あとがき
化学とは、自然界に存在する多種多様な物質が何からできているのか、どのような性質があるのか、どのように変化するのか、などを説明する学問です。本書は「雑学としての生活化学」と題し、日々の生活で知覚する色々なものや現象を化学目線で解説することを試みました。本書は教科書ではなく一般書ですので、中学生から社会人まで多くのひと(特に化学は嫌いと自称するひと)が身の回りの化学に興味をもてるように最大限の配慮をしたつもりですが、難解な点がありましたらご指摘いただければ幸いです。「雑学としての・・・」としたように、本書で取り上げた生活における様々な知識が網羅的になっている点は否めませんが、ある程度の関係性をもたせて読者のみなさんをナヴィゲートしたつもりですので、著者の意図を汲み取っていただければ幸いです。雑学という学問はないそうですが、ひとりの人間が一生の間に身につける知識は雑学の集大成としての唯一無二の学問ではないでしょうか。雑学は教養に通ずるところがありますので、本書が皆様の教養の一ページになることを願っています。
生活と化学を結びつけて解説した書籍としては、大学における一般教育を目的に書かれた「生活化学」(伊藤哲雄・宇野虹児・波多江一八郎・波多野正邦・三橋達雄 共著、東京教学社、1981年)や「生活の化学」(山崎 昶・會澤敏雄 共著、裳華房、1989年)、「暮らしの化学」(国本浩喜 著、裳華房、1996年)、放送大学の自然と環境コースで用いられている教材「生活と化学」(濱田嘉昭・花岡文雄 共著、放送大学教育振興会、2014年)、私設ホームページ「生活と化学」(長谷川裕也 開設)の内容の一部が書籍化された「高校教師が教える身の回りの理科」(工学社、2015年)などが出版されていますのでご紹介しておきます。もう一段上のレベルの生活化学を勉強したい読者は、これらの書籍にチャレンジしてみて下さい。
宮城県保健環境センターや熊本県保健環境科学研究所などに「生活化学部」という部署が置かれ、食品中の残留農薬検査や畜水産食品中の動物用医薬品残留検査、食品添加物試験、家庭用品中の有害物質検査等が行なわれています。今後益々「生活化学」という言葉が日常的に使われるようになれば、化学をより身近なものに感じてもらえるようになるのではないかと期待しています。
私は大学で教鞭を執っていたとき、人生を彩り豊かなものにするために日々の生活の中で五観(宇宙観、地球観、生物観、人間観、そして死生観)を養いましょうと学生に話したものです。本書において、さすがに死生観については化学の視点からは言及しませんでしたが、宇宙観や地球観、生物観、人間観についてはところどころに鏤めましたので、読者の皆様に読み取ってもらえれば望外の喜びです。