枕石漱流

5章 野菜

目次

はじめに/ 野菜の分類/ イモ類①ジャガイモ②キャッサバ③サツマイモ④ヤムイモ⑤タロイモ/ コンニャクイモ/ レンコン/ ユリ根/ キク科の根菜類①キクイモ②ヤーコン③ゴボウ④チコリ/ キク科の葉菜類①レタス②シュンギク③フキ④食用菊/ ネギ属の根菜類①ニンニク②ラッキョウ③タマネギ/ ネギ属の葉菜類①ネギ②ニラ/ アスパラガス/ ナス科の野菜①ナス②トマト③トウガラシ・ピーマン・パプリカ/ アブラナ科の野菜①カブ・ハクサイ類②キャベツ類③カラシナ類④セイヨウアブラナ類⑤ダイコンとハツカダイコン⑥ワサビ⑦セイヨウワサビ⑧オランダカラシ/ アブラナ科根菜類・葉菜類の辛味/ ナデシコ目の野菜①ビートの進化②ホウレンソウ③アマランサス④ツルムラサキ/ ウリ科の野菜①キュウリ②シロウリ③ヒョウタン④ユウガオ⑤トウガン⑥カボチャ⑦ズッキーニ⑧ニガウリ⑨ヘチマ/ セリ目の野菜①セリ②ミツバ③ニンジン④パセリ⑤セロリ⑥オタネニンジン⑦ウド⑧タラの芽/ ショウガ科の野菜①ショウガ②ミョウガ③ウコン/ オクラ/ シソ/ タケノコ/ コショウ/ サンショウ/ 褐変反応/ 参考文献

はじめに

 農林水産省のホームページで検索してみると、「野菜と果物の分類については、はっきりした定義はありません」と書かれていますが、生産分野では一般的に野菜は①田畑に栽培されること、②副食物であること、③加工を前提としないこと、④草本性であることという特性をもつ植物であると記載されています。果物は果樹と分類され、木本性の永年作物とされています。メロンやスイカ、バナナ、イチゴなどは草本性なので野菜ということになりますが、果物のように食べられるので果実的野菜とよばれます。

 本章では野菜について説明し、果実的野菜を含む果物については6章で述べることにします。

野菜の分類

 野菜は食用の草本植物であり、食用とする部位により根菜類、葉菜類、果菜類に分けられます。

 根菜類は根や地下茎、鱗茎、担根体を食用にするものです。根には肥大した直根(ゴボウやニンジン、ダイコン、カブ、テーブルビート、テンサイなど)ならびに側根や不定根に由来する塊根(サツマイモやキャッサバ、ヤーコンなど)があります。地下茎には球茎(サトイモやコンニャクイモなど)や根茎(レンコンやショウガ、ワサビなど)、塊茎(ジャガイモやキクイモなど)があります。鱗茎とは短縮茎に葉(鱗葉)が重なり合い層状になっているものであり、タマネギやニンニク、ラッキョウ、ユリ根などがあります。担根体とは根でも茎でもないヤマノイモ属に特有の器官であり、ヤマノイモやナガイモなどがあります。

 葉菜類は葉や茎、花を食用とする野菜のことです。主に葉を利用する葉野菜にはホウレンソウ、コマツナ、アブラナ、カラシナ、ワサビナ、ノザワナ、ミズナ、チンゲンサイ、ネギ、ニラなどの葉が広がっている非結球性のものと、キャベツ、ハクサイ、レタスなどの葉が丸くかたどる結球性のものがあります。アスパラガスやウドなどは茎を利用するもので茎菜類とよばれることがあります。また、花の部分を利用するものにはカリフラワーやブロッコリー、ミョウガ、食用菊などがあり、花菜類とよばれます。

 葉野菜は一般的には光合成色素クロロフィルによる緑色をしていますが、緑色でないものも見られます。赤ジソや赤キャベツは、もちろん葉緑体をもち光合成をしますが、その他に液胞の中にそれぞれシソニンやルブロブラシンという赤いアントシアニン色素(1章植物「植物の色」を参照)が含まれているため赤紫色に見えます。最近野菜用に栽培され始めた赤色アマランサス(熱帯のホウレンソウともよばれ、岐阜大学が「仙寿菜」という商標名で登録したブランド野菜が販売されています)は、液胞に赤紫色のベタシアニンという色素(1章植物「植物の色」を参照)が含まれているため赤色に見えます。これらの液胞に存在するアントシアニンやベタシアニンは光合成色素ではありません。

 果菜類は果実を主に食べる野菜のことであり、トウガラシ、ピーマン、パプリカ、シシトウ、オクラ、ナス、トマト、キュウリ、シロウリ(別名:ツケウリ)、カボチャ、ズッキーニ、ユウガオ、トウガン、ニガウリ(別名:ゴーヤ)などがあります。キュウリ、シロウリ、カボチャ、ズッキーニ、ユウガオ、トウガン、ニガウリは全てウリ科の植物であり、その特徴は蔓性であることです。ただし、ズッキーニには蔓がありません。

 トウモロコシは2章穀類で、ダイズやインゲンマメ、エンドウなどは3章豆類で解説したように完熟したものを乾燥させて利用する場合もありますが、野菜として食される場合もあります。トウモロコシはスイートコーンなど完熟前のものを茹でたり、焼いたりして食べます。枝豆は未熟なダイズの豆を食べますし、サヤインゲンは未熟な軟莢種のインゲンマメを莢ごと食べます。エンドウは軟莢種をサヤエンドウやスナップエンドウとして莢ごと食べる場合と、完熟直前の豆をグリーンピースとして食べる場合があります。

イモ類

 サツマイモやキャッサバ、ジャガイモ、ヤムイモ、タロイモなど、いわゆるイモ類の多くはデンプンを貯蔵しており、穀類と同様にエネルギー源に適しています。ジャガイモ、キャッサバ、サツマイモは世界三大イモ類の地位を占めており、国際連合食糧農業機関(FAO)の統計(FAOSTAT)によると、2019年の世界における生産量はジャガイモ3.70億トン、キャッサバ3.04億トン、サツマイモ0.92億トンとなっています(表5-1)。

①ジャガイモ

 ジャガイモ(英名:potato、学名:Solanum tuberosum)はナス目ナス科ナス属(Solanum)の植物で、南米アンデス山脈の高原地帯(ペルー、エクアドル付近)が原産といわれています。ジャガイモはインカ文明の火を灯した食料として重要です。大航海時代(6章果物「ビタミンCと壊血病」を参照)の16世紀後半にインカのお土産としてスペイン人が自国に持ち帰り、その後ヨーロッパ全域に広がりました。ヨーロッパは16世紀後半から18世紀後半にかけて小氷期にあり、その時代の大飢饉は南米由来のジャガイモにより救われました。現在、ジャガイモはイモ類の中で最も多く生産されており、2019年における世界の生産量は3億7,044万トンです(表5-1)。主要な生産国は中国(シェア:24.8%)、インド(13.5%)、ロシア(6.0%)、ウクライナ(5.5%)、アメリカ(5.2%)、ドイツ(2.9%)、バングラデシュ(2.6%)、フランス(2.3%)、オランダ(1.9%)、ポーランド(1.7%)などです。

 ジャガイモは日本には1600年頃オランダ船により伝えられたといわれています。当時のオランダ領ジャワ島のジャカトラJacatra(日本ではジャガタラとよばれました。現在のジャカルタ)から伝わったことからジャガタライモとよばれ、略してジャガイモになったようです。2019年における日本のジャガイモ生産量は2399,000トンであり、北海道がそのうちの78.8%の高いシェアを占めています。2位以下の産地は鹿児島県(4.0%)、長崎県(3.8%)、茨城県(2.0%)、千葉県(1.2%)などです。

 ジャガイモの芽や皮(特に日が当たって緑色になった部分)にはソラニンsolanineやチャコニンchaconineという毒性のあるポテトグリコアルカロイド(PGA)が多く含まれており、食べると20分後くらいから吐き気、おう吐、腹痛、下痢、脱力感、頭痛、めまい、呼吸困難などの中毒症状がでることがあります。大量に摂取すると死亡するケースもあるようです。ジャガイモの皮はしっかりむき、芽は根元を含めて完全に取り除いて食べるようにしましょう。未熟なものには品種によって可食部にも多くのPGAが含まれています。小学校の理科の授業などで栽培したジャガイモによる食中毒が毎年のように起こっていますが、これは未熟な小さいジャガイモを茹でて皮ごと食べたり、不適切な栽培でイモの部分に日が当たり、皮が緑変したものを食べたりすることが原因のようです。PGAの中毒量は大人で200400mgといわれていますが、子どもは20mg程度でも中毒が発症するようですので注意が必要です。

②キャッサバ

 キャッサバ(英名:cassava、学名:Manihot esculenta)はキントラノオ目トウダイグサ科イモノキ属(Manihot)の多年性低木で、南米のブラジルからパラグアイにかけての地域が原産と考えられており、紀元前8,000年頃には中央ブラジル西部で栽培化されたといわれています。16世紀にはアフリカに、1920世紀にはアジアに栽培が拡大し、現在ではアフリカや東南アジア、南米で広く栽培されています。2019年における世界のキャッサバ生産量は3億357万トンであり、イモ類の中でジャガイモに次いで第2位です(表5-1)。主要な生産国はナイジェリア(シェア:19.5%)、コンゴ民主共和国(13.2%)、タイ(10.2%)、ガーナ(7.4%)、ブラジル(5.8%)、インドネシア(4.8%)、カンボジア(4.5%)、ベトナム(3.3%)、アンゴラ(3.0%)、タンザニア(2.7%)などです。

 キャッサバの粉から作られるパンは、ブラジルではポンデケイジョ、ボリビアではクニャペ、パラグアイではチパとよばれ、庶民の大切な食べ物になっています。

 キャッサバから製造されるデンプンはタピオカとよばれ、お菓子の材料や麺類のつなぎ、料理のとろみ付けなどに利用されています。日本ではタピオカデンプンから作られる食品そのものをタピオカとよんでいます。日本では近年、タピオカ人気が上昇しており、需要が見込めることから、鹿児島県徳之島や静岡県でキャッサバ栽培が行なわれています。また、海外からタピオカデンプンが輸入されており、2020年の輸入量は121,439トンです。主な輸入先はタイ(97.6%)です。

 キャッサバにはリナマリンlinamarinやロタウストラリンlotaustralinという有毒な青酸配糖体が含まれています。これらの物質はシアノヒドリンcyanohydrin(分子内にシアノ基-CNとヒドロキシ基-OHをもつ物質の総称)にグルコースが1分子結合したものです。青酸配糖体はキャッサバ内にある酵素リナマラーゼによりシアノヒドリンとグルコースに分解され、シアノヒドリンは非酵素的にゆっくり分解されるか、あるいはヒドロキシニトリルリアーゼの作用により分解されて、毒性の高い青酸(シアン化水素HCN)が産生されます。従って、キャッサバは適切に毒抜きをしないで食べると青酸中毒により死亡する危険性があるので注意が必要です。

③サツマイモ

 サツマイモ(薩摩芋、別名:カンショ、甘藷、英名:sweet potato、学名:Ipomoea batatas)はナス目ヒルガオ科サツマイモ属(Ipomoea)の植物で、メキシコ南部からペルーにかけた中南米地方が原産と考えられています。紀元前3,000年頃からメキシコで栽培が始まり、紀元前2,000年頃に南米に伝わったとされています。大航海時代にヨーロッパ人により東南アジアに導入され、中国を経て1605年に琉球に伝えられました。1705年に琉球から南薩摩山川町に持ち込まれ、薩摩一帯にサツマイモが一気に広められました。享保の大飢饉の時(1734年頃)に、薩摩から江戸に取り寄せられたサツマイモの栽培が奨励され、多くの人命が救われたといわれています。その後、「薩摩の国よりもたらされたイモ」すなわち「サツマイモ」として日本各地に広まりました。2020年における日本のサツマイモ生産量は687,600トンであり、主な産地は鹿児島県(シェア:31.2%)、茨城県(26.5%)、千葉県(13.1%)、宮崎県(10.0%)、徳島県(3.9%)、熊本県(2.5%)などです。

 サツマイモを焼いたり(石焼き芋など)蒸したりするとデンプンがβ-アミラーゼという酵素で加水分解されて、グルコースが2分子結合した二糖の麦芽糖(マルトース)が生成されるため甘くなります。2010年に農研機構により開発された「べにはるか」や種子島特産の安納紅・安納こがねという品種は、焼いたり蒸したりするとネットリ感があり甘味の強いことで人気がありますが、これはβ-アミラーゼ活性が非常に高いことによります。一方、オキコガネやサツマヒカリという品種はβ-アミラーゼ活性が非常に低いため、焼いたり蒸したりしてもデンプンがあまり分解されず、甘味が弱くホクホク感が強いことが知られています。

 サツマイモの品種で中身が紫色をしたものがありますが、これはアントシアニン(1章植物「植物の色」を参照)によります。後述するヤムイモの一種ダイジョにも紫色のものがあるため、サツマイモをムラサキイモ(紫芋)、ダイジョをベニイモ(紅芋)とよんで区別しています。宮崎県の有名な芋焼酎「赤霧島」はムラサキイモ(品種名:ムラサキマサリ)を原材料にしたものです。

 2019年における世界のサツマイモ生産量は9,182万トンであり、イモ類ではキャッサバに次いで3位にランクされています(表5-1)。中国は世界シェア56.6%で断トツです。2位以下の生産国はマラウイ(6.4%)、ナイジェリア(4.5%)、タンザニア(4.3%)、ウガンダ(2.1%)、インドネシア(2.0%)、アンゴラ(1.8%)、アメリカ(1.6%)、ベトナム(1.5%)、ルワンダ(1.4%)などです。日本は世界シェア0.82%で17位にランクされています。

④ヤムイモ

 上述した世界三大イモ類に続いて多く生産されているのがヤムイモyamです(表5-1)。ヤムイモはヤマノイモ目ヤマノイモ科ヤマノイモ属(Dioscorea)の植物の中で食用にされるものの総称であり、熱帯・亜熱帯から温帯の広い地域に起源の異なる様々な種が見出されています。

  • ホワイトギニアヤム(Dioscorea rotundata):西アフリカ原産
  • イエローギニアヤム(D. cayenensis):西アフリカ原産
  • カシュウイモ(D. bulbifera):西アフリカ原産
  • ビターヤム(D. dumetorum):西アフリカ原産
  • ダイジョ(D. alata):東南アジア原産
  • トゲイモ(D. esculenta):東南アジア原産
  • ヤマノイモ(D. japonica):日本原産
  • ナガイモ(D. polystachya):中国原産

 日本原産のヤマノイモ(山の芋、Japanese yam)は一般的にはジネンジョ(自然薯)とよばれており、里山の林道沿いや河川沿いの土手に自生しています。現在では畑で栽培されていますが、生産量はわずかです。ナガイモに比較して粘り気が非常に強いのが特徴です。

 中国の雲南地方原産のナガイモ(長芋、Chinese yam)は紀元前2,000年頃から栽培されており、日本には縄文時代後期に渡来したといわれています。ナガイモは芋の形から、長形種をいわゆるナガイモ、扁形種をイチョウイモ、塊形種をツクネイモなどとよんでいます。粘り気はナガイモ<イチョウイモ<ツクネイモ<ジネンジョの順に強くなっています。ツクネイモは主に近畿地方で栽培されており、大和イモや伊勢イモ、丹波ヤマノイモなどとして知られています。イチョウイモは主に関東地方の群馬県や千葉県、埼玉県などで栽培されています。長形ナガイモは主に北海道や東北北部、長野県などで栽培されており、生産量はイチョウイモやツクネイモに比べて圧倒的に多くなっています。

 植物分類学上は、ヤマノイモはジネンジョのみを指しますが、ジネンジョやナガイモ、イチョウイモ、ツクネイモをまとめてヤマノイモということがあり、呼称が混同していますので注意が必要です。また、ナガイモ、イチョウイモ、ツクネイモをまとめてヤマイモとよぶこともあります。

 熱帯アジア原産のダイジョ(大薯、purple yam)は沖縄県で広く栽培されており、中身が鮮やかな紫色(アントシアニンによる)をしているためベニイモ(紅芋)とよばれています(前述したように、中身が紫色のサツマイモはムラサキイモとよばれ区別されています)。紫色を活かして、沖縄料理やケーキ、お菓子などの食材として利用されています。

 2019年における世界のヤムイモ生産量は7,432万トンであり(表5-1)、そのうちの67.3%をナイジェリアが占めています。2位以下の生産国はガーナ(11.2%)、コートジボワール(9.7%)、ベナン(4.2%)、トーゴ(1.2%)、カメルーン(0.9%)、チャド(0.8%)、中央アフリカ(0.7%)、コロンビア(0.6%)、パプアニューギニア(0.5%)などです。

 日本における2019年のヤムイモ生産量は172,700トンであり、主な産地は北海道(43.1%)、青森県(32.6%)、長野県(3.9%)、千葉県(3.80%)、群馬県(3.76%)、岩手県(2.1%)、茨城県(1.9%)、埼玉県(1.0%)などです。千葉県や群馬県、埼玉県ではイチョウイモの栽培が盛んです。

⑤タロイモ

 タロイモtaroは地下茎(球茎)を食用とするオモダカ目サトイモ科植物の総称であり、次に示すような属の多くの種が含まれています。

  • サトイモ属(Colocasia

  サトイモ(里芋、英名:eddoe、学名:Colocasia esculenta

  ヤマサトイモ(山里芋、英名:eddoe、学名:C. antiquorum

  • ヤバネサトイモ属(Xanthosoma

  アメリカサトイモ(英名:taro kong kong、学名:Xanthosoma sagittifolium

  ムラサキヤバネイモ(英名:blue taro、学名:X. violaceum

  • クワズイモ属(Alocasia) インドクワズイモ(英名:gigant taro、学名:Alocasia macrorrhiza
  • キルトスペルマ属(Cyrtosperma) ミズズイキ(英名:swamp taro、学名:Cyrtosperma merkusii

 タロイモの原産地はインドやスリランカ、スマトラ、マレー半島、中南米熱帯地域、西インド諸島など多地域に股がっています。現在、タロイモは熱帯や温帯地域で広く栽培されており、主食とされているところもあります。2019年における世界のタロイモ生産量は1,054万トンであり(表5-1)、主要な生産国はナイジェリア(シェア:27.1%)、カメルーン(18.1%)、中国(18.1%)、ガーナ(14.4%)、パプアニューギニア(2.6%)、マダガスカル(2.15%)、ブルンジ(2.06%)、ルワンダ(1.6%)、ラオス(1.5%)、中央アフリカ(1.3%)などです。

 サトイモは東南アジア原産で、日本には縄文時代後期に伝えられたといわれています。沖縄県から青森県まで広く栽培されており、筑前煮や芋煮の材料になります。畑作だけでなく水田栽培も行なわれており、沖縄や南西諸島ではタイモ(田芋)とよばれるサトイモの一品種が水田で栽培されています(ミズイモともよばれます)。タケノコイモは京芋ともよばれるサトイモの一品種であり、円筒形で、長さが4060cmにもなります。ヤツガシラ(八頭)というサトイモの品種は、小芋が分球しないため親芋とともにひとつの塊になり、頭が8つくっついて見えることからヤツガシラと名付けられたといわれています。

 サトイモのヌルヌルの成分は食物繊維のガラクタン(ガラクトースのホモ多糖)やマンナン(マンノースのホモ多糖)などです。

 2019年における日本のサトイモ生産量は14400トンであり、世界のタロイモ生産国では11位にランクされています。主な産地は埼玉県(13.1%)、千葉県(9.2%)、宮崎県(8.5%)、愛媛県(7.3%)、栃木県(5.75%)、鹿児島県(5.68%)、熊本県(4.0%)などです。

 京野菜のひとつとして知られるエビイモ(海老芋)は、サトイモとは異なる種であるヤマサトイモの変種トウノイモ(唐芋、Colocasia antiquorum var. toonoimo)の一品種です。芋は湾曲して表面には横縞がありエビのように見えることからエビイモと名付けられたといわれています。現在は静岡県磐田市がエビイモの一大産地になっています。

表5-1 世界のイモ類の生産量(2019年)

コンニャクイモ

 コンニャク(蒟蒻、学名:Amorphophallus konjac)はオモダカ目サトイモ科コンニャク属(Amorphophallus)の植物で、原産地はインドシナ半島といわれています。日本には奈良時代に薬用として中国から仏教とともに伝来したようです。

 地下茎(球茎)のコンニャクイモにはグルコマンナン(コンニャクマンナンともいいます)というマンノースとグルコースが約3:2の割合で結合したヘテロ多糖が含まれており、デンプンは含まれていません。ヘテロ多糖とはホモ多糖と異なり、2種類以上の単糖から構成されている多糖のことです。食品としてのコンニャクはコンニャクイモから製造されます。

 コンニャクの作り方は簡単です。コンニャクイモから作った粉(コンニャク精粉)を水に溶いて糊状にし、これに石灰水(水酸化カルシウム溶液)を加えてよく混ぜてから好きな形に成形し、沸騰したお湯に入れて固まらせればできあがりです。こんにゃく製品は形状により、板こんにゃく、突きこんにゃく、しらたき(糸こんにゃく)、玉こんにゃく、粒こんにゃく、さしみこんにゃくなどとよばれます。こんにゃくは日本をはじめ、中国、台湾、韓国、ミャンマー、インドネシアなどで食べられています。近年は、低カロリーの健康食品として欧米にも広がっています。

 コンニャク精粉100gには水溶性食物繊維が73.3g、不溶性食物繊維が6.6g含まれており、コンニャクマンナンが水溶性食物繊維の主成分です。コンニャクマンナンはコンニャクを作るときに不溶性になります。コンニャクには強い弾力性があり、ヒトの消化管ではほとんど消化されません。食べ過ぎると腸閉塞を引き起こす危険性があるので、食べる量は少なめにして、よく噛んで食べるようにしましょう。

 日本で栽培されているコンニャクの品種としては「あかぎおおだま」、「みやままさり」、「はるなくろ」などがあります。2018年における日本のコンニャクイモ生産量は5万5,900トンであり、群馬県がそのうちの93.2%を占めています。その他に栃木県(2.7%)や茨城県(1.4%)などでも生産されています。日本における2018こんにゃく年度(11月から翌10月まで)のコンニャクイモ供給量(精粉換算)は5,584トンであり、内訳は国産88.1%、輸入精粉3.4%、輸入製品8.5%となっています。ここで輸入こんにゃく製品は輸入数量を精粉換算(製品倍率33倍)して算出したものです。2019年度のコンニャクイモ精粉の輸入量は198トンであり、主な輸入先はミャンマー(84%)と中国(16%)です。一方、同年度のこんにゃく製品の輸入量は1万4,271トンであり、主な輸入先は中国(87%)、韓国(9%)、インドネシア(4%)です。

レンコン

 レンコン(蓮根、英名:lotus root)はハス(蓮、英名:lotus、学名:Nelumbo nucifera)の地下茎(根茎)です。ハスはヤマモガシ目ハス科ハス属(Nelumbo)の植物で、栽培種としての原産地はインドあるいは中国といわれています。スイレン(睡蓮)はハスと似ていますが、スイレン目スイレン科スイレン属(Nymphaea)の植物であり、ハスとは似て非なるものです。

 レンコンは日本には奈良時代に中国から伝わり、全国に広まったといわれています。世界的にレンコンを食用としている国は日本と中国だけのようです。2019年の日本におけるレンコン生産量は5万2,700トンであり、主な産地は茨城県(50.1%)、佐賀県(11.0%)、徳島県(9.9%)、愛知県(5.7%)、山口県(4.7%)、熊本県(3.7%)、岡山県(2.6%)などです。レンコンの穴に辛子味噌を詰め込んだ「辛子蓮根」は熊本県の郷土料理として有名です。

 レンコンの主成分はデンプン(10.5%)ですが、食物繊維(2.0%)も豊富に含まれています。また、ビタミンCが可食部100g当たり48mgと豊富に含まれています。

ユリ根

 ユリ(百合、英名:lily)はユリ目ユリ科のうち主にユリ属(Lilium)の球根植物の総称であり、アジア、ヨーロッパ、北アメリカに広く分布しています。ユリの鱗茎はユリ根とよばれ、食用や薬用に利用されるものがあります。日本ではヤマユリ、オニユリ、コオニユリの鱗茎が食用とされています。

  • ヤマユリ(山百合、英名:gold-banded lily、学名:Lilium auratum):日本原産で近畿地方以北に分布
  • オニユリ(鬼百合、英名:tiger lily、学名:L. lancifolium):東アジアの温帯に広く分布
  • コオニユリ(小鬼百合、英名:Maximowicz’s lily、学名:L. leichtlinii maximowiczii):日本原産

 ユリ根にはデンプン(約20%)と水溶性食物繊維のグルコマンナン(約3%)が豊富に含まれています。

 ユリは日本では主に北海道で栽培されており、2018年における北海道のユリ根生産量は1,002トンと報告されています。

キク科の根菜類

 キク目キク科の根菜類にはキクイモやヤーコン、ゴボウ、チコリなどがあります。キク科根菜類の特徴は、上述したイモ類やレンコン、ユリ根と異なりデンプンを殆ど含まず、イヌリンinulinという多糖を含むことです。イヌリンはフルクトース(果糖)が直鎖状に結合(専門用語でβ-2,1グリコシド結合)したホモ多糖すなわちフルクタンの一種で、水溶性食物繊維です(2章穀類「食物繊維」を参照)。後述するように、ニンニクやラッキョウ、タマネギなどのネギ属根菜類にもフルクタンが含まれていますが、イヌリンとは構造が異なり、分岐状構造をしています。キク科およびネギ属根菜類のフルクタン含量を表5-2にまとめて示します。

 イヌリン分子にはフルクトースが2〜60個程直鎖状に結合し、末端にはグルコースが1個結合しています。イヌリンはキク科オグルマ属(Inula)の植物から最初に抽出されたので、この名があります。グルコースに比較的少ない2〜10個のフルクトースが結合したイヌリンはフラクトオリゴ糖(またはフルクトオリゴ糖)とよばれます。私たちの生活に馴染みの深い砂糖の主成分であるショ糖(スクロース)は、グルコースとフルクトースがそれぞれ1個ずつ結合した二糖です(7章甘味料「砂糖」を参照)。

①キクイモ

 キクイモ(菊芋、英名:Jerusalem artichoke、学名:Helianthus tuberosus)はヒマワリ属(Helianthus)の植物で、北アメリカ北部から北東部が原産地です。日本には江戸時代末期(1850年〜1860年頃)に飼料用作物として伝来したといわれています。

 キクイモには1520%のイヌリン(フラクトオリゴ糖を含む)が含まれています(表5-2)。キクイモに含まれている高分子イヌリンは収穫後の保存によって低分子化し、フラクトオリゴ糖が増えることが知られています。フラクトオリゴ糖には整腸作用やミネラルの吸収促進作用が認められており、特定保健用食品として許可されています(2章穀類「保健機能食品」を参照)。キクイモにはフラクトオリゴ糖のほかに二糖のショ糖も含まれていますが、単糖のグルコースとフルクトースは殆ど含まれていません。

 イヌリンをイヌリナーゼという酵素で加水分解して得られるイヌロオリゴ糖は、フルクトースが3〜5分子結合したオリゴ糖であり、前述したフラクトオリゴ糖とは異なります。イヌロオリゴ糖には免疫細胞の活性化作用や整腸作用が認められています。

②ヤーコン

 ヤーコン(英名:yacon、学名:Smallanthus sonchifolius)は南米アンデス高地原産のスマランサス属(Smallanthus)の植物で、ペルー、ボリビア、アルゼンチン、ベネズエラ、コロンビアなどで栽培されています。日本には1985年にペルー原産のものがニュージーランドを経由して導入されました。比較的新しい根菜類で、知名度も低いため生産量は少なく、市場にはあまり出回っていません。

 ヤーコンにはフルクトースが11個以上結合したイヌリンは少量しか含まれておらず、フラクトオリゴ糖が11%程度(表5-2)、ショ糖やグルコース、フルクトースが合わせて1%程度含まれています。フラクトオリゴ糖はショ糖の3〜4割の甘味をもつため、ヤーコンは甘味を感じます。特に収穫後冷蔵保存すると、グルコースとフルクトース含量が著しく増大するので甘みが強くなります。

③ゴボウ

 ゴボウ(牛蒡、英名:burdock、学名:Arctium lappa)はゴボウ属(Arctium)の植物で、ユーラシア大陸が原産です。

 ゴボウを食用にしているのは日本と韓国だけのようです。ゴボウはヨーロッパのバルカン半島に位置するセルビア共和国でも栽培されていますが(ゴボウはセルビア語でチーチャックとよばれます)、この国では主にゴボウ茶として利用されています。

 2019年における日本のゴボウ生産量は136,800トンで、主な産地は青森県(シェア:37.6%)、茨城県(9.9%)、北海道(9.1%)、宮崎県(7.8%)、群馬県(5.51%)、千葉県(5.48%)、鹿児島県(4.3%)などです。

 ゴボウにはイヌリンが5〜10%含まれています(表5-2)。キクイモと同様にゴボウも収穫後冷蔵庫などで保存すると、高分子のイヌリンが分解されて低分子のフラクトオリゴ糖が増大し、甘味が増します。ゴボウにはリグニンという不溶性食物繊維が含まれており、この物質には強力な大腸がん予防効果が認められています。

④チコリ

 チコリ(英名:chicory、学名:Cichorium intybus)はキクニガナ属(Cichorium)の植物で、ヨーロッパが原産です。和名はキクニガナ(菊苦菜)です。イタリアで開発されたラディッキオはチコリの葉菜類としての栽培品種で、結球性のものや半結球性のものなどがあります。

 チコリの根(チコリ芋)にはイヌリンが1520%含まれています(表5-2)。チコリの苦み成分はラクチュコピクリン(後述する「キク科の葉菜類①レタス」を参照)という鎮静作用のある物質です。

 岐阜県中津川市の「ちこり村」では、畑で得られたチコリ芋を暗室で水耕栽培し、出てくる黄色い新芽を野菜として市場に出荷しています。また、チコリ芋の味噌漬けや糠漬けも製造されています。

表5-2 キク科およびネギ属根菜類のフルクタン含量

キク科の葉菜類

 キク科の葉菜類には、葉の部分を利用するレタス、葉や茎を利用するシュンギク、主として葉柄を食用にするフキ、花そのものを食べる食用菊などがあります。

①レタス

 レタス(和名:チシャまたはチサ、英名:lettuce、学名:Lactuca sativa)は地中海沿岸や西アジア原産のアキノノゲシ属(Lactuca)の植物です。レタスは古代エジプトにおいて、後述するニンニクやタマネギと同様にすでに栽培化されていました。日本には中国から奈良時代に伝来したといわれています。レタスの茎を切ると切り口から白い乳液が滲出してくるため、乳草(チチクサ)に因んでチシャ(萵苣)あるいはチサ(苣)とよばれるようになったようです。属名のLactucaも乳を表すラテン語のlacに由来します。この白い乳液にはラクチュコピクリンlactucopicrinという苦味成分が含まれています。

 レタスには下記のような様々な変種variantvar.と略します)が存在します。

  • ヘッドレタス(玉チシャ、L. sativa var. capitata):結球性レタス
  • リーフレタス(葉チシャまたはチリメンヂシャ、L. sativa var. crispa):非結球性レタス
  • 立ちレタス(立ちヂシャ、L. sativa var. longifolia):白菜のように丈の高い球状
  • ステムレタス(茎チシャ、L. sativa var. angustana):茎を食べます

 前述した奈良時代に日本に導入されたレタスはリーフレタスの一品種でカキヂシャ(掻き萵苣)とよばれるものです。植物が生長するに従って下葉を掻き採って食用にしたことによるようです。焼き肉を巻いて食べることで有名になったサンチュは日本古来のカキヂシャのことです。また、サニーレタスもリーフレタスの一品種で、アントシアニンによる紅色をしています。サラダ菜はヘッドレタスの一品種ですが、結球性が緩いものです。茎チシャ(茎レタス)は主に茎を利用しますが、茎を細く裂いて乾燥したものは山クラゲとよばれ、水でもどしてから炒め物や和え物、煮物、漬物などにして食べます。

 レタスだけを使ったサラダはハネムーンサラダといいますが、これはLettuce only あるいはLettuce alone(レタスだけ)からLet us onlyあるいはLet us alone(私たちだけにして)に転じた洒落です。

②シュンギク

 シュンギク(春菊、別名:菊菜・高麗菊、英名:crown daisy、学名:Glebionis coronaria)は地中海沿岸が原産のシュンギク属(Glebionis)の植物で、ヨーロッパでは観賞用として栽培されています。中国には宋の時代に伝わり食用にされました。日本には室町時代に伝来したといわれています。冬の野菜として大変貴重で、葉と茎が鍋料理の具材やお浸し、天ぷらなどとして利用されています。

 品種としては大葉種、中大葉種、中葉種、ならびに小葉種があります。春菊の特徴は独特の香りですが、大葉種は香りが弱く、中・小葉種は香りが強い傾向があります。香りはα-ピネンやβ-ピネン、ベンズアルデヒド、カンフェン、β-ミルセンなどの精油成分によります。これらの香り成分には発汗作用や消化促進作用、胃のもたれを解消する効果などが認められています。

③フキ

 フキ(蕗、英名:fuki、学名:Petasites japonicus)は日本原産のフキ属(Petasites)の山菜の一種です。属名のPetasitesはギリシャ語のpetasos(つば広の帽子)が語源です。茎は地上には伸びないで、地下茎となり横に伸びています。地下茎は有毒なので食べないよう注意しましょう。地下茎から出てくる葉柄をフキ、花茎をフキノトウ(蕗の薹)とよんでいます。薹とは花茎のことであり、薹が立つとは野菜などの花茎が伸びて硬くなり、食べ頃を過ぎることをいいます。

 フキにはペタシテニンpetasitenine(別名:フキノトキシン)という肝臓毒性の強いピロリジジンアルカロイドが含まれているので、灰汁(アク)抜きをして食べる必要があります。

 春先に地面から出てくるフキノトウは蕾の状態で採取され、天ぷらや味噌汁、蕗味噌などに調理して食されます。フキノトウの独特の苦みはフキノール酸fukinolic acidというポリフェノールによりますが、この苦み成分は花粉症予防に効果があるといわれています。伸びたフキノトウも葉や花を取り除き、茎の部分を灰汁抜きして食べることができます。

 野生の山ブキの他に、栽培品種の愛知早生ブキや水ブキ(群馬県などで栽培)、大阪フキ、秋田フキなどが野菜として市場にでています。

④食用菊

 一般的にキク(菊)はキク属(Chrysanthemum)のイエギク(家菊あるいは栽培菊、英名:florist’s daisy、学名:Chrysanthemum morifolium)を指し、時期は明らかではありませんが、中国において中国中部原産のチョウセンノギク(C. zawadskii var. latilobum)と中国北部原産のハイシマカンギク(C. indicum var. procumbens)を交配して作られたといわれています。キク属Chrysanthemumにはギリシャ語で「黄金chrysosの花anthemon」という意味があります。唐の時代(618907年)に盛んに栽培・鑑賞されたようです。日本には平安時代に伝えられたとされており、10世紀初頭に成立した「古今和歌集」(「古今集」ともよばれます)には菊の歌が盛んに詠まれています。

 ♯270 紀 友則: 露ながら 折りてかざさむ 菊の花 老いせぬ秋の 久しかるべき

 ♯276 紀 貫之: 秋の菊 匂ふかぎりは かざしてむ 花よりさきと 知らぬわが身を

 ♯278 詠人知らず: 色かはる 秋の菊をば ひととせに ふたたび匂ふ 花とこそ見れ

 天皇家の菊花紋章は鎌倉時代に後鳥羽上皇が用いたのが起源であるといわれています。江戸時代に入ると菊の育種が盛んになったようです。

 日本にもキク属のキクタニギクやシマカンギク、ノジギク、リュウノウギクなどが自生しており、これらは野菊とよばれています。

 食用菊はイエギクの中で苦みが少なく花弁が大きい品種で、延命楽(エンメイラク)や阿房宮(アボウキュウ)が日本ではポピュラーです。延命楽は赤紫色で、山形では「もってのほか」、新潟では「かきのもと」とよばれています。阿房宮は黄色で、青森県八戸市の特産です。

ネギ属の根菜類

 ニンニクやラッキョウ、タマネギは、キジカクシ目ヒガンバナ科ネギ属(Allium)の根菜類であり、短縮茎に葉(鱗葉)が層状に重なり合った鱗茎を食用とします。これらのネギ属根菜類にも上述したキク科根菜類と同じようにフルクタンという多糖が含まれていますが(表5-2)、構造が異なります。キク科のフルクタンはフルクトースが直鎖状にβ-2,1グリコシド結合した構造(この構造のものをイヌリン型とよびます)をしているのに対して、ネギ属のフルクタンはβ-2,1結合とβ-2,6結合の両方をもつ分岐した構造(この構造のものをグラミナン型とよびます)をしています。キク科のフルクタン(イヌリン)は熱水に溶け、冷水に溶けませんが、ネギ属のフルクタンは冷水にも溶けやすいという性質の違いがあります。

 キジカクシ目キジカクシ科のリュウゼツラン(別名:アガベ)の茎にもグラミナン型フルクタンが高濃度に含まれていますが、これについては7章甘味料「シロップ②アガベシロップ」を参照してください。

 ネギ属の大きな特徴はなんといってもニンニク臭あるいはタマネギ臭とよばれる匂いです。この匂い物質は生の食材に最初から存在するのではなく、食べるときに切り刻んだり、摺りおろしたりすることにより無臭の前駆物質から生成されます。ネギ属の野菜の主要な匂い成分とその前駆体を表5-3に示します。

①ニンニク

 ニンニク(英名:garlic、学名:Allium sativum)は中央アジアが原産と推定されています。古代エジプトでは、すでにニンニクが栽培され利用されていました。中国には紀元前2世紀頃伝わり、日本には8世紀頃中国から伝来したといわれています。

 2019年における世界のニンニク生産量は3,071万トンであり、中国がそのうちの75.7%を占めています。2位以下の生産国はインド(9.5%)、バングラデシュ(1.5%)、韓国(1.3%)、エジプト(1.0%)、スペイン(0.9%)、アメリカ(0.8%)となっています。同年の日本のニンニク生産量は2万800トンで、そのうちの66.8%を青森県が占めています。2位以下の生産地は北海道(3.8%)、香川県(3.6%)、鹿児島県(1.8%)、秋田県(1.71%)、岩手県(1.69%)、熊本県(1.5%)の順になっています。

 ニンニクの強烈な臭いは主にアリシンという匂い成分によります。これはアリルシステインスルホキシド(別名:2-プロペニルシステインスルホキシド、通称:アリイン)という前駆物質から生成されます。アリインにアリナーゼ(アリイナーゼまたはアリインリアーゼともよばれます)という脱離酵素(加水分解酵素とは異なります)が作用してアリルスルフェン酸が生成され、次いで、このアリルスルフェン酸が2分子脱水縮合してアリシン(別名:ジ-2-プロペニルチオスルフィネート)ができます。このアリシンは辛み成分でもあります。アリインとアリナーゼはニンニクの異なる細胞に存在するため、無傷のニンニクにはアリシンは存在しませんが、ニンニクの組織を壊すことにより両者が混ざり合い、アリシンが生成されるのです。アリシンからは更に、ジアリルジスルフィドやアホエンという物質ができ、前者には強いニンニク臭がありますが、後者にはありません。アリシンやジアリルジスルフィド、アホエンには抗菌・抗カビ作用、抗血液凝固作用、抗酸化作用、抗腫瘍作用など有用な生理作用が認められています。ニンニクは強烈な臭いを有するにもかかわらず、今から5,000年以上前の古代エジプトの時代から人類の食文化に欠かせない食材であり続けています。

 最近、黒ニンニクの人の健康への効能が注目されています。生の白いニンニクを6570℃、湿度30%で30日間ほど熟成させる(これは微生物による発酵ではありません)と、ニンニクに含まれているフルクタン(表5-2)が加水分解されて生じるフルクトースなどの糖質とアミノ酸との間にメイラード反応(糖化反応)という非酵素的褐変反応がおこり、メラノイジンという褐色色素が生じるため黒いニンニクができます。これは本章の最後の方で説明する酵素による褐変反応とは異なります。メイラード反応はフランスの化学者ルイ・カミーユ・マイヤールにより1912年に発見され(フランス語のMaillardマイヤールは英語読みではメイラードになります)、味噌や醤油、焙煎ゴマ油、パン、クッキー、コーヒー、焼き肉、焼き魚などの茶色や褐色の色彩は、この反応で生じるメラノイジンによります。熟成の間にニンニクの臭い物質はほとんど消失し、替わりにポリフェノールやS-アリルシステインが増加します。これらの物質には強力な抗酸化作用や血流促進作用(冷え性の克服)、免疫力増強作用、抗がん作用、大腸発がん予防効果などが認められますので、黒ニンニクによる健康増進が期待できます。

②ラッキョウ

 ラッキョウ(辣韮、英名:rakkyo、学名:Allium chinense)は中国のヒマラヤ地方が原産であり、中国では3,000年程前から薬用として栽培されていました。日本には9世紀の平安時代に伝来し、当初は薬用として利用されていましたが、江戸時代になると食用としても栽培されるようになりました。

 2018年における日本のラッキョウ生産量は7,767トンであり、主な産地は鳥取県(シェア:29.1%)、鹿児島県(27.2%)、宮崎県(18.1%)、沖縄県(6.6%)、徳島県(5.9%)、福井県(5.8%)、茨城県(3.0%)などです。

 ラッキョウにもニンニクと同様に匂い物質が存在しますが、その主な前駆物質はメチルシステインスルホキシド(通称:メチイン)です。これはアリナーゼの作用によりメチルスルフェン酸になった後、S-メチルメタンチオスルフィネートという匂い物質に変わります(表5-3)。

 ラッキョウは主に甘酢漬けに加工して食べられます。収穫直後の生のラッキョウには1222%のフルクタンが含まれていますが(表5-2)、甘酢漬けにすると2〜3%にかなり減少します。これは生ラッキョウの下漬け中にフルクタンがフルクトースに加水分解されることによると考えられています。

③タマネギ

 タマネギ(玉葱、英名:onion、学名:Allium cepa)は中央アジアが原産ではないかといわれていますが、野生種は発見されていないようです。古代エジプトではすでに栽培されていたようです。食用としてアメリカから日本に移入されたのは明治初期で、札幌で栽培が始められました。

 2019年における日本のタマネギ生産量は1334,000トンであり、そのうちの63.1%を北海道が占めています。2位以下の産地は佐賀県(10.4%)、兵庫県(7.5%)、長崎県(2.6%)、愛知県(2.1%)、熊本県(1.0%)、静岡県(0.93%)、栃木県(0.90%)の順になっています。

 タマネギはデンプンを含まず、グルコースやフルクトース、ショ糖を約4%、フラクトオリゴ糖を約2〜3%貯蔵しています。辛味が強いため甘く感じません。辛味は以下に述べる匂い成分に因りますが、加熱することにより無くなるので甘味を感じるようになります。

 タマネギもニンニク臭を発しますが、これは主に上述したニンニクやラッキョウとは異なる物質によります。主な前駆物質はプロピルシステインスルホキシドで、アリナーゼによりプロピルスルフェン酸になり、次いでジプロピルジスルフィドという匂い物質に変わります(表5-3)。

 タマネギを包丁などで切ると涙がでるのは、プロパンチアールS-オキシドという催涙因子が気化して、目を刺激するからです。しかしながら、この物質はタマネギの細胞に最初から存在するのではなく、前駆物質の1-プロペニルシステインスルホキシド(これはニンニクのアリインとは構造的に少し異なり、イソアリインとよばれます)からアリナーゼにより1-プロペニルスルフェン酸という中間物質ができ、さらにこれに催涙因子合成酵素(この酵素はハウス食品の研究グループにより発見されました)が作用して生成されます。前述したネギ属の匂い物質と同様に、前駆物質と酵素はタマネギの異なる細胞に存在しているので、タマネギの組織を壊すことにより初めてこれらが混ざりあい接触して酵素反応がおこり、催涙因子ができるのです。イソアリインはタマネギに豊富に存在しますが、他のネギ属の植物には含まれていないようです。

表5-3 ネギ属の主要な匂い成分と前駆体

ネギ属の葉菜類

①ネギ

 ネギ(葱、英名:Welsh onion、学名:Allium fistulosum)は原産地が中央アジアから中国西部で、奈良時代に日本に伝来したといわれています。ネギの茎は根から上1cmほどで、そこから上はすべて葉になります。白い部分も緑色の部分も葉になるわけです。

 ネギは根深ネギ(長ネギあるいは白ネギ)と葉ネギ(青ネギ)に大きく分けられます。根深ネギは根元に土寄せして白い部分を長くしたもので、下仁田ネギや深谷ネギなどがよく知られており、関東ネギともよばれています。葉ネギは難波ネギや九条ネギなどが有名です。難波ネギは奈良時代からある日本最古の品種であり、主な葉ネギの原種です。九条ネギも難波ネギが京都に伝わり、京野菜として改良されたものです。

 ネギの匂いは表5-3に示したタマネギと同じジプロピルジスルフィドが原因物質です。

②ニラ

 ニラ(韮、英名:oriental garlic、学名:Allium tuberosum)は中国北部からモンゴル・シベリアにかけて自生している野生種のAllium ramosum3,000年以上前に栽培化されたものです。日本には弥生時代に中国から伝わったといわれています。

 ニラには主にメチインというラッキョウに含まれている匂いの前駆物質と同じものが含まれており、包丁などでニラを切断するとアリナーゼの作用でこの物質からS-メチルメタンチオスルフィネートという匂い成分が生成されるためニンニク臭を発します。ニラにはアリインも含まれていますが、その割合は少なく、メチイン:アリイン比は9:1〜5:1くらいです。

 スイセンの葉はニラと似ているため、間違って食べて食中毒になることがしばしば報道されています。スイセンの葉はニンニク臭がしないので、ニラとの鑑別は容易です。スイセンにはリコリンやガランタミン、タゼチンというアルカロイドが毒性成分として含まれています。

アスパラガス

 アスパラガスはキジカクシ目キジカクシ科クサスギカズラ属(Asparagus)の植物の総称です。一般的によく知られているアスパラガス(略称:アスパラ)はオランダキジカクシ(Asparagus officinalis)であり、原産地は地中海東部といわれています。茎の部分を食用にします。ホワイトアスパラガス(ホワイトアスパラ)、グリーンアスパラガス(グリーンアスパラ)、ならびにアントシアニン色素の多いパープルアスパラガス(パープルアスパラ、紫アスパラ)があります。

 アスパラギンは1806年に最初に発見されたアミノ酸であり、アスパラガスから単離されたことに因んで命名されました。

 日本にはキジカクシ(雉隠、A. schoberioides)やクサスギカズラ(A. cochinensis)などが自生しています。キジカクシの茎は食用になり、クサスギカズラの根茎は薬用になります。

ナス科の野菜

 ナス目ナス科の野菜には、イモ類のところで説明したジャガイモと同じナス属(Solanum)のナスやトマト、トウガラシ属(Capsicum)のトウガラシやピーマン、パプリカなどの果菜類があります。

①ナス

 ナス(茄子、英名:egg plant、学名:Solanum melongena)はインド東部原産のナス属(Solanum)の植物で、果実を食用にします。日本には奈良時代に伝わったといわれています。

 一般的なナスの品種の果皮は紫紺色をしていますが、これはナスニンというアントシアニン色素によります(1章植物「植物の色」を参照)。果肉は白色でスポンジ状を呈しています。ナスニンは水溶性ですので、茄子を漬物にすると果肉部分が鮮やかな紫色に染まり、食欲をそそられます。ナスの品種には、ナスニンをもたずクロロフィルの緑色をした青ナスやタイナス、ナスニンもクロロフィルももたない白ナス(ホワイトベル)などがあります。

 形はバラエティーに富み、長いものや丸いもの、ベル型のもの、あるいは40cmにもなる非常に細長いものなどがあります。

②トマト

 トマト(英名:tomato、学名:Solanum lycopersicum)はナス属(Solanum)の植物で、南米アンデス山脈の高原地帯(ペルー、エクアドル付近)が原産といわれています。野生種トマトはメキシコに運ばれ、栽培化され食用になったと考えられています。アステカ文明の時代の16世紀初めにスペイン人によりヨーロッパに持ち帰られ、野菜や料理用に品種改良され、広められました。また、ケチャップなどにも加工されました。

 トマトが最初に日本に伝来したのは江戸時代17世紀中頃ですが、当初は観賞用として栽培されていたようです。食用として利用されるようになったのは明治時代に入ってからですが、強いトマト臭が嫌われ、なかなか普及しませんでした。一般的に食べられるようになったのは昭和時代に入ってからです。カゴメの創業者である蟹江一太郎は1903年(明治36年)にトマトソース(現在のトマトピューレ)を開発して世に出し、高い評価を受けました。その後、1908年(明治41年)にトマトケチャップとウスターソースを製造しています。

 トマトの品種は8,000種以上もあるといわれており、大きさでは小玉トマト(ミニトマト)、中玉トマト(ミディトマト)、大玉トマトに分かれます。原種はミニトマトでしたが、ヨーロッパで品種改良され、大玉トマトが誕生しました。現在、日本で最も多く生産されている品種は大玉トマトの桃太郎です。

 未熟なトマトの果実はクロロフィルの緑色をしていますが、熟成がすすむにつれて徐々に赤色に変わっていきます。このような色の変化では、まず、クロロフィラーゼやジオキシゲナーゼなどの酵素により光合成色素クロロフィルが分解されて緑色が徐々に消失して行きます。クロロフィルの消失に伴い、リコペンlycopene(トマトの種小名lycopersicumに由来し、リコピンともよばれます)という赤いカロテノイド色素(1章植物「植物の色」を参照)が合成されてくるので、赤色に変わるのです。リコペンには有害な活性酸素の働きを抑える強い抗酸化作用があり、癌や動脈硬化症などを予防する効果が認められています。リコペンは水には溶けず脂溶性ですので、油で加熱して食べると吸収がよくなります。

 アメリカの植物育種家トム・ワグナーは成熟してもリコペンを合成しないグリーンゼブラという品種を開発しました。トマトは赤いという常識を覆す緑色のトマトで、最近日本でも人気がでています。

 トマトの葉や茎、未熟な果実にはトマチンtomatineという毒性グリコアルカロイドが含まれており、この物質には抗菌作用や昆虫への忌避作用が認められています。完熟トマトにはほとんど含まれていませんので、普通の量を食べる限り問題はないようです。

③トウガラシ・ピーマン・パプリカ

 トウガラシ(唐辛子、英名:chili pepper)は中南米原産のトウガラシ属(Capsicum)の植物の果実で、香辛料あるいは野菜として食用にされています。属名のCapsicumはラテン語のcapsa(箱という意味)に由来します(英語のcapsuleカプセルもcapsaに由来)。現在栽培されているトウガラシには以下の5種があります。

  • Capsicum annuum:メキシコ原産で、世界中で広く栽培されています。いわゆるトウガラシはこの種を指し、ピーマンやパプリカも含まれます。メキシコの代表的な青唐辛子のハラペーニョは後述するタバスコソースの原材料として使われています。
  • Capsicum frutescens:キダチトウガラシ(木立唐辛子)。熱帯アメリカ原産。プリッキーヌ(prik-kee-noo:トムヤムクンなどのタイ料理に使われています)やタバスコペッパー(名前はメキシコのタバスコTabasco州に由来し、後述するタバスコソースの原材料になります)、島トウガラシ(日本の九州から沖縄にかけて栽培されています)などの品種があります。
  • Capsicum chinense:アマゾン川流域が原産で、主な品種に2〜6cm程の大きさで丸みがある超激辛種のハバネロがあります。
  • Capsicum pubescens:ペルーやボリビアのアンデス山脈周辺で栽培されているロコトという固有種が含まれます。
  • Capsicum baccatum:ペルーやボリビアなど南米で一般的に栽培されているアヒアマリージョという品種が含まれます。

 現在、日本で栽培されているトウガラシの殆どは上述したCapsicum annuumの品種です。漢字で唐辛子と書くことから中国の唐の時代に日本に伝わったと思われがちですが、クリストファー・コロンブスが1492年に到達した西インド諸島で入手してスペインに持ち帰ったものがヨーロッパに広まり、日本へは鉄砲とほぼ同じ16世紀中頃にポルトガル人により伝えられたといわれています。唐は外国(西洋諸国や南洋)を意味することばで、唐辛子は南蛮辛子あるいはただ単に南蛮ともよばれます。トウガラシCapsicum annuumがコロンブスによりヨーロッパにもたらされた時、すでに知られていたインド原産の黒コショウblack pepperと同じような辛味があるためpepperとよばれました。

 そば屋さんなどに置いてある定番の調味料の七味唐辛子(七色唐辛子ともよばれます)は江戸時代に作られたといわれており、トウガラシを主原料とし、副原料にケシの実や陳皮(ミカンの果皮など)、ゴマ、サンショウ、菜種、麻の実などが用いられています。

 トウガラシの辛味はカプサイシンcapsaicin(トウガラシ属Capsicumに由来)という化学物質によります。カプサイシンは果実内の種子が付く胎座という部位に最も多く含まれており、種子には殆ど含まれていません。カプサイシンには発汗作用ならびに強心作用が認められています。

 トウガラシには防虫効果があることが古くから知られており、雛人形や五月人形などの収納箱あるいは米櫃(ビツ)などに入れて虫除けとして利用されてきました。また、霜焼け防止にもトウガラシは有効です。

 上述したタバスコペッパーの実をすり潰して発酵・熟成させ、酢を加えた調味料がタバスコTABASCOで、1868年にアメリカのルイジアナ州でエドモンド・マキルヘニーにより作られました。当初、使い捨ての香水の瓶にタバスコを入れて販売したことから、特徴的な形の瓶が現在も継承されています。初期のタバスコソースはタバスコペッパーの赤色をしていますが、後に青唐辛子のハラペーニョを使った緑色のタバスコも開発されています。

 世界中で広く栽培されているCapsicum annuumには大きく分けて辛味種と甘味種の品種があります。辛味種はchili pepperあるいはhot pepperなどとよばれ、香辛料として利用されています。唐辛子は戦国時代(1542年頃)に日本に伝来し、それ以降全国各地に伝播し、様々な品種が誕生しています。鷹の爪や八房、伏見などは日本の代表的な辛味唐辛子です。青森県にも400年程前に津軽(弘前)に伝えられた清水森ナンバという在来唐辛子があり、貴重な伝統野菜として現在も継承されています。

 甘味種はbell pepperあるいはsweet pepperなどとよばれます。ピーマンやパプリカ、シシトウガラシ(シシトウ)があり、ビタミンCの豊富な野菜として利用されています(6章果物「ビタミンCと壊血病」を参照)。ピーマンはフランス語のpiment(ピマーンと発音します)に、パプリカはハンガリー語のpapricaに由来しますが、これらのことばはいずれもトウガラシを意味します。

 ピーマンはアメリカ生まれの品種(カリフォルニアワンダーは代表的品種)で、明治初期に日本に伝来しましたが、一般に食べられるようになったのは太平洋戦争後です。一般的に熟成する前の緑色のピーマンが市場に出回りますが、最近はパプリカのように熟成した赤色や黄色のカラーピーマンも生産されるようになりました。

 パプリカはハンガリーで生まれた品種で、日本には韓国やオランダ、ニュージーランドなどから多く輸入されています。パプリカはピーマンより肉厚で大きいのが特徴です。パプリカには赤や黄、橙など様々な色彩のものがありますが、これはパプリカ色素とよばれる種々のカロテノイド色素(1章植物「植物の色」を参照)すなわち赤色のカプサンチンやカプソルビン、橙色のβ-カロテンやβ-クリプトキサンチン、黄色のゼアキサンチンやビオラキサンチンなどの量と割合により決まります。緑色のパプリカがありますが、これは成熟してもクロロフィルが残る変異種でヌーベルとよばれています。野菜として食べられるパプリカとは異なるスパイス用品種の果実を乾燥して粉末にした赤色の香辛料もパプリカとよばれており、主にハンガリー料理などの色づけに使われています。

 シシトウは日本で江戸時代にトウガラシから誕生しています。京都市伏見地区で17世紀に作られた伏見甘長トウガラシ(伏見トウガラシ)は伝統的な京野菜の1つになっています。大正時代に京都府舞鶴市万願寺地区において伏見トウガラシとカリフォルニアワンダーを交配して作られたのが万願寺トウガラシ(万願寺甘とう)で、ブランド京野菜となったのは最近のことです。

アブラナ科の野菜

 アブラナ目アブラナ科の野菜には表5-4に示すようにアブラナ属(Brassica)、ダイコン属(Raphanus)、ワサビ属(Eutrema)、セイヨウワサビ属(Armoracia)ならびにオランダカラシ属(Nasturtium)などの多くの葉菜類や根菜類があります。アブラナ科野菜には独特の辛味がありますが、これについては後述する「アブラナ科根菜類・葉菜類の辛味」で詳しく説明します。

①カブ・ハクサイ類

 アブラナの変種にはカブやノザワナ、コマツナ、ミズナ、ハクサイ、チンゲンサイなどがあります。

 アブラナ(油菜、英名:turnip rape、学名:Brassica rapa var. nippo-oleifera)は4章植物油で述べたように、日本には奈良時代に伝来し、安土桃山時代より昭和初期まで菜種油を採るために栽培されていました。しかしながら、現在では菜種油の原料としてはセイヨウアブラナのキャノーラ種に取って代わられ、アブラナはもっぱら野菜として利用されています。

 カブ(蕪、turnip)には西アジアから地中海沿岸原産のヨーロッパ系(B. rapa var. rapa)とアフガニスタン原産のアジア系(B. rapa var. glabra)があります。ヨーロッパ系は古代ギリシャで栽培されていたようです。紀元前9世紀から紀元前7世紀に編纂された中国最古の詩集である「詩経」にアジア系カブの記載があります。日本には8世紀までに中国経由でアジア系が伝わり、シベリア経由でヨーロッパ系が伝わったといわれています。日本に渡来したカブは各地の気候や風土に適合して進化し、独特の形や風味をもつ多くの品種(約80種あるといわれています)が誕生しました。アジア系カブは主に西日本に分布し、天王寺カブ(大阪)、聖護院カブ(京都)、日野菜カブ(滋賀県)、津田カブ(島根県)、伊予緋カブ(愛媛県)、長崎赤カブなどの品種があります。聖護院カブは大きいものは直径1520cm、重さ4〜5kgにもなる大型カブで、京都名産の「千枚漬け」に利用されています。ヨーロッパ系カブは主に東日本に分布しており、札幌紫カブ、野辺地葉つきカブ(青森県)、温海(アツミ)カブ(山形県)、金町小カブ(東京都)、飛騨紅カブ(岐阜県)、金沢青カブ(石川県)などの品種があります。金沢青カブは「かぶら寿司」として有名です。

 カブの茎葉用の品種にノザワナ(野沢菜)やコマツナ(小松菜)などがあります。野沢菜(信州菜ともよばれています)は江戸時代に現在の長野県下高井郡野沢温泉村で栽培されるようになった野菜で、「野沢菜漬け」として有名です。小松菜は江戸時代に現在の東京都小松川あたりで栽培されていたことに因んで名付けられました。

 ミズナ(水菜、英名:mizunaB. rapa var. nipposinica)は日本で開発された野菜です。京都で平安時代から栽培されており、京菜ともよばれます。

 ハクサイ(白菜、英名:Chinese cabbage、学名:B. rapa var. pekinensis)は中国北部原産の中国野菜です。カブとチンゲンサイが交雑して生まれたといわれています。日本に初めてお目見えしたのは1875年の東京博覧会の時だそうです。

 チンゲンサイ(青梗菜、和名:タイサイ、英名:qing geng cai、学名:B. rapa var. chinensis)は中国華南地方が原産の中国野菜です。日本には1972年の日中国交正常化以降に入ってきました。

②キャベツ類

 ヤセイカンラン(英名:wild cabbage、学名:Brassica oleracea)は西ヨーロッパの地中海沿岸からイギリスにかけて自生する野草です。これが原種となり、品種改良によりキャベツやブロッコリー、カリフラワーなど様々な変種variantが作られ、葉菜類として利用されています。

 キャベツ(和名:カンラン(甘藍)、英名:cabbage、学名:B. oleracea var. capitata)は古代ギリシャ・ローマにおいて胃腸の調子を整える健康食として食されていました。キャベツにはビタミンCが豊富に含まれており、キャベツの漬物「ザワークラウト」は大航海時代の船員の壊血病を防ぐ大切な食糧として利用されました(6章果物「ビタミンCと壊血病」を参照)。キャベツにはメチルメチオニンスルホニウムクロリドという胃潰瘍に効く成分が含まれており、これを原料にしたキャベジンコーワという胃腸薬が興和株式会社から発売されています。

 赤キャベツ(紫キャベツ)はアントシアニンの一種ルブロブラシンを含むため赤紫色をしています。この色素は茹でると流れ出てしまうので、生のままサラダなどに利用することがお勧めです。

 ブロッコリー(和名:メハナヤサイ(芽花野菜)あるいはミドリハナヤサイ(緑花野菜)、英名:broccoli、学名:B. oleracea var. italica)はイタリアで花を食用とするキャベツの一種が品種改良されたものとされています。緑色(あるいは紫色)の花蕾と太い茎の部分を食用にします。ブロッコリーにはビタミンCがキャベツの3倍も多く含まれています(6章果物「表6-2野菜・果物の可食部100g当たりのビタミンC含量」を参照)。

 カリフラワー(和名:ハナヤサイ(花野菜)あるいはハナカンラン(花甘藍)、英名:cauliflower、学名:B. oleracea var. botrytis)はブロッコリーと似ていますが別変種です。ブロッコリーと同じように花蕾と太い茎の部分を食用にしますが、カリフラワーの花蕾の方がひとつの塊のように堅く密集しています。カリフラワーにはキャベツの2倍のビタミンCが含まれています(6章果物「表6-2」を参照)。日本では白い品種が一般的ですが、黄色やオレンジ色、紫色などの品種もあります。

③カラシナ類

 アブラナ属植物は種間で自然交雑を生じやすい性質があることが知られています。カラシナ(芥子菜、辛子菜、英名:mustard、学名:Brassica juncea)はトルコ、シリア、イラク辺りにおいてAゲノムをもつアブラナ(AA2n=20)とBゲノムをもつクロガラシ(Brassica nigraBB2n=16)の種間交雑により、39,000年〜55,000年前に誕生した複二倍体(異質四倍体:AABB2n=36)であると考えられています(図5-1)。

 カラシナはアフガニスタンを経由して中国へ伝播し、日本には中国から9〜10世紀頃までには伝播したといわれています。葉や茎はピリッとした辛味があり、お浸しや漬物などとして食されます。

 カラシナから生まれた品種にワサビナがあります。カラシナ特有のピリッとした辛味をもっており、サラダなどとして生で食べることができます。

 タカナ(高菜、学名:B. juncea var. integrifolia)はカラシナの変種で、中央アジアで誕生したといわれています。日本には中国経由で遅くとも平安時代には伝来していたと考えられています。西日本一帯で広く栽培されており、熊本県阿蘇地方の阿蘇高菜や福岡県筑後地方の三池高菜、長崎県雲仙市の雲仙こぶ高菜などがよく知られています。阿蘇高菜は「高菜漬け」として有名です。

 ザーサイ(搾菜、英名:zha cai、学名:B. juncea var. tumida)はカラシナの変種であり、茎の基部が大きく肥大しています。この肥大した部位を漬物として利用し始めたのは1930年頃からだそうですが、漬物としてのザーサイは現在では中国の代表的な漬物になっています。

④セイヨウアブラナ類

 ヨーロッパにおいて約1万年前にAゲノムをもつアブラナ(AA2n=20)Cゲノムをもつヤセイカンラン(CC2n=18)の自然交雑により生じたのが複二倍体(異質四倍体)のセイヨウアブラナ(西洋油菜、英名:rapeseed、学名:Brassica napusAACC2n=38)です(図5-1)。4章植物油「アブラナ」で述べたように、もっぱら油糧用作物として栽培されていますが、葉や花茎を野菜としても利用されています。

 ルタバガ(スウェーデンカブ、英名:rutabaga or swede、学名:Brassica napus var. napobrassica)はセイヨウアブラナの変種で、スウェーデンが原産地です。北欧やロシア、イギリスなどで栽培されています。味は上述したカブに劣るといわれています。

⑤ダイコンとハツカダイコン

 ダイコン(大根、英名:Japanese radish、学名:Raphanus sativus var. longipinnatus)の原産地は確定されていませんが、地中海沿岸において2つのダイコン属(Raphanus)の近縁種R. landraR. maritimusが交雑して生まれたといわれています。古代エジプトのピラミッドの内壁の碑文に、紀元前2,000年頃にダイコンは重要な食料であったことが記されています。中国にはシルクロードを経由して西暦前に伝えられ、日本には弥生時代に中国から渡来したとされています。ダイコンは奈良時代初期に成立した日本最古の歴史書「古事記」に収められた仁徳天皇の歌に「おほね」として表れています。

  つぎねふ 山代女の 木鍬(こくは)持ち 打ちし大根(おほね)

  根白の白腕(しろただむき) 枕(ま)かずけばこそ 知らずとも言はめ

「おほね」は「おおね」ともよばれ、これに「大根」の字を当て、室町時代に「ダイコン」と音読するようになったようです。

 ダイコンには様々な品種がありますが、青首大根が現在の主流品種で、辛味が少なく甘味が強いのが特徴です。地上に伸びる部分が長く、収穫が容易なことが広く普及している要因といわれています。独特な形をした品種として、ゴボウのように細長い守口大根(「守口漬け」に使われます)や大きなカブのように胴回りが太くなる桜島大根(巨大なものは重さ約30kg、直径4050cmにもなります)などがあります。紅芯大根は中国生まれで、外皮が緑色で中身が鮮やかなピンク色の品種です。レディーサラダのように外皮が赤く中身が白い品種もあります。

 赤いダイコンに含まれている主な色素(アカダイコン色素ともよばれています)はペラルゴニジンアシルグルコシドというアントシアニン系色素です。ダイコンにはジアスターゼ(アミラーゼの俗称)というデンプン分解酵素が豊富に含まれており、大根おろしなどにして生で食べると消化の助けになります。

 ハツカダイコン(二十日大根、英名:radish、学名:Raphanus sativus var. sativus)はヨーロッパが原産で、日本には明治時代に伝来しました。その名は播種あるいは発芽から20日程度で収穫できることに因ります。根の形は直径2〜3cmの球形から長径10cm程度の楕円形のものがあり、ダイコンのなかでは最も小型です。外皮の色は赤や紫、ピンク、黄、白など色々あります。

⑥ワサビ

 ワサビ(山葵、英名:Japanese horseradish、学名:Eutrema japonicum)は日本原産のワサビ属(Eutrema)の植物です。飛鳥時代の遺跡から委佐俾(わさび)と書かれた木簡が出土しており、1,300年以上前の古い時代からワサビは食べられています。平安時代の書物には和佐比と記されたものがあります。ワサビの栽培は16世紀末から17世紀初め頃に現在の静岡市で始まったといわれています。後述するセイヨウワサビと区別するために本わさびとよばれることがあります。渓流や湧水で育てる水ワサビ(沢ワサビ)と畑で育てる畑ワサビ(陸ワサビ)があります(水ワサビの品種を畑で育てることもできます)。岩手県では主に畑ワサビが栽培されています。

 2020年における日本のワサビ生産量は2,017トンです。主な生産地は長野県(シェア:43.3%)、静岡県(25.5%)、岩手県(18.1%)で、これら3県で全国生産量の約87%を占めています。

 ワサビの根茎や葉柄には鼻にツンとくる独特の辛味があります。ワサビの根茎を摺りおろしたものは、寿司や刺身、蕎麦などの日本料理の薬味として用いられます。根茎を刻んで酒粕と混ぜて漬けた「わさび漬け」は静岡県の名物となっています。若い葉柄の部分や開花前の花茎もお浸しなどにして食べます。水ワサビは主によく伸びた根茎を利用し、畑ワサビは主に葉柄や花茎を利用します。

 加工ワサビとして市販されている練りワサビはワサビと植物油、食塩、加工デンプン、増粘剤(キサンタンなど)、酸味料、香料などを原材料にして製造されており、本わさび使用と書かれています。

⑦セイヨウワサビ

 セイヨウワサビ(英名:horseradish、学名:Armoracia rusticana)は東ヨーロッパ原産のセイヨウワサビ属(Armoracia)の植物であり、上述したワサビとは属が異なります。白い根茎の部分が食用になります。ワサビと同様の辛味があり、摺りおろして薬味として利用したり、適当な大きさに切って醤油漬けなどにして食べたりします。粉ワサビやチューブ入り練りワサビの原材料としても利用されており、商品には西洋わさび使用と書かれています。

⑧オランダカラシ

 オランダカラシ(和蘭芥子、別名:ミズカラシあるいはクレソン、英名:watercress、学名:Nasturtium officinale)はヨーロッパ原産のオランダカラシ属(Nasturtium)の抽水植物です。フランス語ではクレソンcressonとよばれます。日本には明治初期に移入され、繁殖力が旺盛なため全国で野生化しています。

表5-4  アブラナ科の野菜
図5-1 アブラナ属内の種間交雑

アブラナ科根菜類・葉菜類の辛味

 アブラナ科の根菜類や葉菜類にはカラシ油あるいはイソチオシアネート(ITC)という独特の辛味成分が含まれています。この物質には食欲増進作用があります。カラシ油そのものが植物体に最初から含まれているわけではなくて、辛味のない前駆物質であるカラシ油配糖体(カラシ油にグルコースが結合しており、グルコシノレートglucosinolateともよばれます)として存在しています。根や茎、葉などを摺りおろしたり、切り刻んだりして組織を壊すことにより、アブラナ科植物の師部に特有のミロシン細胞に存在するミロシナーゼという酵素が、柔細胞の液胞に含まれているカラシ油配糖体と接触し、これを加水分解してカラシ油が生成されるため辛味を感じるのです。代表的なカラシ油(ITC)を表5-5に示します。

 ダイコンには4-メチルチオ-3-ブテニルITCが含まれていますが、若いダイコンほど辛味成分が多く、また、1本のダイコンでは先端に近づくほど辛味成分が多くなることが知られています。ダイコンを煮物にすると辛味成分や前駆物質は熱分解され、辛味はなくなります。ブロッコリーに含まれるスルフォラファンには、がん予防効果が認められています。

 カラシ油配糖体はモンシロチョウにとって揮発性誘因物質であるため、モンシロチョウはアブラナ科植物の葉に卵を産みつけます。

表5-5 アブラナ科野菜に含まれるカラシ油

ナデシコ目の野菜

 ナデシコ目の野菜には、ヒユ科のビートやホウレンソウ、アマランサス、ツルムラサキ科のツルムラサキなどが含まれます。

①ビートの進化

 フダンソウやテーブルビート、マンゲルワーゼル、テンサイはヒユ科フダンソウ属(Beta)のBeta vulgarisの亜種であるビート(英名:beet、学名:B. vulgaris subsp. vulgaris)に分類される栽培種です。地中海沿岸に生育している野生の別の亜種ハマフダンソウ(英名:sea beet、学名:B. vulgaris subsp. maritima)が祖先種と考えられています。フダンソウやテーブルビートは野菜として、マンゲルワーゼルは家畜用飼料として、テンサイは砂糖の原材料として利用されています。ナデシコ目の植物に特有の色素であるベタレインbetalain(1章植物「植物の色」を参照)という名前は、この色素が最初に抽出されたビートの学名Beta vulgarisに由来します。

 フダンソウ、テーブルビート、マンゲルワーゼル、テンサイは栽培種ビート(B. vulgaris subsp. vulgaris)の変種であり、次のように分類されます。

  • フダンソウ(不断草、英名:chard、別名:葉ビートleaf beet

   B. vulgaris subsp. vulgaris var. cicla

  • テーブルビート(英名:table beet、別名:ビートルートbeetroot

   B. vulgaris subsp. vulgaris var. vulgaris

  • マンゲルワーゼル(英名:mangelwurzel、別名:飼料用ビートfodder beet

   B. vulgaris subsp. vulgaris var. crassa

  • テンサイ(甜菜、英名:sugar beet

   B. vulgaris subsp. vulgaris var. altissima

 フダンソウは少なくとも紀元前2,000年頃にハマフダンソウから栽培化され、ギリシャ人やローマ人により育てられていました。紀元6世紀頃に中国に伝わり、日本には1617世紀頃に伝来したと考えられています。季節に関係なく利用できるので不断草とよばれています。フダンソウの西洋品種はスイスチャードSwiss chardとよばれ、赤やオレンジ、黄などカラフルな葉軸をしているのが特徴です。

 紀元2〜3世紀頃イタリアで葉ビートから分化した根を食べるテーブルビート(単にビーツともよばれます)が開発されました。そのため、テーブルビートはローマビートとしても知られています。その後、ヨーロッパ全域に広められ、日本には江戸時代初期に渡来したと推定されています。テーブルビートには赤色や黄色、白色のものなどがあり、赤色ビートは燃えるような赤い色をしていることから日本では火焔菜(カエンサイ)ともよばれています。サラダやスープなどとして利用され、ロシア料理の「ボルシチ」はテーブルビートを用いた有名なスープです。スイスチャードやテーブルビートのカラフルな色はベタレインのベタシアニン(赤色)やベタキサンチン(黄色)によるものです(1章植物「植物の色」を参照)。テーブルビートにはショ糖が含まれているため、ほのかな甘味があります。特有の土臭さがありますが、これはゲオスミンという物質によります。

 テーブルビートよりさらに根部が肥大したマンゲルワーゼルが家畜の飼料用ビートとして18世紀に開発されました。1747年にドイツの化学者アンドレアス・マルクグラーフは飼料用ビートからショ糖を分離することに成功し、ビートにはショ糖が1.31.6%の濃度で含まれていることを見出しました。その後、彼の弟子のフランツ・アシャールはショ糖濃度の比較的高い飼料用ビートを選抜・育種して砂糖を製造することに成功し、1802年に製糖工場を設立しました。その頃の飼料用ビートのショ糖含量は5〜7%であったと推定されていますが、その後更に品種改良が進み、1900年代初頭には20%に達する品種が誕生しました。このようにして飼料用ビートから砂糖を製造するテンサイが生まれたのです(7章甘味料「砂糖」を参照)。日本には明治3年(1870年)に導入され、現在では主に北海道で栽培されています。

 テンサイにはショ糖のほかにラフィノース(フルクトースとグルコースとガラクトースが1分子ずつ結合した三糖)というオリゴ糖が比較的多く含まれており、大豆オリゴ糖(3章豆類「ダイズ」を参照)と同様に善玉菌であるビフィズス菌の増殖を促し、整腸作用があります。

②ホウレンソウ

 ホウレンソウ(菠薐草、英名:spinach、学名:Spinacia oleracea)はヒユ科ホウレンソウ属(Spinacia)の野菜で、雌雄異株です。原産地は西アジアといわれており、アジア東方に伝播して東洋種(葉が薄く、切り込みが多い)が、ヨーロッパに伝播して西洋種(葉が厚く、丸みを帯びている)が生まれました。東洋種は7世紀頃に中国に伝わり、日本には16世紀中頃に伝来しました。西洋種も19世紀後半に日本に導入されましたが、あまり普及せず、現在は両者の交配種が主流となっています。

 冷涼な地域や気候に適しています。ホウレンソウの美味しい時期は冬で、葉肉が厚くなり、甘味も増します。β-カロテンや葉酸が豊富に含まれています。ホウレンソウは灰汁が強く、生のままでは食べにくいのですが、赤茎(赤軸)ホウレンソウ(red spinach)は灰汁が少なく、生のままでも美味しく食べられます。この品種の赤い色はベタシアニンという色素(1章植物「植物の色」を参照)によります。

③アマランサス

 アマランサスは2章穀類「擬穀類」で述べた中南米原産のヒユ科ヒユ属(Amaranthus)の植物の総称で、穀物用や野菜用、観賞用に栽培されています。野菜用にはAmaranthus tricolor (ハゲイトウ)A. dubiusA. gracilisA. cruentusなどがあり、葉や茎が食用に利用されています。

 岐阜大学で開発されたブランド野菜「仙寿菜(センジュサイ)」は赤色アマランサス(A. tricolor)で、岐阜県美濃市の特産野菜となっています。葉酸やビタミンC、β-カロテンが豊富に含まれています。仙寿菜に豊富に含まれている赤い色素ベタシアニンには高い抗酸化活性が認められています。

④ツルムラサキ

 ツルムラサキ(蔓紫、英名:Indian spinach、学名:Basella alba)はツルムラサキ科ツルムラサキ属(Basella)の蔓性植物で、東南アジア原産です。遅くとも江戸時代には日本に伝わっていたようです。茎が赤紫色(ベタシアニン色素による)の赤茎種と緑色の青茎種があります。蔓先の若い葉と茎を、お浸しや和え物、炒め物、揚げ物などにして食べます。

ウリ科の野菜

 ウリ目ウリ科の野菜には表5-6に示すようにキュウリ属(Cucumis)、ユウガオ属(Lagenaria)、トウガン属(Benincasa)、カボチャ属(Cucurbita)、ツルレイシ属(Momordica)、ヘチマ属(Luffa)、スイカ属(Citrullus)など多くの属の果菜類が含まれます。ほとんどが蔓性の草本です。

 キュウリ属のメロンやスイカ属のスイカなど、果物のように食べられる野菜は果実的野菜とよばれており、6章果物で説明します。

 ウリ科植物には苦味成分であるククルビタシンcucurbitacin(ウリ科Cucurbitaceaeに由来)というククルビタントリテルペノイドが含まれています。ククルビタシンには非常に多くの種類があり、ククルビタシンABCなどとよばれています。大量のククルビタシンを摂取すると食中毒を起こすので、注意が必要です。

①キュウリ

 キュウリ(胡瓜、英名:cucumber、学名:Cucumis sativus)はキュウリ属(Cucumis)の植物で、インド北部のヒマラヤ山麓が原産地といわれています。紀元前10世紀頃にはインドや西アジアで栽培されていました。日本には6世紀頃中国から伝来しましたが、苦味が強かったために普及しなかったようです。キュウリは古来、黄色く熟したものを食べていたので黄瓜とよばれていました。

 キュウリには元々かなりの量のククルビタシンCが含まれていたため苦くて食用には適さなかったのですが、品種改良により苦味の少ないものが作られるようになり、成熟前の若い緑色の果実が野菜として食されるようになりました。苦味のあるキュウリでは、苦味成分は柄側に多く、先端(花)側には少ないという分布があります。

 キュウリには黒イボ系と白イボ系のものがあります。これはキュウリの表面に付いているトゲのようなものが黒いか白いかの違いです。黒イボ系は漬物に適しており、白イボ系は生で食べると美味しいといわれています。現在生産されているキュウリの約9割は苦味のない白イボ系の品種です。

 江戸時代に渡来したずんぐり型のシベリア系キュウリが現在も伝統野菜として継承されているところがあります。青森県八戸市の糠塚キュウリや山形県酒田市の鵜渡川原キュウリなどです。糠塚キュウリは太さ5cm、長さ20cm、重さ400g程度で、太く短いのが特徴です。シャキシャキとした食感とほのかな苦味があり、生で食べるのに適しているといわれています。鵜渡川原キュウリは太さ2cm、長さ7cm、重さ20g程度の小さなもので、苦味が強いため生食には不向きで、主に漬物(ピクルス)として食べられています。

②シロウリ

 シロウリ(白瓜、学名:Cucumis melo var. utilissimus)は6章果物「果実的野菜」で述べるキュウリ属(Cucumis)のメロンあるいはウリ(Cucumis melo)の一変種です。果実は長楕円形(長径:30cm位)で、「奈良漬け」の材料として利用されています。徳島県や千葉県がシロウリの主な生産地です。

③ヒョウタン

 ヒョウタン(瓢箪、英名:gourd、学名:Lagenaria siceraria var. gourda)はアフリカ原産のユウガオ属(Lagenaria)の植物で、果実の果肉部分を取り除き乾燥させたものが水筒などの容器として利用されています。日本では琵琶湖のほとりの粟津湖底遺跡から9,600年程前の種子が見つかっており、縄文時代早期にはすでに伝来しています。

 果実の形には、いわゆるくびれのあるヒョウタン形以外に、球形、枕形、ヘチマ形、壷形、鶴首形など様々なものがあります。大きさは、長さ2〜3cm位の一寸豆瓢から2mを超える大長ヒョウタンまであり、また、胴回りが1mを超えるジャンボヒョウタンもあります。

 ヒョウタンにはククルビタシンBDなどが大量に含まれていますので、食べると食中毒になります。症状としては唇のしびれ、吐き気、おう吐、腹痛、下痢などです。

④ユウガオ

 ユウガオ(夕顔、英名:bottle gourd、学名:Lagenaria siceraria var. hispida)はインドでヒョウタンから苦みの少ないものが食用として選別された変種で、日本には平安時代に伝わったとされています。丸ユウガオと長ユウガオがあり、丸ユウガオは主に干瓢(カンピョウ)の原料として利用され、長ユウガオは煮物や炒め物などとして食されます。ごくまれに大変苦味の強いユウガオがあり、これを食べると食中毒になるので注意が必要です。

⑤トウガン

 トウガン(冬瓜、英名:winter melon、学名:Benincasa hispida)はトウガン属(Benincasa)の植物で、インドから東南アジアにかけての地域が原産地です。日本には中国経由で5世紀頃渡来したといわれています。果実は7月〜9月に収穫されるので夏野菜です。完熟した果実の皮は硬くなり、貯蔵性に優れ、冷暗所で保存すればカボチャのように冬まで貯蔵できるので冬瓜と名付けられたようです。

 ユウガオと同じ様に、丸みがあり球形の丸トウガンと長楕円形の長トウガンがあります。熟すと果皮表面に白粉をおびるものや、沖縄トウガンのように果皮が緑色で白い粉をふかないものもあります。主に煮物や炒め物、汁物などにして食べます。

⑥カボチャ

 カボチャ(南瓜、英名:pumpkinまたはsquash)はアンデス山麓およびメソアメリカ原産のカボチャ属(Cucurbita)植物の総称です。セイヨウカボチャ(Cucurbita maxima)、ニホンカボチャ(C. moschata)、ペポカボチャ(C. pepo)など多くの種があります。日本にはニホンカボチャが16世紀中頃にポルトガル人によりカンボジアから持ち込まれたといわれています(カボチャの語源はカンボジアです)。現在、日本で最も多く栽培されている栗カボチャはセイヨウカボチャの一種で、甘い風味とホクホクとした食感が特徴です。アメリカのハロウィンで使われるオレンジ色のお化けカボチャはペポカボチャの一種です。

 カボチャにはβ-カロテン(プロビタミンAの一種)やルテイン、ビタミンCが豊富に含まれています。

 2019年における世界のカボチャ生産量は2,290万トンであり、主要な生産国は中国(シェア:36.6%)、ウクライナ(5.9%)、ロシア(5.2%)、スペイン(3.2%)、メキシコ(3.0%)、バングラデシュ(2.8%)、アメリカ(2.7%)、トルコ(2.6%)、イタリア(2.5%)、インドネシア(2.3%)などです。インドの生産量は2017年の段階で世界2位につけ、中国の生産量の約3分の2と推計されていましたが、2018年からインドのデータは利用できなくなっています。

 2019年における日本のカボチャ生産量は185,600トンであり、北海道がそのうちの約半分(47.3%)を占めています。2位以下は鹿児島県(4.4%)、茨城県(3.7%)、長野県(3.5%)、長崎県(3.0%)、宮崎県(2.4%)、神奈川県(2.3%)の順になっています。

⑦ズッキーニ

 ズッキーニ(ウリカボチャ、英名:zucchini)は上述したペポカボチャ(Cucurbita pepo)の一種で、未成熟な果実を食べます。蔓なしカボチャともよばれ、食材として人気が高い野菜です。しかしながら、ククルビタシンが多く非常に苦いものがあり、これを食べて食中毒になった事例がありますので、苦いズッキーニに当たったときは食べないようにしましょう。主な品種にはグリーントスカ(緑果種)やオーラム(黄果種)などがあります。

 日本におけるズッキーニ生産量は年々増加しており、2000年には1,384トンでしたが、2018年には9,832トンになっています。2018年の主な生産地は長野県(シェア:31.6%)、宮崎県(25.6%)、群馬県(9.4%)、茨城県(8.2%)、岩手県(4.0%)、千葉県(2.7%)、栃木県(2.4%)などです。

⑧ニガウリ

 ニガウリ(苦瓜、別名:ゴーヤまたはツルレイシ、英名:bitter melon、学名:Momordica charantia var. pavel)はツルレイシ属(Momordica)の植物で、農学分野ではツルレイシとよばれています。熱帯アジア原産で、日本には16世紀頃伝来したといわれています。沖縄では一般的にゴーヤとよばれています。日本の南西諸島や南九州で栽培が盛んでしたが、健康食品として人気が上がり、最近では日本全国で栽培されるようになっています。青森県に住んでいる著者も庭で夏野菜として栽培しています。主に未成熟な緑色の状態で収穫し、ゴーヤチャンプルーやおひたし、和え物などにして食べます。実は完熟すると黄色になり、裂開します。

 2018年における日本のニガウリ生産量は1万8,077トンであり、主な産地は沖縄県(シェア:40.6%)、宮崎県(12.6%)、鹿児島県(12.5%)、群馬県(8.7%)、熊本県(7.1%)、長崎県(5.1%)、茨城県(2.9%)などです。

 ニガウリはその名の如く苦みのある野菜であり、苦みはモモルデシンmomordicin(名はツルレイシ属Momordicaに由来)という物質によります。モモルデシンはククルビタシンと同じククルビタントリテルペノイドの仲間ですが、毒性はありません。また、ニガウリには食中毒を引き起こすククルビタシンはほとんど含まれていません。ニガウリの抽出物には血糖降下作用や抗腫瘍効果などが報告されており、現在も研究が進められています。

⑨ヘチマ

 ヘチマ(糸瓜、英名:loofah、学名:Luffa cylindrica)は熱帯アジア原産のヘチマ属(Luffa)の植物で、2,000年位前から栽培されているようです。中国には600年頃に伝わり、日本には中国から江戸時代初期頃に渡来したとされています。ヘチマは漢字で糸瓜(イトウリ)と書き、略してトウリとよばれるようになりました。「と」は「いろは歌」の「へ」と「ち」の間にあることから、「へち間(ヘチマ)」と洒落てよばれるようになったといわれています。

 未熟で繊維が発達していない若い果実は煮物や汁物など食用にできます。しかしながら、ククルビタシンBを多く含む苦いヘチマを我慢して食べた結果、食中毒(嘔吐や下痢などの症状)を発症した事例がありますので、苦いヘチマには要注意です。

 ヘチマの蔓を切り採取した糸瓜水は化粧水や飲み薬、塗り薬として利用されています。糸瓜水にはヘチマサポニンという成分(ルシオサイドとよばれ、A〜Iの9種類があります)が含まれており、肌のくすみを防止したり、皮脂分泌を促進したり、日焼け後のほてりを鎮めるなどの効果があるといわれています。ヘチマが伝わった江戸時代には、糸瓜水は「美人水」として女性に人気があったようです。飲み薬としては、咳止め、むくみ予防、利尿などの効果が期待できます。

 完熟した果実から軟部組織や種子を取り除いて繊維だけにしたものは糸瓜束子(ヘチマタワシ)として利用されています。

表5-6 ウリ科の野菜

セリ目の野菜

 セリ目の野菜には、表5-7に示すようにセリ科のセリ、ミツバ、ニンジン、パセリ、セロリ、ならびにウコギ科のオタネニンジン(高麗人参)、ウド、タラの芽などがあります。

①セリ

 セリ(芹、英名:water dropwort or Japanese parsley、学名:Oenanthe javanica)は日本原産のセリ属(Oenanthe)の多年草で、水田や湿地などに生育します。春の七草のひとつで、シロネグサ(白根草)の異名をもちます。春先の若い茎や若葉を鍋料理に用いるほかに、和え物やサラダなどとして食べます。

 セリにはオイゲノールやピラジンという香り成分が含まれています。オイゲノールには喉や歯の痛みに鎮静効果があるといわれています。ピラジンには精神を安定化し、脳を活性化する作用や血液凝固を抑え、血栓を予防する効果があるとされています。

②ミツバ

 ミツバ(三つ葉、英名:Japanese honeywort、学名:Cryptotaenia japonica)は日本原産のミツバ属(Cryptotaenia)の多年草で、和名は葉が3つに分かれていることに由来します。江戸時代から栽培されているようです。

 糸ミツバや切りミツバ、根ミツバが市場に出回っています。葉や茎には爽やかな香りがあり、香味野菜(ハーブ)として吸い物や鍋物、丼物の具として用いられるほか、お浸しや和え物として食します。根ミツバにはゴボウのような根が付いており、根の部分も食べられます。

 香り成分としてはクリプトテーネンやミツバエンという物質が同定されており、神経鎮静や不眠改善、食欲増進、消化促進などの効果があるといわれています。

③ニンジン

 ニンジン(人参、英名:carrot、学名:Daucus carota)はニンジン属(Daucus)の植物で、アフガニスタンが原産地です。ニンジンに多く含まれる光合成色素のカロテンcaroteneはニンジンのラテン語carotaが語源です。細長い東洋種と太く短い西洋種があり、日本には江戸時代に中国から東洋種が伝わり、明治以降に西洋種が導入されたといわれています。

 現在日本で広く栽培されているものは西洋種(五寸ニンジンが代表的な品種です)でβ-カロテンが豊富に含まれていますが、東洋種の金時ニンジン(京人参ともよばれます)にはβ-カロテンではなくリコペンが多く含まれています。東洋種には皮にアントシアニンを含む濃紫色や紅紫色のものもあります。ニンジンにはショ糖(3.4%)やグルコース(1.5%)、フルクトース(1.5%)が含まれており、生でかじると甘味を感じます。

 2019年における日本のニンジン生産量は594,900トンであり、主な産地は北海道(シェア:32.7%)、千葉県(15.7%)、徳島県(8.6%)、青森県(6.7%)、長崎県(5.2%)、茨城県(4.7%)、愛知県(3.3%)などです。

 生産量4位の青森県では「ふかうら雪人参」が人気を集めています。この人参は深浦町で畑に雪の積もる12月から3月にかけて収穫されています(旬は1月~2月)。普通の人参の糖度は7度くらいですが、雪の下から掘り出される雪人参は糖度10度ほどに高まり、驚くほど甘く深い味わいをもちます。

④パセリ

 パセリ(和名:オランダセリ、英名:parsley、学名:Petroselinum crispum)はオランダセリ属(Petroselinum)の植物で、原産地は地中海沿岸です。古代ローマで食用にされていたようです。日本には18世紀にオランダからもたらされました。

 葉を食用にするカーリーパセリ(縮葉種)やイタリアンパセリ(平葉種)、根を食用にするハンブルグパセリなどがあります。葉パセリは添え物やレタスなどと一緒に野菜サラダとして食べられ、根パセリ(ニンジンに似ています)はスライスしてスープなどにして食べられます。

 パセリにはアピオールという香り成分が含まれており、食欲増進や疲労回復、口臭予防などの効果があるといわれています。しかしながら、アピオールには堕胎効果があるため、妊婦はパセリを避けた方がよいでしょう。

⑤セロリ

 セロリ(和名:オランダミツバ、英名:celery、学名:Apium graveolens var. dulce)はオランダミツバ属(Apium)の植物で、原産地はヨーロッパ、西南アジア、インドです。古代ギリシャ・ローマ時代に鎮静、整腸、強精作用のある薬用植物として利用されており、1617世紀に南ヨーロッパで食用として栽培されるようになりました。緑色種や白色種、中間種、東洋在来種などに分けられます。中国では東洋種の芹菜(キンサイ)が利用されています。日本には16世紀末の文禄・慶長の役で加藤清正が朝鮮出兵の際に東洋種を持ち帰ったといわれ、「清正人参」とよばれていたそうです。江戸時代に西洋種がオランダから伝来しましたが、独特の香りのため一般には普及しませんでした。第二次世界大戦後、食の洋風化に伴い徐々に普及しました。現在主に流通しているものは香りの弱い中間種で、長野県や静岡県が主な生産地となっています。

 セロリにはアピインやピラジンなどの香り成分が含まれています。アピインはフラボン(1章植物「植物の色」を参照)の一種アピゲニンの配糖体(グルコースとアピオースが結合しています)で、精神を安定させ、不眠やイライラを解消する効果があるといわれています。ピラジンはセリにも含まれており、その作用については前述した①セリを参照して下さい。

⑥オタネニンジン

 オタネニンジン(別名:高麗人参、朝鮮人参、英名:Korean ginseng、学名:Panax ginseng)はウコギ科トチバニンジン属(Panax)の植物であり、前述したセリ科のニンジンとは全く別の種です。原産地は中国の遼東から朝鮮半島にかけての地域といわれており、韓国と中国が主な産地となっています。生薬や人参茶、韓国料理(サムゲタンなど)の材料として利用されています。日本においても長野県や福島県、島根県などで、生産量は少ないながらも栽培されています。

 根に含まれる薬用成分はジンセノサイドとよばれるステロイドサポニンです。40種類以上あるといわれ、ジオール系、トリオール系、オレアノール系の3つに分類されます。抗腫瘍作用や副腎皮質ホルモン分泌促進作用、記憶障害回復作用、認知機能改善作用、心臓機能障害改善作用、抗血栓作用、抗糖尿作用など様々な薬理作用を有することが見出されています。

⑦ウド

 ウド(独活、学名:Aralia cordata)はウコギ科タラノキ属(Aralia)の植物で、日本や樺太、朝鮮半島、中国などに自生しています。山菜として、あるいは栽培したものを野菜として食します。若芽や茎などを利用しますが、灰汁が強いので天ぷらにして食べたり、灰汁抜きをして酢味噌和えやサラダなどとして食べたりします。

⑧タラの芽

 タラの芽はウドと同じタラノキ属のタラノキ(楤木、学名:Aralia elata)の新芽で、山菜として利用されています。タラノキは日本はじめ東アジアに自生しています。タラの芽は天ぷらや油炒め、お浸しなどにして、独特の香りを楽しむことができます。

表5-7 セリ目の野菜

ショウガ科の野菜

 ショウガ目ショウガ科の野菜にはショウガ属のショウガ、ミョウガ、ウコン属のウコンなどがあります。バショウ科バショウ属のバナナは果実的野菜に分類され、6章果物で説明します。

①ショウガ

 ショウガ(生姜、英名:ginger、学名:Zingiber officinale)は熱帯アジア原産のショウガ属(Zingiber)の根菜類です。インドや中国では紀元前数世紀から薬用ならびに食用に利用されていたようです。日本には2〜3世紀頃中国より伝来したといわれています。主に地下の根茎で栄養繁殖し、地上には葉だけが出てきます。主に根茎を利用します。

 2019年における世界のショウガ生産量は4081,400トンであり、主要な生産国はインド(シェア:43.8%)、ナイジェリア(16.9%)、中国(14.2%)、ネパール(7.3%)、インドネシア(4.3%)、タイ(4.1%)などです。同年における日本のショウガ生産量は4万6,500トンであり、主な産地は高知県(42.2%)、熊本県(11.1%)、千葉県(9.1%)、茨城県(5.6%)、宮崎県(5.4%)、鹿児島県(4.7%)、静岡県(3.8%)などです。

 ショウガは日本料理の香辛料の代表選手で、様々な料理に利用されています。「ショウガおろし」はカツオの刺身や冷奴の薬味として欠かせないものですし、薄くスライスした甘酢漬けはお寿司には欠かせないパートナーです。梅酢に漬けて作った紅ショウガは焼きそば、たこ焼き、牛丼、ちらし寿司などに色取りとして添えられます。

 生のショウガの主要な辛味成分はジンゲロールですが、ショウガを乾燥したり加熱したりすることにより、ジンゲロールがショウガオールやジンゲロンという辛味のより強い物質に変わります。ショウガには芳香成分として、シトラール(ネラールとゲラニアールのシス-トランス異性体があります)、ジンギベレン、ゲラニオールなどが含まれています。

 ショウガには上述したように様々な辛味や香り成分が含まれており、これらの成分には血管拡張作用による保温効果や食欲亢進作用、抗菌・抗真菌(カビ)作用が認められています。

②ミョウガ

 ミョウガ(茗荷、英名:myoga、学名:Zingiber mioga)は東アジア温帯地域原産のショウガ属の香味野菜です。日本では3世紀頃から栽培されていたといわれています。ミョウガは染色体数55本の五倍体(基本数11)であり、地下茎による栄養繁殖で増えます。

 春に地下茎から出てくる若い茎(偽茎)をミョウガタケ(茗荷竹)、夏から秋にかけて同じく地下茎から出てくる紡錘状の花穂(花が咲く前の蕾)を花ミョウガ(あるいはただ単にミョウガ)といい、どちらも食用とします。ミョウガタケは通常若い茎を軟白栽培し、短期間だけ日光にあてて赤みをつけたものが出荷されます(緑色のものもあります)。花ミョウガは、6〜8月頃に収穫されるものを夏ミョウガ、8〜10月頃のものを秋ミョウガとよび、秋ミョウガの方が大きめのサイズです。薬味、汁の実、和え物、酢の物、揚げ物などとして利用します。

 2018年における日本の花ミョウガ生産量は5,387トンであり、そのうちの90.7%は高知県で生産されています。

 花ミョウガは鮮やかな赤紫色をしていますが、これはマルビジン(アントシアニジンの一種)にグルコース1分子が結合したアントシアニンに起因します(1章植物「植物の色」を参照)。ミョウガを甘酢漬けにすると酢が赤くなりますが、これは水溶性のアントシアニン色素が溶け出てくるためです。ミョウガを食べた後の残り酢はサラダにかけるなどして利用できます。

 ミョウガにはα-ピネンという香り成分が含まれており、食欲増進、消化促進、血行促進、発汗作用などの効果があるといわれています。

③ウコン

 ウコン(鬱金、英名:turmeric、学名:Curcuma longa)はインド原産のウコン属(Curcuma)の多年草です。根茎はカレーなどのインド料理に使われます。

 ウコンに含まれているクルクミンcurcuminという黄色い色素(ウコン色素ともよばれます)はポリフェノールの一種で、スパイスや食品の着色剤として利用されます。

 一般的なウコンは秋ウコンとよばれますが、このほかに春ウコン(キョウオウ、学名:Curcuma aromatica)や紫ウコン(ガジュツ、学名:Curcuma zedoaria)という同じウコン属で異なる種があります。秋ウコンは主に食用に利用されますが、春ウコンと紫ウコンは主に薬用に利用されます。

オクラ

 オクラ(秋葵、英名:okra、学名:Abelmoschus esculentus)はアフリカ北東部(エチオピア辺り)原産のアオイ目アオイ科トロロアオイ属(Abelmoschus)の植物で、果実を食用にします。エジプトでは2,000年以上前に栽培されており、アメリカには18世紀に伝わったといわれています。熱帯では多年草で何年も実がなりますが、寒さに弱いので日本など温帯では一年草になります。日本には江戸時代末期にアメリカより伝来し、ネリとよばれるトロロアオイ(Abelmoschus manihot)に近縁であるためアメリカネリという和名が付けられています。トロロアオイの実は固くて食用に適しませんが、花は食べることができるので花オクラとよばれています。日本でオクラが一般家庭で食べられるようになったのは1970年頃からです。それまでは主に花を鑑賞するために栽培されたようです。オクラは同じアオイ科のハイビスカスや木槿(ムクゲ)、芙蓉、立葵などのように美しい花をつけます。4章植物油のところで説明したワタや8章嗜好飲料で説明するカカオもアオイ科の植物で、美しい花を咲かせます。

 果実は角のある五角オクラが主に市場に出回っていますが、丸オクラもあります。また、果色が赤いオクラもありますが、加熱すると緑色になってしまうので、赤い色を楽しんで食べるのであれば生食がお勧めです。

 オクラを刻んだときに出るネバネバの粘り気は水溶性食物繊維のペクチンやガラクタンによります。ペクチンには腸内善玉菌を増やす整腸作用があります。

シソ

 シソ(紫蘇、英名:shiso、学名:Perilla frutescens var. crispa)はシソ目シソ科シソ属(Perilla)の植物で、4章植物油で説明したエゴマの変種です。原産地は中国で、縄文時代に日本に渡来し、全国の縄文遺跡から種実が出土しています。

 シソには赤ジソや青ジソなどの品種があります。本来紫蘇とは字のごとく赤ジソのことで、シソニンというアントシアニンを含んでいます(1章植物「アントシアニンの色の変化」を参照)。赤ジソは主に梅干しの色付け用に用いられます。青ジソは大葉ともよばれ、刺身のツマやそうめん、冷奴の薬味などに利用されます。

 シソの爽やかな香りはペリルアルデヒドperillaldehyde(名はシソ属Perillaに由来)によります。シソは和風ハーブJapanese herbとよばれますが、シソと同じシソ科に属する植物にはバジルやミント、タイムなどのハーブがあります。

タケノコ

 タケノコ(竹の子あるいは筍、bamboo shoot)はイネ目イネ科のマダケ属(Phyllostachys)やササ属(Sasa)などのタケの地下茎から発芽した若芽で、野菜として食べられます。成長すると木本のように茎が木質化しますが、二次肥大成長はしないため、タケが木本か草本かは意見が分かれるようです。マダケ属のマダケやモウソウチクなど、ならびにササ属のチシマザサなどのタケノコが主に食用にされます。栄養成分として糖質が4.2%(デンプン:0.3%、ブドウ糖:0.4%、果糖:0.4%、ショ糖:0.3%、水溶性食物繊維:0.3%、不溶性食物繊維:2.5%)、タンパク質が3.6%、脂質が0.2%含まれています。

 マダケ(真竹、英名:madake、学名:Phyllostachys bambusoides)は日本自生のタケと考えられています。竹加工製品の原材料としては最高とされています。採りたての新鮮なマダケのタケノコは灰汁が少ないのでそのまま料理に使えますが、時間が経ったものは灰汁抜きしてから調理したほうがよいでしょう。

 モウソウチク(孟宗竹、英名:moso bamboo、学名:Phyllostachys heterocycla)は中国江南地方が原産地で、日本へは江戸時代の元文元年(1736年)に沖縄(当時は琉球王国)経由で薩摩藩に導入されたといわれています。その後全国に伝播し、現在では北海道函館以南に広く分布しています。モウソウチクのタケノコはえぐみがあるので灰汁抜きをしてから、煮物や炒め物、和え物、汁物、炊き込みご飯などにして食べます。カットしたタケノコの表面に白い粉のようなものが出てきますが、これはチロシンというアミノ酸ですのでそのまま食べても大丈夫です。

 チシマザサ(千島笹、学名:Sasa kurilensis)は朝鮮半島、日本列島、クリル列島(千島列島)南部、サハリン(樺太)に分布しており、ネマガリダケ(根曲り竹)やヒメダケ(姫竹)ともよばれています。チシマザサのタケノコは日本人には山菜として非常に人気があります。灰汁が少ないので、皮を剥いてそのまま味噌汁や煮物にしたり、皮付きのまま焼いた後中身を食べたりします。

コショウ

 コショウ(胡椒、英名:pepper、学名:Piper nigrum)はコショウ目コショウ科コショウ属(Piper)の蔓性植物で、その果実は香辛料として利用されています。インドが原産地で、日本には奈良時代に伝わったといわれています。

 黒コショウは緑色の未熟な実を収穫し、長時間かけて乾燥したものであり、黒い外皮が含まれるため黒い色をしています。白コショウは赤く完熟した実を収穫し、乾燥後水に漬けて外皮を柔らかくして剥いで乾燥したものです。

 黒コショウの方が白コショウより辛味や香りが強いといわれています。コショウにはシス-トランス異性体であるピペリンとシャビシンという辛味成分が存在し、シャビシンの方がピペリンより辛味が強いようです。これらの成分には抗菌作用、防腐作用、防虫効果が認められています。

 2019年における世界のコショウ生産量は1103,000トンであり、主要な生産国はエチオピア(シェア:33.9%)、ベトナム(24.0%)、ブラジル(9.9%)、インドネシア(8.1%)、インド(6.0%)、タジキスタン(4.3%)、スリランカ(3.8%)などです。

サンショウ

 サンショウ(山椒、英名:Japanese pepper、学名:Zanthoxylum piperitum)は日本列島の北海道から屋久島までと朝鮮半島の南部に分布するムクロジ目ミカン科サンショウ属(Zanthoxylum)の落葉低木です。雄株と雌株があり、雌株にのみサンショウの実が成ります。

 サンショウは木本性ですので野菜ではありませんが、木の芽(若葉)は佃煮や和え物として利用され、未熟な果実(青山椒または実山椒といいます)は佃煮や「ちりめん山椒」にして食されます。熟した果皮の乾燥粉末(粉山椒)は鰻重の香辛料として、あるいは七味唐辛子の材料に用いられます。

 「山椒は小粒でもぴりりと辛い」ということわざがありますが、この辛味はサンショオールとサンショアミドという物質によります。また、リモネンやゲラニオール、シトラールという香り成分も含まれています。

褐変反応

 ジャガイモやレタス、ナスなどの野菜、あるいはリンゴやモモ、ナシなどの果物を切ったり、剝いたりしてしばらく放置しておくと褐色に変化するのを日常よく見かけます。これは切断面でポリフェノール類がポリフェノールオキシダーゼ(PPO)という酸化酵素の作用で酸化され、褐色の物質が作られることによるもので、褐変反応といいます。褐変反応を引き起こす生体物質(いわゆる酵素の基質です)としては、ジャガイモやリンゴに含まれるクロロゲン酸、モモに含まれるカテキン類、レタスに含まれるチコリ酸などがあります。PPOと基質は細胞内の異なる細胞小器官に局在しており、通常、両者が接触することはないので褐変反応は起こりません。しかし、野菜や果物を切ったり、つぶしたりして細胞が破壊されると、酵素と基質が接触して酵素反応が始まるのです。

 褐変反応には即時型と遅延型があります。即時型は細胞内に酵素と基質が十分存在しており、細胞が破壊されることにより速やかに褐変が起こる場合で、ジャガイモやナス、バナナ、リンゴ、モモ、ナシなどで見られます。一方、遅延型はカットレタスのように切断してから数日かかって褐変する場合です。遅延型の場合には、基質のポリフェノールがわずかしか存在しないため、まず、切断面にフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)という酵素が生合成されます。次いで、PALによりポリフェノールが生合成され、順次PPOにより酸化されて褐変反応が起こります。このようにカットレタスが褐変するにはポリフェノールを新たに合成する必要があるため時間がかかるわけです。

 カットリンゴなどを1%程度の食塩水に浸したり、レモン汁(ビタミンCが有効成分です)をかけたりするとPPOの活性が阻害され、褐変を防ぐことができます。また、カットレタスでは50℃くらいのお湯に90秒間ほどさらしてヒートショックを与えると、PALの合成が抑制されるため褐変を抑えることができます。

 上述した野菜や果物の褐変反応はどちらかというと好ましくない反応ですが、一方、この反応を積極的に利用して作られるのが紅茶です。紅茶については8章嗜好飲料で解説します。

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