目次
はじめに/ 砂糖/ 蜂蜜/ シロップ①メ−プルシロップ②アガベシロップ③コーンシロップ・異性化液糖④ソルガムシロップ/ グリセミックインデックス(GI)/ 甘味物質と甘味度①糖②糖アルコール③テルペン配糖体④甘味タンパク質⑤人工甘味料/ 参考文献
はじめに/ 砂糖/ 蜂蜜/ シロップ①メ−プルシロップ②アガベシロップ③コーンシロップ・異性化液糖④ソルガムシロップ/ グリセミックインデックス(GI)/ 甘味物質と甘味度①糖②糖アルコール③テルペン配糖体④甘味タンパク質⑤人工甘味料/ 参考文献
甘味料sweetenerは食品に甘味をつけるために用いる調味料です。食品衛生法上の食品添加物(指定添加物や既存添加物)として使用されている甘味料もあります。甘味料は天然甘味料と人工甘味料に分けられます。天然甘味料には砂糖や果糖などの糖類、蜂蜜、シロップ、ソルビトールやキシリトールなどの糖アルコール、ステビアやカンゾウなどのテルペン配糖体、ソーマチンなどの甘味タンパク質などがあり、人工甘味料にはアスパルテームやサッカリンなどがあります。
砂糖はショ糖が主成分であり、私たちが日常口にする食品の甘み成分としてなくてはならないものです。ショ糖は化学的には単糖のグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が結合した二糖であり、1章植物「光合成産物の行方」のところで説明した転流の主要物質です。
砂糖は主にサトウキビやテンサイから製造されています。テンサイ(甜菜)については5章野菜「ナデシコ目の野菜①ビートの進化」を参照してください。サトウキビ(砂糖黍、別名:甘蔗、英名:sugarcane、学名:Saccharum officinarum)はイネ目イネ科サトウキビ属(Saccharum)の植物です。別名の甘蔗は「カンシャ」あるいは「カンショ」と読まれますが、「カンショ」はサツマイモの別名甘藷(カンショ)と同じ読みになるため、好まれないようです。茎が竹のように木化して節があり、節と節の間の内部の髄に12〜16%の糖分が貯蔵されています。ニューギニア島あたりが原産で、紀元前6,000年頃に東南アジアやインドに広まり、紀元前500年頃インドで製糖が始まったと考えられています。日本には奈良時代754年に唐の僧侶である鑑真が日本に渡来した折、砂糖を持参したといわれています。サトウキビは現在、日本では主に沖縄県と鹿児島県南西諸島で栽培されています(写真7-1、7-2)。
サトウキビは刈り取ってそのまま放置しておくと、ショ糖が分解され、品質が低下してしまうため、刈り取り後は、なるべく早くサトウキビ生産地にある製糖工場で原料糖(粗糖)にします。サトウキビは裁断・破砕され、圧搾機で圧搾され搾り汁が得られます。搾りかすはバガスとよばれ、ボイラーの燃料などとして利用されます。搾り汁に消石灰(水酸化カルシウム)を加えて連続沈殿槽に入れ、タンパク質などのコロイド物質や有機酸などの非糖分を凝集沈澱させます(石灰清浄法とよばれます)。清浄汁を多重効用缶で濃縮後、真空結晶缶で煎糖してショ糖を結晶化します(カラメルのような色にならないように真空にして低温で結晶を作ります)。遠心分離機で結晶と糖蜜(廃糖蜜とよばれます)を分離(分蜜)します。得られた結晶(粒径:0.7~1.0mm)が原料糖で、この形で国内の精製糖工場に船などで輸送されます。また、海外から輸入する場合も原料糖の状態で船輸送されます。この原料糖は褐色を呈し、不純物が多く含まれています。廃糖蜜は40~60%の糖分を含むため、ラム酒や甲類焼酎のホワイトリカーを造る原料などとして利用されます。
精製工程においては、まず、原料糖の表面に付着している不純物を洗浄して取り除き、温水に溶解します。この糖液(ローリカー)に消石灰を添加し、炭酸ガスを飽充します。生成した不溶性の炭酸カルシウムに不純物は吸着され、濾過により除去されます。得られた透明な琥珀色した濾過糖液(ブラウンリカー)は、活性炭やイオン交換樹脂で着色物質が除去され脱色されます。得られた無色透明な糖液(ファインリカー)は真空結晶缶に送られ、ショ糖は再結晶化されます。製品分離機で分蜜し、得られた結晶が砂糖製品(精製糖)になります。糖蜜にはまだショ糖が相当残っていますので、結晶工程に戻され、結晶化・分蜜が繰り返されます。通常、ファインリカーから最初に結晶化して得られた砂糖がグラニュ糖で、二番目のものが上白糖、三番目のものが三温糖とされています。ショ糖含量はグラニュ糖99.95%、上白糖97.80%、三温糖95.40%であり、結晶化が繰り返されるとショ糖含量は下がります。三温糖の名称は煎糖過程を3回経て得られることによります。三温糖は茶褐色をしていますが、これは糖液を繰り返し加熱することにより起こるカラメル化によると考えられます。三温糖を製造した後の糖蜜は精製糖廃糖蜜とよばれ、カラメル化により黒褐色を呈します。
以上のようにサトウキビの搾り汁から糖蜜を分離して得られるグラニュ糖、上白糖、三温糖などは分蜜糖とよばれます。これに対して、サトウキビの搾り汁をそのまま煮詰めて固めたものが黒砂糖(または黒糖)であり、糖蜜を含むので含蜜糖とよばれます。黒砂糖のショ糖含量は75~86%と分蜜糖に比べるとかなり低いですが、カルシウムや鉄などのミネラルが多く、また、渋味や苦味などの雑味も多いため、味わい深い特徴があります。黒砂糖を溶かして煮詰めたものは黒蜜とよばれ、パンケーキなどにかけて食べます。黒蜜は後述するシロップの一種と考えられます。
続いてテンサイ(別名:サトウダイコン)から作られる砂糖(てん菜糖)について簡単に説明します。日本ではテンサイはもっぱら北海道で生産されています。テンサイの根には16~17%の糖分が含まれています。収穫されたテンサイは細かく刻まれ、温水に浸して糖分が抽出されます。抽出残渣はビートパルプとよばれ、ウシの飼料などとして利用されます。得られた糖汁に消石灰を添加し、炭酸ガスを吹き込んで不純物を除去します。得られた清浄な糖液をイオン交換樹脂に通して、アミノ酸や有機酸、灰分、色素等の非糖分を除去します。非糖分を除去した糖液を濃縮後、ショ糖を結晶化し、結晶と糖蜜を遠心分離すると精製糖が得られます。糖蜜にはまだショ糖が多く残っていますので、結晶化と分蜜が繰り返されます。サトウキビのところで説明した原料糖を経ることなく、直接作られた白砂糖は耕地白糖とよばれますが、てん菜糖のほとんどは耕地白糖です。
2020/21国際砂糖年度(10月~翌9月)における世界の砂糖生産量(粗糖換算)は1億8,203万トンと推定(LMC Internationalの統計)されており、そのうち約77%はサトウキビから、約23%はテンサイから製造されています。サトウキビからとれる甘しゃ糖の主要な生産国はブラジルやインド、中国、タイ、パキスタン、メキシコなどであり、一方、てん菜糖の主要な生産国はロシアやドイツ、アメリカ、トルコ、フランス、ポーランドなどです。日本における2020/21砂糖年度(10月~翌9月)の推定砂糖生産量(粗糖換算)は83.7万トンであり、内訳は甘しゃ糖が15.1万トン、てん菜糖が68.6万トンです。
2020/21砂糖年度における日本の砂糖供給量(実績)は国内産糖が78.2万トン、輸入糖が103.3万トン、合計181.5万トン(農林水産省の統計)であり、わが国の砂糖自給率は43.1%です。国内産糖の内訳は北海道産てん菜糖80.9%、鹿児島産甘しゃ糖8.1%、沖縄産甘しゃ糖11.0%であり、国外産糖の輸入先はオーストラリア(88.5%)とタイ(11.5%)です。
砂糖は上述したように殆どがサトウキビやテンサイから造られていますが、その他にヤシから採れるパームシュガー、サトウカエデから採れるメープルシュガー(後述するメープルシロップを参照)、リュウゼツランから採れるアガベシュガー(後述するアガベシロップを参照)などがあります。
パームシュガー(ヤシ糖)は、ヤシ目ヤシ科の常緑高木であるサトウヤシ(砂糖椰子、英名:sugar palm、学名:Arenga pinnata)やココヤシ(英名:coconut palm、学名:Cocos nucifera)、オウギヤシ(扇椰子、英名:palmyra palm、学名:Borassus flabellifer)などのヤシの樹液から採れる砂糖です。サトウヤシはマレーシア原産のクロツグ属(Arenga)の植物で東南アジアに広く分布しています。ココヤシはココヤシ属(Cocos)の植物で、その果実ココナツからは4章植物油で述べたようにヤシ油が採取されます。オウギヤシは熱帯アフリカ原産のパルミラヤシ属(Borassus)の植物で、東南アジアからインドにかけて栽培されています。これらのヤシの樹液を集め、鍋で煮詰めて固体状あるいは粉末状にするとヤシ糖ができます。新鮮な樹液の糖分は約10〜11%で、糖組成はほぼショ糖のみです。樹液を放置するとショ糖が分解されてグルコースやフルクトースが生じ、微生物による発酵も始まるので、樹液を採取したら速やかに煮詰めてヤシ糖にする必要があります。ヤシ糖は含蜜糖に分類され、ショ糖含量は67〜81%程度で、黄褐色から褐色の色調を呈しています。
蜂蜜はアカシア、トチ、レンゲ、リンゴ、ソバなどの花の蜜をミツバチが採集・貯蔵したものです。ミツバチならびに蜂蜜生産量については9章畜産物で詳述します。花蜜に含まれる主な糖質はショ糖であり、糖度は植物の種類により10〜60%程度と幅があります(アカシア:約56%、レンゲ:約50%、ライチー:約30%、サルビア:約23%、ウメ:約10%など)。花蜜はミツバチにより採集され、巣に蜂蜜として貯蔵される段階でミツバチの扇風機のような羽ばたきにより水分が蒸発し、糖分は80%程度になります。また、ミツバチの唾液に含まれているインベルターゼという酵素によりショ糖の大部分はグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)に分解されています。ほぼ1種類の花から集められた蜂蜜は単花蜜、様々な花から集められた蜂蜜は百花蜜とよばれます。
蜂蜜には芽胞を形成して活動休止状態になったボツリヌス菌が含まれている場合があります。この菌はボツリヌス毒素という食中毒を引き起こす猛毒(最強の天然毒で、テトロドトキシンの1,000倍以上の毒力を有します)を産生することが知られていますが、通常は摂取しても腸内細菌叢(9章畜産物「乳と乳製品⑪プロバイオティクスとプレバイオティクス」を参照)があるため、活動休止状態のまま体外に排出され、毒素は産生されないので問題ありません。しかしながら、芽胞の発芽を妨げる腸内細菌叢がまだ備わっていない乳児が摂取すると、腸管内で発芽して毒素が産生され、中毒症状(乳児ボツリヌス症)を引き起こし死亡することがあります。そのため、日本国内の蜂蜜商品には「1歳未満の乳児には与えないようにしてください」という注意書きが貼られています。
シロップsyrupは濃厚で粘稠性のある糖液の総称で、メープルシロップやアガベシロップ、コーンシロップ・異性化液糖、ソルガムシロップなどがあります。
①メープルシロップ
メープルシロップはサトウカエデ(砂糖楓、英名:sugar maple、学名:Acer saccharum)などのカエデの樹液を煮詰めて濃縮した甘味料です。カエデmapleはムクロジ目ムクロジ科カエデ属(Acer)の木の総称で、カエデの名称の由来は、葉の形がカエルの手に似ていることから蛙手(カへルテ)とよばれ、それが転じてカヘデとなり、カエデとなったといわれています。サトウカエデは北アメリカ原産で、カナダの国旗にはこの木の葉がデザインされています。
カエデの幹に穴を開けて、そこに管を差し込み、樹液をバケツなどの容器に集めます。カナダではサトウカエデの樹液の流動が盛んになる2月から4月にかけて樹液が採取されます。カエデの樹液はメープルウォーターとよばれています。1本の木から約40〜80リットルの樹液が採れ、1リットルのメープルシロップを作るには約40リットルの樹液が必要といわれています。樹液には2〜2.5%程度の糖分しか含まれていないので、これを煮詰めて濃縮し、ろ過するとメープルシロップができあがります。
世界のメープルシロップ生産量の約80%をカナダが占めており、中でもケベック州はカナダ産の約90%を生産しているといわれています。
メープルシロップにはショ糖が約58%含まれ、ブドウ糖や果糖は1%以下しか含まれていません(水分:約33%)。メープルシロップを更に煮詰めて濃縮して固体状にするとメープルシュガーとよばれる砂糖になります。
②アガベシロップ
アメリカ南西部(アリゾナ州やニューメキシコ州)からメキシコ、メソアメリカにかけてリュウゼツラン(竜舌蘭、別名:アガべ、英名:agave、写真7-3)という多肉質の葉をもつ植物が自生しています。リュウゼツランはキジカクシ目キジカクシ科リュウゼツラン属(Agave:学名のままアガベ属ともよばれます)に属し、ナデシコ目サボテン科のサボテンとは近縁ではありません。形状がアロエに似ていますが、アロエはキジカクシ目ススキノキ科に属しています。また、ランという名前が付されていますが、蘭はキジカクシ目ラン科の植物ですので、これとも異なります。リュウゼツランは100年に一度花を咲かせることからcentury plantともよばれ、また、メキシコではリュウゼツランはマゲイmagueyともよばれています。
リュウゼツランの太い茎の部分をくりぬいて穴を掘ると、そこに篩管を転流する(1章植物「光合成産物の行方」を参照)ショ糖やフラクトオリゴ糖(ケストース、ネオケストース、ニストースなど)を含む甘い液が溜まります。この樹液はアグアミエルaguamiel(蜜水という意味があります)とよばれ、メキシコで広く飲まれています。特にAgave lechuguillaから得られるアグアミエルはレチュギーヤとよばれ、愛飲されています。
リュウゼツランの太い茎の部位にはフルクタンというフルクトース(果糖)からなる多糖が高濃度(25〜30%)に含まれています。リュウゼツランのフルクタンは、5章野菜「ネギ属の根菜類」で述べたグラミナン型の枝分かれ構造をしたもので、非常に水に溶けやすく(直鎖型のイヌリンの実に20倍以上)、室温で1gの水に3g以上溶けるそうです。
葉を取り除いた茎の部分はパイナップルに似ていることからピーニャpiñaとよばれ(ピーニャはスペイン語でパイナップルのことです)、重さは30〜50kgもあります。メキシコの有名なお酒であるテキーラtequilaは、このピーニャから造られる蒸留酒です。
アガベシロップはブルーアガベ(Agave tequilana)やアオノリュウゼツラン(Agave americana)(写真7-3)などのピーニャを破砕・圧搾して得られる液汁を加温して糖化したものを濃縮して造られます。加温の段階で液汁に含まれるフルクタンは、イヌリナーゼによる酵素的分解と酸加水分解(液汁のpH≒5)により甘いフルクトースに変化します。アガベシロップにはフルクトースが約56%、グルコースが約20%含まれており、ショ糖はほとんど含まれていません(水分約23%)。アガベシロップをスプレードライして粉末状にしたものはアガベシュガーとよばれ、砂糖の代替品として利用されています。
アガベシロップのグリセミックインデックス(GI: glycemic index)は20〜30と低く、血糖値を穏やかに上昇させることが知られています。GIについては後述します。
ピーニャの樹液を加温・糖化しないで、スプレードライすると加水分解されない多糖のフルクタンが得られます(イヌリンファイバーともよばれています)。これは水溶性食物繊維であり、整腸作用やビフィズス菌増殖作用、カルシウムなどのミネラル吸収促進作用、血糖上昇抑制作用、コレステロール低下作用など健康増進に役立ちます。イヌリンファイバーは加工食品や乳製品、ダイエット食品、青汁などに使用されています。
③コーンシロップ・異性化液糖
トウモロコシのデンプン(コーンスターチ)を酵素(α-アミラーゼやグルコアミラーゼ)または酸で加水分解して得られる糖液がコーンシロップです。α-アミラーゼはデンプンの糖鎖の内部を加水分解し、デンプン粒を小さく切断することにより液化します。グルコアミラーゼは小さくなったデンプンの糖鎖を末端から切断し、グルコースを1分子ずつ切り離す作用を有しています。このようにして造られるコーンシロップはグルコースの含有率が高いという特徴があります。
異性化液糖は、コーンシロップなど主としてグルコースからなる糖液をグルコースイソメラーゼ(ブドウ糖異性化酵素)またはアルカリにより異性化し、果糖とブドウ糖を主成分とする液状の糖です。ここでいう異性化とはブドウ糖を果糖に変える反応のことです。異性化液糖は日本農林規格(JAS)では、デンプンを原材料とし、糖分が70%以上で、糖のうちの果糖の割合(果糖含有率)が35%以上であることとされており、さらに果糖含有率が50%未満のものを「ぶどう糖果糖液糖」、50%以上90%未満のものを「果糖ぶどう糖液糖」および90%以上のものを「高果糖液糖」としています。2020/21砂糖年度(10月~翌9月)における日本の異性化糖供給量(実績)は75.0万トンです。
④ソルガムシロップ
ソルガムシロップはモロコシの一品種であるスイートソルガム(2章穀類「モロコシ」を参照)の茎の搾汁液(ソルガムジュースとよばれ、糖分は10〜17%程度)を煮詰めて濃縮したものです。糖組成はショ糖:ブドウ糖:果糖≒8:1:1で、ショ糖が一番多く含まれています。ソルガムシロップは主に米国で生産されています。
GIは食品に含まれる一定量の糖質を摂取したときの血糖上昇度合いを、基準食であるグルコース(ブドウ糖)摂取時を100とした相対値で表したものです(基準食を米飯や白パンとする場合もあります)。具体的には健常者がグルコース50gを摂取したときの食後2時間までの血糖上昇曲線下面積(IAUC : incremental area under the blood glucose response curve)を100として、同じ被験者が糖質(食物繊維は含まれない)50gを含む食品を摂取したときのIAUCの比率(%)を表すもので、GI=食品摂取時のIAUC÷グルコース摂取時のIAUC×100で求められます。
代表的な食品のGIを表7-1に示します。GIが70以上の食品を高GI食品(白米飯や食パン、ジャガイモなど)、56〜69の食品を中GI食品(カボチャやサツマイモ、ポップコーンなど)、55以下の食品を低GI食品(スパゲッティや大麦、豆類など)といいます。
フルクトース(果糖)のGIは15と低く、砂糖の主成分であるショ糖(グルコースとフルクトースからなる二糖)のGIは65程度です。蜂蜜は前述したようにグルコースとフルクトースをほぼ1:1で含むため、GIはショ糖とほとんど同じです。アガベシロップは前述したようにフルクトースを多く含むので、GIは20〜30程度です。
GIは食品単品での測定であり、実際の食事では複数の食品を摂取するため、GIは大きく変化します。デンプンを多く含む高GI食品と食物繊維を一緒に摂取するとGIが低下することはよく知られています(2章穀類「食物繊維」を参照)。また、食酢を米飯やジャガイモと一緒に摂取すると、食後血糖値の上昇が抑制されることが見出されていますが、これは食酢の主成分の酢酸により食べ物の胃内滞留時間が延長され、消化・吸収が遅延することによるものと考えられています。
甘味物質の甘味の強さを評価する指標を「甘味度(カンミド)」といいます。一般的にはショ糖の甘味度を1.00とし、各種甘味物質の甘味度を相対的に表します。代表的な甘味物質の甘味度を表7-2に示します。甘味物質は糖や糖アルコール、テルペン配糖体、甘味タンパク質、人工甘味料などに分類されます。
①糖
果糖(フルクトース)が糖の中で最も甘味が強く、ミルクに含まれる乳糖(ラクトース、9章畜産物「乳と乳製品」を参照)は甘味が弱いことが分かります。表には示してありませんが、デンプンをβ-アミラーゼで分解して得られる麦芽糖(マルトース、5章野菜「イモ類③サツマイモ」を参照)の甘味度は0.3程度です。
②糖アルコール
糖アルコールは単糖を還元して得られるもので、ソルビトール(別名:ソルビットあるいはグルシトール)はグルコースやフルクトースから、マンニトール(別名:マンニット)はマンノースやフルクトースから、キシリトール(別名:キシリット)はキシロースからそれぞれ得られます。これらの糖アルコールにはショ糖の半分程度の甘味があり、食品衛生法上の指定添加物に指定されています。
キシリトールは口腔内の虫歯菌の増殖や酸の生成を阻害して、虫歯になりにくくするので、チューインガムなどの甘味料に使用されています。また、「歯の健康維持に役立つ」成分としてキシリトールを含む特定保健用食品が許可されています。
③テルペン配糖体
ステビオシドやレバウジオシドA、グリチルリチンなどのテルペン配糖体はショ糖より100倍から300倍程度甘味の強い天然甘味料で、食品衛生法上の既存添加物(甘味料)として認められています。
南米パラグアイ原産のキク目キク科ステビア属(Stevia)の多年草であるステビア(英名:sweet leaf、学名:Stevia rebaudiana)の葉には、ステビオシドやレバウジオシドAなどの甘味成分が含まれています。これらの成分はステビオールというジテルペンにグルコースという糖が結合しているためテルペン配糖体とよばれます。ステビアは甘味料の名称としても用いられます。ステビアは清涼飲料水(ポカリスエットやコカ・コーラなど)や缶コーヒーなどに使用されています。
グリチルリチン(またはグリチルリチン酸)はマメ目マメ科カンゾウ属(Glycyrrhiza)の多年草であるウラルカンゾウ(ウラル甘草、英名:licorice chinese、学名:Glycyrrhiza uralensis)ならびにスペインカンゾウ(スペイン甘草、英名:liquorice or licorice、学名:G. glabra)の根およびストロンstolon(匍匐茎:地上近くを這って伸びる茎のこと)に含まれる甘味成分です。カンゾウは甘味料の名称としても用いられます。ウラルカンゾウの原産地は中国東北部、スペインカンゾウの原産地は南ヨーロッパから小アジア、中央アジアにかけてといわれています。グリチルリチンはグリチルレチン酸というトリテルペンにグルクロン酸(グルコースを酸化して得られる誘導体)が結合したテルペン配糖体の一種で、抗炎症作用や肝機能改善作用などがあることから、甘草は生薬として漢方薬にも利用されています。グリチルリチンは腸内細菌によりグリチルレチン酸に代謝され、体内に吸収されます。グリチルレチン酸が肝臓で代謝されて生じる3-モノグルクロニルグリチルレチン酸は偽アルドステロン症とよばれる低カリウム血症や血圧上昇、筋肉痛、浮腫、倦怠感などの副作用を引き起こすことがあるので、甘草を含む漢方薬の摂取には注意が必要です。
④甘味タンパク質
表7-2に示した甘味タンパク質は卵白リゾチームを除き植物由来です。これらの甘味タンパク質のうちソーマチンだけが食品衛生法上の既存添加物(甘味料)として認可されています。
ソーマチンthaumatin(別名:タウマチン)は西アフリカ原産のショウガ目クズウコン科のタウマトコックス・ダニエリ(Thaumatococcus daniellii)の果実から分離される分子量22,000の一本鎖タンパク質で、甘味度がショ糖より数千倍も強い超甘味物質です。ソーマチンは単に甘味を呈するのみならず、苦味や渋味を抑制する作用や香味を増強する作用を有することが知られています。
⑤人工甘味料
人工甘味料は表7-2に示すように様々な化合物が合成されており、ショ糖に比べて数百倍から1万倍も甘いのが特徴です。食品衛生法上の指定添加物(甘味料)に指定されています。
サッカリンは1878年に米国ジョンズ・ホプキンス大学のコンスタンチン・ファールバーグConstantin Fahlbergとアイラ・レムセンIra Remsenにより合成された世界初の人工甘味料で、ショ糖の400〜700倍の甘味をもちます。一時期発癌性が疑われ、使用禁止になりましたが、その後見直され、発癌の危険性はないことがわかり、現在は指定添加物として認可されています。
アスパルテームは米国のサールSearle薬品が1965年に開発した甘味料です。アスパラギン酸とフェニルアラニンという2つのアミノ酸からなるジペプチドがメチル化されたもので、ショ糖より200倍も甘い物質です。日本では1983年に指定添加物として使用が認可されています。
ネオテームはアスパルテームにジメチルブチル基が結合した誘導体で、アスパルテームより30〜50倍(ショ糖より6,000〜10,000倍)も甘味が強いものです。日本では2007年に認可されています。
表7-2には示してありませんが、味の素株式会社によりアスパルテームに3-ヒドロキシ-4-メトキシ-フェニルプロピル基を導入して開発されたアドバンテームという甘味料があります。アスパルテームより90〜120倍(ショ糖より14,000〜48,000倍)も甘い物質で、2014年に日本で認可を受けています。
アセスルファムK(カリウム)は1967年にドイツのヘキストHoechst AG社(現在セラニーズCelanese社)により開発された甘味料で、ショ糖より200倍も甘味が強いものです。日本では2000年に指定添加物として認可されています。摂取後ほぼ100%が速やかに体内に吸収され、24時間後にほぼ100%がアセスルファムKのまま尿および糞中に排泄されます。
スクラロースは1976年にイギリスのテイト&ライルTate & Lyle社により、ショ糖(スクロース)の3つのヒドロキシ基を選択的に塩素(Cl)で置換して合成されたもので、ショ糖より600倍も甘い甘味料です。日本では1999年に指定添加物として認可されています。摂取後、消化・吸収されることなく、ほぼ100%が約24時間後に排泄されます。
2020/21砂糖年度(10月~翌9月)における日本の人工甘味料輸入量は、アスパルテーム60.8トン、アセスルファムカリウム615.0トン、スクラロース33.1トン、合計708.9トンと報告されています。
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