシキガイ(Azumapecten farreri)並びに上述したホタテガイなどが主に養殖されており、渤海沿岸部が主要な生産地となっています。中国における2018年のホタテガイ類の養殖生産量は約192万トンであり、日本のホタテガイの漁獲・養殖量(約47.9万トン)の約4倍です。
ホタテガイは大きな貝柱(閉殻筋)が特徴であり、貝柱にはグリコーゲンが豊富に含まれています。グリコーゲンはデンプンのアミロペクチンに似た、ブドウ糖からなる多糖であり(2章穀類「コメ④ご飯の粘り」を参照)、動物の筋肉や肝臓に多く含まれています。ホタテガイの貝柱のグリコーゲン含量は季節変動が大きく、6月頃に最高となり(貝柱重量の7%前後を占めるようになります)、その後徐々に減少し、1月頃には0.5%以下になります。貝柱の刺身が美味しいのはグリコーゲンを多く含む時期であるといわれています。外套膜はホタテの「ヒモ」とよばれ、軽く塩揉みして生で食べられます。ホタテガイは雌雄異体種であり、冬期に大きくなる白色の精巣やピンク色の卵巣も美味です。黒緑色の中腸腺は「ウロ」とよばれ、貝毒やカドミウムなどの重金属が生物濃縮されたりしますので、食べない方がよいでしょう。
③カキ
カキ(牡蠣、oyster)はウグイスガイ目イタボガキ科の二枚貝の総称です。日本ではマガキ属(Crassostrea)のマガキ(真牡蠣、Pacific oyster、Crassostrea gigas)やイワガキ(岩牡蠣、rock oyster、C. nippona)など、ヨーロッパではイタボガキ属(Ostrea)のヨーロッパヒラガキ(European flat oyster、Ostrea edulis)などが主に食用にされています(表10-19)。
マガキはサハリン、日本、朝鮮半島、中国沿岸に分布しており、主に内湾から河口域の岩礁に生息しています。貝殻は細長く、殻高は20cm程になります。本種は日本を始め、中国、フランス、ポルトガル、オーストラリアなどで養殖されています。日本のカキ養殖は広島地方において江戸時代に始まったといわれています。現在の主な養殖方法は「いかだ式垂下養殖」です。北海道のサロマ湖や厚岸湖から、三陸海岸、瀬戸内海、九州の有明海に至るまで広く養殖されています。2019年の日本のカキ養殖量は16.2万トンであり、主な生産地は広島県、宮城県、岡山県などです。特に広島県は日本の総生産量の約60%を占めています。カキは日本でホタテガイに次いで2番目に多く生産されている貝です。宮城県のカキ養殖は2016年に日本で初めてのASC認証を受けています。
カキはミルクのように白く、栄養価が高いことから「海のミルク」とよばれています。タンパク質やグリコーゲンのほか、亜鉛、銅、セレンなどのミネラルやタウリン、ビタミンB12も豊富に含まれており、ヒトが1日に必要な亜鉛、銅、セレン、ビタミンB12の量はカキの可食部100gで十分賄うことができます。ビタミンB12は「赤いビタミン」とよばれ、貧血に有効です。
タウリンtaurineは1827年にウシの胆汁中から発見され、その名はギリシャ語の雄牛Taurosに由来するといわれています。哺乳類ではタウリンは主として食餌から摂取されていますが、肝臓や脳、心臓などでシステインというアミノ酸から生合成もされています。肝臓ではコレステロールから生成される胆汁酸のコール酸とタウリンが結合してタウロコール酸という抱合胆汁酸がつくられ、十二指腸に分泌されて、食餌脂質の消化吸収に関与します。ネコはタウリンを生合成できないので、食餌から摂取するのが必要不可欠です。ネコにタウリン欠乏食を与えると網膜に重篤な障害がおこり、失明にいたることが報告されています。タウリンは肝臓や脳、心臓などに高濃度で存在し、その抗酸化作用により、これらの臓器を酸化障害から防御しています。また、好中球にもタウリンは高濃度で存在し、抗炎症作用を発揮します。
マガキのグリコーゲン含量は季節変動が大きく、2月〜3月頃に3〜5%のピークとなります。マガキの美味しい時期はグリコーゲン含量の高くなる冬といわれています。
日本ではマガキが主流ですが、イワガキも近年人気が出てきています。イワガキは東北から九州まで広く生産されており、多くは天然貝ですが、島根県隠岐島や京都府などでは養殖も行われています。冬が旬のマガキに対して、イワガキは夏季においてもグリコーゲン含量が高く、美味しいため「夏ガキ」とよばれ人気があります。
ヨーロッパヒラガキはノルウェーからイギリスを経てモロッコまでの北大西洋北東部や地中海沿岸などに分布しています。フランスでは1970年代以降、寄生虫などにより本種が激減したため、日本からマガキを輸入して養殖するようになりました。現在フランスで流通するカキの多くが日本由来のマガキだといわれています。
世界における2018年のカキ類の養殖量は517万トンであり、貝類の中では一番多く生産されています。主要な生産国は中国、韓国、アメリカ、日本、フランスなどで、特に中国は世界の生産量の80%以上を占めています。中国で主に養殖されている種としては、マガキ属(Crassostrea)のマガキ(Crassostrea gigas)、近江ガキ(C. ariakensis)、皺ガキ(C. plicatula)、大連湾ガキ(C. talienwhanensis)、オハグロガキ属(Saccostrea)の僧帽ガキ(Saccostrea cucullata)の5種といわれています。
④イガイ類・タイラギ
イガイ類(mussel)はイガイ目イガイ科の二枚貝の総称で、イガイ属(Mytilus)のイガイ(貽貝、Korean mussel、Mytilus coruscus)やムラサキイガイ(Mediterranean mussel、M. galloprovincialis)、ヨーロッパイガイ(blue mussel、M. edulis)、チリイガイ(Chilean mussel、M. chilensis)など、ならびにミドリイガイ属(Perna)のミドリイガイ(緑貽貝、Asian green mussel、Perna viridis)、モエギイガイ(萌葱貽貝、New Zealand green-lipped mussel、P. canaliculus)、ペルナイガイ(brown mussel、P. perna)などが含まれます(表10-19)。タイラギ(pen shell、Atrina pectinata)はイガイ目ハボウキガイ科クロタイラギ属(Atrina)の大型の二枚貝です。
イガイは東アジア沿岸域の岩礁に群がって付着する大型の二枚貝で、殻長は15cm程になります。カラスガイともよばれ、日本全国の沿岸に見られ、食用にされています。イガイ類はすべて足糸(ソクシ)とよばれる主にコラーゲン(タンパク質の一種)でできている糸状の組織で岩礁や岸壁などに付着して成長します。
ムラサキイガイは地中海沿岸が原産地ですが、船舶の底に付着したり、幼生がバラスト水に混入したりして、世界中に分布を広げています。大きさはイガイより小さく、殻長は10cm程です。殻は黒紫色をしており、これが本種の名の由来です。ヨーロッパでは後述するヨーロッパイガイとともに「ムール貝(フランス語moule)」とよばれ、様々な料理に用いられています。
ヨーロッパイガイはヨーロッパ西岸の沿岸域に分布しており、ムラサキイガイよりは小さく、殻長は7cm前後になります。
チリイガイはチリ、アルゼンチン、ウルグアイなどの沿岸域に生息しています。本種はチリで盛んに養殖されており、ASC認証されたものが日本などに輸出されています。
ミドリイガイはインドからタイ、シンガポール、フィリピン、香港、台湾にかけて、熱帯海域の沿岸部に分布し、内湾の岩礁や岸壁に固着して群生しています。殻長は10cm前後で、殻色は光沢のある深緑色をしており、これが本種の名の由来です。東南アジア諸国では広く食用にされています。日本では本州、四国、九州、南西諸島に外来種として移入分布しています。本種ならびに後述するモエギイガイ、ペルナイガイはミドリイガイ属Pernaに属するため「パーナ貝」とよばれることがあります。
モエギイガイの名は萌葱色(明るい緑色)のイガイに由来します。ニュージーランド固有種で、全沿岸域に分布しており、殻長は24cm前後になります。ニュージーランドで大量に養殖されており、日本にも輸入されています。
ペルナイガイはアフリカや南アメリカ東部沿岸域などに分布しています。殻長は9cm前後になり、殻色は褐色です。これらの地域では重要な食料になっています。
イガイ類の世界における2019年の漁獲・養殖生産量は、中国87.1万トン、チリ39.0万トン、スペイン22.8万トン、ニュージーランド9.9万トンなどとなっており、大半は養殖によるものです。
タイラギは主に東京湾、伊勢・三河湾、瀬戸内海、有明海など比較的温暖な内湾域に生息しています。殻長30cm以上、殻高20cm以上になる大型種です。ホタテガイと同様にタイラギにも大きな貝柱(閉殻筋)があり、グリコーゲンが豊富に含まれています。タイラギの貝柱のグリコーゲン含量はホタテと同様に季節変動が大きく、4月頃に最高となり(貝柱重量の7%前後)、その後徐々に減少し、10月〜12月にかけて0.5%以下になります。現在タイラギ漁は大変不漁で、完全養殖技術の開発中です。2017年に水産研究機構が稚貝の大量生産に成功しており、養殖タイラギが食べられる日は近いでしょう。
⑤アカガイ類
アカガイ類はフネガイ目フネガイ科アカガイ属(Anadara)の二枚貝の総称です。食用にされている主なものはアカガイ(赤貝、bloody clam、Anadara broughtonii)、サルボウガイ(猿頬貝、half-crenated ark、A. kagoshimensis)、ハイガイ(灰貝、blood cockle、A. granosa)です(表10-19)。
アカガイは北海道南部から九州、韓国、中国などの沿岸部に分布し、主に内湾の砂泥底に生息しています。殻長は10~12cmになります。アカガイの名は体液にヘモグロビンを含み、身が赤いことに由来します。近年、日本での漁獲量は減り、流通しているものの大半は中国や韓国から輸入されたものです。
サルボウガイは東京湾から有明海、沿海州南部から韓国、黄海、南シナ海に分布し、主に内湾の砂泥底に生息しています。殻長は6cm前後で、アカガイよりかなり小ぶりです。サルボウガイの身もアカガイと同様にヘモグロビンによる赤い色をしており、「赤貝」とよばれることもあります。日本では東京湾から瀬戸内海、山陰、有明海などに多く生息し、水揚げされています。岡山県の寄島海域では養殖も行われています。「味付き赤貝」などの商品名で売られている缶詰の殆どはサルボウガイが使われているようです。
ハイガイは日本の三河湾以西、朝鮮半島、中国、東南アジアの沿岸域に分布し、泥深い浅海に生息しています。サルボウガイよりも一回り小さく、殻長は5cm前後になります。アカガイやサルボウガイと同様に、身にはヘモグロビンが含まれています。ハイガイ(灰貝)の名は、かつて大量に獲れた貝殻を焼いて石灰を作ったことに由来します。現在、日本においては有明海以外では殆ど姿を消してしまったようです。中国(浙江省、福建省など)やマレーシアをはじめとする東南アジア諸国で盛んに養殖されており、2018年における世界のハイガイの養殖生産量は43.3万トンです。
巻貝
巻貝は軟体動物の腹足類のことで、這い回るための足を軟体部にもち、螺旋状に巻いた貝殻によって軟体部を保護しています。食用とされる代表的な巻貝のアワビやサザエ、ツブ、エスカルゴを表10-20に示します。
①アワビ
アワビ(鮑、abaloneまたはear shell)は原始腹足目ミミガイ科の大型の巻貝の総称です。アワビ属(Haliotis)のクロアワビ(Haliotis discus discus)、エゾアワビ(H. discus hannai)、メガイアワビ(H. gigantea)、マダカアワビ(H. madaka)などが日本各地の岩礁に生息しています。エゾアワビはクロアワビの北方亜種と考えられており、北海道や東北地方に分布しています。アワビの貝殻は耳型で厚く、殻長は10~20cmほどになります。アワビは腹足が大変美味で、刺身や酒蒸し、ステーキなどにして食されます。
縄文時代や弥生時代の貝塚から貝殻が出土しており、アワビは古くから食用にされていたことが分かります。「万葉集」には
#2798: 伊勢の海人の 朝な夕なに 潜(かづ)くといふ
鮑の貝の 片思にして
#4103: 沖つ島 い行き渡りて 潜くちふ 鮑玉もが
包みて遣(や)らむ
などと詠まれています。ことわざの「磯の鮑の片思い」は#2798の短歌に由来します。
日本におけるアワビの漁獲量は1970年の6,466トンをピークとして急激に減少し、1995年に2,000トンを割りました。その後2007年までは2,000トン前後で推移しましたが、2008年以降再び減少に転じ、2019年は829トンでした。主に岩手県、千葉県、三重県、宮城県、福岡県などで漁獲されています。
アワビの養殖は日本ではあまり盛んではありませんが、世界的には中国、韓国、チリ、南アフリカ、オーストラリアなどで盛んに行なわれています。とりわけ中国では2013年以降年間養殖量は10万トン以上で推移しています。養殖生産量第2位の韓国では近年1万トン以上収獲されています。韓国莞島(ワンド)郡で養殖されているエゾアワビは2018年にASC認証を取得しています。日本は韓国から2019年に1,867トンのアワビを輸入しています。
②サザエ
サザエ(栄螺、horned turban、Turbo cornutus)は古腹足目リュウテン科リュウテン属(Turbo)の巻貝の一種です。東アジアの海水温が比較的高い海域の、外海に面した岩礁に生息し、殻高、殻径ともに10cm前後になります。刺身や壺焼きにして食されます。
日本における2019年の漁獲量は5,413トンで、主に長崎県、山口県、三重県、島根県、新潟県などで水揚げされています。
③ツブ
ツブ(螺)は新腹足目エゾバイ科や盤足目フジツガイ科などの巻貝の総称であり、非常に多くの種が含まれます。日本近海に生息する代表的なツブとしては、表10-20に示すエゾバイ科エゾバイ属(Buccinum)のエゾバイ(蝦夷蛽、Buccinum middendorffi)、ヒモマキバイ(紐巻蛽、B. inclytum)、シライトマキバイ(白糸巻蛽、B. isaotakii)、エゾボラ属(Neptunea)のエゾボラ(蝦夷法螺、Neptunea polycostata)、ヒメエゾボラ(姫蝦夷法螺、N. arthritica)、チヂミエゾボラ(縮蝦夷法螺、N. constricta)、モスソガイ属(Volutharpa)のモスソガイ(裳裾貝、Volutharpa perryi)、ならびにフジツガイ科アヤボラ属(Fusitriton)のアヤボラ(綾法螺、Fusitriton oregonensis)などが挙げられます。
エゾボラは「真ツブ」とよばれ、ツブの中で最も高級なものとされています。エゾバイやヒメエゾボラなど沿岸の浅瀬で採れるものは「磯ツブ」、ヒモマキバイやシライトマキバイなど細長く螺旋状の筋が明瞭なものは、その形状から「灯台ツブ」とよばれたりします。モスソガイ(裳裾貝)は、殻からはみ出した大きな腹足が裳裾に似ていることから名付けられたといわれており、「ベロツブ」あるいは「アワビツブ」ともよばれます。アヤボラは殻の表面に毛が多いことから「毛ツブ」とよばれます。
フジツガイ科ホラガイ属(Charonia)のホラガイ(法螺貝、Triton’s trumpet、Charonia tritonis)は紀伊半島以南に広く分布しており、殻高は40cm程になる大型巻貝で、食用にもなります。かつて日本で山伏が携えたり、軍陣の合図に用いられたりした法螺貝は、大きなホラガイの殻頂に穴を開け、口金を付けて吹き鳴らすようにしたものです。
④エスカルゴ
エスカルゴ(escargot)はフランス語で食用カタツムリを意味しますが、日本ではエスカルゴを用いたフランス料理を指します。カタツムリ(蝸牛)は陸に棲む柄眼目の巻貝の総称です。舞舞(マイマイ)は舞舞螺(マイマイツブリ)の略であり、蝸牛の別称です。食用にされている主なものはリンゴマイマイ科リンゴマイマイ属(Helix)のリンゴマイマイ(別名:ブルゴーニュ種、escargot de Bourgogne、Helix pomatia)、プチグリ(petit gris、H. aspersa aspersa)、グログリ(gros gris、H. aspersa maxima)などです。
ブドウ畑などで育つ天然エスカルゴと穀類などの餌で育てる養殖エスカルゴが流通していますが、養殖ものがほとんどのようです。三重県松坂市の三重エスカルゴ開発研究所は、養殖が難しいブルゴーニュ種の完全養殖に世界で初めて成功し、エスカルゴ牧場を経営しています。
貝毒
貝類がもつ毒素を貝毒といいますが、これはフグ毒と同じように貝類自身が産生するものではありません。渦鞭毛藻類や珪藻類などの植物プランクトンが毒素を産生し、その藻類を食べることで貝類が毒化するのです。厚生労働省の自然毒リスクプロファイルによると、貝毒には二枚貝の下痢性貝毒や麻痺性貝毒、神経性貝毒、記憶喪失性貝毒などと、巻貝の唾液腺毒などがあります。
下痢性貝毒にはオカダ酸やジノフィシストキシンなどがあり、これらの毒素はホタテガイ、アサリ、マガキ、ムラサキイガイ、ウバガイなどの中腸腺に濃縮されます。中腸腺とは消化管の中腸に開口する盲嚢状の器官であり、食物を取込んで消化酵素を分泌して消化します。中毒症状は消化器系の障害であり、食後短時間で下痢、吐き気、おう吐、腹痛が現れ、通常3日以内に回復します。後遺症はなく、死亡例もないようです。毒素は熱に安定で、調理加熱では分解しません。食中毒防止のため、下痢性貝毒は高感度・高精度機器分析法により検査され、可食部1kg当たり0.16 mgオカダ酸当量を超えたものは出荷規制されています。
麻痺性貝毒にはサキシトキシンやゴニオトキシンなどがあり、日本ではホタテガイ、アサリ、マガキ、ムラサキイガイなどの二枚貝のほか、マボヤとウモレオウギガニでも食中毒が発生しています。毒素は貝類では中腸腺に濃縮されます。中毒症状はフグ毒中毒によく似ており、食後30分程度で軽度の麻痺が始まり、麻痺は次第に全身に広がり、最終的には呼吸麻痺により死亡することがあるようです。毒素は調理加熱では分解しません。食中毒防止のため、麻痺性貝毒はマウス毒性試験で検査され、可食部1g当たり4マウスユニットを超えたものは出荷規制されています(1マウスユニットは体重20gのマウスを15分間で死亡させる毒量です)。
神経性貝毒はブレベトキシン、記憶喪失性貝毒はドウモイ酸が毒成分として同定されていますが、これらの貝毒による食中毒は日本では発生していないようです。
巻貝の唾液腺毒はテトラミンが毒成分であり、前述した多種のツブで食中毒が発生しています。毒素はツブの唾液腺に濃縮され、調理加熱では分解しないので、調理の前に唾液腺をきちんと除去することが必要です。中毒症状は激しい頭痛、めまい、船酔い感、酩酊感、足のふらつき、眼底の痛み、目のちらつき、おう吐感などで、食後30分から1時間程度で発症し、数時間で回復するようです。死亡することはないとされています。
イカ
イカ(烏賊)は軟体動物の頭足類に含まれ、ツツイカ目、コウイカ目、ダンゴイカ目などから構成されています。ダンゴイカ目はコウイカ目に含めることがあります。ツツイカ目のイカは英語でsquid、コウイカ目のイカはcuttlefishとよばれます。
イカは分類学的には貝類の仲間です。二枚貝や巻貝のような殻はもちませんが、体内に甲とよばれるものをもっています。体は胴部と頭部に分かれ、頭部にある口の周りに10本の腕が並んでいます。従って、イカ類は十腕形類ともよばれます。10本の腕のうち2本は触腕とよばれ、伸縮自在で、魚類や甲殻類を捕食するのに用いられます。腕には多数の吸盤が配列しており、他の生物や物体に吸着することができます。胴部は外套膜mantleに覆われ、その内部に内臓(消化器官、循環器系、生殖器官など)が収まっています。また、墨汁(いわゆるイカ墨)を溜めておく墨汁嚢も胴部にあります。
イカ墨にはユーメラニンという黒褐色のメラニン色素が含まれており、捕食者に攻撃されたときに体外に排出されるとダミー効果があり、敵から逃避することができます。イカ墨は後述するタコ墨に比べて粘性が高いことから、海水に排出されると紡錘型にまとまって大きく広がり、イカの体と似た形になるため、敵の目を欺くことができると考えられています。セピアはイカ墨から作られる有機性顔料ですが、その名はコウイカ類の属の一つコウイカ属Sepiaに由来します。イカ墨はタウリンやアミノ酸、グリシンベタイン(甘味・旨味成分)などを豊富に含んでいるため、利用価値の高い食材です。
食用とされる代表的なイカを表10-21に示します。イカは刺身や焼き物、揚げ物、煮物、塩辛、干物などにして食されます。イカの腕は下足(ゲソ)とよばれます。イカはアニサキスという寄生虫の中間宿主ですので、生で食べるときは注意が必要です(本章末尾に述べる「魚介類から感染する寄生虫症」を参照)。
①ツツイカ類
ツツイカ目アカイカ科のイカとしてはスルメイカ属(Todarodes)のスルメイカ(Japanese flying squid、Todarodes pacificus)、アカイカ属(Ommastrephes)のアカイカ(neon flying squid、Ommastrephes bartramii)、アメリカオオアカイカ属(Dosidicus)のアメリカオオアカイカ(Jumbo flying squid、Dosidicus gigas)、マツイカ属(Illex)のアルゼンチンマツイカ(Argentine shortfin squid、Illex argentinus)など、ホタルイカモドキ科のイカとしてはホタルイカ属(Watasenia)のホタルイカ(firefly squid、Watasenia scintillans)、ヤリイカ科のイカとしてはヤリイカ属(Heterololigo)のヤリイカ(spear squid、Heterololigo bleekeri)、ケンサキイカ属(Uroteuthis)のケンサキイカ(swordtip squid、Uroteuthis edulis)、アオリイカ属(Sepioteuthis)のアオリイカ(bigfin reef squid、Sepioteuthis lessoniana)などが主に食用に供されています。マイカはある地方で漁獲されるイカで、産業上重要なものをいい、マイカという種は存在しません。地方によって、スルメイカやヤリイカ、ケンサキイカ、コウイカなどがマイカとよばれたりします。
ツツイカ目の特徴として、体内に退化した透明で細長い「軟甲」をもちます。また、外套膜の先端部分には菱形の鰭がついており、これは俗に「耳」とよばれています。
スルメイカ(鯣烏賊)は日本列島周辺海域の固有種で、東シナ海から日本海、オホーツク海にかけての近海に多く分布しています。近年はアリューシャン列島からカナダ西部の近海にまで分布域を広げているようです。寿命は約1年で、外套長(胴の長さ)は25~30cm程度になり、メスの方がオスより大きくなります。日本の水産業において非常に重要なイカで、1950年以降毎年20万トンから60万トンの漁獲量がありましたが、2015年以降激減し、2019年には4.2万トンしかありませんでした。漁獲量減少の原因としては、気候変動や乱獲などが挙げられます。
するめ(鯣)はイカを開き、内臓と眼球を取り除いて乾燥した食品です。するめはスルメイカだけでなく、ヤリイカやケンサキイカなどからも作られます。
アカイカ(赤烏賊)は外洋性種で、季節的な南北回遊を行います。太平洋、大西洋、インド洋の赤道域を除く亜熱帯から温帯海域に広く分布しています。寿命は約1年で、外套長はメスで60cm、オスで45cm程度になり、メスの方が大きくなります。世界における2019年のアカイカの漁獲量は2.59万トンであり、主に中国(1.59万トン)、日本(0.71万トン)、台湾(0.28万トン)が漁獲しています。
アメリカオオアカイカは東部太平洋のカリフォルニア沖からチリ沖にかけての海域に分布しています。寿命は1年から2年といわれており、外套長は1mを超えるアカイカ科最大の種です。イカ類の中で最も多く漁獲され、2018年の世界における漁獲量は84.9万トンです。中国(34.6万トン)、ペルー(31.7万トン)、チリ(14.6万トン)が主な漁業国です。日本は1990年頃から本種の漁獲を行っていましたが、2012年以降操業は行っていません。
アルゼンチンマツイカは南西大西洋のアルゼンチン沖からウルグアイ沖にかけての海域に分布しています。寿命は約1年で、外套長は35cm程度になります。2018年の世界における漁獲量は30.1万トンで、主にアルゼンチン(10.8万トン)、中国(10.5万トン)、台湾(5.9万トン)などにより水揚げされています。日本は1978年から2006年まで漁獲していましたが、2007年以降は操業していません。
上述したスルメイカ、アメリカオオアカイカおよびアルゼンチンマツイカは世界全体の漁獲量が多く、世界三大イカ資源といわれています。
ホタルイカ(蛍烏賊)という和名は1905年に日本の生物学者渡瀬庄三郎により命名されました。ホタルイカの属名Wataseniaは、渡瀬博士に因んで1913年に石川千代松により付けられました。本種は本州以北、オホーツク海に分布し、生まれて1年で成熟し、交接、産卵して死んでしまいます。外套長は7cm程度で、発光器が胴部や頭部の腹側、目の周り、第4腕先端などにあります。主な産地は富山県、福井県、兵庫県、鳥取県などの日本海側です。茹でたものが全国的に流通しており、辛子酢味噌をつけて食べると大変美味です。旋尾線虫という寄生虫が寄生するため、生食は要注意です(本章末尾に述べる「魚介類から感染する寄生虫症」を参照)。
ヤリイカ(槍烏賊)は体形が槍の穂に似ていることから、そのように名付けられました。英名spear squidのspearも槍という意味です。北海道南部から九州までの沖合、黄海、東シナ海沿岸・近海域に分布しています。寿命は1年で、外套長はオスで35cm前後、メスで20cm前後になり、オスの方が大きくなります。
ケンサキイカ(剣先烏賊)はその姿が剣の先のように尖ったイカという意味です。英名swordtip squidのswordtipも剣の先という意味です。ヤリイカに比べて腕が長く、胴部がずんぐりとしています。ヤリイカより温暖な海域を好み、西日本沿岸域から東シナ海・南シナ海、インドネシア沿岸域にかけて広く分布しています。寿命は1年ほどで、外套長はオスで40cmを超え、メスで30cm前後になります。
アオリイカ(障泥烏賊)はハワイ以西の西太平洋からインド洋の熱帯・温帯海域に広く分布しており、日本では北海道南部から沖縄にかけての沿岸域に生息しています。外套長は40cmを超え、後述するコウイカ類のように胴部側縁全体に鰭をもちます。
②コウイカ類
コウイカ目のイカとしてはコウイカ科コウイカ属(Sepia)のコウイカ(golden cuttlefish、Sepia esculenta)やヨーロッパコウイカ(common cuttlefish、S. officinalis)などが主に食用にされています。コウイカ類の背部の外套膜の中には「甲」とよばれる石灰質(主成分:炭酸カルシウム)の内在性の貝殻が残っています。また、外套膜の側縁全長に亘って鰭がついており、これは俗に「えんぺら」とよばれています。
コウイカ(甲烏賊)は日本の関東・北陸以西の近海や東シナ海・南シナ海の中国大陸近海に分布しています。砂泥底に生息し、エビやカニ、小魚を餌とします。寿命は1年ほどで、外套長は20cm前後になります。本種は日本、中国、韓国において、水産業上非常に重要です。
ヨーロッパコウイカは北東大西洋のヨーロッパからアフリカ西部近海、ならびに地中海に分布しています。外套長は45cm程度になります。モロッコからセネガルにかけての北西アフリカ沿岸が主要な漁場になっています。アフリカから日本に輸入され、モンゴウイカ(紋甲烏賊)の名で流通しています。
③ダンゴイカ類
ダンゴイカ目(コウイカ目に含めることがあります)のイカとしてはダンゴイカ科ミミイカ属(Euprymna)のミミイカ(bottle-tailed cuttlefish、Euprymna morsei)やボウズイカ属(Rossia)のボウズイカ(stubby bobtail squid、Rossia pacifica)が地域的に食用にされています。
ミミイカ(耳烏賊)は北海道南部から台湾、フィリピンにかけての沿岸域に分布しています。外套長は4cm前後で、胴の真ん中あたりの左右に丸い耳状の鰭がついています。主な産地は瀬戸内海や三河湾周辺で、ほぼ地元で消費されています。
ボウズイカ(坊主烏賊)は島根県以北の日本海沿岸、常磐以北の太平洋沿岸に分布しています。外套長は5cm前後で、ミミイカと同じように丸い耳状の鰭がついています。胴部が坊主頭のように丸いことが名の由来です。
タコ
タコ(鮹、octopus)は頭足類タコ目に含まれる軟体動物の総称です。イカと同様に分類学的には貝類の仲間ですが、二枚貝や巻貝のような硬い殻はなく、また、イカの体内にある甲とよばれるものもありません。体は胴部と頭部に分かれ、頭部に腕がついています。タコはイカにある1対の触腕を欠き、腕は8本であるため八腕形類とよばれます(タコ目は八腕形目ともよばれます)。英名octopusのocto-オクトは8を表す数の接頭辞オクタocta-(表4-2を参照)の異形で、pusはギリシャ語のpous(足)に由来します。タコ類の腕の長さは外套長より数倍長いのが特徴です。腕にはイカと同様に吸盤がありますが、イカと異なり胴部(外套膜)に鰭(イカの耳あるいはえんぺらとよばれるもの)はありません。胴部の墨汁嚢に墨を蓄えており、危険を感じると墨を体外に吐き出します。タコ墨はイカ墨よりさらさらしており、瞬時に海水に拡散し、煙幕効果により敵から身を守ると考えられています。
タコは美味なタンパク質の供給源として、世界各地の沿岸地域で食用にされています。沿岸の海底の岩礁や砂地に生息しており、主に蛸壺や鮹箱、底引き網などで漁獲されています。表10-22に示すマダコ科マダコ属(Octopus)のマダコ(East Asian common octopus、Octopus sinensis)やイイダコ(ocellated octopus、O. ocellatus)、コツブイイダコ(gold-ringed octopus、O. membranaceus)、ヤナギダコ(chestnut octopus、O. conispadiceus)、テナガダコ(long-armed octopus、O. minor)、ミズダコ属(Enteroctopus)のミズダコ(North Pacific giant octopus、Enteroctopus dofleini)などが主に食用にされています。タコは生のまま刺身にしたり、茹蛸を酢物や煮物、燻製にしたりして食べます。干鮹にすれば保存食になります。
①マダコ
イカ類にはマイカという和名の種はいませんが、タコ類にはマダコ(真鮹)という種がいます。従来、マダコの英名はcommon octopus、学名はOctopus vulgarisとされ、大西洋・地中海に分布するものも、東アジア沿海に分布するものもO. vulgarisに分類されていました。しかしながら、最近の分子遺伝学的研究や形態学的研究から、東アジア沿海に分布するものは大西洋・地中海に分布するものと異なる種であることが明らかにされ、東アジア沿海に分布するものをマダコとし、英名East Asian common octopus、学名Octopus sinensisが与えられました。大西洋・地中海に分布するものは、従来のまま英名common octopus、学名Octopus vulgarisとされていますが、和名はまだ決まっていません。マダコO. sinensisはO. vulgarisより外套長や腕の長さが短く、また、吸盤の数も少ないことが明らかにされています。
マダコは北海道南部から九州にかけての沿岸や朝鮮半島沿岸、中国の黄海、東シナ海沿岸に分布しています。寿命は2~3年で、外套長は17cm前後、腕の長さは60cm前後になります。日本水産は2017年にマダコの完全養殖の技術を確立しましたが、現時点ではまだ商業ベースには達していないようです。
O. vulgarisは北東大西洋のイギリス南部から北西アフリカのモロッコ、モーリタニア沿岸にかけて、ならびに地中海沿岸などに分布しています。外套長は25cm前後、腕の長さは100cm前後になります。日本におけるタコの需要を賄うためにモロッコやモーリタニアからO. vulgarisが輸入されています。
②イイダコ
春に産卵直前のイイダコのメスの胴部には卵がぎっしり詰まっており、煮るとこの卵がご飯粒のようになり非常に美味であることからイイダコ(飯蛸)と名付けられたといわれています。北海道南部以南の日本各地、朝鮮半島南部、中国沿岸の浅い干潟や内湾に分布しています。岩礁や転石のある砂泥底に生息し、全長は30cm前後になります。
③コツブイイダコ
コツブイイダコ(小粒飯蛸)の名は卵粒がイイダコより小さいことに因ります。東南アジア沿岸に分布し、体長は10cm前後の小さなタコです。タイ産のものが日本に輸入されています。
④ヤナギダコ
ヤナギダコ(柳鮹)は本州北部や北海道、サハリン、クリル列島南部周辺の海域に分布しており、砂泥底で底生生活をしています。全長は120cm前後になり、主に北海道で水揚げされています。
⑤テナガダコ
テナガダコは北海道以南、鹿児島県以北の日本沿岸、朝鮮半島西海岸、中国山東省沿岸の浅海の泥底に生息しています。寿命は約2年で、全長は70cm程になります。腕が非常に長く、外套長の5倍ほどあることがテナガダコ(手長鮹)の名の由来です。生きたままぶつ切りにし、塩、胡麻油、胡麻と和えて踊り食いにする「サンナクチ」は有名な韓国料理です。
⑥ミズダコ
ミズダコは九州以北の日本海沿岸、相模湾以北の太平洋沿岸、サハリン、クリル列島、カムチャッカ半島、アリューシャン列島、アラスカ湾からカリフォルニアの北太平洋沿岸域に広く分布する世界最大のタコで、体長は3m前後になります。寿命は2~3年といわれていますが、4、5歳という記録もあるようです。寒い海に生息する毛ガニやタラバガニなどの大型甲殻類、魚類、ホタテガイなどの二枚貝、ウニ等を餌とします。肉質は柔らかくて水っぽく、それがミズダコ(水蛸)の名の由来になっています。国内で最も多く水揚げされる寒海性のタコで、北海道や青森県などが主な産地です。
日本で漁獲されている主なタコは上述したマダコ、イイダコ、ヤナギダコ、テナガダコ、ミズダコなどで、日本における2019年のタコ類の漁獲量は35,100トンです。北海道が1位で66.7%を占めており、兵庫県、青森県、岩手県、宮城県が続いています。
エビ
エビ(海老・蝦)は十脚目(エビ目)のうち短尾下目(カニ下目)と異尾下目(ヤドカリ下目)を除いた甲殻類の総称です。英語の呼称は大きさにより分けられており、サクラエビのような小さなエビはshrimp(シュリンプ)、クルマエビ程度のものはprawn(プローン)、イセエビのように大きなものはlobster(ロブスター)とよばれています。体は頭部、胸部、腹部からなり、体表はキチン質の殻に覆われています(後述する「キチン・キトサン」を参照)。頭部と胸部は頭胸甲で繋がっています。胸部に5対10本の胸脚(歩くための器官であり、歩脚ともよばれます)があることが十脚目の名の由来です。胸脚の先が鋏(ハサミ)に変化している場合があり、そのような脚を鋏脚(キョウキャク)あるいは鉗脚(カンキャク)とよびます。ザリガニ類やアメリカロブスターなどは強大な鋏脚をもっています。腹部は6節に分かれ、各節は腹甲に覆われています。腹部内部は筋肉が発達し、エビの主な食用部位になります。腹節の下部には腹肢があり、泳ぐ時やメスでは卵を抱える時に使われます。腹部後方に尾節と2対の尾肢があり、尾扇という扇子様構造になっています。
日本および世界で食用に供されている主要なエビ類を表10-23に示します。十脚目はメスが受精卵を水中に放出する根鰓亜目(クルマエビ亜目)と産んだ卵を腹肢に抱えて孵化するまで保護する抱卵亜目(エビ亜目)に大きく分けることができます。表10-23に示した科のうちクルマエビ科、クダヒゲエビ科、サクラエビ科は根鰓亜目に属し、その他の科は抱卵亜目に属します。後述するカニ類のカニ下目とヤドカリ下目は抱卵亜目の下位分類になります。
2019年の日本におけるエビ類の漁獲量は1.35万トン、養殖量(クルマエビ)は0.14万トンで合計1.49万トンでした。同年のエビ類の輸入量は15.9万トンであり、日本におけるエビ類の自給率はわずか8.6%に留まっています。
エビは刺身、鮨、天ぷら、フライ、焼き物、炒め物(エビチリなど)、焼売、餃子など多種多様に料理して食されます。エビは食物アレルギーを起こしやすい食品ですので、エビアレルギーのある人は加工食品などを食べるときにはエビが原材料に使われていないか注意する必要があります(2章穀類「食物アレルギー」を参照)。
①クルマエビ科のエビ
クルマエビ科にはクルマエビ属(Marsupenaeus)のクルマエビ(車海老、Japanese tiger prawn、Marsupenaeus japonicus)、Litopenaeus属のバナメイエビ(whiteleg shrimp、Litopenaeus vannamei)、ウシエビ属(Penaeus)のウシエビ(牛海老、black tiger prawn、Penaeus monodon)、サルエビ属(Trachysalambria)のサルエビ(猿海老、southern rough shrimp、Trachysalambria curvirostris)などが含まれます。
クルマエビは体全体に黒い縞模様があり、腹部を丸めた時に縞模様が車輪のように見えることから、その名が付けられました。北海道南部からオーストラリア北部、南アフリカまで、インド太平洋沿岸に広く分布しています。内湾や汽水域の砂泥底に生息し、体長は20cm前後になります。漁業だけでなく養殖も西日本各地で行われています。クルマエビ養殖は藤永元作によって昭和38年に山口県秋穂町(現山口市秋穂東)において世界で初めて事業化されました。クルマエビはエビ類の中で最も早く養殖技術が確立されました。2019年における日本の漁獲量は300トン、養殖生産量は1,400トンです。主な養殖地は沖縄県、鹿児島県、熊本県などです。
バナメイエビの原産地はメキシコのソノラ州からペルー北部に至る東太平洋沿岸です。体長は15cm前後になる小ぶりなエビです。本種の養殖はパナマで捕獲された個体を用いて1973年にフロリダで始められました。1990年代には中国、台湾、東南アジアを含む世界中で養殖が行われるようになりました。2007年に日本において世界で初めての閉鎖循環式の「屋内型エビ生産システム」が開発され、バナメイエビ養殖事業がスタートしています。2018年における世界の養殖生産量は497万トンで、エビ類の中でダントツの1位です。日本のスーパーなどでよく見かけます。
ウシエビは英名のblack tiger prawnからブラックタイガーという別名でよく知られています。西日本からオーストラリア北部、南アフリカまで、インド太平洋沿岸に広く分布しており、浅海の砂泥底に生息していますが、汽水域や淡水域にも適応できるようです。クルマエビ科では最大種で、体長は30cm前後になります。東南アジアやインドなどで盛んに養殖されており、2018年における世界の養殖生産量は75万トンで、エビ類ではバナメイエビ、アメリカザリガニに次いで3番目に多く収獲されています。上述したバナメイエビとともに日本に大量に輸入されており、スーパーなどでよく見かけます。
サルエビは日本沿岸を含むインド太平洋の熱帯・亜熱帯海域沿岸に広く分布し、浅海の砂泥底に生息しています。日本の太平洋側では三陸海岸以南、日本海側では北海道西岸以南に分布しています。体表面に細かい短毛が密生していることがサルエビの名の由来です。クルマエビ科では小型の部類で、体長は10cm前後になります。2018年における世界の漁獲量は24.8万トンです。日本では瀬戸内海・四国・九州の各沿岸で比較的多く漁獲されています。
②アルゼンチンアカエビ
アルゼンチンアカエビ(Argentine red shrimp、Pleoticus muelleri)はクダヒゲエビ科ヒメクダヒゲ属(Pleoticus)のエビで、ブラジル南部からアルゼンチンにかけての南西大西洋沿岸に分布しています。体長は20cm前後になり、体全体が薄い赤色をしています。2018年における世界の漁獲量は25.6万トンで、サルエビより少し多く漁獲されています。日本にも冷凍輸入されており、スーパーなどでよく見かけます。
③サクラエビ科のエビ
サクラエビ科にはLucensosergia属のサクラエビ(桜海老、Sakura shrimp、Lucensosergia lucenso)やアキアミ属(Acetes)のアキアミ(秋醤蝦、Akiami paste shrimp、Acetes japonicus)などが含まれます。
サクラエビは駿河湾、相模湾、東京湾、長崎県五島列島沖、台湾東方沖・南西沖などの水深200~300m程度のところに生息しています。日本では駿河湾のみで漁獲されています。体長40mm前後の小型のエビです。体は透明ですが、甲に赤い色素をもつため桜の花びらのようなピンク色をしていることが和名の由来です。2018年以降駿河湾におけるサクラエビ漁は深刻な不漁になっています。
アキアミは日本、中国、東南アジア、インド南部などの沿岸域に分布します。日本では富山湾、中海、駿河湾、三河湾、瀬戸内海、有明海などの内湾汽水域に多く生息しています。体長20mm前後の小型のエビで、体全体は白く見えます。秋にまとまって漁獲され、アミ類(アミ目の甲殻類)のように小さなエビが和名の由来です。世界的に非常に多く漁獲されており、2018年の漁獲量は43.9万トンでした。
④テナガエビ科のエビ
コエビ下目テナガエビ科にはテナガエビ属(Macrobrachium)のテナガエビ(手長海老、Oriental river prawn、Macrobrachium nipponense)やオニテナガエビ(鬼手長海老、giant river prawn、M. rogenbergii)などが含まれます。テナガエビ類は第1歩脚と第2歩脚が鋏脚になっており、さらに第2歩脚が長く発達しているという特徴があります。
テナガエビは日本(北限は青森県)、韓国、中国、台湾などに分布しています。主に河川・湖沼の淡水域に生息しますが、幼生期に汽水域で成長し、その後淡水域に戻るものもいます。琵琶湖には大正6~8年頃霞ヶ浦から移植され、定着しています。オスの体長は10cm程度になりますが、メスは小ぶりで6cmほどです。オスの第2歩脚は体長より長くなります。日本では主に霞ヶ浦や琵琶湖で漁獲されています。世界的には中国やベトナムなどで盛んに養殖されており、2018年における世界の養殖生産量は23.7万トンでした。
オニテナガエビはタイ、マレーシアなどの東南アジア原産の淡水エビです。体長はオスで30cm程度、メスで25cm程度になり、テナガエビ類では最も大きくなることが和名・英名の由来です。メスは産卵後腹部の遊泳肢に受精卵を抱卵し、淡水域から汽水域へ移動します。抱卵期間は約3週間です。孵化した稚エビは変態するまで汽水で成長し、その後淡水域へ移動します。マレーシアで養殖が始まり、ハワイ、台湾、中国、タイ、ベトナムに広まりました。2018年の世界における養殖生産量は上述したテナガエビとほぼ同量の23.4万トンです。
⑤タラバエビ科のエビ
コエビ下目タラバエビ科にはタラバエビ属(Pandalus)のホッコクアカエビ(北国赤海老、Alaskan pink shrimp、Pandalus eous)やトヤマエビ(富山海老、coonstripe shrimp、P. hypsinotus)などが含まれます。タラバエビ属の種は雄性先熟の性転換をするのが特長です。若い個体は繁殖期になると先ずオスとして繁殖行動を行いますが、さらに成長するとメスに性転換して生涯に数回産卵します。メスの抱卵期間はホッコクアカエビで約10ヶ月、トヤマエビで約12ヶ月と長く、受精卵を腹肢に抱えて孵化するまで保護します。
ホッコクアカエビは日本海、オホーツク海、ベーリング海、宮城県沖からカナダ西岸までの北太平洋に広く分布しています。水深200~600mほどの深海砂泥底に生息し、体長は12cm前後になります。「甘エビ」や「南蛮エビ」の別名で広く流通しており、刺身や鮨などにして食されます。
トヤマエビは日本海、オホーツク海、ベーリング海、アラスカ湾に分布しています。和名は富山湾で最初に漁獲されたことに由来します。水深100~200mほどの砂泥底に生息し、体長は20cm前後になります。一般に「ボタンエビ」ともよばれますが、標準和名ボタンエビ(Pandalus nipponensis)とは別種です。
⑥アカザエビ科のエビ
ザリガニ下目アカザエビ科にはアカザエビ属(Metanephrops)のアカザエビ(藜海老、Japanese lobster、Metanephrops japonicus)、ヨーロッパアカザエビ属(Nephrops)のヨーロッパアカザエビ(Norway lobster、Nephrops norvegicus)、ロブスター属(Homarus)のアメリカロブスター(American lobster、Homarus americanus)、ヨーロッパロブスター(European lobster、H. gammarus)などが含まれます。ロブスターは狭義にはロブスター属のアメリカロブスターとヨーロッパロブスターの2種を指しますが、広義にはアカザエビや後述するイセエビ科のエビ(spiny lobster)、セミエビ科のエビ(slipper lobster)などが含まれます。
アカザエビは千葉県銚子沖から日向灘にかけての太平洋沿岸域に分布する日本固有種です。水深200~400mほどの深海砂泥底に生息し、体長は25cmほどになります。和名は体色がヒユ科の1年草アカザ(藜)の若葉の赤い色に似ていることに由来します。第1~3胸脚が鋏脚となっており、特に第1鋏脚は体長とほぼ同じくらい長いため、料理店などでは「テナガエビ」とよばれたりしますが、標準和名テナガエビは上述したように別種です。
ヨーロッパアカザエビはヨーロッパアカザエビ属唯一の現生種で、アイスランド・ノルウェーからポルトガルまでの大西洋北東部、北海、地中海に分布しています。水深20~800m程の泥底に巣穴を掘り、その中で生活しており、体長は25cmほどになります。第1~3胸脚が鋏脚となっており、特に第1鋏脚は大きく、長くなっています。ヨーロッパで最も重要な食用甲殻類で、年間6万トン前後漁獲されています。
狭義のロブスターであるアメリカロブスターとヨーロッパロブスターは第1胸脚が強大なハサミ状になっているのが特長です。ロブスターはオマール(homard)ともよばれますが、これはフランス語でハンマーという意味で、第1鋏脚がハンマーのように見えるからです。これら2種のロブスターのメスの抱卵期間は比較的長く、アメリカロブスターで10~11ヶ月、ヨーロッパロブスターで12ヶ月に及びます。
アメリカロブスターは北米大陸のニューファンドランド島からノースカロライナ州に至る大西洋北西部沿岸に分布しています。体長は通常60cm前後になり(中には体長1mを超えるものもいるようです)、エビ類では最大です。カナダおよびアメリカで年間10万トン前後漁獲されており、少なからず日本に輸入されています。
ヨーロッパロブスターはノルウェーからモロッコに至る大西洋北東部沿岸および地中海に分布しています。体長はアメリカロブスターと同様60cm前後になります。漁獲量は少なく、年間5,000トン程度です。ヨーロッパロブスターとアメリカロブスターは非常に近縁で、人為的に交配することはできますが、自然界では両種の分布域はオーバーラップしないため、交雑種は生まれないようです。
⑦イセエビ科のエビ
イセエビ下目イセエビ科の甲殻類は英語でspiny lobsterといいますが、これは「棘だらけのロブスター」という意味で、広義のロブスターに含まれます。体は棘や突起の多い頑丈な外骨格で覆われています。イセエビ科にはイセエビ属(Panulirus)のイセエビ(伊勢海老、Japanese spiny lobster、Panulirus japonicus)、ヨーロッパイセエビ属(Palinurus)のヨーロッパイセエビ(European spiny lobster、Palinurus elephas)、ミナミイセエビ属(Jasus)のオーストラリアミナミイセエビ(southern rock lobster、Jasus edwardsii)、アフリカミナミイセエビ(Cape rock lobster、J. lalandii)などが含まれます。これらのイセエビ類にはアカザエビ科のロブスターと異なり強大な鋏脚はないのですが、太くて硬く、体長と同程度の長さの第2触角があるのが特長です。沿岸の浅い海の岩礁域に生息し、体長は30~40cm程度になります。メスの抱卵期間はイセエビで1~2ヶ月、ヨーロッパイセエビで約6ヶ月です。
イセエビは千葉県房総半島あたりから台湾までの太平洋沿岸、九州と朝鮮半島南部の沿岸域に分布しています。和名は伊勢湾でたくさん獲れたことによります。正月や慶事の料理として供用されます。2019年における日本の漁獲量は1,100トンで、三重県、千葉県、静岡県、和歌山県、徳島県などで水揚げされています。
ヨーロッパイセエビはノルウェー南部からモロッコまでの大西洋北東部沿岸、地中海に分布しています。南半球に生息するミナミイセエビ属のオーストラリアミナミイセエビは南オーストラリア・ニュージーランドなどの沿岸域、アフリカミナミイセエビは南アフリカ・ナミビアなどの沿岸域にそれぞれ分布しています。ミナミイセエビ類は日本に相当量輸入されています。
⑧セミエビ科のエビ
イセエビ下目セミエビ科の甲殻類はスリッパロブスター(slipper lobster)と総称されますが、これは体が上から押しつぶされスリッパのように扁平な形をしているからです。広義のロブスターに含まれますが、前述したイセエビ類と同様に強大な鋏脚はありません。一般的なエビの第2触角は細長くひげ状に伸びているのに対して、セミエビ類のそれは幅広く板状になっているという特長があります。セミエビ科にはセミエビ属(Scyllarides)のセミエビ(蝉海老、shovel-nosed lobster、Scyllarides squammosus)、ウチワエビ属(Ibacus)のウチワエビ(団扇海老、Japanese fan lobster、Ibacus ciliatus)、ゾウリエビ属(Parribacus)のゾウリエビ(草履海老、Japanese mitten lobster、Parribacus japonicus)などが含まれます。
セミエビはインド太平洋の熱帯・亜熱帯域に広く分布し、日本では千葉県房総半島から九州、南西諸島にかけての太平洋沿岸に見られます。外洋に面した浅海の岩礁やサンゴ礁に生息しています。セミエビの名は体形が蝉に似ていることに因り、体長は30cm前後になります。
ウチワエビは日本の山形県以南の日本海沿岸、房総半島以南の太平洋沿岸、東シナ海沿岸からフィリピン沿岸までの浅い海の砂泥底に生息しています。和名は体形が団扇に似ていることに由来し、体長は20cmほどになります。
ゾウリエビは房総半島から九州までの太平洋沿岸と南西諸島・台湾沿岸に分布し、浅い海の岩礁やサンゴ礁に生息しています。和名は体形が草履に似ていることに由来し、体長は15cmほどになります。
⑨ザリガニ
ザリガニ(crayfish)は抱卵亜目ザリガニ下目のザリガニ科、アメリカザリガニ科およびミナミザリガニ科に属する淡水生甲殻類の総称です。ザリガニ科にはアスタクス属(Astacus)のヨーロッパザリガニ(European crayfish、Astacus astacus)、Pacifastacus属のシグナルザリガニ(signal crayfish、Pacifastacus leniusculus)など、アメリカザリガニ科にはアメリカザリガニ属(Procambarus)のアメリカザリガニ(red swamp crayfish、Procambarus clarkii)、アジアザリガニ属(Cambaroides)のニホンザリガニ(Japanese crayfish、Cambaroides japonicus)など、ミナミザリガニ科にはミナミザリガニ属(Cherax)のマロン(marron、Cherax tenuimanusとC. cainii)やコモンヤビー(common yabby、C. destructor)などが含まれます。ザリガニの特長はロブスターのように第1胸脚が強大な鋏脚になっていることです。
淡水生ザリガニはベルツ肺吸虫という寄生虫の中間宿主であるため、十分に加熱処理してから食べるようにしましょう(後述する「魚介類から感染する寄生虫症」を参照)。
ヨーロッパザリガニはヨーロッパの広い地域に分布し、体長は15cmほどになります。古くから食材として利用されていますが、近年は生息環境の悪化や乱獲、病気などにより生息数が減少しています。フランスではザリガニはエクルビス(écrevisse)とよばれ、高級食材になっています。
シグナルザリガニはアメリカ北西部のコロンビア川やミズーリ川流域、カナダ南西部のブリティッシュコロンビア州が原産ですが、ヨーロッパ各国や日本にも移入分布しています。体長は15cmほどになります。日本には1926年から1930年にかけて移入され、ウチダザリガニあるいはタンカイザリガニともよばれています。北アメリカやヨーロッパでは漁獲や養殖が行われており、高級食材のヨーロッパザリガニの代用とされています。
アメリカザリガニはメキシコ北部、アメリカのニューメキシコ州、メキシコ湾沿岸州(テキサス州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、アラバマ州、フロリダ州)ならびにルイジアナ州からイリノイ州・オハイオ州南部にかけてのミシシッピ川流域などが原産ですが、アジアやアフリカ、ヨーロッパなどに移入分布しています。体長は12cm前後になります。日本には1930年にアメリカから移植され、現在では日本各地で繁殖しています。日本ではほとんど食用とされていませんが、アメリカやカナダ、中国、カンボジア、タイ、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランド、アフリカなどでは食用に利用されています。原産地のルイジアナ州をはじめ世界中で広く養殖されており、2018年における世界の養殖生産量は甲殻類の中ではバナメイエビに次いで2番目に多い171万トンでした。
ニホンザリガニは日本固有種で、北海道と北東北(青森県、岩手県、秋田県)にのみ分布し、体長は5~6cmほどになります。かつては生息数が多く、食用にも利用されていましたが、現在では生息数が減少し絶滅危惧種に指定されています。本種の生息地では保全のための各種取り組みが行われています。
マロンはオーストラリア西オーストラリア州原産の大型のザリガニで、体長は30~40cmほどになります。元々は1種とされていましたが、遺伝子調査により2種に分かれることが分かりました。一つはCherax tenuimanusで英名はhairy marron、もう一つはCherax cainiiで英名はsmooth marronとよばれています。前者は西オーストラリア州南西部のMargaret River流域に限局的に生息しており、そのためMargaret River marronともよばれます。後者はオーストラリアのクイーンズランド州や南オーストラリア州、ヴィクトリア州、ニューサウスウェールズ州に移植されたのみならず、アメリカ、エクアドル、チリ、南アフリカ、ザンビア、マラウイ、ジンバブエ、イギリス、中国、日本、ニュージーランドなどにも養殖のために導入されています。
コモンヤビーは元来西オーストラリア州を除くオーストラリアに広く分布していました。1932年にヴィクトリア州から西オーストラリア州に導入され、現在ではオーストラリア全土に生息しています。体長は15~18cmほどになります。オーストラリアでは食材として広く利用されており、養殖も行われています。コモンヤビーはオーストラリアからスペイン、イタリア、スイス、オランダ、中国、南アフリカ、ザンビアなどに導入されています。
カニ
カニ(蟹、crab)は十脚目短尾下目(カニ下目)に属する甲殻類の総称です。タラバガニやハナサキガニなどは十脚目異尾下目(ヤドカリ下目)に属し、ヤドカリの仲間ですが、これらも産業上カニとして扱われています。体の大部分は頭胸部からなり、背面全体が堅いキチン質の頭胸甲(甲羅)で覆われています。カニ下目のカニは5対10本の胸脚のうち第1胸脚は鋏脚に変化しており、餌を掴んだり敵を威嚇したりするのに使われます。残りの4対8本の胸脚は歩くための歩脚になっています。カニの腹部は筋肉を失い、小さくなって頭胸部の腹側に折り畳まれたようになっており、俗に「ふんどし」とよばれています。ヤドカリ類のタラバガニやハナサキガニなども第1胸脚は鋏脚に変化していますが、第5胸脚は小さくなり甲羅内の鰓室(サイシツ)に差し込まれているため、実際の歩脚は3対6本しかないように見えます。カニ下目とヤドカリ下目は抱卵亜目に含まれ、メスは産んだ卵を腹肢に抱え、孵化するまで保護します。
日本および世界において食用に供されている主なカニ類を表10-24に示します。カニは塩茹であるいは蒸したもの、鍋物、みそ汁、刺身、鮨、天ぷら、かに玉、カニピラフなど多種多様に料理して食されます。一般にカニ味噌(中腸腺)や筋肉、メスの内子(卵巣)を食べますが、ヤドカリの仲間であるタラバガニやハナサキガニのカニ味噌は油分・水分が多く生臭さがあるため通常は食用にされません。カニはエビと並んで食物アレルギーを起こしやすい食品であり、消費者庁により容器包装された加工食品への表示が義務付けられた特定原材料7品目の内のひとつです(2章穀類「食物アレルギー」を参照)。カニアレルギーのある人は加工食品などを食べるときにはカニが原材料に使われていないか注意する必要があります。
①ケセンガニ科のカニ
ケセンガニ科(旧分類ではクモガニ科)にはズワイガニ属(Chionoecetes)のズワイガニ(楚蟹、snow crab、Chionoecetes opilio)やベニズワイガニ(紅楚蟹、red snow crab、C. japonicus)などが含まれます。体色はズワイガニが茶褐色、ベニズワイガニが朱色をしています。両種とも、甲は丸みを帯びた正三角形をしており、甲幅はオスで14cm前後、メスで8cm前後になります。鋏脚(第1胸脚)と第5胸脚は短いのですが、第2-4胸脚は長く、大きなオスが脚を広げると50~70cm程度になります。メスは交尾後産んだ卵を腹節の内面にある腹肢に付着させ、長い期間(ズワイガニで1年~1年半、ベニズワイガニで約2年)抱卵します。孵化した幼生はプリゾエアとよばれ、ゾエア幼生期、メガロパ幼生期を経て、稚ガニとなって着底します。生まれてから親ガニになるまでに8年~10年程度かかるといわれています。
ズワイガニは山口県以東の日本海、茨城県以東からカナダまでの北太平洋、オホーツク海、ベーリング海に広く分布し、水深200~600m程度の深海に生息しています。オスとメスは大きさが違うため(メスはオスの半分くらい)、日本各地で呼び名が異なります。オスは福井県ではエチゼンガニ(越前ガニ)、山陰地方ではマツバガニ(松葉ガニ)などとよばれ、メスは福井県や兵庫県ではセコガニ、鳥取県や島根県ではオヤガニ(親ガニ)などとよばれています。2019年の日本におけるズワイガニの漁獲量は3,500トンであり、北海道、兵庫県、鳥取県、福井県などで主に水揚げされています。
ベニズワイガニは日本海、オホーツク海、犬吠埼から北海道にいたる太平洋に分布しています。生息水深はズワイガニより深く、400~2,700m程度の深海に生息しています。資源保護のためにメスは漁獲禁止とされています。2019年の日本におけるベニズワイガニの漁獲量はズワイガニの約4倍の13,200トンであり、北海道、鳥取県、新潟県、兵庫県、島根県、石川県、秋田県などで主に水揚げされています。
②ガザミ科のカニ
ガザミ科(ワタリガニ科ともよばれます)にはガザミ属(Portunus)のガザミ(蝤蛑、gazami crab、Portunus trituberculatus)、ジャノメガザミ(蛇目蝤蛑、three-spot swimming crab、P. sanguinolentus)、タイワンガザミ(台湾蝤蛑、blue swimming crab、P. pelagicus)などが含まれます。ガザミ類の甲は横に伸びて菱形をしており、左右両端が尖っています。鋏は大きく強靱です。最後の歩脚は扁平で、遊泳脚となっており、泳ぐことができます。
ガザミは北海道南部から九州、韓国、中国、台湾までの東アジア沿岸域に分布しています。内湾を好み、水深5~30m程度の砂泥底に生息しており、甲長6cm前後、甲幅15cm前後になります。群れをなして移動することから、ワタリガニともよばれます。日本では古来カニといえばガザミを指していたほど、一般によく知られた食用ガニでしたが、近年乱獲により日本における漁獲量は減っています。2018年の世界における漁獲量はカニ類の中で最も多く、49.3万トンでした。中国が主要な漁獲国です。
ジャノメガザミは南アフリカからインド、タイ、インドネシア、フィリピン、中国、台湾、韓国、日本、オーストラリア、ハワイまでのインド西太平洋(紅海やペルシア湾を含む)沿岸に広く分布しています。水深20~30m程度の砂泥底に生息し、甲幅は12cm前後になります。甲に蛇目模様があるのが特長です。日本ではあまり漁獲されませんが、東南アジアでは多く漁獲されています。
タイワンガザミはインド西太平洋に広く分布し、内湾の水深15~50mほどの砂泥底に生息しています。甲幅は15cm前後になります。日本では房総半島以南の太平洋沿岸、山形県以南の日本海沿岸に見られます。2018年の世界における漁獲量はカニ類の中ではガザミに次いで多く、29.8万トンでした。
2019年の日本におけるガザミ類の漁獲量は2,200トンであり、主に愛知県や宮城県、福岡県などで水揚げされています。
③モクズガニ科のカニ
モクズガニ科にはモクズガニ属(Eriocheir)のモクズガニ(藻屑蟹、Japanese mitten crab、Eriocheir japonica)、チュウゴクモクズガニ(中国藻屑蟹、Chinese mitten crab、E. sinensis)などが含まれます。鋏脚に濃い毛が生えているのが大きな特長で、これが和名のモクズガニ(藻屑蟹)、英名のmitten crab(手袋ガニ)の由来になっています。
両種は河川・湖沼で生育し、成体は主に秋から冬に産卵のために川を下り、塩分濃度のある程度高い河川感潮域の下流部から海域に達します。交尾・産卵は河口域から周辺海域で行われ、繁殖行動後、疲弊した雌雄親ガニは死んでしまいます。孵化したゾエア幼生は遊泳能力が乏しく、生まれた海域でプランクトン生活を送る間に潮流に乗り、広く海域を分散すると考えられています。ゾエア幼生は5回の脱皮を繰り返し、淡水に対する順応性を備え、遊泳能力が増したメガロパ幼生に変態します。メガロパ幼生は海域から河川感潮域の上流部に遡上し着底します。着底域で稚ガニに変態後、しばらく留まり脱皮成長します。ある程度成長した稚ガニは上流の淡水域へと遡上を開始し、分散していきます。
モクズガニ類は非常に美味で、食用に供されていますが、ベルツ肺吸虫という寄生虫の中間宿主になっており、食べる前に十分加熱する必要があります(後述する「魚介類から感染する寄生虫症」を参照)。
モクズガニは日本列島、台湾、サハリン、ロシア沿海州、朝鮮半島東岸部に分布しています。甲幅は8cm前後になります。
チュウゴクモクズガニは別名シャンハイガニ(上海蟹)ともよばれ、原産地は朝鮮半島西岸部、黄海沿岸部から香港にかけての中国沿岸部と、黄河や長江流域です。甲幅は8cm前後になります。帰化生物としてヨーロッパやアメリカに分布域を広げていますが、侵略的外来種として問題となっています。日本には帰化していないようです。中国江蘇省などで盛んに養殖されており、2018年の世界における養殖生産量は75.7万トンでした。
④サワガニ
サワガニ(沢蟹、Japanese freshwater crab、Geothelphusa dehaani)はサワガニ科サワガニ属(Geothelphusa)に属する日本固有種で、青森県から鹿児島県トカラ列島にかけて分布しています。渓流や小川、周囲の湿った陸域などに生息し、甲幅は2~3cm程度になります。上述したモクズガニとは異なり、一生を淡水域で過ごす純淡水性のカニで、産卵のために海に下ることはありません。幼生は卵の中で変態し、甲幅4mm程度の稚ガニの形で孵化します。サワガニは丸ごと唐揚げや佃煮にして食用にされています。養殖もされており、スーパーなどでも見かけます。
サワガニはウェステルマン肺吸虫という寄生虫の中間宿主であるため、十分加熱してから食べるようにしましょう(後述する「魚介類から感染する寄生虫症」を参照)。
⑤クリガニ科のカニ
クリガニ科にはクリガニ属(Telmessus)のクリガニ(栗蟹、helmet crab、Telmessus cheiragonus)やトゲクリガニ(棘栗蟹、helmet crab、T. acutidens)、ケガニ属(Erimacrus)のケガニ(毛蟹、horsehair crab、Erimacrus isenbeckii)などが含まれます。
クリガニは北海道東部太平洋側、オホーツク海、ベーリング海に分布し、浅い砂地に生息しています。甲の形は五角形に近く、甲長は8cmほどになります。漁獲量は少なく、地域限定的に食されています。
トゲクリガニは日本海ではサハリン南部から朝鮮半島南部にかけて、太平洋側では北海道南部から東京湾にかけて、ならびに津軽海峡や陸奥湾などに分布しています。クリガニの分布域とのオーバーラップはないようです。クリガニと同様に甲は五角形を呈し、甲長は8~10cmほどになります。主な産地は北海道や青森県です。青森県では「花見ガニ」あるいは「桜ガニ」とよばれるように4月から5月にかけて主に漁獲されます。
ケガニは北西太平洋、オホーツク海、ベーリング海に分布し、水深30~200mほどの砂泥底に生息しています。日本では主に北海道のオホーツク海沿岸や太平洋沿岸に見られます。甲羅はわずかに縦長の円形で、甲長は12cmほどになります。甲や歩脚に短い剛毛が密生しており、これが和名の由来になっています。メスは産卵後、約1年抱卵します。資源保護のために、甲長8cm以上のオスのみの漁獲が許可されています。
⑥タラバガニ科のカニ
ヤドカリ下目タラバガニ科にはタラバガニ属(Paralithodes)のタラバガニ(鱈場蟹、red king crab、Paralithodes camtschaticus)やハナサキガニ(花咲蟹、hanasaki crab、P. brevipes)などが含まれます。
タラバガニは日本海、オホーツク海、ベーリング海、太平洋北部ならびにアラスカ沿岸の北極海に分布しています。1960年代にロシア・ノルウェー沿岸のバレンツ海に導入され定着していますが、爆発的に増殖したため侵略的外来種として問題となっています。主要漁場はベーリング海やカムチャツカ半島近海で、タラ(鱈)の漁場(鱈場)と重なることが和名の由来です。小林多喜二の小説「蟹工船」(1929年発表)はオホーツク海のカムチャツカ半島沖で漁獲したタラバガニを缶詰に加工する北洋工船で過酷な労働を強いられた労働者を描いたプロレタリア文学です。
タラバガニは水深200~300m程度の海底に生息しています。甲幅は25cmほどになり、歩脚を広げると1mを超えます。日本における主な漁場は北海道のオホーツク海沖で、近年の漁獲量は100~500トン程度です。日本国内での需要を賄うためにロシアやアメリカなどから輸入されており、2019年における輸入量は約3,500トンです。現在、タラバガニの栽培漁業や養殖のために、種苗生産技術の開発が進められています。
ハナサキガニはカムチャツカ半島からクリル列島、北海道の根室半島を経て襟裳岬にかけての沿岸、ならびにサハリン沿岸などに分布しています。水深200m程度までの浅海に生息し、甲幅・甲長はともに15cmほどになります。歩脚はタラバガニに比べて短いのが特長です。日本における漁場は納沙布岬から襟裳岬にかけての太平洋沿岸と根室半島の根室湾沿岸です。和名は主要な漁獲地である根室市花咲に由来します。漁獲量は資源の減少などにより年100トン未満で推移しています。
キチン・キトサン
エビやカニなどの甲殻類は、キチンを成分とする外骨格という固い殻で体が包まれています。キチンはN-アセチルグルコサミンが直鎖状に結合した多糖であり、キトサンはキチンを濃アルカリ溶液中での煮沸処理などにより脱アセチル化して得られます。
キチンは生体への親和性が高いことから、人工皮膚や手術縫合糸、人工腱などとして使われています。キチンには、①生体内で異物と認識されにくいため、アレルギー反応が起こりにくい、②生体内でリゾチームなどのキチン分解酵素により分解・吸収される、③創傷治癒促進効果を有する、④止血効果を有するなどの特徴があります。キチンを特異的に分解するキチナーゼを含み生体内での分解速度を制御できる生体吸収性キチン縫合糸も開発されています。
キトサンには血中コレステロールを下げる効果が認められており、この効果は次のような機序で現れると考えられます。胆汁酸(主としてグリココール酸とタウロコール酸という抱合胆汁酸からなります)は肝臓でコレステロールを材料として合成されて十二指腸に分泌され、食餌脂肪を乳化してリパーゼという消化酵素による分解を促進して体内へ吸収されやすくします。また、分泌された胆汁酸の大部分(約90%)は、回腸で吸収されて肝臓に戻り再利用されます(これを腸肝循環といいます)。キトサンは腸内で胆汁酸と結合する性質があるため、脂肪の乳化が阻害され、脂肪の分解・吸収が妨げられます。また、胆汁酸の吸収すなわち腸肝循環が阻害されるため、肝臓での胆汁酸の新規合成が盛んになり、材料であるコレステロールが消費されて、血中コレステロールが低下します。このように、キトサンは脂質代謝改善効果を有する特定保健用食品(2章穀類「保健機能食品」を参照)として認定されています。
キトサンは水銀などの重金属を強く結合する性質があることから水処理剤として利用されたり、抗菌作用があることから除菌ガーゼや医療用抗菌衣料として利用されたりしています。
キトサンを加水分解するとオリゴグルコサミンおよびグルコサミンが生成され、前者には免疫力増強作用、後者には膝痛改善作用が認められています。
自然界に豊富に存在するキチンは上述したように様々に利用されており、今後もさらに利用価値が高まっていくことが期待されています。
魚介類に含まれるアスタキサンチン
甲殻類のエビやカニの殻は黒褐色から青緑色をしていますが(ホッコクアカエビやイセエビ、ケガニのように赤い色をしたものもいます)、茹でたり焼いたりして加熱すると赤い色に変化します。殻には本来赤い色素のアスタキサンチン(1章植物「植物の色」を参照)が含まれていますが、この色素はタンパク質と結合しているため赤くありません。エビやカニを加熱料理すると、アスタキサンチンはタンパク質から遊離し、この色素本来の赤い色彩が発現するわけです。これは本章「海藻」のところで述べたコンブやワカメのフコキサンチンあるいはアサクサノリやスサビノリ、アカバギンナンソウのフィコビリン色素の発色の原理とはちょうど逆になります。
サケやマスなどのサケ科の魚の筋肉はサーモンピンク色を呈していますが、これはアスタキサンチンに因ります。アスタキサンチンは養殖魚においてはタイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)やマスノスケ(キングサーモン)よりトラウトサーモンやギンザケに多く含まれ、天然魚においてはシロザケよりベニザケに多く含まれていると報告されています。サケやマスの卵もピンク色をしていますが、これは筋肉からアスタキサンチンが卵に移行するためです。
ホヤの筋肉(筋膜体)は赤橙色をしていますが、これはアスタキサンチンなどのカロテノイドに因ります。アカボヤはマボヤよりカロテノイド含量が多いため、赤味が強いことが知られています(本章「ホヤ」を参照)。
アスタキサンチンは甲殻類やサケ科の魚、ホヤの体内で合成されるものではありません。この色素は植物プランクトン(1章植物「植物プランクトンと海藻」を参照)により合成され、食物連鎖でこれらの魚介類に取込まれ、蓄積されます。本書で取り上げませんでしたが、食物連鎖において重要な働きをするオキアミやカイアシ類(別名:コペポーダ)などの動物プランクトンは植物プランクトンを直接食べ、アスタキサンチンを体内に蓄積します。サケ・マス類はこれらの動物プランクトンを摂食することによりアスタキサンチンを体内に取り込みます。ホヤは植物プランクトンを直接濾過摂餌し、アスタキサンチンを体内に取り込むことができます。
アスタキサンチンにはヒトの健康にとって優れた機能性(網膜保護作用、眼精疲労改善、エネルギー源として脂質利用促進効果、持久力や運動機能の向上、美肌効果、動脈硬化抑制、血圧上昇抑制、認知機能改善、糖尿病の発症要因であるインスリン抵抗性の改善など)が認められていますので、現在この色素を効率よく産生するヘマトコッカス(Haematococcus pluvialis)という淡水生微細藻類が人工培養されています。培養されたヘマトコッカスの乾燥藻体に占めるアスタキサンチン含量は5%以上に及ぶといわれており、ヘマトコッカス由来アスタキサンチンはサプリメントやコスメティクス、あるいは機能性表示食品の成分として用いられています。
魚介類の鉄分
魚は赤身魚と白身魚に便宜的に分けられます。カツオやマグロ、ブリ、サバ、ニシン、イワシ、サンマなど遠洋を広範囲にわたり回遊する魚は酸素消費量が多いため、筋肉にミオグロビンという赤い色をした酸素結合タンパク質を大量にもっているので赤身魚とよばれます。一方、タイやカレイ、ヒラメ、フグ、スズキ、キスなど近海の浅い海に生息する沿岸魚あるいは岩礁や砂地に生息する底生魚は、運動性が乏しいため酸素消費量が少なく、筋肉にミオグロビンが少ないため白身魚とよばれています。
赤身魚の筋肉にはミオグロビンのヘム鉄が多く含まれているため、鉄分の優れた供給源になります(9章畜産物「表9-5肉類・魚介類の可食部100g当たりの鉄含量」を参照)。また、アカガイやアサリ、カキ、シジミ、ハマグリなどの貝類やホヤ類も鉄含量の多い魚介類です。ヒト特に女性に多い鉄欠乏性貧血を防ぐために、これらの魚介類を積極的に食べましょう。
ω3およびω6脂肪酸
不飽和脂肪酸にω(オメガ)3およびω6脂肪酸というものがあります。脂肪酸はカルボキシ基(-COOH)をもち炭化水素(-CH2-)が直鎖状につながったもので、有機化学の規則では、カルボキシ基の隣の炭素原子をα(アルファ)炭素、カルボキシ基と反対側の炭化水素鎖の末端の炭素原子をω炭素とよびます。このω炭素から数えて3番目と4番目の炭素の間および6番目と7番目の炭素の間に最初の二重結合をもつ不飽和脂肪酸を、それぞれω3およびω6脂肪酸とよびます(図10-1)。
ω3脂肪酸にはα-リノレン酸やエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などがあります。図10-1に示すように、α-リノレン酸は炭素数18で、二重結合を3個もちます。エイコサペンタエン酸という名前の付け方は、エイコサは数の接頭辞で20を表し、脂肪酸の炭素数が20という意味であり、次のペンタは数の接頭辞で5を表し、二重結合数が5ということになります(4章植物油「表4-2数の接頭辞」を参照)。エン酸とは二重結合をもつ脂肪酸すなわち不飽和脂肪酸のことです。つまり、エイコサペンタエン酸は炭素数20で、二重結合を5個もつ不飽和脂肪酸を表します。一方、ドコサヘキサエン酸は炭素数22で、二重結合を6個もつ不飽和脂肪酸です。
ω6脂肪酸にはリノール酸やアラキドン酸(ARA)などがあります。図10-1に示すように、リノール酸は炭素数18で、二重結合を2個もちます。アラキドン酸はエイコサテトラエン酸ともよばれ、炭素数20で、二重結合を4個もっています。
α-リノレン酸とリノール酸はヒトの体内では生合成できない必須脂肪酸であるため、食餌から摂取しなければなりません。これらの必須脂肪酸は植物油に豊富に含まれています(4章植物油「表4-4植物油に含まれている主な脂肪酸」を参照)。しかしながら、高度不飽和脂肪酸(炭素数20以上で、二重結合を3個以上含むもの)であるEPAやDHA、ARAは植物油には含まれていません。
ω6高度不飽和脂肪酸のARAは生体内でプロスタグランジンやロイコトリエン、トロンボキサンという局所ホルモンに代謝変換されます。これらのホルモンは炎症や組織損傷、血液凝固、血管収縮など多様な生理機能を発揮することが知られています。一方、ω3高度不飽和脂肪酸のEPAやDHAには動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞などの心血管系疾患の予防効果、抗炎症作用、抗アレルギー作用、ドライアイの症状を和らげたり視力を改善したりする効果、記憶や学習能力を向上する効果などが見出されています。今世紀に入り、EPAやDHAからレゾルビンやプロテクチンという抗炎症性脂質メディエーターが生成されることが発見され、ω3脂肪酸がにわかに脚光を浴びています。
ヒトにおいてARAはリノール酸から、EPAはα-リノレン酸から、DHAはEPAから炭素鎖の伸長や不飽和化などにより生成されますが、生成量は十分でないといわれています。国際脂肪酸・脂質研究学会は「α-リノレン酸からEPAへの変換はごく少量であり、さらにDHAへの変換はそれ以上に少なく、ほとんど変換できない」との公式声明を出しています。したがって、ARAやEPA、DHAは食餌から必要量を摂取する必要があります。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると、ARAやEPA、DHAの1日必要量についての記載はありませんが、ω6脂肪酸の1日当たりの食事摂取目安量は、成人男性で10g程度、成人女性で8g程度とされており、また、ω3脂肪酸の目安量は年齢により異なりますが、成人男性で2.0〜2.4g程度、成人女性で1.6〜2.0g程度とされています。上述したように、ARAやEPA、DHAは植物油には含まれていませんが、表10-25に示すようにアジ、ブリ、サバ、カツオ、サケ、ニシン、イワシ、サンマなどの魚やクジラの脂皮に多く含まれていますので、これらの水産物を積極的に食べるようにしましょう。家畜の肉類(牛肉や豚肉、鶏肉など)にはARAはかなり含まれていますが(可食部100g当たり20〜80mg程度)、EPAとDHAは少量含まれるか、あるいは殆ど含まれていません。
ビタミンDと骨粗鬆症
ビタミンDは脂溶性ビタミンの一種で、くる病治癒因子として発見されました。くる病とは小児期の骨の石灰化不全による成長障害を引き起こす病気です。ビタミンDは小腸でのカルシウム吸収や腎臓でのカルシウムの再吸収を促進し、骨の石灰化(カルシウム沈着)に関与するので、ビタミンD欠乏は大人では骨軟化症や骨粗鬆症などを引き起こします。生体内でビタミンDそのものには生理活性はほとんど認められませんが、肝臓や腎臓でヒドロキシ化(水酸化)を受けることにより活性型ビタミンDに変換され、生理作用を発揮します。
ヒトではビタミンDはUV-Bという紫外線を浴びることにより、皮膚の表皮においてコレステロール生合成の前段階物質である7-デヒドロコレステロール(プロビタミンD)から作られます。紫外線UV(ultra violet)とは波長10〜380nmの電磁波のことで、10〜200nmの遠紫外線と200〜380nmの近紫外線に分けられます。近紫外線はさらに315〜380nmのUV-A、280〜315nmのUV-B、200〜280nmのUV-Cに分けられています。最近の女性は、美肌志向から極端に肌を太陽光に曝すのを避けたり、日焼け止めクリームなどで肌を紫外線から防御したりすることにより、血中ビタミンD濃度が低下していることが報じられています。従って、適度な日光浴はビタミンD欠乏に陥らないために必要です。
ビタミンD欠乏は食餌からのビタミンD摂取の不足によっても容易に起こることが知られていますので、ビタミンDを豊富に含む食餌やビタミンDサプリメントをとることが必要です。
厚生労働省の食事摂取基準では、成人男女のビタミンDの1日の目安量は5.5μgとされています。ビタミンDは穀類や豆類、種実類、野菜、果物、海藻などにはほとんど含まれていませんが、表10-26に示すように魚類には豊富に含まれていますので、お魚を積極的に食べるようにしましょう。
魚介類から感染する寄生虫症
日本においては魚介類を刺身など生の状態で食べるという食文化が発展しており、これは世界的にも広がりを見せています。しかしながら、魚介類の生食の裏には横川吸虫、アニサキス、旋尾線虫、肺吸虫、クドアなどの寄生虫に感染するリスクが潜んでいます(表10-27)。いずれの寄生虫も十分な加熱あるいは冷凍処理をすれば死滅しますので、安心して食べることができます。
①横川吸虫
横川吸虫(Metagonimus yokogawai)はアユやシラウオ、ウグイなどの淡水魚を中間宿主とし、ヒトやイヌ、ネコ、イタチ、サギ、カワウなどを最終宿主とする寄生虫です。和名および種小名は台湾のアユから初めてこの寄生虫を検出した医学者横川定への献名です。「アユの背越し」や「シラウオの躍り食い」など、横川吸虫のメタセルカリア幼生の寄生する淡水魚を生食することによりヒトに感染し、小腸内で成虫(体長1~2mmの楕円形で、雌雄同体)になります。腹痛や下痢などの症状を呈し、慢性カタル性腸炎の原因になるといわれています(横川吸虫症)。近年、生シラウオの流通量が増えており、患者数が増加傾向にあります。治療にはプラジカンテルという薬剤が用いられています。横川吸虫の感染性をなくすためには魚を十分に加熱処理すること、あるいは-3℃で3日間冷凍保存することが重要です。
②アニサキス
アニサキスはアニサキス属(Anisakis)に属する寄生虫(線虫)の総称です。魚類やイカを中間宿主とし、クジラなど海生哺乳類を最終宿主とします。ヒトは中間宿主でも最終宿主でもありませんが、Anisakis simplexやA. pegreffii、A. physeterisなどの幼虫(体長2~3cm、体幅0.5~1mm)が寄生するイカやサンマ、カツオ、サバ、サケ、タラ、アジ、イワシなどを生あるいは加熱不十分な状態で食べた時、幼虫が胃壁や腸壁に侵入し、激しい腹痛や嘔吐(アニサキス症)を引き起こします。患者数は平成30年に478人、令和1年に338人、令和2年に396人と報告されています(厚生労働省)。一般的には内視鏡検査を行い、内視鏡下に鉗子で幼虫を摘出して治療します。2021年7月に正露丸の成分の木クレオソートがアニサキスに対する殺虫効果を有することが報告され、特効薬として期待されています。ショウガやワサビ、ニンニクなどの薬味あるいは食酢などには殺虫効果は認められていません。アニサキス症の予防には魚介類を-20℃以下で24時間以上冷凍するか60℃で1分間以上加熱処理することが重要です。
③旋尾線虫
旋尾線虫(type X)はツチクジラの腎臓に寄生する線虫Crassicauda giliakianaの幼虫(体長5~10mm、体幅0.1mm)と考えられています。ホタルイカやハタハタ、タラ、スルメイカなどの内臓に寄生しており、これらの魚介類をヒトが生食することにより感染します。ホタルイカへの寄生率は2~7%といわれています。ホタルイカは内蔵ごと生食することが多いため、旋尾線虫症の発生が多くみられます。臨床症状としては急性腹症型と皮膚爬行症型があります。急性腹症型は摂食後数時間から2日後に発症し、腹部膨満感や腹痛、嘔吐などの症状を呈します。対症療法のみで軽快する場合が多いとされています。皮膚爬行症型は摂食後2週間前後で発症し、腹部を中心に皮膚爬行疹(ミミズ腫れ)が現れます。爬行速度は1日に2~7cmで、爬行疹の進行先端部の皮膚を切除し、虫体を摘出して治療します。旋尾線虫症はイベルメクチンの内服で治療できるとの報告があります。旋尾線虫症を予防するには、生食の場合は-30℃で4日間以上あるいは-40℃で40分間以上冷凍処理したものを食べるようにしましょう。十分加熱処理すればもちろん安全です。
④肺吸虫
ヒトに感染する肺吸虫にはウェステルマン肺吸虫(Paragonimus westermanii)とベルツ肺吸虫(Paragonimus pulmonalis)がいます。前者はサワガニなどが、後者はザリガニやモクズガニなどが中間宿主で、ヒトなどは最終宿主になります。
ウェステルマン肺吸虫は二倍体(2n=22)で両性生殖を行います。本肺吸虫は胸腔に虫嚢を作り、気胸、胸水貯留、胸痛などの症状を呈します。
ベルツ肺吸虫はウェステルマン肺吸虫の三倍体(3n=33)ですが、別種として扱われることがあります。体長10~12mm、体幅5~7mm、厚さ3~5mmの平たい卵形で、ウェステルマン肺吸虫よりやや大型です。ベルツ肺吸虫は単為生殖を行い、肺実質に虫嚢を作ることからチョコレート状の血痰が出ます。時折脳に侵入することがあり、脳肺吸虫症(症状:頭痛、痙攣、麻痺など)を発症し、死に至ることがあります。
肺吸虫症の治療にはプラジカンテルやビチオノールが有効です。本症の予防にはカニやザリガニを十分に加熱処理してから食べることが重要です。
⑤クドア
クドアは海生魚類に寄生するクドア属(Kudoa)の粘液胞子虫で、世界中で80種以上知られています。魚の筋肉や脳、心臓などに寄生します。心臓クドア症においては宿主への病害性は確認されていないようですが、脳クドア症の場合には宿主を死に至らしめることがあります。筋肉クドア症においては収獲した魚の筋肉がドロドロに溶ける(ジェリーミートといいます)ため商品価値が失われてしまいます。
最近までクドアに感染した魚をヒトが食べて、食中毒が起きたという報告はありませんでした。しかしながら、2010年に愛媛県において、養殖ヒラメを生食した534人のうち113人に下痢や嘔吐などの症状を呈する大規模な食中毒が発生し、その原因がナナホシクドア(Kudoa septempunctata、胞子の大きさ:10μm程度)であることが判明しました。症状は比較的軽く、多くの場合は発症後24時間以内に自然回復し、予後は良好で、後遺症や重症例、死亡例はないようです。2011年から2020年まで毎年、ヒラメの生食によるクドア食中毒が発生しています(年間件数:9~43件、年間患者数:88~473人)。
ヒラメを生で食べるときは、-20℃で4時間以上あるいは-80℃で2時間以上冷凍することがクドアの食中毒を予防する有効な方法です。また、75℃で5分間以上の加熱処理によっても病原性が失われます。
ヒラメ以外でも、クロマグロやキハダマグロなどに寄生するムツボシクドア(Kudoa hexapunctata)ならびにマダイやスズキなどに寄生するイワタクドア(Kudoa iwatai)が原因と疑われる食中毒(下痢や嘔吐が主徴)が起きています。いずれもクドアが寄生した魚の生食により発症しますので、冷凍や加熱により寄生虫を死滅させれば問題はありません。
参考文献
国際連合食糧農業機関(FAO) 「世界漁業・養殖業白書2020年」
農林水産省 「令和元年漁業・養殖業生産統計」 令和2年5月28日公表
MSC(海洋管理協議会) 「MSC年次報告書2019年度」
ASC(水産養殖管理協議会) 「ASC認証:国内外での認証の広がりと最新情報」 2019
公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 こんぶ」 平成8年3月
文部科学省 「日本食品標準成分表 2015年版(七訂)」
松本義信ら 「ひじき加工時の加熱時間の違いによる鉄含有量の変化」 川崎医療福祉学会誌 27:147-152, 2017
JANUS Expert Columns 徳田先生の部屋 「第10回 海藻特有のぬるぬる、ぷるぷるの正体は?」
(http://www.janus.co.jp/tokuda/tabid/87/Default.aspx)
公益社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 のり」 平成16年3月
唐澤幸司・阿部健一 「海藻多糖類(1) 寒天」 食品と容器 53:546-551, 2012
田川昭治 「寒天の製造に関する化学的研究」 水産大学校研究報告 17:35-86, 1968
唐澤幸司・阿部健一 「海藻多糖類(2) カラギナン、アルギン酸」 食品と容器 53:610-614, 2012
大隅清治 「クジラは昔 陸を歩いていた」 PHP文庫 1997
小西健志 「ヒゲクジラはコスト至上主義?−クジラの体と食性と栄養のつながり−」 鯨研通信 438:10-17, 2008
安永玄太・藤瀬良弘 「ヒゲクジラの栄養学−栄養成分から見る捕獲調査副産物の特徴について−」 鯨研通信 423:1-5, 2004
文部科学省 「日本食品標準成分表 2015年版(七訂) 脂肪酸成分表編」
辻 浩司ら 「鯨類捕獲調査で得られた鯨類体内におけるイミダゾールジペプチド類の比較(短報)」 北海道水産試験場研究報告 74:25-27, 2009
藤野嵩大ら 「ツチクジラ赤肉の成分ならびにメタノール抽出液の抗酸化性」 日本水産学会誌 83:607-615, 2017
Noren, S. R. and Williams, T. M. “Body size and skeletal muscle myoglobin of cetaceans: adaptations for maximizing dive duration” Comparative Biochemistry and Physiology Part A 126:181-191, 2000
Schorr, G. S. et al. “First long-term behavioral records from Cuvier’s beaked whales (Ziphius cavirostris) reveal record-breaking dives” PLoS One 9:e92633, 2014
水産庁 「令和元年度水産白書参考図表」
池添博彦 「万葉集の食物文化考 Ⅱ 動物性の食を中心にして」 帯広大谷短期大学紀要 27:59-77, 1990
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 たい」 平成5年3月
崎田誠志郎 「ギリシャ・アテネにおける水産物市場の特徴と現状」 E-journal GEO 13:439-451, 2018
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 ぶり」 平成9年3月
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 まぐろ」 平成7年3月
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 かつお」 平成2年3月
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 はたはた」 平成22年6月
水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 60 さけ・ます類の漁業と資源調査(総説)」 2020
小関右介 「サケ科魚類のプロファイル-10 サケ」 SALMON情報 6:22-25, 2012
水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 62 サケ(シロザケ) 日本系」 2020
四宮明彦ら 「鹿児島県西岸で捕獲された成熟サケ」 魚類学雑誌 50:147-151, 2003
野原精一・佐竹研一 「渓流−森林系の物質移動と鮭の遡上」 地球環境 9:61-74, 2004
加藤文男 「福井県河川に遡上するサケOncorhynchus keta (Walbaum)の初期生活史」 福井市自然史博物館研究報告 54:63-74, 2007
鈴木俊哉 「サケ科魚類のプロファイル-1 ベニザケ」 さけ・ます資源管理センターニュース 7:12-13, 2001
山本祥一郎 「ヒメマス−複雑な移植の歴史をもつ水産重要種」 魚類学雑誌 62:195-198, 2015
青柳敏裕 「サケ科魚類のプロファイル-15 クニマス」 SALMON情報 11:36-39, 2017
小関右介 「サケ科魚類のプロファイル-11 ギンザケ」 SALMON情報 7:34-37, 2013
加賀敏樹 「サケ科魚類のプロファイル-7 カラフトマス」 さけ・ます資源管理センターニュース 15:12-13, 2005
水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 61 カラフトマス 日本系」 2020
鈴木俊哉 「サケ科魚類のプロファイル-5 ニジマス」 さけ・ます資源管理センターニュース 12:9-10, 2004
日本海深浦サーモン 「日本・世界のサーモン」 http://fukaurasalmon.jp/salmon.html
水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 63 サクラマス 日本系」 2020
坪井潤一 「サケ科魚類のプロファイル-12 サツキマス・アマゴ」 SALMON情報 8:38-41, 2014
藤岡康弘 「サケ科魚類のプロファイル-14 ビワマス」 SALMON情報 10:49-52, 2016
石黒直哉 「サクラマス3亜種のミトコンドリアゲノム全塩基配列の比較」 福井工業大学研究紀要 37:243-250, 2007
浦和茂彦 「サケ科魚類のプロファイル-3 マスノスケ」 さけ・ます資源管理センターニュース 9:9-10, 2002
Seafood Watch “Chinook (King) salmon-New Zealand” 2020
伴 真俊 「サケ科魚類のプロファイル-9 タイセイヨウサケ」 SALMON情報 5:33-35, 2011
斉藤寿彦・太田洋昌 「サケ科魚類のプロファイル-4 イワナ」 さけ・ます資源管理センターニュース 10:12-14, 2003
斉藤寿彦 「サケ科魚類のプロファイル-6 オショロコマ」 さけ・ます資源管理センターニュース 13:9-12, 2004
福島路生 「サケ科魚類のプロファイル-13 イトウ」 SALMON情報 9:35-38, 2015
福島路生ら 「イトウ:巨大淡水魚をいかに守るか」 魚類学雑誌 55:49-53, 2008
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 ひらめ・かれい」 平成元年3月
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 たら」 平成4年3月
水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 64 スケトウダラ(総説)」 2020
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 いわし」 昭和59年3月
永野一郎ら 「ペルーアンチョベータの資源管理」 日本水産学会誌 79:1061-1065, 2013
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 あゆ」 平成10年3月
平野敏行・章超樺 「淡水魚の香気−アユの香りはどのように生成されるか−」 化学と生物 31:426-428, 1993
新居久也ら 「シシャモSpirinchus lanceolatusの遡上河川における産卵場所と物理環境条件の関係」 日本水産学会誌 72:390-400, 2006
藤川裕司ら 「耳石Sr:Caと採集調査から推定された宍道湖産ワカサギの回遊パターン」 水産増殖 62:1-11, 2014
是枝伶旺ら 「八代海南部から得られた南限記録のシラウオ」 Nature of Kagoshima 47:101-104, 2020
片山知史ら 「耳石微量成分分析から推定された青森県小川原湖におけるシラウオの遡河回遊群」 水産増殖 56:121-126, 2008
水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 77 ニホンウナギ」 2020
塚本勝巳 「海の研究と仮説」 比較内分泌学 39:130-134, 2013
独立行政法人 水産総合研究センター 「特集 ウナギ完全養殖達成」 FRANEWS 23:4-21, 2010
Chang, Y.-L. K. et al. “New clues on the Atlantic eels spawning behavior and area: the Mid-Atlantic Ridge hypothesis” Scientific Reports 10:15981, 2020
Kurogi, H. et al. “Discovery of a spawning area of the common Japanese conger Conger myriaster along the Kyushu-Palau Ridge in the western North Pacific” Fisheries Science 78:525-532, 2012
上田幸男 「全国1位の生産額を誇る徳島産ハモ」 徳島水研だより 59:1-9, 2009
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 さんま」 平成3年3月
水産庁 水産研究・教育機構 「令和元年度 国際漁業資源の現況 76 サンマ 北太平洋」 2020
小林牧人・北川忠生 「日本のメダカの分類と標準和名について」 比較内分泌学 46:23, 2020
成瀬 清 「世界に誇る日本のメダカ研究」 総研大ジャーナル 13:2-7, 2008
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 ふぐ」 平成14年3月
厚生労働省 「自然毒のリスクプロファイル:魚類:フグ毒」
城間博正ら 「沖縄近海産ハリセンボン類の毒性調査」 沖縄県衛生環境研究所報 29:111-117, 1995
厚生労働省 「自然毒のリスクプロファイル:魚類:パリトキシン様毒」
松川展康ら 「ハコフグの喫食によるパリトキシン様毒中毒から横紋筋融解症に至ったと思われる1例」 日本救急医学会雑誌 30:189-194,2019
馬渕浩司ら 「琵琶湖におけるコイの日本在来mtDNAハプロタイプの分布」 魚類学雑誌 57:1-12, 2010
馬渕浩司 「DNAが語る日本のコイの物語」 国立環境研究所ニュース 36:6-8, 2017
堀越昌子 「淡水魚のナレズシ文化」 醸協 107:389-394, 2012
広瀬茂久ら 「酸性湖とアルカリ性湖にすむ魚の適応戦略」 Journal of Japanese Society for Extremophiles 5:69-73, 2006
寺嶋昌代・萩生田憲昭 「世界のナマズ食文化とその歴史」 日本食生活学会誌 25:211-220, 2014
荒山和則ら 「霞ヶ浦における外来種コウライギギ(ナマズ目ギギ科)の採集記録と定着のおそれ」 魚類学雑誌 59:141-146, 2012
福田芳生 新・私の古生物誌(9)-生きている化石チョウザメ類-THE CHEMICAL TIMES 227(1):12-18, 2013
福田芳生 新・私の古生物誌(10)-生きている化石ヘラチョウザメ-THE CHEMICAL TIMES 230(4):12-18, 2013
Shedko, S. V. “The low level of differences between mitogenomes of the Sakhalin sturgeon Acipenser mikadoi Hilgendorf, 1892 and the green sturgeon A. medirostris Ayeres, 1854 (Acipenseridae) indicates their recent divergence” Russian Journal of Marine Biology 43:176-179, 2017
Hagihara, S. et al. “First report of the occurrence of a female Amur sturgeon Asipenser schrenckii in advanced stages of oogenesis, off the coast of Mombetsu, Hokkaido, Japan” Coastal Marine Science 41:7-10, 2018
Amaoka, K. and Nakaya K. “First record of kaluga sturgeon, Huso dauricus, from Japan” Japanese Journal of Ichthyology 22:164-166, 1975
志賀健司 「石狩のチョウザメ(生物編)」 石狩ファイル No.0122-01, 2010
畦 五月 「近現代におけるサメの食習慣」 日本調理科学会誌 48:308-319, 2015
冨岡典子ら 「エイの魚食文化と地域性」 日本調理科学会誌 43:120-130, 2010
佐藤圭一 「サメ・エイ類にみられる繁殖様式の多様性」 比較内分泌学 40:79-82, 2014
Furumitsu, K. et al. “Reproduction and embryonic development of the red stingray Hemitrygon akajei from Ariake Bay, Japan” Ichthyological Research 66:419-436, 2019
近田靖子 「アカボヤ養殖技術開発の現状について」 北水試だより 101:14-18, 2020
成田正直ら 「オホーツク海に生息するアカボヤHalocynthia aurantiumの一般成分とカロテノイド組成」 日本水産学会誌 83:996-1004, 2017
日下兵爾ら 「マボヤフレバ-成分のガスクロマトグラフィーによる分析」 日本水産学会誌 49:617-620, 1983
倉持卓司・長沼 毅 「相模湾産マナマコ属の分類学的再検討」 生物圏科学 49:49-54, 2010
Shimada, S. “Antifungal steroid glycoside from sea cucumber” Science 163:1462, 1969
独立行政法人 水産総合研究センター 「特集 貝類の研究」 FRANEWS 25:2-20, 2011
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 やまとしじみ」 平成23年7月
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 ほたてがい」 平成6年3月
長澤一衛・尾定 誠 「シリーズ 実験動物紹介 ホタテガイ」 比較内分泌学 44:54-57, 2018
小坂善信 「総説 日本におけるホタテガイ増養殖と研究の変遷」 水産増殖 65:271-287, 2017
河原昌一郎ら 「ホタテガイの中国向け輸出拡大と国内産地への影響等に関する考察」 農林水産政策研究 31:31-50, 2019
Kawashima, K. and Yamanaka, H. “Influences of seasonal variations in contents of glycogen and its metabolites on browning of cooked scallop adductor muscle” Fisheries Science 62:639-642, 1996
社団法人 日本水産資源保護協会 「わが国の水産業 かき」 平成15年3月
薩 秀夫 「タウリンの多彩な生理作用と動態」 化学と生物 45:273-281, 2007
内藤 剛ら 「筑前海区産養殖マガキのグリコーゲン及び遊離アミノ酸量の季節変化及び年変動」 福岡県水産海洋技術センター研究報告 24:33-40, 2014
奥村卓二ら 「秋田県戸賀湾、秋田県金浦町地先、鳥取県泊村地先および島根県隠岐島島前湾におけるイワガキのグリコーゲン含量の季節変化」 日本水産学会誌 71:363-368, 2005
李 琪・森 勝義 「中国におけるカキ養殖の現状と展望」 水産増殖 54:115-119, 2006
NPO法人 海の自然史研究所 「南三陸 海モンブック Vol.11 イガイ」 2014
劉 海金・渡辺幸彦 「ミドリイガイの生物学的知見」 海洋生物環境研究所研究報告 4:67-75, 2002
圦本達也ら 「タイラギの性成熟と各種組織におけるグリコーゲン量との関係」 水産増殖 53:397-404, 2005
厚生労働省 「自然毒のリスクプロファイル:二枚貝:下痢性貝毒」
厚生労働省 「自然毒のリスクプロファイル:二枚貝:麻痺性貝毒」
厚生労働省 「自然毒のリスクプロファイル:二枚貝:神経性貝毒」
厚生労働省 「自然毒のリスクプロファイル:二枚貝:記憶喪失性貝毒」
厚生労働省 「自然毒のリスクプロファイル:巻貝:唾液腺毒(テトラミン)」
山中英明ら 「イカ墨、タコ墨のエキス成分ならびに抗菌性に関する研究」 日本調理科学会誌 31:206-213, 1998
水産庁 水産研究・教育機構 「令和2年度 国際漁業資源の現況 71 アカイカ 北太平洋」 2021
水産庁 水産研究・教育機構 「令和2年度 国際漁業資源の現況 72 海外イカ類(アルゼンチンマツイカ・アメリカオオアカイカ)」 2021
Gleadall, I. G. “Octopus sinensis d’Orbigny, 1841 (Cephalopoda: Octopodidae): valid species name for the commercially valuable East Asian common octopus” Species Diversity 21:31-42, 2016
中岡 歩ら 「福岡湾におけるテナガダコの成熟と成長」 福岡水産海洋技術センター研究報告 24:41-47, 2014
富川 光・鳥越兼治 「食卓で学ぶ甲殻類のからだのつくり-エビ・カニ・シャコ類の教材化に関する研究-」 広島大学大学院教育学研究科紀要 第二部 56:17-22, 2007
奥津智之ら 「閉鎖循環式養殖システムで飼養したバナメイエビと他のエビ類における筋肉中遊離アミノ酸含量の比較」 水産技術 3:37-41,2010
水島敏博 「北海道近海におけるタラバエビ類の繁殖生態の特性(総説)」 北海道水産試験場研究報告 73:1-8, 2008
Usio N. ら 「特定外来生物シグナルザリガニ(Pacifastacus leniusculus)の分布状況と防除の現状」 陸水学雑誌 68:471-482, 2007
川井唯史・中田和義 「ニホンザリガニの保全(総説)」 帯広百年記念館紀要 19:67-78, 2001
小林 哲 「モクズガニEriocheir japonica(de Haan)の繁殖生態(総説)」 日本ベントス学会誌 54:24-35, 1999
小林 哲 「河川環境におけるカニ類の分布様式と生態-生態系における役割と現状-」 応用生態工学 3:113-130, 2000
本尾 洋ら 「陸奥湾のトゲクリガニとその漁業について」 CANCER 6:11-15, 1997
田村亮一 「タラバガニ種苗生産試験の現状について」 北水試だより 98:1-6, 2019
和田政裕 「多分野で活用されるキチン・キトサン −かに殻から生まれる有用バイオ資源−」 ニッスイGLOBAL No. 67, 2010
北村晃利ら 「Haematococcus属緑藻によるアスタキサンチンの商業生産」 生物工学 93:383-387, 2015
有田 誠・磯部洋輔 「ω3系脂肪酸由来の抗炎症性代謝物の構造と機能」 生化学 80:1042-1046, 2008
橋本道男 「ω3系脂肪酸と認知機能」 日本臨牀 72:648-656, 2014
薮崎紀充ら 「横川吸虫症による小腸穿孔の1例」 日本臨床外科学会雑誌 71:2611-2614, 2010
Matsuoka K. and Matsuoka T. “Over-the-counter medicine (Seirogan) containing wood creosote kills Anisakis larvae” Open Journal of Pharmacology and Pharmacotherapeutics 6:9-12, 2021
中村ふくみ 「ホタルイカで感染する旋尾線虫症」 ドクターサロン 62:738-742, 2018
床島眞紀ら 「ウエステルマン肺吸虫症23例の臨床的検討」 日本呼吸器学会雑誌 39:910-914, 2001
横山 博 「クドア症」 魚病研究 51:163-168, 2016